【25年度・経産省調査】大学発ベンチャーは6,220社に到達――過去最高を更新、地方大学発スタートアップの時代へ
政府は「スタートアップ育成5か年計画」のもと、2027年度までにスタートアップへの投資額を10兆円規模へ拡大することを目指している。そのなかでも大学発ベンチャーは、日本が強みを持つ研究成果や高度人材を社会実装へとつなぐ存在として期待が高まっている。
こうした中、経済産業省が2026年6月に公表した「令和7年度大学発ベンチャー実態等調査(速報)」によると、2025年10月時点の大学発ベンチャー数は6,220社となり、前年の5,074社から1,146社増加した。企業数・増加数ともに過去最高を更新しており、大学を起点としたスタートアップ創出が新たな成長局面に入ったことを示している。
※出典:令和7年度大学発ベンチャー実態等調査の結果を取りまとめました(速報) (METI/経済産業省)
東京大学が首位を維持 名古屋大学は114社増で6位に浮上
大学発ベンチャーとは、大学の研究成果や知的財産、人材などを活用して事業化を行う企業を指す。調査では、下記の6つのうち1つ以上に当てはまるベンチャー企業を「大学発ベンチャー」と定義している。
(1)研究成果ベンチャー:大学で達成された研究成果に基づく特許や新たな技術・ビジネス手法を事業化する目的で新規に設立されたベンチャー。
(2)共同研究ベンチャー:創業者の持つ技術やノウハウを事業化するために、設立5年以内に大学と共同研究等を行ったベンチャー。(設立時点では大学と特段の関係がなかったものも含む)
(3)技術移転ベンチャー:既存事業を維持・発展させるため、設立5年以内に大学から技術移転等を受けたベンチャー。(設立時点では大学と特段の関係がなかったものも含む)
(4)学生ベンチャー:大学と深い関連のある学生ベンチャー。現役の学生が関係する(した)もののみが対象。
(5)教職員等ベンチャー:大学と深い関連のある教職員等(教職員・研究職員・ポスドク)ベンチャー。
(6)関連ベンチャー:大学が組織的に関係しているベンチャー(自大学で認定しているベンチャー、大学からの出資があるベンチャー等)や、退職後・卒業後1年以内の教職員等・学生が設立者であるなどその設立に深く関与したベンチャー等の、大学と深い関連のあるベンチャー。
これらの企業は、日本が強みを持つ科学技術力を社会実装し、経済社会にイノベーションをもたらす担い手として、日本のディープテック・エコシステムを支える極めて重要なプレーヤーとなっている。先述の通り、経済産業省の最新調査(令和7年度速報)では大学発ベンチャー数は6,220社に達し、日本のスタートアップ創出において大学が果たす役割はますます拡大している。
▲大学発ベンチャー数の推移
大学別の大学発ベンチャー数では、東京大学が595社でトップを維持した。前年から127社増加しており、依然として国内最大の大学発スタートアップ創出拠点となっている。続く上位校は以下の通りだ。
▲大学別の大学発ベンチャー数
今回、名古屋大学は前年比114社増という大幅な伸びを記録し、前年11位から一気に6位へと順位を上げた。また近畿大学も78社増と高い成長を示しており、国立大学だけでなく私立大学でもベンチャー創出の動きが活発化していることがうかがえる。
地方大学の存在感がさらに高まる
今回の調査で特徴的なのは、大学発ベンチャー創出の裾野が全国へ広がっている点だ。
▲今年度の大学発ベンチャー数の伸張傾向
前年比成長率では岩手大学が850%でトップとなり、金沢大学、開志専門職大学、関西大学、武蔵野大学などが続いた。これまで大学発スタートアップの中心は首都圏や関西圏の有力大学だったが、地方大学でも起業支援体制や産学連携の強化が進み、新たなベンチャー創出が加速している。
なお、調査では大学発ベンチャーを6類型に分類したランキングも掲載されている。東京大学が研究成果ベンチャーで首位、京都大学が共同研究ベンチャーで首位となるなど、大学ごとの特色が表れている点も興味深い。
▲定義別の大学発ベンチャー数
また、前年度から増加した大学発ベンチャー1,146社のうち、海外大学関連を除いた1,093社の約60%にあたる656社が東京都以外で創業された。前年度は約54%であり、地方比率はさらに上昇している。政府が推進する地域スタートアップエコシステム形成や大学を核とした地方創生施策が、徐々に成果として表れているといえそうだ。
▲地方の大学発ベンチャー数の拡大傾向
CEOは研究者出身が中心 博士人材への期待も拡大
経営人材の実態を見ると、大学発ベンチャーのCEOは依然として大学や公的研究機関の研究者出身者が多数を占めている。
▲大学発ベンチャーにおける経営人材に関する分析 CEOの最終経歴(n=495)
研究成果を事業化する大学発ベンチャーでは、技術の深い理解を持つ研究者が創業者や経営者となるケースが多い。一方で、事業開発や営業、組織運営などの経営面を補完する人材確保が課題として指摘されている。
また、博士号取得者の活躍も特徴的だ。大学発ベンチャーは一般企業と比べて博士人材の在籍割合が高く、今後採用したい人材としても「大学や研究機関で研究経験を持つ博士人材」が最も多く挙げられた。
さらに、「ベンチャー企業勤務経験者」や「一般企業での勤務経験者」を兼ね備えた博士人材へのニーズも高く、高度な研究能力と事業化経験を併せ持つ人材が求められていることがわかる。
▲大学発ベンチャーにおける博士号取得者の活躍状況に関する分析 今後採用する博士号取得者に求める人材像(複数回答、n=360)
エコシステム整備が今後の成長の鍵
大学発ベンチャーをさらに増加させるために重要な施策としては、「政府によるエコシステム整備・支援」と「産学連携・共同研究の推進」が上位に挙げられた。
近年は大学ファンドやディープテック支援基金、地域スタートアップ支援拠点の整備など、大学発スタートアップを後押しする施策が相次いでいる。今回の調査結果は、こうした政策が実際の起業数増加につながり始めていることを裏付けているといえる。
編集後記
大学発ベンチャー数はついに6,000社を突破し、過去最高の6,220社に達した。単なる数の増加だけでなく、地方大学の存在感が高まっている点が今回の大きな特徴だろう。特に増加分の約6割が東京都以外で創業されていることは、日本のスタートアップ・エコシステムが首都圏一極集中から徐々に脱しつつあることを示している。
また、研究者や博士人材が中心となる大学発ベンチャーは、日本の強みである科学技術力を社会実装する重要な担い手でもある。今後は資金供給や人材循環、産学連携のさらなる強化によって、世界市場で戦える大学発スタートアップがどれだけ生まれるかが注目される。大学を起点としたイノベーション創出は、日本の成長戦略においてますます重要な位置を占めていきそうだ。
(構成・取材・文:入福愛子)