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スタートアップ投資の80%が東京に集中。地方のスタートアップがユニコーンになれる可能性はあるのか?

スタートアップ投資の80%が東京に集中。地方のスタートアップがユニコーンになれる可能性はあるのか?

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ここ数年で日本のスタートアップ業界は大いに盛り上がっているが、プレーヤーとなるスタートアップもそれを支援するVCも大半は東京に集中している。11月19日に行われたJVCA(日本ベンチャーキャピタル協会)のメディアプレゼンテーションの発表では、2019年の資金調達額のうち実に80%が東京都に集中しているとのことだ。

その一方、地方のスタートアップからユニコーンを輩出しようと尽力している人々がいることも事実だ。メディアプレゼンテーションの後半には『地方発ユニコーン企業の創出』をテーマにパネルディスカッションが行われた。登壇したのはKDDIの松野茂樹氏MAKOTOの竹井智宏氏リアルテックファンドの永田暁彦氏ドーガンベータの林龍平氏の4名だ。

地方での人材不足などの課題点が挙げられる一方で、地方ならではの大きな課題がビジネスのネタになどの利点も挙げられた。地方スタートアップに関わっている方、もしくは地方経済に可能性を感じている方は参考にしてほしい。

九州から東北まで!地方のビジネスシーンに大きな可能性を感じている4名

ディスカッションの冒頭では、登壇者4名がどのような活動を行っているのかが紹介された。KDDIの松野氏は10年以上同社でM&Aの仕事を行ってきた経験を活かして、現在は地方創生に尽力している。今ほどオープンイノベーションが有名になる以前から、KDDIはCVCやアクセラレータを行ってきたため、大手ながらスタートアップの付き合いに慣れているのだ。その経験を活かし、地方のスタートアップを応援することで地方を盛り上げる取り組みを行っている。

松野「この4月には、地域の起業を支援するファンド『KDDI Regional Initiatives Fund』を立ち上げました。これは必ずしも地方にある企業に出資するだけでなく、地方創生に役立つ企業全体に出資しています。先日はオンライン教育事業を行っているSchooに出資して、これから地方の教育を一緒に盛り上げていこうとしているところです。」

▲KDDI・松野氏

株式会社MAKOTOは東日本大震災を契機に創設された、東北のスタートアップを支援するVC。ベンチャーファンドの組成や、自治体と組んだ起業家支援を行っている。仙台市と共同で行っている東北グロースアクセラレータでは、仙台市のプロジェクトにも関わらず東北6県から起業家を集め支援している。仙台に拠点をおきながらも東北全体を盛り上げることに尽力しているようだ。

竹井「大学との連携も進めており、東北大学の中にも拠点を持っています。起業に興味のある学生をサポートしたり、ビジコンなどのイベントを開いたりと次の時代の起業家を育てているのです。今では東北大学には起業部が立ち上がり、3社が資金調達まで果たしています。」

▲MAKOTO・竹井氏

ユーグレナのCOOである永田氏が代表を務めるリアルテックファンド。テクノロジーベンチャーに特化して支援をしている。今の日本はテクノロジーを軸に起業したスタートアップが生き残るのが難しいため、その現状を変えるために創設された。そのためお金の集まりにくい基礎研究フェーズのベンチャーに絞って投資を行っている。テクノロジーに強いスタートアップが地方に多いため、投資金額の半数以上を地方のスタートアップに投資しているそうだ。

永田「自分自身がテクノロジーベンチャーとしてVCから資金調達をしていたので、VCに何をして欲しくて何をされたくないかがわかっています。そのため、特に『採用』と『クリエイティブ』については注力して支援しています。テクノロジーはそのままでは一般の方や投資家には伝わりません。例えば『ヒモ理論の研究をしている』と伝えるより、『どこでもドアを作ろうとしています』の方が分かってもらえます。そのため、出資をしたスタートアップはまずはHPを作り変えています。」

▲ユーグレナ・永田氏

ドーガンベータは、福岡で2004年から企業再生やM&A支援を行っているドーガンから2017年に分社化したVCだ。これまで日本でも何度かベンチャーブームは起こってきたが、福岡に来る前に消えてしまったと代表の林氏は語る。今回のベンチャーシーンの盛り上がりが最後の波だというつもりで、福岡のスタートアップシーンを盛り上げているようだ。

「私達がテーマにしているのは『金融の地産地消』です。私達もファンドを組んでスタートアップ投資を行っていますが、LPとなって頂いているのはほとんどが九州の会社です。大手企業も自分たちの事業にスタートアップのエッセンスを取り入れたいと積極的にスタートアップ支援を行ってくれているのです。毎月のようにLPの会社さんと会いながら、地元の企業と連携してスタートアップ支援を行っています。」

▲ドーガンベータ・林氏

地方には優秀なCEOはいてもCOOはいない。地方スタートアップが抱える人材の課題

ディスカッションの冒頭では、地方のスタートアップシーンのHRの課題がテーマとなった。KDDIの松野氏は、地方では起業するマインドセットがそもそもないと語る。

松野「地方に行くと大学生を見ていても、そもそも起業するといった発想がありません。起業に関する情報もありませんし、周りに起業する人もいないので全くイメージできないのです。親の世代も起業という選択肢を知らないので、今でも大企業に務めなさいと方もいます。もちろん大企業に務めるのも立派なことですが、今は大企業もオープンイノベーションをしなければならない時代です。実際に起業しなくても、スタートアップがどういうものか知っていなければ大企業で働くのも大変でしょう。私達は地方創生をしている中で資金を援助するだけでなく、そのようなマインドセットから変えていくことが大事だと思っています。」

ドーガンベータの林氏は数年前に比べて起業家の質はよくなっているとはいえ、それを支える人材がいないことが課題だと語る。

林「数年前に比べて起業家の質と量は上がってきていると思います。昔は就職に失敗した方が起業するケースがほとんどでしたが、今は優秀な起業家が増えています。CEO単体で見れば、東京にも負けていない印象はありますね。一方でCFOやCOOなどの幹部人材の不足は致命的です。東京でVCまわりをする際も『社長はいいけどチームはいまいちだよね』と言われることも少なくありません。地方でいいチーム作りができるようになるのが、次のステップだと思っています。」

リアルテックファンドの永田氏は、地方の人材不足は最も注力している課題の一つだと話す。

永田「研究開発型のスタートアップは、その場所でなければ起業できない会社がたくさんあります。そのため優秀な人材を入社させるには地方に送り込むしかないのです。私達は優秀な人材を地方に連れていくことに最もフォーカスしており、出資したスタートアップが18ヶ月以内にチームアップできなければ、担当者の人事考課が下がるほどです。本当に優秀な人材は、その人が入社するだけで業績が変わるものです。地方には優秀な研究者はたくさんいるので、それを支えるチーム作りが私達の最大の支援だと言えます。」


地方に優秀な研究者が多いという意見に、MAKOTOの竹井氏も賛同する。

竹井「地方に優秀な研究科が多いのは業界では常識です。例えば東北大学の知財の数は、毎年東京大学と1位2位を競い合っているほどです。ただし、それらの研究がうまくスタートアップ化されていないのが課題になっています。例えば先生がそのまま社長をやってしまうようなケースなどです。HRがしっかり整えば、地方は東京に負けない可能性を持っていると思います。」

成功モデルを別の地方に展開できるか。地方スタートアップのグロースするために必要なこと

地方のスタートアップが持つ課題として、地域の課題に固執しすぎてスケールできないことが挙げられる。そしてその課題はスタートアップだけでなく、地方のスタートアップエコシステムにも原因があるとKDDI・松野氏は語る。

松野氏「よく見られるケースが、地元の課題を解決して満足してしまうケースです。別の地域に似たような課題があるにも関わらず、他のマーケットに目が向きません。それはスタートアップだけでなくエコシステムにも同じことが言えます。様々な自治体がベンチャー支援を行っていますが、地銀と一緒にファンドを作ってしまうので、地元に本社がないと出資しないケースなどが見られます。これでは視野が狭くなってしまい、マーケットが限られてしまいます。MAKOTOのように仙台市のプロダクトでも東北全体を支援するような、広い視野を持つことがベンチャー支援には必要だと思います。」

松野氏の話しを受けて、MAKOTO・竹井氏は地方のスタートアップがグロースするにはサービスに普遍性を持つことが重要だと語る。

竹井「例えば大震災があった直後には、クルマを乗り合いする方はけっこういたものです。しかし、それは石巻の限られたエリアでしか行われませんでした。もしそれを普遍的に捉えてサービス化していれば、日本でUberが生まれていたはずなのです。そのように地方にはグローバルに成長するサービスのタネがあるにも関わらず、それを実現できる人がいません。

しかし、2018年に副業が解禁されたことは、地方の人材不足に大きなインパクトを与えたと思います。地方のスタートアップで副業人材を集めると、東京から数十名という応募が集まるのです。平日仕事終わりのリモートワークや、月に数時間といった契約で働く方もいます。東京で働いている人の中には、地方との関わりを持ちたい方は多く、副業はそのいいきっかけになったのだと思います。副業からそのまま転職してしまうケースもよく見ますね。」

福岡で起業支援を行うドーガンベータ・林氏は、起業家の視座が低いことを課題に挙げる。その理由は、ロールモデルとなる会社が少ないことだと語った。

「地方の起業家の話を聞いていると、スケールするイメージを持てている起業家は多くありません。これは経験値の不足が原因だと思っていて、地方はまだユニコーンもいないし、憧れになるロールモデルも多くありません。地方発のユニコーンなどが出れば、地方スタートアップの視座も一気に上がると思います。」


地方にこだわっていないリアルテックファンド・永田氏は、始めからグローバルを視野においてスタートアップ支援を行っているようだ。

永田「私達は地方の課題を解決するためのスタートアップには投資していません。あくまで投資したいテクノロジーが地方にあるだけです。テクノロジーが強いのは言語に影響されないことなので、最初からグローバルを狙えますし、グローバルに持っていける技術を支援しています。例えば私達が投資している地方のエネルギー企業は、サウジアラビアから出資したいと言われて投資家が技術を見に来るのです。海外の方からすれば、東京も地方も関係ありません。東京と地方を区別しているのは私達だけです。これからグローバルで勝つスタートアップは、地方のテクノロジーから興ると思います。」

地方発ユニコーンは生まれるのか。登壇者が語る注目領域とは

ディスカッションの最後には、地方からユニコーンが生まれるのか登壇者それぞれが見解を話した。

松野「ユニコーンが生まれるか断言はできませんが、時価総額では測れない大きなインパクトのある会社は生まれると思います。そのためには、先程も言ったように視野を広くもって、一つの地域で成功したモデルを他の地域に広げていくマインドセットが必要です。

注目しているのはドローンや自動運転ですね。地方に行くとタクシーが走っていない場所もあり、夜飲みに出かけると帰れないこともあるのです。そのような地域に若い人が帰ってこようとは思いませんよね。他にも雪国では除雪車のオペレーターが不足しているので、自動運転技術が実装されなければ間に合いません。 

地方ではそのような切実な問題が既に起きているため、テクノロジーを使わなければ地方の生活が成り立たなくなるのです。テクノロジーは規制の問題も多いので、コミュニティで立ち向かわなければいく必要がありますし、私達がやらなければいけないことだと思います。」

竹井「地方発のユニコーンは生まれるのは時間の問題だと思います。アメリカだって10年前はシリコンバレー周辺にしかユニコーンはありませんでした。それが今や、シリコンバレー以外でもユニコーンが生まれているのです。日本でも同じことが起きるはずです。

ただし、その過程では人材不足の壁が大きく立ちはだかると思っています。例えば東北大学は卒業生の8割が東北を出て、東京などの都市部で働きます。そのような方が地元に帰って起業するケースが増えれば、もっと地方のスタートアップシーンも盛り上がると思いますね。」

永田「地方のスタートアップは必ず生まれます。なぜなら日本の島国特有の課題を解決すれば世界中の島国の課題を解決できるからです。日本の課題を解決した瞬間にフィリピンやインドネシアといった世界中の島国から声がかかり、すぐにグローバル展開が可能です。個人的に注目している領域は素材やセンサーの分野です。もし新しい素材やセンサーを開発して、世界的に有名なスマホにでも採用されれば一瞬でグロースできる可能性を秘めている領域です。」

「地方からユニコーンは生まれると思いますが、九州に限っていえば多様性のある生態系ができることを期待しています。ユニコーンが1社生まれるより100億の会社が10社できた方が、雇用の多様性も生まれますし自立した経済圏も築けます。ですので、私達も1社に絞って支援するより、様々な企業に多く投資していければと思っていますし、それが九州のためになると思っています。

 その上で、九州でポテンシャルを感じている領域は農業です。今はロボティクスやAIを使って自動で収穫をしたり、生産性を予測したりできるアグリテックが発達しています。東京では難しい領域でもありますし、九州が盛り上がる可能性は高いですね。」

取材後記

課題先進国と呼ばれる日本は、これから世界に先駆けてさまざまな社会的課題に直面していく。もしも日本の課題を解決することができれば、これから日本と同様の課題を海外の課題も解決でき大きなビジネスチャンスとなるだろう。そして、そのチャンスは地方にこそあるのではないだろうか。地方こそ先に少子高齢化に直面するため、課題が浮き彫りになるためだ。ソフトウェアでの競争では海外企業に苦渋を飲まされている日本だが、地方の課題解決型のビジネスにこそグローバルで戦える勝機があるのかもしれない。

(編集:眞田幸剛、取材・文:鈴木光平、撮影:加藤武俊)

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