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スタートアップのビジネス拡大を支援――DNPが持つアセットの可能性とは?

スタートアップのビジネス拡大を支援――DNPが持つアセットの可能性とは?

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大日本印刷株式会社(以下、DNP)が2019年8月にスタートさせた「DNP INNOVATION PORT。印刷企業としては世界有数の規模を誇るDNPがスタートアップなどと連携し、既成概念にとらわれないオープンイノベーションによって新規事業を生み出すという取り組みだ(※)。

この取り組みは二つの軸で構成されている。DNPが実現したいテーマに対して共創パートナーを募る「CO-CREATION」、そしてスタートアップなど外部パートナー企業にDNPがアセットを提供し、その事業成長を支援する「ASSET SUPPORT」だ。

近年、CVCの急増など大企業による共創パートナーの支援は勢いを増している。しかしDNPの「ASSET SUPPORT」は、そうした市場の活況とは一線を画し、あくまで共創をゴールとし、それを促進するための”いち手段”として位置付けられているという。

「生活者視点での新たな価値創出」を掲げる「ASSET SUPPORT」。その目的や狙いとは、いったい何なのだろうか?そして、具体的な成果事例とは?――「DNP INNOVATION PORT」を運営するビジネスデザイン本部の松嶋氏・小泉氏の2人に話を伺った。

※関連記事:共創パートナーと価値創出の旅に出発する「DNP INNOVATION PORT」が“開港”――その先に描く未来とは?

【写真左】 大日本印刷株式会社 情報イノベーション事業部 ビジネスデザイン本部 第1部マーケティンググループ リーダー 松嶋亮平氏

2004年にDNPに新卒入社し、ICカードシステムなどデバイス関係の営業企画を担当。2016年から事業企画本部に所属し、中期経営計画策定やM&Aに携わる。2018年10月に、ビジネスデザイン本部が発足したタイミングでジョインし、主に新規事業開発を手がける。

【写真右】 大日本印刷株式会社 情報イノベーション事業部 ビジネスデザイン本部 第1部マーケティンググループ 小泉恭平氏

2014年にDNPに新卒入社し、大阪事業所に配属。印刷物の法人営業を担当したのち、2018年10月に、ビジネスデザイン本部が発足したタイミングでジョイン。アサヒビール株式会社、FULLLIFE株式会社との3社で共同開発したビアカクテル「BEER DROPS」のプロジェクトを主導した実績を持つ。

あくまでも事業共創がゴール地点――”点”ではなく、”線”によるアセットの提供

――2019年8月からスタートされた「DNP INNOVATION PORT」には、DNP側が共創テーマを設定してパートナーを募る「CO-CREATION」のほか、外部のパートナー企業に対してアセットを提供し事業拡大を支援する「ASSET SUPPORT」を設けています。この「ASSET SUPPORT」という機能を設けた背景について教えてください。

松嶋氏 : 「DNP INNOVATION PORT」がリリースされる以前から、私たちが所属するビジネスデザイン本部では、拠点を設けているWeWork(渋谷区)やピッチ系のイベントを通じて、さまざまな企業と交流を図っていました。

そのなかで、展開しているサービスがおもしろかったり、提供しているバリューに共感できたりする事業とも出会うことができたのですが、そうした事業に対してアドバイスするだけではなく、DNPが保有するアセットを提供して事業展開をサポートできないかと考えたのが、「ASSET SUPPORT」をスタートさせるキッカケです。

――DNPが外部パートナー企業の事業成長を支援する取り組みということでしょうか?

松嶋氏 : いいえ、ただ単に「パートナー企業支援」を目的にした取り組みではないです。提供しているバリューや価値観を共有できている企業に対して、その成長を支援して、将来的にDNPとの事業共創を目指すというのが「ASSET SUPPORT」の真の目的です。

つまり、あくまでも事業共創をゴール地点として設定していて、アセットの提供は、そこにたどり着くまでのプロセスという位置付けです。

小泉氏 : アセットの提供や事業支援というと、どうしても”点”の話として捉えられがちです。しかし私たちは、価値観を共有したパートナー企業と、”線”を描きながら事業共創に到達することを想定しています。その過程のなかで、DNPの規模感を生かしたアセットを活用してほしいというのが私たちの狙いです。

――なるほど、あくまで事業が提供するバリューやビジョンへの共感が最優先だということですね。そうした「ASSET SUPPORT」が提供するサポートとは、具体的にどのようなものでしょうか。

小泉氏 : 現在、提供しているのは「マーケティングサポート」「ビジネス実装サポート」「セキュリティ強化サポート」の3つです。

「マーケティングサポート」ではマーケティング戦略の設計から、ツールの制作、プロモーション施策の実施まで、マーケティングに関わる一貫した業務を支援しています。

「ビジネス実装サポート」では製品・サービスの市場展開を支援しています。主に営業支援やBPOなど、マンパワーやブランド力が必要な領域について、DNPが保有するリソースを活用していただいています。

最後に「セキュリティ強化サポート」。大手企業などに製品・サービスを展開させるためには、個人情報の取り扱いや情報セキュリティなど、様々な領域への配慮が必要とされます。それをスタートアップやベンチャーが単独でカバーするのは困難なため、その点をDNPがサポートしていきます。

松嶋氏 : とはいえ、先にもお話したとおり、私たちの目標はあくまでも事業共創なので、これら3つしか提供しないというわけではありません。共創に必要であれば、その他のアセットについても検討するなど、柔軟に対応していきます。

提供するアセットを通して「ビジネス全体」をデザインする。

――「ASSET SUPPORT」による事業共創には、これまでどのような成果があったのでしょうか。

松嶋氏 : DNPとアサヒビール株式会社、そしてスタートアップのFULLLIFE株式会社の3社が共同して開発したビアカクテル「BEERDROPS」は、「ASSET SUPPORT」による事業共創の好事例です。「BEERDROPS」は、ビールの中に独自技術を用いて製造した溶けにくい果汁氷を入れることで、ビールの冷たさが維持されると共にフルーティな味わいと鮮やかな色合いを楽しむことができるビアカクテルです。

この果汁氷はFULLLIFEが保有する特許技術および独自技術を用いて製造されているのですが、その開発のアイデアは、小泉がFULLLIFEの方々と共通のビジョンを持ち、ディスカッションをする中で生み出したものです。

▲新感覚のビアカクテル「BEERDROPS」(※画像はプレスリリースより抜粋)

――「BEERDROPS」は、2019年12月にプレスリリースが出されて以来、新聞・テレビをはじめとした各種メディアで取り上げられ、注目を集めている商品です。その開発が「ASSET SUPPORT」によるものとは驚きました。では、その開発に至るまでの経緯を詳しく教えてください。

小泉氏 : 最初にFULLLIFEを知ったのは、とあるピッチイベントでした。その日会場に、某格闘漫画のキャラの形をしたアイスを持っている人がいたんですよ(笑)。

「なにしてるんだ、あの人は?」と不思議に思っていたら、その人が登壇してプレゼンを始めて「このアイスをプレゼン前からずっと持っていますが、全然溶けていません。これが当社の技術です」と。

それがFULLLIFEの保有する「溶けない!?アイス」という技術だったんですが、そのプレゼンを聞いたとき「これはいいかも!」と直感するものがありました。それでイベント終了後、すぐに挨拶をしにいって、共創に向けたディスカッションをはじめることにしました。

――たしかにそれはインパクトのあるプレゼンですね。その後、どのようにして「BEERDROPS」に至るのでしょうか。

小泉氏 : ディスカッションの中ではいろいろなアイデアが出ました。DNPが保有しているコンテンツとタイアップしたアイスを作ろうとか、それを売るためのECを考えようとか、いかにもDNPがやりそうなアイデアばかり出ていたんですが(笑)、そのうちにふと「このアイスを球状の氷としてお酒に入れたらどうなるだろう」という話が出たんです。

そのときに、これはお酒のメーカーと連携できるかもしれないと思いました。それでちょうどその頃、アサヒビールさんが登壇されるイベントに出席する予定があったので、この事業アイデアをお話ししにいきました。するとアサヒビールさんも非常に前向きに話を聞いてくださって、レシピ開発や飲み方のアイデアもいただきました。そこからはトントン拍子で「BEERDROPS」にたどり着きましたね。

――「BEERDROPS」は、リリースに先駆けて、都内の店舗数カ所でテストマーケティングを行ったとお伺いしています。これもASSET SUPPORT」による支援のひとつでしょうか。

小泉氏 : はい、そうです。テストマーケティングはアサヒビールさんにもご協力いただき、2019年8月から開始しましたが、非常に手応えを感じる結果となりました。

松嶋氏 : 「BEERDROPS」はもともと、ビールに対してそれほど積極的ではない、20〜30代女性の需要を喚起するために開発されました。テストマーケティングでは、そうした狙いを裏付けるデータを得られ、商品化への強力な後押しとなりました。

その後、「BEERDROPS」は2019年12月に全国展開が開始され、2020年6月までに200店舗の飲食店への導入を目指して、拡販活動を続けているところです。

――こうしてみると「BEERDROPS」の開発にあたっては、DNPは企画段階から現在に至るまで、広範囲に渡ってサポートを続けているのが分かりますね。

小泉氏 : はい。そして、それこそ「ASSET SUPPORT」の機能です。スポットでリソースを提供するのではなく、ビジネス全体のデザインを共創しながら、そのゴールにたどり着くための支援をする。今回の取り組みでは、DNPがそうした役目を果たすことができたと自負しています。

松嶋氏 : ここで重要なのは、DNPの立ち位置だと思います。「BEERDROPS」のもととなる技術を保有していたのはFULLLIFE。その技術を活用して「BEERDROPS」のレシピを開発したのはアサヒビールさん。じゃあその中間にいるDNPはその2社を「つなげた」だけかというと、そうではないと思います。

DNPはFULLLIFEと伴走して事業アイデアを生み出し、また一方でアサヒビールさんとの長年の取引関係がありました。その2社の中心に立ち、マーケティングやBPOなどのアセットを活用し、アイデアを具体的に事業として実現することがDNPの役割そのものだと思っています。


パートナーには「この事業でなにがしたいのか」を言語化してほしい。

――そのほかASSET SUPPORT」による成功事例にはどのようなものがあるでしょうか。

松嶋氏 : 例えば、株式会社BLUE STYLEが運営するこども服のリサイクル・中古服のお下がりサービス『Lynks』での取り組みも、好事例のひとつです。本サービスのコンセプト・ビジネスモデルは非常に興味深いものがあり、かつ本サービスを社会に何とかして提供していきたい、という熱意がとても魅力的でした。この取り組みでDNPが提供したのは、商品となる子供服の保管・管理方法を効率化するためのアセットです。本サービスを拡大していく上で、自社で保管する何千着という子供服の管理を効率的に行う必要があるのですが、実際にはその手法やマンパワーも足りず、事業推進における大きな課題となっていました。

そこで私たちとディスカッションやテストを何度も重ね、RFIDタグの利用による管理方法の効率化を練り上げていきました。そこでもやはり、RFIDタグの運用案や、RFIDリーダーの導入サポート、さらに将来的な事業展開を見越した初期導入仕様の在り方など、「点」に終わらないアセット提供をして、ビジネス全体がグロースするための支援を行なっています。もちろん、導入にかかるコストにおいても、様々な工夫を凝らしており、事業成長のボトルネックにならないように細心の注意を払っています。

また、そのほかにも現在様々なスタートアップが「ASSET SUPPORT」を通じた事業共創に取り組んでいます。

――それでは最後に「ASSET SUPPORT」の利用を検討している企業に対して、メッセージをお願いします。

小泉氏 : 『「ASSET SUPPORT」は受発注の関係ではない』ということですかね。むしろ同じチームとしてビジョンを共有して、その中で必要なアセットをご提供し、一緒に実現を目指すイメージです。まずはその点を知ってほしいなと思います。

あとは、ぜひワクワクとかドキドキがつまっている事業アイデアと熱いパッションをぶつけていただきたいですね。個人的には、10代〜20代の若者がワクワクするようなアイデアだと、自分自身も一人のユーザーとして実現を目指し楽しみながら、共創ができるのではないかと思っています。

松嶋氏 : 「ASSET SUPPORT」に取り組むにあたっては、ぜひ事業のコンセプトを明確にしていただきたいと思っています。コンセプトがクリアでなければ、私たちとしても、どういったサポートをすればよいのかが見極められません。そのため、まずは「この事業でなにがしたいのか」という点を言語化していただけると嬉しいですね。

取材後記

今回の取材で最も印象的だったのは、「BEERDROPS」のプロジェクトを主導した小泉氏の「商品化に至るまで本当にあっという間で驚きました」という言葉だった。――事実、「BEERDROPS」は開発に携わった3社がはじめて顔を合わせてから、たった数ヶ月で開発、テストマーケティングを経て、全国展開に至っている。驚くべきスピード感で生み出された商品なのだ。

もちろん、その背景には「ASSET SUPPORT」の存在がある。スポットによるアセットの提供ではなく、プロジェクトの企画段階から深く入り込み、ビジネス全体をデザインしながら、事業拡大を支援する「ASSET SUPPORT」だからこそ、「BEERDROPS」のような商品が生まれたといえるだろう。

自らのビジョンを実現したいスタートアップにとって、これほどの事業支援はそうそうそう出会えるものではないだろう。「ASSET SUPPORT」を自社のサービスや技術の可能性を引き出すキッカケにしてみてはどうだろうか。

※「ASSET SUPPORT」についてより詳しく知りたい、メッセージを送りたい場合はコチラ▼

(編集:眞田幸剛、取材・文:島袋龍太、撮影:古林洋平)

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