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広島市の路面を実証フィールドに、広島が抱える公共交通の課題に挑むプロジェクト―「ひろしまサンドボックス」を軸に産学官による9つの実証実験を随時公開中

広島市の路面を実証フィールドに、広島が抱える公共交通の課題に挑むプロジェクト―「ひろしまサンドボックス」を軸に産学官による9つの実証実験を随時公開中

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路面電車が走る街、広島市。道路の中央には路面電車の軌道が敷かれ、自動車と並走する。広島を象徴する風情のある風景だが、特殊な道路空間ならではの課題もあるようだ。路面電車、路線バス、一般自動車が走る都心部の道路では、朝夕の通勤ラッシュ時を中心に渋滞が起こる。これにより、公共交通の遅延や、交通事故が誘発されやすい。一方で郊外に目を向けると、住宅団地の高齢化の進行や都心部へのアクセス性の低さにより、移動の制約を受ける交通弱者が増えつつある。さらには近年多発する豪雨災害などにより道路が寸断されると、交通や生活に広範囲な影響を及ぼすことになる。


こうした課題を、通信型ITS (Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)を核としたテクノロジーを活用して解決しようというのが、中電技術コンサルタント、広島大学、東京大学、自動車技術総合機構交通安全環境研究所、広島電鉄、マツダによるコンソーシアムだ。路面電車、路線バス、自動車に搭載する通信型ITS車載器で車両相互の情報を共有したり、信号機の信号情報や信号機の柱などに取り付けられた車両感知器と歩行者感知器でセンシングした情報を受け取ったりすることで、運転者が情報を確認することができる仕組みを開発。まずは広島都心部で実証実験を進めている。

ひろしまサンドボックスによる「実証実験支援実績特集」記事第八弾は、”通信型ITSによる公共交通優先型スマートシティの構築事業”にフォーカス。広島市の路面を実証フィールドとして、スマートシティ広島を目指す実証実験について、コンソーシアムの代表である中電技術コンサルタントの岡村氏と山崎氏に話を聞いた。また、本実証事業の中でのひろしまサンドボックスによる様々な支援内容についてもお届けしていきたい。


特設LPにて、「ひろしまサンドボックス」を軸に産学官による9つの実証実験を随時公開!


<取材対象者>


■中電技術コンサルタント株式会社 電気本部 上席エグゼクティブエンジニア 岡村幸壽 氏


■中電技術コンサルタント株式会社 交通・都市本部 道路交通部 担当課長 山崎俊和 氏

都心部、郊外、それぞれが抱える交通の課題

――中電技術コンサルタントさんがひろしまサンドボックスの実証実験に応募した背景を聞かせてください。

岡村氏 : ひろしまサンドボックスで実証実験の公募がスタートすると聞いてから、ぜひ参加したいと考えていました。ただ、当社では様々な事業を行っているため、どのような切り口で参加できるか検討をした結果、通信型ITSで交通に関わる課題を解決できないだろうかと思い至ったのです。 

実は広島地区におけるITSの取り組みは、以前から行われており、2013年に開催されたITS世界会議東京2013では、東京大学、自動車技術総合機構交通安全環境研究所、広島電鉄、マツダと、様々な実験を行った実績があります。そのつながりを活かして、今回は広島市の公共交通に関わる課題を解決したいと考え、応募しました。


▲中国電力グループの中電技術コンサルタントが代表となりコンソーシアムを構築している。

――広島市の公共交通に関わる課題というのは、具体的にはどのようなことだったのでしょうか。

山崎氏 : 広島市の都心部には、特殊な交通状況があります。大きな特徴としては、路面電車が走っていることです。道路の中央には路面電車の軌道敷があるため、自動車で交差点を右折したり、道路を横切ったりするときには、慣れている広島市民であってもヒヤリとする場面があります。また、通勤ラッシュ時は交通量も増えることから、路線バスといった公共交通の遅延や、事故が発生する危険もありました。

一方で郊外部においては、住宅団地の高齢化が進んでいること、そして公共交通の衰退により都心部へのアクセス性が低くなりつつあるという課題があります。さらに、近年多発する豪雨災害などで災害時に交通に多大なる影響が出ており、2018年の西日本豪雨災害では広い範囲で交通障害が発生して問題となりました。そうした課題を、通信技術を活用して解決し、公共交通を乗りやすいものにすることで、「来たくて・住みたくなるスマートシティ広島」の実現を目的に、この実証実験は始まりました。



▲本プロジェクトにおける現状・課題などを整理すると上図のようになる。

広島県警の協力を得て、公道での実証実験が実現

――実証実験は、どのようなプロセスで進めていったのでしょうか。

岡村氏 : 市街地の路面電車や路線バスをターゲットに、安全性と円滑性を実証する実験を行いました。まず交差点2カ所に信号情報を無線で送る路側機を設置、これは最終年度には3カ所に整備しました。

続いて路面電車4両、路線バス3両、一般車両1台にも通信型ITS技術を適用した機器を装備。車両が相互で運転情報を送り合い安全運転ができるか、また交差点で信号情報が提供できているのかを検証していきました。


――今回使用した機器は、過去の実証実験で用いていたものですか。それとも新たに開発したものでしょうか。

岡村氏 : 車載器は、これまで開発してきたものをベースに、信号情報の取り込みなどの機能追加を行いました。それから交差点の路側機、ITS無線機については、メーカーが今まさに開発中の機器を活用しました。3箇所のうち1箇所には、無線機と信号制御器を一体化させた機器を、全国に先駆けて今回の実証実験に投入したと聞いています。

――実際に運行している公共交通車両や、信号機などに機器を設置するということで、かなりご苦労はあったと思います。実証実験を進める中で、どのような壁を乗り越えてこられたのでしょうか。

山崎氏 : そもそも一部の実証実験は、実際に路面電車や路線バスが走行する公道で実証実験を行えるかどうかも、当初は危ぶまれました。公道でできないことも想定して、東京大学さんの実験場や、広島電鉄さんの車庫を利用するか、最悪の場合はシミュレーターで、という話も出ていたのです。しかしそこは、ひろしまサンドボックスからのサポートや、広島県警さん、中国整備局さん、中国運輸局さんなどの関係各所からの積極的な協力もいただき、実現することができました。

――広島県警からは、どのような協力を得られたのでしょうか。

山崎氏 : 岡村が話したように、車載器については以前から開発していたのですが、信号情報をやり取りする路側機については、なかなかこれまで実証実験ができていませんでした。交差点の信号機は、警察が管理するものです。そのため、本来であれば、今回のような機器を設置するには関係各所に交渉を行う必要があり、1年や2年といった短期間ではとても設置はできないでしょう。

また、設置にあたっては、地元警察だけではなく、警察庁にも届け出をする必要があります。これも通常であれば接触に時間が掛かるところを、広島県警さんが積極的に協力をしてくださったことで、スピーディーに機器の設置ができました。

これにより、従来は車両間での通信だけだったところに信号機の情報が加わり、路車間通信が実現したのです。また、信号機と双方向で情報をやり取りできるようになり、公共交通優先システムの実証実験も実施することができました。これは今回の実証実験での大きな成果だと思います。


▲実証実験において各社が連携し、機能検証を実施している様子。

実質2年半で、ここまで実証できたことは、奇跡に近い

――実証実験最終年度となりましたが、これまでの成果について聞かせてください。

岡村氏 : 今回の実証実験では、人間支援のシステムも開発しています。これは路面電車や路線バスの運転士さんの支援を行うものです。必要な情報をタイムリーに、分かりやすく運転士さんに取り次ぐことが大切になるため、作りこんで修正を繰り返していくしかないのですが、今回の実証実験の場でトライアンドエラーを重ねて改良していくことができ、大きな進歩を遂げられたと思います。

こういった話をすると、「そのうち自動運転になるから、一時的なものだよね」という捉え方をされます。しかし、自動運転の技術が進歩しても、世の中の車両が一気に自動運転車両に切り替わるわけではありません。

しばらくは、人間が運転する車両、機械が運転する車両、そして機械が人間の運転を支援する車両が混在する時代が続きます。この状況が、一番難しいのです。だからこそ、今回の実証実験のように安全な交通を支援するシステムが重要だと考えています。

山崎氏 : 2020年の10月と12月には、試乗会も行いました。12月の試乗会では、路線バスと路面電車が電停(路面電車停留場)を共有して、スムーズに乗り換えをする電停共有の実験を実施したのです。公道での実験は、規制の問題もあり実現にはまだ時間が掛かるかと思っていたのですが、広島県警、中国地方整備局、中国運輸局など関係各所の協力もあり、実現することができました。

コロナ禍ということもあり、一般の方々には参加いただけなかったのですが、関係者と報道機関の多くの方々に試乗をしていただきました。その様子はテレビや新聞でも報道され、社内外からの反響も大きかったです。

岡村氏 : 技術開発が進んでいても、フィールドで実際にやってみるとなると、先ほどの山崎の話でもあったけど、すごくハードルが高いものです。実質2年半という実証期間で、路車間通信や、電停共有、公共交通優先信号といった、個別で研究されている技術を、実際のフィールド空間で複数実証することができたというのは、非常に意義が大きく、また奇跡に近いことだったのではないでしょうか。


▲2020年10月に行われた試乗会。多くのメディアに露出したことで、本プロジェクトのプロモーションにも繋がった。

ひろしまサンドボックスの影響で、広島県警をはじめ、協力者の輪が広がった

――今回実証実験を進めるにあたり、ひろしまサンドボックスからはどのような支援がありましたか。

山崎氏 : 広島県警との交渉をはじめ、関係各所との連携をスムーズに進められたのは、ひろしまサンドボックスの運営事務局である商工労働局イノベーション推進チームの方々の尽力があったからでした。逆に、先ほど話した電停共有に対して、商工労働局イノベーション推進チームから当初は「なぜやらなければならないのか」という声もあがっていました。そこは、実験に理解を頂いた広島県警から分かりやすく説明をしていただけたことで、実証期間中に実施することができたのだと思います。

また、当社はあまり広報活動が得意ではないのですが、ひろしまサンドボックスでは積極的にイベント開催などプロモーションを打っていただけたことで、興味を持ってくださる方も増えましたし、協力の輪が広がっていることを感じます。先ほどお話しした試乗会も、まさにそのひとつですね。

岡村氏 : 確かに、ひろしまサンドボックスは広島県内で知名度が高く、「ニュースを見たよ」と声を掛けていただくことも多いですね。

――どんなところから声が掛かり、輪が広がっているのでしょうか。

山崎氏 : 当社の親会社である中国電力から、今回の実証実験を機に声を掛けてもらい、グループ会社が集まる技術交流会に参加させていただきました。また、関係者の関係者の関係者といった形で、どんどん繋がりが増えていきました。その中で、「こういう話であれば、この会社が得意だよ」といった情報をいただけたり、また次の展開に繋がっていったり、想像以上の世界が広がっていますね。

――岡村さんは、ひろしまサンドボックスの魅力をどういったところで感じましたか。

岡村氏 : 砂場のように、つくってはならし、つくってはならし、というサンドボックスの精神が浸透していると感じました。私たちが従来取り組んできた実証では、予め実現したい目的があり、それに向けて実験をして証明をして、というものでした。

それに対してひろしまサンドボックスでは、どんどん色んなことを進めて、みんなに見てもらって、色々な観点で評価をしてもらうことができます。このようなオープンなプラットフォームであるからこそ、従来の研究開発型の実証実験ではできなかった期間で、様々なことにチャレンジできたのだと思います。


「来たくて・住みたくなるスマートシティ広島」を目指し、新しい技術導入などさらなる飛躍を。

――「来たくて・住みたくなるスマートシティ広島」という最終目標があるかと思いますが、そこに向けて今後はどのような計画を検討していらっしゃいますか。

岡村氏 : 主に2つの観点で、プロジェクトを継続させていきたいと思っています。1つは、今回実証実験を行ったシステムを、今後はより実用に近づけていくことです。その一方で、こういった実証実験で得られた成果を、実際の生活の中で役立つ形で取り入れるための仕組みづくりも必要です。普段の生活の中で、安全や交通の円滑化を図る無線システムや、データを集約したプラットフォームを構築し、みなさんに有益な情報を与えていくような取り組みを進めていきたいと思います。

山崎氏 : ひろしまサンドボックスの実証事業としては、今年度で終了となりますが、引き続き取り組みとしては続けていく予定です。5Gなど通信技術が飛躍的に進歩していますし、新しい技術も取り入れながら、「来たくて・住みたくなるスマートシティ広島」の実現に向けて取り組みを継続させていきたいですね。


――最後に、ひろしまサンドボックスに興味を持つ読者に、一言メッセージをお願いします。

山崎氏 : ひろしまサンドボックスは、自由にチャレンジができます。最初に決めたことだけではなく、その都度新しい考えや視点を取り入れながら、「これもやってみよう」と果敢に取り組むことができる場です。

先ほどもお話ししましたが、今回の実証プロジェクトを実施していく中で、派生的にさまざまな企業や団体の方々と繋がりができました。実証実験そのものの成果もさることながら、こうした繋がりも得られるのが、ひろしまサンドボックスの魅力だと思います。

岡村氏 : この3年で、ひろしまサンドボックスに対する関心は、県内でも高まってきていると感じます。しかし、まだ「取り組みは知っているけれど、まだ自社の事業とは直接結びつかない」という声も聞きます。たくさんの事業者の方にひろしまサンドボックスの精神を共有して、新しい価値創造を一緒に進めていきたいですね。



※eiicon companyがオンラインで開催する日本最大級の経営層向けオンラインカンファレンス「Japan Open Innovation Fes 2020→21」にて、スペシャルセッション「オープンイノベーション3.0 産官学連携から見えるみらいのカタチ featuringひろしまサンドボックス」を開催[2/26(金)12:30-13:40]。「ひろしまサンドボックス」を牽引する広島県知事・湯﨑氏をはじめ、9つの実証プロジェクトを代表する担当者がそれぞれの成果をプレゼンします。ぜひ、オンラインでご視聴ください。

視聴方法やスケジュールなど詳細はこちらをご覧ください。 https://eiicon.net/about/joif2020-21/  


▲スペシャルセッションの詳細はこちら▲

取材後記

一般車両や歩行者が利用する道路での実証実験は、民間企業の力だけでは難しい面もある。その点、今回のコンソーシアムは、広島県警や中国地方整備局、中国運輸局、広島国道事務所といった公的機関をアドバイザーに迎えることで、スピーディーに進めることができた。

「まさに奇跡に近いことだと思います」――岡村氏と山崎氏が口にしたこの言葉に、「広島県をまるごと実証フィールドに」を標榜するひろしまサンドボックスの魅力が凝縮されていると感じた。

(編集:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:古林洋平)

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「ひろしまサンドボックス」共創事例

【共創事例】「ひろしまサンドボックス」は、AI/IoT実証プラットフォームです。技術やノウハウを持つ広島県内外の企業や人材を呼び込み、様々な産業・地域課題の解決をテーマとして、共創で試行錯誤できるオープンな実証実験の場を構築。本企画では、様々な実証事例を取材形式でお届けし魅力に迫ります。