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「新規事業担当者」と「リーダー・管理職」、それぞれが直面すると壁と打ち手とは?――個人・組織戦略・マネジメントの観点から紐解くTIPS

「新規事業担当者」と「リーダー・管理職」、それぞれが直面すると壁と打ち手とは?――個人・組織戦略・マネジメントの観点から紐解くTIPS

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2月26日に開催されたオープンイノベーションカンファレンス「JAPAN OPEN INNOVATION FES 2020→21」のなかから、PLATINUM SPONSORである大日本印刷株式会社によるスペシャルセッション「失敗から始めるオープンイノベーション。イマ挑戦する企業に伝えられるコト」の模様をお届けする。

華やかな成功事例ばかりが喧伝されがちなオープンイノベーション。しかし、その裏で、多くの企業は数々の葛藤や苦難に直面しているに違いない。――そこで、本セッションでは、登壇者それぞれがオープンイノベーションにおける失敗事例について語り合い、そこから得られた学びやTIPSを届けることを目的としている。登壇者は3名。いずれも大企業において、オープンイノベーションに先進的に取り組み、数々の成果を残してきた人物だ。

まず、一人目が大日本印刷株式会社(以下、DNP) 情報イノベーション事業部 ビジネスデザイン本部においてリーダーを務める松嶋亮平氏。松嶋氏が所属するビジネスデザイン本部は、約145年という古い歴史を有し、印刷業界を長年牽引してきた同社のなかにあって、スタートアップ等とのオープンイノベーションを通じた「新たな価値の創出」をミッションとするという異色の組織。2018年の立ち上げからDNP INNOVATON PORTという取り組みを軸にしながら、数々のオープンイノベーションプロジェクトに挑戦しており、その経過はTOMORUBAでも継続的にレポートしてきた。”印刷会社”というイメージが強い同社だが、子育てや食、モビリティ、環境など多様なテーマを設定し、事業部を横断しながら、オープンイノベーションに取り組んでいる。 

実際に、溶けにくい果汁氷「アイスボーール」をビールに入れてフルーティな味わいへの変化や彩りを楽しむ「BEER DROPS」というビアカクテルを、アサヒビールやFULLLIFEと共に開発し、世に送り出した。また、可動式のベビーケアルーム「mamaro®︎」を展開するTrimとの資本業務提携の末、子育て世代の社会課題の解決にも乗り出している。その一方で、社内調整や予算確保の難しさという生々しい現実に直面しつつも、泥臭く壁を乗り越えながら、生活者視点で新しい価値を創出するために各メンバーが日々邁進している。

そして、2人目がベトナムを代表するIT企業グループFPTソフトウェア(以下、FPT)の副社長を務めるグエン フゥ ロン氏。2005年の同社の日本法人設立直後から、日本市場向けの事業に数多く参画し、国内大企業とのジョイントベンチャー設立を次々と成功させた経歴を持つ。

3人目が株式会社パルコ(以下、PARCO)でコラボレーションビジネス企画部部長 兼 パルコ都市文化研究所所長を務める佐藤貞行氏だ。佐藤氏は、新規事業領域でスタートアップとのオープンイノベーションを主導した実績を多く持つほか、社外のアクセラレータープログラムのメンターを多数務めるなど、同社内に留まらない精力的な活動を続けている。

立ち上げ期から数々のオープンイノベーションプロジェクトに挑戦するDNPの葛藤や苦難を中心に、豊富な知識と経験を3名が語り合う「失敗」は、今まさにオープンイノベーションにのぞむ企業にとって、大きな学びとなること間違いない。注目のセッションの様子をぜひご覧いただきたい。

<登壇者>


【写真左】大日本印刷株式会社 情報イノベーション事業部 ビジネスデザイン本部 リーダー 松嶋 亮平氏

2004年にDNPに新卒入社し、ICカードシステムなどデバイス関係の営業企画を担当。2016年から事業企画本部に所属し、中期経営計画策定やM&Aに携わる。2018年10月に、ビジネスデザイン本部が発足したタイミングでジョインし、リーダーに就任。現在はチームのマネジメントのほか、新規事業開発にも携わる。

【写真中】FPTソフトウェア株式会社 副社長 兼 FPTコンサルティングジャパン株式会社 代表取締役社長 グエン フゥ ロン氏

東京大学卒業後、外資系IT企業勤務を経て、2006年にFPTソフトウェアジャパン(現・FPTジャパンホールディングス)に入社。ベトナム大手IT企業の日本法人である同社で、セールスマネジャー、開発事業部マネージャーなどを歴任し、2019年にはFPTコンサルティングジャパンの社長に就任。「質の高いDXサービスを提供するコンサルティングのプロ集団」を率い、顧客企業のDXの実現に向けた支援を行なっている。

【写真右】株式会社パルコ コラボレーションビジネス企画部 部長 兼 パルコ都市文化研究所 所長 佐藤貞行氏

1999年にパルコ入社。事業戦略室、広報/IR、社長室、新規事業部門などを経て、2020年、都市文化研究所の新設に伴い所長に就任。コラボレーションビジネス企画部部長と兼任となる。東京都「女性ベンチャー成長促進事業」、トーマツベンチャーサポート「ASAC」、日本土地建物「SENQ」など、数々のアクセラレータープログラムのメンターも務め、ベンチャー・スタートアップのインキュベーションにも精力的に取り組んでいる。

新規事業担当者が陥りがちな失敗「何かをやり遂げたいという意志がないと気づく」

今回のセッションでは、オープンイノベーションにおける「新規事業担当者」と「リーダー・中間管理職」の2つの階層で起こりがちな失敗について議論が進められた。


まず、セッションの口火を切ったのはDNP・松嶋氏だ。松嶋氏は、大企業で新規事業担当者に任命された社員が直面する「最初にして、最大の壁」は、「何かをやり遂げたいという意志がないと気づく」ことを挙げる。

セッションの事前に行われた座談会でも、松嶋氏は「意志は、新規事業や共創を成功に導くための『OS』だと思っています」と語るなど、オープンイノベーションにおける「意志」の重要性を指摘している。いくら豊富なアセットや組織的な支援があったとしても、新規事業担当者に「何かをやり遂げたい」という意志が無ければ、オープンイノベーションは推進されないのだという。

さらに、その状態が他部門との軋轢を深め、新規事業担当者のストレスにも繋がる。結果として、新規事業担当者は孤立無援となり、自信喪失やモチベーション低下に至るというのが、オープンイノベーションにおける失敗の典型例だと、松嶋氏は語った。

では、そうした失敗を避けるためには、どのような取り組みが求められるのか。松嶋氏は「自分の意志がどこにあるのか、どこに向かっているのか」「誰かと比べるよりも、自分の意志に従って取り組む」ことの重要性を述べ、それらを明らかにする手段として「自己紹介」を挙げた。

「私がイノベーションの社内研修をする際には、『自己紹介』を活用しています。この場合の自己紹介は、自らの魅力を伝え、共にビジネスを創るに値する存在だと知ってもらうためのコミュニケーションです。そのためには、自らのミッションや強み、実績などを見つめ直し、『それは本当に自分の強みなのか』『その実績は本当に自分が作ったものなのか』などと、深く掘り下げなければいけません。これは、終わりのない問いなのですが、その人のなかの意志を浮き彫りにするうえでも、重要だと感じています」(松嶋氏)

さらに、松嶋氏は自らの発言を踏まえ、新規事業担当者が意志を持ってオープンイノベーションに取り組むためには、「オーナーシップ」「WILL」「考えるよりまず行動」がキーワードになるのではないかと述べ、他のパネラーに意見を求めた。


それを受けて、PARCO・佐藤氏は「オーナーシップ」というキーワードに呼応する。佐藤氏自身もオープンイノベーションをマネジメントするうえで、チームメンバーの主体性を重要視していると語り、松嶋氏の見解に共感を示した。

そして、佐藤氏は新規事業担当者の主体性を形成するため、「裁量を与える」「意見を尊重する」「共感を大切にする」の3点を大切にしていると付け加えた。

「新規事業のオープンイノベーションは正解の無い道のりですし、過去の成功体験や勝ちパターンが通用しづらい領域だと思います。だからこそ、新規事業担当者のそれぞれに裁量を与えて、オーナーシップを持って考えてもらう。そうすると、色々な意見が出てきます。正解がない問いですから、それぞれの意見を尊重して、耳を傾ける。それらを繰り返すことで、ユニークネスの源泉となるアイデアが生まれやすくなります。そして、上から指示するのではなく、チーム全体でビジョンを描き、ビジョンに共感する。この3つによって、新規事業担当者が主体性を持って、積極的に提言できる土壌が生まれると思っています」(佐藤氏)

一方、FPT・ロン氏はオープンイノベーションにおいて、オーナーシップや主体性が求められることは前提としたうえで、そうした素養を持つ新規事業担当者が「いかにチャレンジしやすい環境を作るか」が重要だと訴える。

ロン氏の出身地であり、FPTグループが本拠を構えるベトナムは、総人口約1億人のうち約70%を30代以下が占めるという、人口構成の若い国だ。FPTグループ全体の平均年齢も約27歳であり、チャレンジ精神旺盛な風土が特徴だという。そうした環境のなかでオープンイノベーションを主導した経験から、ロン氏は組織によるフォローの重要性を感じるようになった。

「FPTでは、新規事業担当者がチャレンジをしやすいように『失敗は3回まで許される』というルールを設けています。このように人事制度で、チャレンジを促す仕組みを作るのは有効だと思います。また、新規事業担当者には『この仕事を成功させたら、次にどんなキャリアが望めるのか』といった”ゴール”を、組織がきちんと示すべきです。また、もし失敗してしまった場合でも、前のポストを保証するようにしています。そうすれば、道半ばで壁にぶつかったときにも、モチベーションを損なうことなく、オープンイノベーションに向かうことができます」(ロン氏)

佐藤氏・ロン氏が、マネジメントや組織からのフォローによって新規事業担当者の意志を支えるアプローチを語ったことを受け、松嶋氏は異なる視点でも見解を述べる。両者に共感は示しつつも、あくまで新規事業担当者の当人が、自発的に意志を見出すことが優先されるのではないかというのが、松嶋氏の主張だ。

「心理的安全性も大切だとは思いますが、最も重要なのは『個人として、どうありたいのか』を自覚することだと考えています。マネジメントや組織からのサポートは一つの要素であって、まずは自分が熱中したいものを探し出して、真剣に取り組むことから始めるべきではないかと。このチャレンジは生半可なことでは到底実現できないので、私個人としては過保護にならないように、その点を妥協しないように心がけています」(松嶋氏)


リーダーが陥りがちな失敗「社内調整に追われ、大胆な戦略が描けない」

続いては、「リーダー・中間管理職」がオープンイノベーションにおいて陥りがちな失敗について、議論が進められた。新規事業担当者だけでなく、オープンイノベーションを主導するリーダー・管理職にも、失敗の典型例が存在しているのだ。

松嶋氏は「社内調整に追われ、大胆な戦略が描けず、未知の挑戦を断念する」ことを失敗の典型例として挙げる。オープンイノベーションで新たな事業に取り組むなかで、多くの場合、リーダー・管理職は組織内での「板挟み」に見舞われる。そのなかで、社内調整に疲弊し、規模の大きな戦略を構想できないケースが散見されるのだという。

ほかにも、松嶋氏は「既存事業とのシナジーが評価されると思っている」「これからも取り組みが続けられると思っている」という2点も失敗の典型例だと解説する。


「既存事業とのシナジーは重要ですし、経営層にとっても一つの評価基準になります。しかし、それで全てが評価されるのは誤りだと思っています。根幹となっているビジネスが単独で事業として成立しているのが、本来的な事業開発のあり方だからです。

また、心理的安全性が担保されすぎたために、リーダー・管理職が『成果を出さなくても、取り組みが続けられる』と勘違いしてしまうこともあります。近年、大企業では、イノベーション活動に取り組む部署を出島化したり、経営直下に置いたりして、快適な環境を整えるケースが多く見られます。これらはイノベーション推進において非常に有効な手段ではありますが、一方で、こうした環境がリーダー・管理職の勘違いを招くこともあり得ると思います」(松嶋氏)

松嶋氏は、こうした失敗を避けるためのポイントとして、①「大戦略の構築・実行を主導する」、②「結果を出すタイミングを見極める」、③「イノベーターマインドを定着させる」、④「成功へのストーリーを常に語る」という4点を述べ、自らの経験談を例に挙げた。

「私が所属するビジネスデザイン本部は2018年10月に発足されましたが、最短であれば3年間で組織が無くなると想定していました。そこで、発足から2年半の時点でどのような成果が必要なのか逆算し、そこに向けた組織運営を心がけました。

また、結果を出すタイミングにもこだわりました。既存事業と同じタイミングに結果の山を出せば、その分、会社全体の中での組織のインパクトも薄れてしまいます。そのため、既存事業よりも3ヶ月前に結果を出し、かつ、2〜3ヶ月に1回は何らかのインパクトを残すことに注力してきました。組織を持続的に運営していくためにも、こうしたアプローチは必要だと感じています」(松嶋氏)


松嶋氏はこうした自身の経験を踏まえ、リーダー・中間管理職がオープンイノベーションにのぞむうえで「イノベーターマインド」「決断」「意味づけと説得力」がキーワードだと述べる。

これに対して、ロン氏は優れたリーダー・中間管理職には2つのタイプがあり、それぞれの特性によって適する仕事が異なると述べた。

そのうちの一方は「面倒見が良いリーダー」であり、こうしたタイプは現場の安定的な運営を得意とすることから、既存事業に向いているという。そして、他方が、「インフルエンサー的なリーダー」であり、周囲を巻き込み、仲間に引き入れながら取り組みを推進していくことを得意とすることから、オープンイノベーション向きの人材だとした。インフルエンサーになれないと、個人としては優秀だがイノベーションを推進する「チーム」は作っていけない。


さらに、ロン氏はこうした「インフルエンサー的なリーダー」は組織的なアプローチにより育成可能だと語る。

「ポイントは2つです。まず1つ目は、模範となれるような人材が社内にいることです。FPTの場合は、カリスマ的なファウンダーがいて、彼が背中を見せることで後進が育っている。そして、2つ目は体制がフラットで、上下関係なくコミュニケーションが取りやすい環境を築くことです。これにより、インフルエンサー的なリーダーは様々な階層と繋がることができ、その影響を他の社員にも広げていくことができます」(ロン氏)

一方で、佐藤氏はオープンイノベーションにおいて、リーダー・中間管理職に求められるのは「『共感』と『説得』のバランス」だと説く。オープンイノベーションはチームや経営層、パートナー企業に「共感」を得ることで円滑に推進される。しかし、共感を得ることは時間を要するため、スピード感を維持するためには、時として意見の異なる相手を説き伏せる「説得」が必要となる。佐藤氏によれば、この両者はトレードオフの関係にあり、リーダー・中間管理職はそのバランスを保っていくことが肝心だと語る。


「スタートアップやベンチャーには、その会社が掲げるミッションやビジョンに共感した人材が入社してきます。だからこそ、驚異的なスピード感が担保されるわけです。一方で、大企業には、基本的に既存事業の仕事をしたい人材が入社してくる。そのため、大企業でオープンイノベーションにのぞむ際には、まずはチームメンバーや経営層の共感を獲得することから始まります。

ただ、『全ての人に共感される取り組み』に、本当に価値があるのかという問題もあります。本当に先進的で、尖ったアイデアならば、9割が反対して、1割が熱狂的に賛成するのが普通だと思います。だからこそ、リーダー・中間管理職は、ビジョンへの「共感」とビジネスプランの「説得」を両利きで、上手くバランスを取りながら推進していくべきだと考えています」(佐藤氏)

様々な論点が提示された本セッション。――その最後に総評として、松嶋氏は「何事も『失敗なくして成長なし』です。今の私たちの姿は、失敗の積み重ねで作り上げられているといっても過言ではありません。それはオープンイノベーションについても同様で、今回のセッションにおける議論やTIPSを土台にして、これからも様々な企業さんとイノベーションを起こしていきたいです」と語り、セッションを締め括った。


取材後記

様々な「壁」が待ち構えているオープンイノベーションにおいて、たった一つの普遍的な解を導き出すのは、不可能と言っていいだろう。しかし、本セッションのなかで語られた、三者それぞれの立場からのTIPSは、今まさに苦境に直面する新規事業担当者やリーダー・中間管理職にとって、そしてそれらの人材を活用していく組織・経営層にとっても、局面を打開する大きな武器になり得るはずだ。今回のセッションが、一つの「種」となり、どこか新たな場所で、大輪の花を咲かせることを願ってやまない。

(編集:眞田幸剛、取材・文:島袋龍太、撮影:齊木恵太)

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