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商業施設を“身近な健康インフラ”に――小田急SCディベロップメントとHIL「お腹ソムリエ」が支える都民のヘルスケア<Be Smart Tokyo実装事例#4>

商業施設を“身近な健康インフラ”に――小田急SCディベロップメントとHIL「お腹ソムリエ」が支える都民のヘルスケア<Be Smart Tokyo実装事例#4>

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東京都がスタートアップと民間企業、自治体などとの協業を支援して「スマート東京」の実現を目指す、スマートサービス実装促進プロジェクト「Be Smart Tokyo」。

2022年度からスタートした本プロジェクトでは、現在、小田急グループの商業施設運営などを担う株式会社小田急SCディベロップメントと、ヘルスケアサービス「お腹ソムリエ」を提供する株式会社HILとの共創が推進中だ。昨年11月には、その第一弾として体験型健康イベント「からだラボ体験フェス」を経堂コルティにて開催。地域住民が多く集まり、イベントは盛況に終わるなど、双方のシナジーの高さが確認されている。

TOMORUBAでは、「Be Smart Tokyo supported by eiicon」の実装事例の第4弾として、小田急SCディベロップメント 企画開発部 加藤氏とHIL 代表取締役 小熊氏にインタビューを実施。共創に至る経緯やキーサービスである「お腹ソムリエ」について、さらに「健康」をテーマに2社がどのような価値を提供したいのかなどについて聞いた。「小田急×ヘルスケア」の先に見える、次世代の東京像とは。

「大切だが、関心が薄い」——ヘルスケア事業の前に立ちはだかる“無関心”の壁

――「Be Smart Tokyo」において小田急SCディベロップメント(以下、小田急SCD)は、ヘルスケアスタートアップの株式会社HIL(以下、HIL)と協業しています。小田急SCDがヘルスケア領域に挑む理由はなんでしょうか。

小田急SCD・加藤氏 : ヘルスケア領域に関心を持つきっかけは、神奈川県のオープンイノベーション促進事業「BAK(バク)」への参画です。BAKで、あるヘルスケアスタートアップと協業の機会を得て、当社が手がける商業施設の開発や運営と「健康」の親和性の高さを実感しました。

商業施設は、来場するお客様はもちろん、施設の従業員の皆さん、施設を管轄する自治体の方々など、数多くのステークホルダーの協力で運営されています。そうした性質の施設に付加価値を加えるうえで「健康」は非常に有効です。

来場するお客様や従業員の皆さんの健康増進は、個人の暮らしを豊かにするだけでなく、テナント企業や自治体にもメリットがあります。お客様、テナント企業と従業員、自治体と、施設を取り巻くステークホルダーの皆さんをWIN-WIN-WINでつなぐことができるのは、ヘルスケア領域の事業の強みです。

▲株式会社小田急SCディベロップメント 企画開発部 課長代理 加藤啓太氏

――そうしたなかで「Be Smart Tokyo」に参画した理由はなんだったのでしょうか。

小田急SCD・加藤氏 : 東京都の事業であることが最大の理由でした。ヘルスケア領域に限りませんが、今の時代に1社単独で解決できる課題は限られます。数多くのスタートアップと接点を持つことができ、相性の良い協業先と出会いやすいという点で、東京都の支援事業である「Be Smart Tokyo」は魅力的でした。

また、eiiconが「スマートサービス実装促進事業者」としてプロジェクトに参画している点も理由のひとつです。eiiconはBAKの運営支援も手がけていましたが、当時から親身かつ根気強い支援に好印象を持っていました。「eiiconが伴走してくれるなら」と背中を押された面はありましたね。

――ヘルスケア領域の事業を手がけるにあたっての課題はなんでしょうか。

小田急SCD・加藤氏 : 「健康は大切だが、健康への関心はそれほど高くない」ことですね。それはBAKのプログラムを通じて痛感しました。例えば、街中でヘルスケアサービスの体験イベントを実施しても、通行する人々の反応は、事前の予想ほどには芳しくありませんでした。

しかし、よく考えれば当然です。多くの場合、私たちが自らの健康を気にかけるのは「健康が損なわれたとき」ですから。健康診断で悪い結果が出てから生活習慣を見直すのと同様です。つまり、誰にとっても大切であるにもかかわらず、普段はそれほど関心が払われないという点が、ヘルスケアサービスの難しさなのだと思います。

HIL・小熊氏 : 非常に共感します。私は現在、HILで代表を務めていますが、以前は総合病院の看護師として勤務していました。医療従事者としての経験からも、社会的な健康への関心の低さは憂慮していますし、ヘルスケアサービスを提供する事業者としても乗り越えなければいけない壁だと思っています。

▲株式会社HIL 代表取締役 小熊美嘉氏

「楽しい」が、健康を「自分事化」させる。お腹ソムリエのポテンシャル

――今回の共創のキーサービスであるHILの「お腹ソムリエ」について解説いただけますか。

HIL・小熊氏 : お腹ソムリエは、超音波技術を活用してお腹の皮下脂肪や筋肉の状態などを数値化して、生活習慣の評価や行動改善を促すヘルスケアサービスです。あくまで医療診断ではなく、自らの身体の状況への気付きを促し、行動変容に繋げることを目的にしています。

私がお腹ソムリエの普及に力を入れる理由は、看護師時代の経験にあります。急性期や終末期の現場で命と向き合うなかで、『病気になる前の予防』こそが最も重要だと強く感じるようになったのです。しかし、先ほども述べた通り、多くの方が健康に関心を持つのは、病院にかかる段階になってからです。健康診断でC判定やD判定の結果が出ても意に介さず、生活習慣を改めない方も少なくありません。そうしたなかで、私は「健康診断の結果を自分事化するには?」という問題意識を持つようになりました。

その頃に出会ったのが、お腹ソムリエでした。当時、あるきっかけで、お腹ソムリエの体験イベントのスタッフを務めたのですが、体験者の多くが「私はどうすればよいですか?」と、行動変容の兆しを見せていたのが印象に残りました。お腹ソムリエならば、多くの人が健康を自分事化できると確信したのです。その後、お腹ソムリエの開発者からサービスを引き継ぎ、私がHILの代表として事業を手がけることになりました。

▲お腹ソムリエは、超音波(エコー)を使って生活習慣を客観的に評価するサービス。測定は1人約5分程度で、体の状態を数値化する。(画像出典:プレスリリース)

小田急SCD・加藤氏 : お腹ソムリエの特徴は「楽しい」ことですね。測定は短時間ですし、痛みもストレスもありません。ちょっとだけ恥ずかしいだけ。しかも、お腹の状況を直接確認できるので、どこかゲーム感覚で楽しく健康状態を把握できます。

当社内で20人ほどの体験会を実施したのですが、社員たちはわいわい参加して、その後もお腹ソムリエの話題で会話が弾んでいました。「健康診断」というと少し身構えてしまったり、億劫に感じたりする方も多いかもしれません。そうした心理的ハードルを感じさせない手軽さと楽しさが、お腹ソムリエの大きな強みだと感じます。

――HILが「Be Smart Tokyo」に参画した狙いはなんだったのでしょうか。

HIL・小熊氏 : BtoC市場の開拓が狙いの一つでした。従来、HILではBtoB向けにお腹ソムリエを展開していました。企業では従業員の健康診断の受診が義務付けられていますし、最近では健康経営への注目の高まりから市場開拓の見込みがあったのです。しかし、さらなるサービスの拡大を目指すならば、BtoC市場は避けて通れません。より身近な人々にお腹ソムリエを届けるうえで、実証フィールドやインフラを有するパートナーと出会える「Be Smart Tokyo」は魅力的でした。

――小田急SCDがHILをパートナーに採択した理由を教えてください。

小田急SCD・加藤氏 : 30社ほどの応募をいただいたのですが、その中でも最も価値観を共有できたのが採択の理由の一つです。共創を進めていくうえでは、課題や本音をオープンに言い合える関係でなければ、取り組みを円滑には進められないでしょう。その点で、HILさんとは相性が良かったのだと思います。

また、「オフライン」という点もポイントでした。お腹ソムリエは対面で提供するサービスですが、それは私たちが手がける商業施設も同様です。特定の場所に足を運ばなければ体験できないという点で、お腹ソムリエに事業上のシナジーを感じました。

イベントは成功。「家族連れ」が課題解決のポイントだった

――これまでの協業の内容を教えてください。

小田急SCD・加藤氏 : 昨年11月に小田急線経堂駅近くの商業施設「経堂コルティ」で体験型健康イベント「からだラボ体験フェス」を共同開催しました。お腹ソムリエを広く周知するうえで、イベントは有効な手段です。

ただし、先ほどもお話ししたように、商業施設に訪れるお客様は必ずしも健康に関心が高いわけではありません。そのため、HILさん以外にも出展企業を募り、お子さま向けのAR体験ブースなども設けることで、健康に留まらない幅広いテーマでお客様の興味を惹くよう心がけました。

▲小田急線「経堂駅」下車すぐの経堂コルティ 4F屋上庭園で開催された「からだラボ体験フェス」内お腹ソムリエブース。(画像出典:お腹ソムリエ研究所Instagram)

――イベントの手応えはいかがでしたか。

HIL・小熊氏 : 従来からの課題であった「自分事化」を促せるイベントだったと思います。ポイントは「家族連れ」です。商業施設には家族連れで来られる方が多いので、イベントもご家族で参加されるお客様が中心でした。そうしたなかで、例えば、お父さんのお腹ソムリエの点数が低いと、ご家族の間で「痩せてほしい」といった話題が自然に上がります。さらに、その日の夕飯のメニューやジョギングの習慣を付けようといった話題に繋がるご家族もいらっしゃいました。

健康診断を自分事化しにくい大きな要因は、それを「自分一人で抱え込んでしまうこと」にあります。自分だけで診断結果や専門職からのアドバイスを受け取ると、忘却したりやり過ごしたりして、行動変容や継続に繋がりにくいのでしょう。対して、ご家族と一緒に検査を受けると、周囲からの助言や要望があるので、結果を自分事化しやすいのだと思います。

これは商業施設でイベントを開催したからこそ得られた示唆であり、小田急SCDさんとの協業の成果だと感じています。また、そのほかにも、商業施設という生活者の生活動線上にお腹ソムリエのブースを展開できたのは、今後、BtoC市場を開拓するうえでも有意義でした。総じて、イベントには大きな手応えを感じています。

▲お腹ソムリエでは、「内臓脂肪」「皮下脂肪」「腹筋形態」「腹直筋厚み」の4つの指標が数値化される。さらに、おすすめの改善アクションも提示される。

――今後もイベントは継続開催するのでしょうか。

小田急SCD・加藤氏 : 今後はイベントを継続開催するのではなく、イベント開催を通じて得られた示唆や課題を解消して、お腹ソムリエがより能動的に求められるサービスとなるよう、機能追加や提供の仕組みづくりに注力します。こちらから生活者と接触するのではなく、生活者から「お腹ソムリエはどこで体験できますか」といった声が上がるようになるのが目下の目標です。

HIL・小熊氏 : 今回、小田急SCDさんと協業できたのは、自社の信用度を高めるうえでも効果的でした。もともと、お腹ソムリエはHILの創業者が独自に開発したサービスであり、とても地道に機能や提供体制を築いてきました。そのため、大企業様に関心を持っていただけても、スタートアップゆえの実績や体制面がハードルとなり、導入まで至らないケースが少なくありませんでした。

しかし、今回、小田急グループと協業できたことで確かな実績が得られました。こうした点でも「Be Smart Tokyo」は有効なプロジェクトだと思っています。

「健康」を小田急SCD独自の付加価値に

――「Be Smart Tokyo」はスタートアップなどとの協業を通じて「都民の暮らしの利便性・QOLを高める新しいサービスをスピーディに生み出すこと」を目的としています。小田急SCDはHILとの共創で、この目的を果たせたでしょうか。

小田急SCD・加藤氏 : そうですね。商業施設に健康増進という付加価値を付与する道筋をつけられたという点では成功していると思います。商業施設は周辺住民をはじめ、多くの生活者の方々とのタッチポイントです。都民の暮らしのQOL向上を果たすには、ぴったりのインフラだと思います。今後も、ご来場のお客様や周辺住民、テナントの従業員の方々などに、いかに健康を届けるかという観点で取り組みを継続するつもりです。

――それでは最後に、共創の今後の展望をお聞かせください。

小田急SCD・加藤氏 : 直近の目標としては、お腹ソムリエを体験できる場を作ることです。「ここに行けば、お腹ソムリエを体験できる」という空間を提供し、さらに、そうしたニーズを生活者の間に醸成することを目標にしています。

そして、その先に、「健康」を小田急SCDの強みに昇華できるのがベストです。例えば、小田急SCDが施設運営の企画提案をする際に、「当社が施設を運営すれば「健康の輪」が広がります」といったプレゼンができれば、大きな強みになるはずです。そうした規模まで今回の協業を拡大できるよう、今後も取り組みに注力していきます。

HIL・小熊氏 : 現在、小田急SCDさんと共同で、多摩地域でのイノベーションエコシステム創出プログラム「多摩イノベーションエコシステム」に参画しています。お腹ソムリエを起点に行動変容を促すサイクルを検証する取り組みです。

お腹ソムリエは、単に体験するだけでは健康増進の効果は得られません。測定後に健康意識が向上し行動変容が促されるからこそ、健康増進に繋がります。そうしたサイクルを検証し、効果的な工程を構築するのが現時点での目標です。こうした取り組みを通じて、世の中の健康意識や健康リテラシーを高め、より豊かな東京を築きたいと思っています。それまで、ぜひ小田急SCDさんには末長くお付き合いいただきたいですね。

取材後記

「スマートシティ」と目にして、どんなイメージを思い浮かべるだろうか。クルマやドローンが空を行き交い、AI搭載のロボットやスピーカーが生活のあらゆる場面をサポートしてくれる——そんな近未来的な情景かもしれない。

しかし、そんな未来が到来したとしても、人間にとって「健康」が重要であることは変わらない。「Be Smart Tokyo」で小田急SCDとHILが共創を進める意義は、ここにあるのだろう。未来志向でありながら、いつの時代にも変わらない普遍的な価値を追求できるのは、フィールドを提供する企業にとっても、スタートアップにとっても有益に違いない。一時の流行や社会のムードに流されるのではなく、腰を据えて未来志向の事業を生み出そうとするところに、真の都民への価値還元があるのではないだろうか。

※「Be Smart Tokyo」シリーズ記事はこちらをご覧ください。

(編集:眞田幸剛、文:島袋龍太、撮影:加藤武俊)

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    Be Smart Tokyo Supported by eiicon

    東京都が推進する「Be Smart Tokyo」は、独創性・機動力にあふれるスタートアップ等への支援を通じて、都内全域をフィールドにスマートサービスを実装することで、都民の暮らしの利便性・QOL向上を目指す実装促進プロジェクトです。 2024年より、eiiconでは「マッチングプログラム」「社会実装プログラム」「スタートアップ支援プログラム」の3つの軸で実装促進支援を行っています。