【感性AIコラム】坂本真樹先生のモノと言葉の不思議講座
坂本真樹先生のモノと言葉の不思議講座
第一章:五感・感性と結びつく言葉 オノマトペ 第二章:個人個人の感じ方の違いを把握~感性の個人差をモノづくりに活かす~ 第三章:普遍的な言語音と五感の結びつき
第一章
五感・感性と結びつく言葉 オノマトペ
日本語話者は机というモノを「ツクエ」といいますが、英語話者は「デスク」といい、ドイツ語話者なら「ティッシュ(Tisch)」といいます。言葉のコミュニティによって、違う言葉、違う“音”で表現します。「ツクエ」という音が一番合ってるから「ツクエ」というわけではなく、日本語ではそう決まっている、というだけです。
机には「つくえ」という言葉をラベル付けするのが日本語では正解で、ある人は「つくえ」というけどある人は「つくね」という、ということはありませんが、ある机の見た目や手触りから受ける感じを、ある人は「つるつる」というかもしれませんし、ある人は「さらさら」というかもしれません。このような言葉を「オノマトペ(擬音語・擬態語)」といって、そのモノがなんであるかを表しているのではなく、その人がそのモノから感じたことを表しています。
「つるつる」「さらさら」を感性AIのことばから感じる印象を数値化する技術で解析すると、それぞれ次のようになります。
机の手触りや見た目から感じたことを、「つるつる」と表現した人は、なめらかさや滑る感じを持ったと推定されますし、「さらさら」と表現した人は、なめらかなだけでなく乾いて軽快な感じを持ったと推定されます。どちらが正解不正解ということはありません。 オノマトペは、その人がそのモノから感じたことを表しています。オノマトペでは、五感・感性が音韻や形態と結びついているのです。
以前研究室で、若年者と高齢者の手触りの感じ方が違うことを、同じものを触ったときにその感覚をオノマトペで表してもらう実験で示したことがあります。体温や水分量の年齢による違いが、同じものを触ったときに使われるオノマトペの違いに表れていました。例えば、同じ机を触っても、若年者は「つるつる」と答えて、高齢者は「さらさら」と答えるかもしれません。そこで、高齢者は、若年者がつるつると思う机(モノ)を、「乾いている」感じ(感覚)、その感覚が「さらさら」というオノマトペとして表されていることがわかるのです。モノの見た目や手触りから何を感じるかは人によって異なります。そして、どのように感じたかによって、何にどのオノマトペを当てはめるかが変わるのです。
第二章
個人個人の感じ方の違いを把握~感性の個人差をモノづくりに活かす~
前章で、モノの見た目や手触りから何を感じるかは人によって異なることについて述べました。このような感性の個人差の観点は、感性工学を取り入れたモノづくりやマーケティングに活かしていくことができます。
消費者が満足して対価を支払う「いい商品、いいサービス」には、「高機能性」「高信頼性」「合理的価格」といった従来型の価値を超え、生活者の感性に働きかけ、その感動や共感を呼び起こす「感性価値」が存在します。近年、こうした感性の観点をモノづくりに活かし付加価値を生み出し新たな需要を喚起することが求められている中で、感性の個人差を把握しニーズを反映した商品開発やレコメンドをしていくことが一つの課題となってきています。それを、オノマトペとして表現された個々人の感性の世界を可視化していくことで解決できるのではないかと考えています。
例えば、タオルを指して「これは何ですか?」といえば、だれでも「タオルです」と答えますが、「このタオルはどんな感じがしますか?」と聞くと,人によって違うオノマトペで表現したりします。この個人個人の感じ方の違いが、性別や年齢による差であれば、その集団を代表する被験者にアンケートをすることで、何をどのように感じるかを把握することができますが、人の五感・感性は一人一人違う可能性があるため、一つ一つのモノの感じ方についてアンケートを実施しなくてはいけないことになります。「モノと知覚と言葉の関係」については様々な考え方がありますが、モノは物理的世界に人間の知覚と独立に存在しており、五感を通して人間はモノの情報を知覚し、その知覚がオノマトペのような言葉として表されることから、「人は感覚入力を言葉でカテゴリ化している」と言えます。つまり、人の五感・感性の個人差を、「何をどの言葉で表現するか」から推定できると考えられるのです。
そこで、モノの世界(モノのマップ)と、人がそれをカテゴリ化することで作られるオノマトペによる感性の世界(オノマトペマップ)をそれぞれ独立なものとして用意し、2つのマップのすり合わせ方の違いによって個人個人の感じ方の違いを把握するシステムを作りました。
モノのマップ上にオノマトペマップを重畳することにより、あるユーザがいくつかのオノマトペをそれが最も表すと感じられるモノの位置へと移動させるだけで、そのユーザの感じ方を把握できるのです。
このシステムを活用すると、個人個人の感じ方の違いを、少ない時間・少ない負担で把握でき、たとえば、化粧品の使用感において重要な影響を与える手触りの感じ方の個人差を簡単に大量に調査できるようになります。また、個人差を簡単に把握し、その人の五感・感性に適した商品を推薦することも可能です。
感性工学的には、オノマトペでカテゴリ化される質感認知について、物理特徴-知覚表現-オノマトペの関係とその変換過程を利用することで、知覚表現を介しつつ物理特徴からオノマトペ、オノマトペから物理特徴へと自在に変換することが可能になります。このようなオノマトペと物理特徴を紐づけるシステムを構築することで、個人個人のニーズを反映した素材等の推薦ができるようになります。また、物理・知覚表現から新奇のオノマトペを生成するほか、オノマトペからこれまでに無い新規な質感をマイニングすることで、新規素材開発も可能になるのです。
第三章
普遍的な言語音と五感の結びつき
私の研究室では、音・手触り・見た目・味と言語音の関係について調べてきました。
/i/は小さいイメージと結びつき、/o/は大きいイメージと結びつくこと、
清音は軽快なイメージと結びつき、濁音は重いイメージと結びつくこと、
というように、言語音と音以外の感覚との結びつきには、言語や文化を超えた普遍性があることは前回のネーミング講座でお話ししました。
この関係性は、時間・時代を超えても変わらないことも示されています。20世紀初頭の言語学者イェスペルセン(Jespersen)は,ヨーロッパの言語の音と意味の関係性の通時的変化を調べた結果、古英語でも、母音/i/は、「狭い・細い・弱い・薄い」といった意味と結びつくことを発見しています。同時期に、アメリカの言語学者サピア(Sapir)は、“mal”と“mil”という無意味語を作り、それぞれに同一の「机」という意味を与え、被験者にどちらが大きい机であると感じるかを選択させる調査をし、母音 /a/ を含む“mal”のほうが大きいと感じるという傾向を報告しています。同じ実験を現代に行ったとしても、同じ結果になるはずなのです。
一方、ネーミングの場合はオノマトペと違って、コミュニティや時代の影響を受ける可能性があります。例えば、「ぱみゅぱみゅ」という音から受ける印象は基本的に変わりませんが、ネーミングとしての「ぱみゅぱみゅ」の印象についてはこの音を含む人気タレントのことを知っていれば、そのタレントのイメージの影響を受ける可能性があります。言語音と五感・感性の結びつきとは別に「知識」が影響する可能性があるのです。
オノマトペについても、言語・文化を超えた普遍的な言語音と五感の結びつきだけでは説明できないことはあります。外国人には、日本語のオノマトペの学習が難しいからです。以前、講演をしていた時に、外国人から、「「信号がパカパカしてる」と言ったら,「そのオノマトペは間違っている」と指摘されました」というコメントをいただきました。信号は「ピカピカ」や「チカチカ」で、「パカパカ」は馬の歩く音ですね。このように各オノマトペの使い方が「知識」となっている場合は、その影響を受けます。ただし、五感・感性のレベルでは、仮に信号をパカパカと言っても、その人はそう感じたのだからよいのかもしれません。
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