愛知県を舞台にした“広域共創”の成果とは。スタートアップが挑んだ19のプロジェクトを紐解く――『AICHI CO-CREATION STARTUP PROGRAM 2025』レポート<後編>
愛知県主催の合同DEMODAY「AICHI INNOVATION CHALLENGE 2026」で実施された『AICHI CO-CREATION STARTUP PROGRAM 2025』の成果ピッチ。本記事は、先日公開した<前編>に続く、<後編>として、スタートアップ9社の取り組みを紹介する。
2025年度のプログラムでは、19社のスタートアップと過去最多となる62団体の地域パートナーが連携。最終的にマッチング件数は242件、プロジェクト組成は83件、実証などの具体的成果は46件に上った。複数地域と同時に取り組むことで、単発の実証にとどまらない事業化への動きが広がりつつある。
<後編>では、子育て支援や医療・介護、一次産業の高度化に加え、AIによる業務効率化やインフラ点検など、多様な領域で進む9社の共創の成果を追う。各プロジェクトから、地域横断での取り組みはどのように広がりを見せているだろうか。
【プロジェクト成果ピッチ】 9社のスタートアップが登壇、広域で展開する共創の取り組み
●株式会社iiba
【「知られていない」子育て支援をデジタル化。マップと体験イベントで情報を届ける「iiba」】
iibaは、子育て支援施設や遊び場などの情報をマップ上で共有できるアプリ「iiba」を展開している。現在、多くの自治体が子育て支援情報を提供しているものの、住民に十分に認知されていないケースもある。同アプリはこの点を解消するとともに、ユーザーの口コミに加え、自治体が持つ支援情報やAIによる施設解説を統合し、子育て世代へ的確に情報を届ける。
本プログラムでは、豊川市、豊橋市、小牧市と連携して実証を行った。小牧市は独自のデジタル版子育てマップを共同で公開。単なる情報の電子化にとどまらず、アプリ内で「お仕事体験」イベントの予約を受け付けるなど、利用者の流入を促す動線設計も検証した。
結果として、イベントをきっかけにユーザーがアプリに流入し、市のデジタルマップの認知向上に繋がったという。今後は子育てバウチャー(利用券)のデジタル化や配布なども視野に入れ、アナログな支援をアップデートして子育て環境に革命を起こしていくと強調した。
●株式会社MEDISY
【医療・介護現場のアナログな書類業務をDX。地域とスタートアップを繋ぐ「MEDISY」】
MEDISYは、医療・介護・福祉現場で使用される書類の送受信や情報管理、連絡調整を一気通貫で効率化するシステム「MEDISY」を提供している。現場では依然として情報連携の8割がFAXで行われており、紙による煩雑なやり取りが生産性低下の一因となっている。同システムは、帳票データをアップロードするだけで、相手の環境に合わせてFAXや郵送、電子ファイルなどで書類を送信でき、間接業務の大幅な削減を実現する。
本プログラムでは、小牧市や一宮市、東浦町などのエリアで介護・福祉事業所へヒアリングを実施した。その中で、現場には無数の課題がある一方で、スタートアップの最新ソリューションが届いていない実態が浮き彫りとなった。
そこで同社は、STATION Ai発の小規模コミュニティ「ケアギルド」を活用し、地域とスタートアップを直接繋ぐ枠組みを構築。小牧市や小牧市社会福祉協議会などの協力のもと、市内で介護サービスを提供する事業者が集まる研修会に介護系スタートアップを集め、ピッチやブース展示などを行う体験型イベントのスキームを作り上げた。今後は、刈谷市など他のエリアでも「ヘルスケアギルド」として同様の座組を展開し、テクノロジーの力で持続可能な現場の実現を牽引していく。
●プランツオーケストラ株式会社
【園芸ラベルをデジタル化し、生産者と顧客を直接つなぐ『Growvy』】
プランツオーケストラは、植物に付属する園芸ラベルをデジタル化し、生産者と消費者を直接つなぐQRデジタルラベル「Growvy」を開発している。現在、紙の園芸ラベルは情報量が制限され、古い写真やデザインが更新されずに使い続けられることが多い。また、生産者は出荷後に誰が購入したか把握できないという課題を抱えている。同社のラベルは、QRコードをスキャンするだけで詳しい育て方や生産者情報が閲覧でき、「いいね」やメッセージを通じて顧客の反応を可視化できる仕組みだ。
本プログラムでは、西尾エリアや田原エリアのJA、生産者と連携。ヒアリングを通じて業界特有のアナログな課題を浮き彫りにしながらも、5件の生産者で23品種への導入を実現した。2026年4月以降は年間10万枚のラベルが流通する予定だという。先行出荷分では既に消費者からのリアクションを獲得しており、生産者からも確かな手応えを得ている。今後は、アナログな現場に寄り添いながら段階的なデジタル化を推進し、愛知から全国へと園芸業界のアップデートを広げていく。
●株式会社Agnavi
【日本酒を「一合缶」で提供。地域の味と文化を世界へつなぐインフラ構築】
Agnaviは、180ミリリットルの日本酒ブランド「ICHI-GO-CAN(一合缶)」を提供している。日本酒業界では長年、瓶や紙パックが主流であり、消費拡大の壁となっている。一方で、酒蔵が独自に缶充填を行うにはロットや設備投資の負担が大きい。同社は自社で充填システムや工場を保有し、酒蔵から酒を仕入れて缶に充填、販売する仕組みを構築することで、この課題を解決している。
今回のプログラムでは、愛知県内に点在する約40の酒蔵と関係構築を図り、県内での新たな販路開拓を進めた。具体的には、県内の商談会などを通じて大手流通との連携を深め、ロピア名鉄一宮店やイオンスタイル熱田などで多彩な銘柄の一合缶を展開するなどの実績を上げた。
同社は今後、単なる商品の販売にとどまらず、一合缶を軸とした「ALL愛知」のブランディングを推進し、国内販売やインバウンド、さらには海外展開を見据えた持続可能な地域活性化のエコシステムを構築すると意気込んだ。
●コクー株式会社
【デジタル未経験の女性をDX人財へ育成。「デジタル人財の地産地活モデル」で労働力不足に挑む】
コクーは、2040年に1100万人の働き手が不足すると予測される社会課題を解決するため、女性に着目したDX人財育成と伴走サービスを提供している。9割がデジタル未経験の女性を採用し、短期間でITのプロフェッショナルへ育成。リモートワークを活用して地域の企業や自治体の業務を担う、「デジタル人財の“地産地活”モデル」の構築を目指している。
本プログラムでは、岡崎市、新城市、瀬戸市の3エリアと連携した。女性の育成事業を行うものの企業とのマッチングに課題を抱える岡崎市、過疎地域での新たな雇用創出を目指す新城市、次期総合戦略の策定に向けた取り組みを進める瀬戸市など、各自治体の実情に合わせた支援を実施している。
複数エリアで同時にプロジェクトを進め、その成果を他の自治体へ波及させる広域連携の座組みを構築中だ。同社は2026年春以降には「STATION Ai」へ新たな拠点を構える予定であり、愛知県から地方分散型社会の実現を力強く後押ししていく姿勢を見せた。
●株式会社Kiva
【話し言葉で構築できるワークフロー型AI。現場主導のDXで業務課題を解決する「SamuraiAI」】
Kivaは話し言葉で構築できるワークフロー型AIエージェント「SamuraiAI」を提供している。現在、多くの企業がAIを導入するものの、現場が使いこなせず、既存のツールは外部システムと連携しにくいという課題を抱えている。同社のツールは独自の技術で外部SaaSやデータベースとの連携を可能にし、エンジニアではない現場担当者でも直感的にAIによるワークフローを構築・管理できる。
本プログラムでは、小牧市、蒲郡市、豊橋市などのエリアと連携して実証やヒアリングを実施した。小牧市での検証を通じ、行政独自のネットワーク(LGWAN)との連携にはインフラ的なハードルがあることが判明した一方で、一般的なソフトウェアとの連携機能は技術開発によって確立した。
また、他エリアでのイベントなどを通じ、メルマガ作成やイベント情報収集など、日々の事務作業を効率化する現場のニーズを的確に捉えている。「現場が使いこなせないDXはDXではない」という理念のもと、小売や製造など多様な業界のエンタープライズ企業へ向けて、現場主導の全社的なDXを強力に推進する構えだ。
●株式会社X
【文章から動画を自動生成。人間による修正と多言語対応で説明業務を代替】
Xは、文章から動画を自動生成して企業や行政の説明業務を代替するAI動画サービス「WRITEVIDEO」を提供している。医療機関などでは、人手不足に加えて外国人患者や労働者の増加で、説明業務の負担が顕在化している。同社のサービスは、AIが生成した動画コンテンツを人間が簡単に修正できる機能を持つ。さらに多言語にも対応しているため、誤った情報を発信するリスクを抑えながら案内業務を効率化できる仕組みだ。
本プログラムでは、小牧市、岡崎市、豊橋市の3エリアと連携して実証が行われた。小牧市内の病院では当初の小規模利用から全従業員向けプランへの導入へと拡大し、小牧市役所や岡崎市役所でも補助金概要などの案内用途で活用されている。さらに豊橋エリアでの企業向けセミナーを通じ、代理店や新規導入企業の開拓にも成功した。今後は多言語対応と人間によるデータ修正が可能という強みを生かし、AIがエージェントとして機能する新しい未来の創出を目指す。
●Kotozna株式会社
【ハルシネーションを防ぐ多言語対応チャットボット。アバターで行政サービスを高度化】
Kotoznaは、生成AI特有のハルシネーション(もっともらしい嘘)を防ぎ、正確な情報を提供する多言語対応チャットボットを開発している。行政窓口では、多様な言語への対応や、誤りのない情報提供が不可欠だ。また、高齢者などキーボード入力が困難な利用者への配慮も求められる。同社のシステムは、既存のマニュアルやウェブサイトから独自技術で情報を抽出し、正確な回答を生成する仕組みを持つ。
本プログラムでは、一宮市役所と連携し、庁舎入り口のサイネージにアバター型のAIを設置する実証を行った。来庁者が音声で話しかけると、館内のフロア案内や期日前投票の手続きなどを多言語で回答する。25日間の検証期間で278回のアクセスを獲得し、窓口業務の負荷軽減や利便性向上に寄与した。同社は今後、今回の結果を基盤とし、転入手続きや学校、介護など、住民サービス全体へのワンストップ対応へ発展させていく考えだ。
●株式会社Dioptra
【下水道点検業務をDXで効率化。AIとデータ活用でインフラを「活きる資産」へ】
Dioptraは、下水道点検業務の効率化とデータ活用を支援するアプリケーションを展開している。管路の約半数が耐用年数を超過する中、現場では点検作業が追いついていない。同社のシステムは、点検会社の非効率な計画立案や紙ベースの報告書作成に加え、自治体側のアナログなデータ管理など、双方の課題を同時に解決する。
本プログラムでは、刈谷市、豊川市、大府市、一宮市、田原市の5自治体や点検会社へ現場ヒアリングを実施した。業務の解像度を高めた結果をもとに、現場の記録から事務所での報告書作成、AIによる異常箇所の自動検出、データのダッシュボード一元管理までを網羅するアルファ版アプリを完成させた。蓄積データから管路の劣化を予測するAIモデルの構築にも成功している。同社は今後、現場からのフィードバックをもとにアプリの改善やAIの精度検証を進め、ウォーターPPPも見据えたシステム設計により土木業界のDXを力強く牽引する。
取材後記
9社のピッチからは愛知県全域でスタートアップと地域パートナーが連携するエコシステムの広がりが見えてきた。子育て支援や医療、インフラ管理など多様な課題に対し、複数エリアで同時に実証を進めるアプローチが採られている点は共通している。マッチング242件以上、実証46件という成果が示す通り、各社の取り組みは単なる実証にとどまらず、事業化に向けた段階へと移行しつつある。愛知県という広域フィールドで検証されたモデルが、他地域へ展開可能な形で構築されつつあることが確認された。
(編集:眞田幸剛、文:中谷藤士、撮影:齊木恵太、佐々木智雅)