産官学連携で“Society5.0”の先端を突き進む茨城県つくば市の未来戦略とは?
地方でのオープンイノベーション事例を紹介する連載「CLOSE UP OI」、今回は茨城県つくば市にフォーカスします。
つくば市は、内閣府によって提唱されている最新テクノロジーを駆使した目指すべき未来社会「Society 5.0」の実現に向けた取り組みを共創で加速させています。
また、つくば市が主導している未来の街づくり戦略「つくば市 未来構想」や、共創文化の根付いた筑波大学の存在など、先進的な取り組みが数多くあります。
街づくりの先端を行くつくば市の戦略を紐解いていきます。
つくば市の街づくりの軸「Society 5.0」とは?
つくば市が実現したい未来として据えているのが「Society 5.0」という概念です。Society 5.0とは、内閣府が推進している社会づくりプロジェクトで、公式サイトには以下のように説明されています。
「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」
これまでの社会を狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)とするならば、Society 5.0は最新技術を駆使して社会課題を解決するアプローチを実践する社会、というわけです。
具体的には、IoT、AI、ロボティクスといった分野でイノベーションを起こすことで経済発展と社会課題に取り組みます。フィジカル空間とサイバー空間を横断的に融合させることでこれまでにない価値や産業を生み出す狙いがあります。
関連リンク:Society 5.0│内閣府
つくば市の共創によるSociety 5.0の事例
Society 5.0の実現に欠かせないのがオープンイノベーションです。Society 4.0の情報社会では、インターネットを通じて爆発的に情報が流通したものの、情報が分断しており連携が取れていないことが課題でした。
つくば市は「世界のあしたが見えるまち」というヴィジョンのもと、Society 5.0的な発想で社会課題に対してオープンイノベーションを実践しているのです。いくつか事例を紹介します。
つくば市のSociety 5.0社会実装トライアル支援事業
つくば市では、Society 5.0の社会実装に向けたトライアル(実証実験)のアイデア公募を実施しています。対象者は教育機関・企業・研究機関で、支援内容は以下の要領になっています。
・トライアルの実施に係る経費の支援(上限100万円)
・施設の確保、モニターのあっせん等
・国等に対する規制・制度改革の提案
・大学・研究機関等とのマッチング
・市のイベント等におけるPRの場の提供
・その他市が必要と認めるもの
関連記事:つくばSociety 5.0社会実装トライアル支援事業の募集を開始
ブロックチェーンなど新技術による投票システム
上記のトライアル支援事業で採択されたプロジェクトのひとつを紹介します。株式会社VOTE FOR、株式会社ユニバーサルコムピューターシステム、日本電気株式会社が共同でマイナンバーカードとブロックチェーン技術を活用したインターネット投票を実施・検証しています。
2018年に最初の実証実験がスタートし、マイナンバーカードを用いたインターネット投票を実施しています。投票内容はブロックチェーンに記録されるため、改ざん防止・秘匿性の確保が期待されます。
2019年からは、スマートフォンからの投票や顔認証技術による本人確認といった新たな技術を取り組んで、投票の最適化を図るチャレンジが行われました。
関連記事:つくば市、ブロックチェーン及び顔認証技術とマイナンバーカードを活用したインターネット投票を実施
筑波大学は日本屈指の大学発ベンチャーを創出
つくば市の“学”を象徴する存在が筑波大学です。筑波大学はブランドコンセプトとして「筑波大学は開かれた大学、学際融合・国際化への挑戦を建学の理念とする、未来構想大学と自らを位置づけます」と掲げており、まさにつくば市が推進するSociety 5.0を実現するコンセプトと合致しています。
特徴的なのは大学発ベンチャーの数です。経済産業省が2019年5月に公表した「平成30年度大学発ベンチャー実態等調査」では、東京大学、京都大学に次いで筑波大学が第三位でした。
筑波大学は「大学発ベンチャー数」「大学発ベンチャー増加数」共に3位
筑波大学の大学発ベンチャーとして有名なのは、筑波大学准教授でメディアアーティストの落合陽一氏が設立したピクシーダストテクノロジーズです。独自の波動制御技術「HAGEN 波源」をコアとして、大学で研究された技術シーズを、事業会社と連携して社会実装することを目的としています。
8月にはJR東日本の子会社でベンチャーへの出資や協業を推進するCVCのJR東日本スタートアップと資本業務提携して、先端テクノロジーを駅や車両といったJR東日本の持つ現場に実装することを目指しています。
関連記事:経産省 | 「大学発ベンチャー調査」を公表――調査対象の78%が“今後大企業と提携したい”
関連記事:ピクシーダストテクノロジーズとJR東日本スタートアップが資本業務提携|大学発・先端テクノロジーをJR東日本グループの現場実装へ
関連リンク:大学発ベンチャー調査、大学発ベンチャーデータベースを公表しました│経済産業省
自治体の課題解決アプローチを官民共同で最適化
自治体は地域の課題を解決することがミッションのひとつですが、組織内だけのリソースで課題解決に取り組むことで生産性が最適化されない問題があります。
つくば市はこうした旧来型のソリューションをアップデートしようと試みています。社会課題解決に取り組む企業のリディラバは、つくば市と包括協定を結んで新しい課題解決アプローチを実施しています。
そもそも、旧来型の自治体の課題解決フローは、各課が課題解決できるプレイヤーを探して事業者へ発注するのが通例です。しかし、自治体にはいくつもの課が存在していて、それぞれが複数の課題を抱えているため、各課がバラバラに動くのは非効率です。
そこで、リディラバはつくば市の各課からヒアリングして課題を吸い上げ、それぞれの課題を包括的に解決できるプレイヤーとマッチングするソリューションを提供しています。これによって、ひとつの事業者が複数の課が抱える課題を一気に解決できる可能性が出てきます。
関連記事:当事者意識を育てる現場とは?リディラバ鈴木氏が語る課題解決のノウハウ
【編集後記】Society 5.0実現のモデル都市へ
つくば市は大手企業の研究拠点も多く、昨今では外国人の研究者や留学生が増えています。人口もゆるやかに増加し続けており、多くの自治体で問題とされている人口減少にも対応しているモデルケースと言えるでしょう。
本記事で紹介したとおり、オープンイノベーションを軸にした産官学の連携も波に乗っており、Society 5.0の実現に向けて先端を走っている自治体です。
先端テクノロジーで社会課題を解決するアプローチは今後さらに増加していくことが予想されるので、つくば市を成功事例としてその他の自治体へノウハウを共有してくれることが期待されます。
次回の「CLOSE UP OI」で取り上げるのは神奈川県鎌倉市です。産官学が協働で推進する「鎌倉リビングラボ」の仕組みや、IT企業が鎌倉に拠点を移す理由に迫りまっていきます。