「豆不使用コーヒー」に「培養サーモン」 世界のスタートアップが変える“食の常識”
代替食品市場の進化が止まらない。「培養肉」や「植物性ミルク」にとどまらず、「カカオフリーチョコレート」や「豆不使用コーヒー」、「培養サーモン・キャビア」など、さまざまな領域に広がっている。
世界のスタートアップが取り組むイノベーションの"タネ"を紹介する連載企画【Global Innovation Seeds】第78弾は、「フードテック」の最前線に迫る。世界のスタートアップは、“食の常識”をどう塗り替えるのかーー。
約1.3兆円市場に広がる「代替肉」 よりリアルな食感に
インドの市場調査企業フォーチュン・ビジネス・インサイトによれば、世界の代替肉市場規模は2025年に78億7,000万米ドル(約1兆3,000億円)だった。2026年には86億3,000万米ドル、2034年には207億米ドルとCAGR11.55%で成長すると予測されている。地域別で見ると、2025年は欧州が42.08%とトップだった。ここでは、3Dプリント技術とAIプラットフォームで注目されている2社を取り上げる。
【イスラエル・Redefine Meat】3Dプリントの「代替肉」
2018年にイスラエルで創業したRedefine Meatは、肉の組織構造(脂身、赤身、血液)をデジタルモデリングし、特許取得済みの積層造形技術(3Dプリント技術)を用いてステーキ肉の食感を再現している。
▲Redefine Meatが販売する3Dプリンターで製造した肉(出典:Redefine Meatの公式ホームページ)
主力製品の一つである「フランクステーキ」は、小麦、大豆のタンパク質をベースに、小麦粉、麦芽、菜種油、天然香料、塩、着色料などを加えて仕上げている。
2021年にイスラエルで製品を発売し、その後は英国、オランダなど欧州で取引先を拡大。高級レストランでの評判を重ね、2024年以降は、一般消費者向けにも販売先を広げている。
【チリ・NotCo】ジェフ・ベゾスも投資するAIでの代替レシピ開発
2015年にチリで創業したNotCoは、消費財業界向けに特許取得済のAIプラットフォーム「Giuseppe」を開発・提供する。動物性食品を分子レベルで分析し、何千もの植物原料の組み合わせから、本物を再現するレシピを短期間で導き出す。同社はユニコーンに成長しており、ジェフ・ベゾスなど有力投資家から支援を受けている。
▲クラフト・ハインツでは、代替マカロニ&チーズを発売
肉にとどまらず、ミルクやチーズ、スナック菓子、チョコレートなど多くの食品での実績を持つ。例えば、スターバックスではNotCoの代替ミルクを採用。クラフト・ハインツとは合弁会社を立ち上げ、代替マカロニ&チーズを発売。シェイクシャックでは、代替カスタードを開発した。
「代替シーフード」も加速、サーモンやキャビアが登場
近年は、代替シーフードの開発も加速している。グローバル市場調査会社のIMARCによれば、世界の植物性水産物の市場規模は、2024年に1億570万米ドル(約170億円)と評価され、2033年には9億9,080万米ドルとCAGR28.03%で成長すると予測されている。
国内でも拡大傾向で、マーケットリサーチセンターによると、日本の植物性水産物の市場規模は、2025年に800万米ドル、2034年までに7,910万米ドルに達すると予測されている。ここでは、精力的に展開する2社に焦点を当てる。
【米国・Wildtype】世界初「代替サーモン」でFDA認証取得
2016年に米国・カリフォルニア州で創業したWildtypeは、養殖シーフードのパイオニアだ。10年近い研究の集大成として開発された同社のサーモンは、2025年5月、世界で初めて米国食品医薬品局(FDA)により販売が認められた。
▲世界初の事例となったWildtypeの代替サーモン
同社が採用するのは、魚の幹細胞から本物のサーモン肉組織を育てる細胞培養技術だ。本物の鮭細胞に植物成分を組み合わせ、天然サーモンと同様のオメガ3組成から成る。厳密に管理された環境で生産しているため、水銀、寄生虫、抗生物質、マイクロプラスチックといった汚染物質の曝露を低減できるという。
現在アメリカ国内の複数レストランで同社のサーモンが提供され、ミシュランを獲得したレストランもある。シアトルのレストランでは、製品を使った前菜が来店客の8割以上から好評を得たという。ただし、コストは一般的な養殖サーモンと比較して約3倍とのこと。普及にあたり、価格は課題になりそうだ。
【シンガポール・UMAMI Bioworks】マルハニチロと共同研究
2020年にシンガポールで創業したUMAMI Bioworks(旧Umami Meats)は、細胞培養技術を用いた持続可能なシーフードの供給を目指す。強みは、機械学習と幹細胞生物学を組み合わせた、AI駆動型の生産プラットフォーム「ALKEMYST」。成長率、栄養品質、疾病耐性、味などを細胞レベルで予測することで、実験回数やコストを大幅に削減し、品質向上や効率的な生産を可能にするという。
自社ブランドを持たない「技術ライセンス」のB2Bモデルを採用し、国内外の多数の企業と協業を進めている。国内では、マルハニチロと2023年から協業を開始。2025年5月には、細胞性クロマグロの共同開発契約を締結し、開発に着手したと発表している。
また、2025年1月には、高級レストラン、小売店、消費者向けに、最新製品として「養殖キャビア」を発表。キャビアの世界的な需要を牽引するZ世代とミレニアル世代をターゲットにしているという。
豆の高騰で注目度高まる「豆不使用コーヒー」
続いては、日本でも登場し始めた「代替コーヒー」を紹介する。気候変動の影響で将来的にコーヒーの収穫量が大幅に減少するとされる「2050年コーヒー問題」や、近年のコーヒー豆の高騰で、各所から代替コーヒーに期待が高まっている。
米国の調査会社Global Market Insightsによれば、世界のコーヒー代替品市場は2025年に155億米ドルと評価された。2026年には160億米ドル、2035年には243億米ドルと、年平均成長率4.8%で成長すると予測されている。
【米国・Atomo Coffee】サントリーも出資する注目コーヒー
2019年に米国・ワシントン州で創業したAtomo Coffeeは、豆不使用のコーヒーを製造・販売する。アップサイクルされたナツメヤシの種やヒマワリの種、グアバなど多くの植物性原料をブレンドすることで、コーヒーのような味や香りを再現しているという。粉末状で、通常のコーヒーと同様に淹れることができる。
▲Atomo Coffeeが発売する豆不使用コーヒー(出典:Atomo Coffeeのプレスリリース)
製造プロセスは、農家から廃棄や焼却処分される予定のナツメヤシの種を受け取り、洗浄、乾燥、顆粒化する。それを他の材料から作られたマリネ液に浸し、メイラード反応によって加熱することでコーヒーの分子構造を再現しているという。
同社のコーヒーは米国内のコーヒーチェーンで販売されているほか、国内では東京・明治神宮前にあるカフェ&バー「ash zero waste cafe & bar(æ)」でも展開。Atomo Coffeeの製品を使ったラテなどのほか、粉製品も購入できる。また、サントリーが同社に出資している。
【シンガポール・Prefer】タイの味の素社と業務提携
2022年にシンガポールで創業したPreferでは、豆不使用コーヒーとカカオ不使用のココアパウダーを展開する。ひよこ豆と米を微生物を使って発酵させ、焙煎させることでコーヒーのような風味を生み出しているという。
▲Preferの代替コーヒーは、希釈剤として使用する(Preferの公式ホームページより)
コーヒー製品は、焙煎済みのコーヒー粉末、インスタントコーヒー、すぐに飲めるラテなどがある。水溶性コーヒーは、原料の一部を代替する「希釈剤」としての使用が推奨されている。一般的なコーヒー60%にPreferの製品を最大40%ブレンドすると、なめらかで、ナッツやチョコレートの風味が感じられるコーヒーになるという。
ビジネスモデルはB2Bで、2025年8月にはタイの味の素社、及びオーストラリアのThe Coffee Fermとの提携を発表。また、シンガポールでは約100カ所の販売拠点やオンラインを通じて、即飲用のラテを購入できる。
製品化が進み始めた「代替チョコレート」
代替チョコレートやココアバターも、注目される代替食品の一つ。フォーチュン・ビジネス・インサイトによれば、世界のココアバター代替品市場規模は2025年に17億9000万米ドル(約 3,000億円)と評価された。2026年までに19億5000万米ドル、2034年までに41億5000万米ドルとCAGR9.91%で成長すると予測されている。2025年のシェアトップは欧州で、37.27%だった。
【ドイツ・Planet A Foods】ひまわりの種を活用、イオンとも提携
2021年にドイツで創業したPlanet A Foodsは、ひまわりの種を使ったチョコレート代替品「ChoViva(チョビバ)」やココアバターの代替品「ChoViva Butter(チョビババター)」を販売する。ひまわりの種を発酵・焙煎・粉砕して仕上げているという。
▲チョビバの製造工程(出典:イオンのプレスリリース)
▲イオンが発売したカカオフリーチョコレート製品(出典:イオンのプレスリリース)
ネスレなどの大手とも提携しており、国内ではイオンでも採用。2025年6月からトップバリュ「チョコか?」のシリーズ名で発売され、消費者から好評を得ているという。
【米国・California Cultured】明治とも協業、2026年中の商業化を目指す
2020年に米国・カリフォルニア州で創業したCalifornia Culturedは、植物細胞培養技術を活用したココアパウダーを開発する。安価で再利用可能なプラスチック製バイオリアクター(培養槽)でカカオ細胞を培養し、通常のカカオ豆と比べて約20倍のフラバノール(ポリフェノール)を含有する高品質な培養カカオが仕上がるという。
▲植物細胞培養技術を活用したCalifornia Culturedのチョコレート(出典:California CulturedのInstagram)
植物細胞培養では、安価な栄養素を使用し、高価な成長因子や医薬品グレードの設備を必要としないため、費用を抑えやすい。そのため、市販のチョコレートと同等の価格競争力を持つそうだ。
2024年2月には、明治と10年間の提携を発表した。報道によれば、2026年後半に自社で開発した代替ココアパウダーを発売する見込みだという。
【イスラエル・Kokomodo】世界最大級の穀物商社カーギルと締結
2024年にイスラエルで創業したKokomodoも、細胞培養技術を活用した代替チョコレートを開発する1社だ。同社が注目される理由として、世界最大級の穀物商社であるカーギルと提携している点が挙げられる。現在は検証段階で、開発や規制の手続きが計画通りに進むと、最短で2027年に市場に出回り始める可能性があるという。
編集後記
近年の国内事例では、イオンが発売した「チョコか?」は、ユニークなネーミングや取扱店舗数の多さもあり、消費者からも注目されたようだ。また、日本コカ・コーラも、今年9月に「ジョージア」から豆不使用の「ジョージア カフェウォーター」を発売する。200種類の香りの組み合わせを分析し、コーヒーの味わいを再現。100ml当たり0kcalで食物繊維、香料、カラメル色素などが使われているという。代替食品では、これまで味わいやコストが指摘されてきた。しかし、技術進化により風味が進化し、従来の食品より高い栄養価や安全性、環境への配慮などメリットが増えれば、さらに市場が伸びていくはずだ。
(取材・文:小林香織)