
世界を目指すスタートアップの登竜門、Acompanyが世界への切符を獲得!——スタートアップワールドカップ2025 東京予選レポート
世界100以上の国と地域で開催されるビジネス・ピッチコンテスト「スタートアップワールドカップ2025」の東京予選が、2025年7月18日、六本木のグランドハイアット東京にて開催された。国内の注目スタートアップ11社が決勝への切符を目指し、熱のこもったピッチを披露した。
本大会は、世界100以上の国と地域で開催されている世界最大級のビジネス・ピッチコンテストだ。世界各国から毎年3万社以上のスタートアップ企業のエントリーの中から、各地域予選を勝ち抜いた代表企業が米国サンフランシスコでの世界決勝大会に進む。過去には、日本、アメリカ、ベトナム、カナダ、そしてシリコンバレー発のスタートアップが世界チャンピオンの座を勝ち取っており、技術力だけでなく市場性や社会的インパクトも問われる戦いが繰り広げられてきた。
日本予選は九州、東京、東北の3か所で開催される。今回の東京予選の会場には起業家、投資家、企業関係者、行政関係者など会場とオンラインを合わせて約4,000人以上が観覧した。
来賓として、林芳正 内閣官房長官、平将明 デジタル大臣や在日米国大使館 アラン・ターリー商務担当公使が登壇し、東京都の小池百合子知事からもビデオメッセージが寄せられた。
イベントは予選のスタートアップピッチに加えて、パネルディスカッションや表彰式も実施され、日本のスタートアップエコシステムの今と未来を映し出す場となった。本レポートでは、スタートアップワールドカップ2025東京予選の模様を中心にお届けする。

【審査員一覧】
村上 由美子氏(MPower Partners Fund L.P. ゼネラルパートナー)
岡島 悦子氏(株式会社プロノバ 代表取締役社長/株式会社ユーグレナ 取締役 兼 指名報酬委員会委員長)
太田 明日美氏(D4V合同会社 パートナー)
平野 洋一郎氏(アステリア株式会社 代表取締役/CEO、京都大学経営管理大学院 特命教授)
城野 親德氏(Ci:z Investment CEO)
志水 雄一郎氏(フォースタートアップス株式会社 代表取締役社長)
中村 亜由子氏(株式会社eiicon 代表取締役社長)
前川 雅彦氏(株式会社広済堂ホールディングス 顧問)
スタートアップワールドカップ2025東京予選:【優勝】株式会社Acompany——秘密計算でデータ利活用の常識を変える

▲高橋 亮祐氏 / 株式会社Acompany 代表取締役CEO
東京予選を制し、世界大会への切符を掴んだのは、株式会社Acompany。同社が手がけるのは、「コンフィデンシャル・コンピューティング」技術を核とした、生成AI向けのセキュリティ基盤だ。
彼らが挑むのは、「データは活用したい、でも漏洩させたくない」という、あらゆる業界に共通する根本的な矛盾だ。Acompanyが提供するのはデータを暗号化したまま計算処理できる「秘密計算」技術。従来、個人情報や機密データを活用するには“見ること”が前提だった。しかしこの技術により、データを開示せずにAI学習や分析が可能になる。まさに「見せずに活かす」新しいインフラだ。ピッチでは、CEOの高橋氏が自ら登壇。「テクノロジーの進化は、人の意思決定を加速させるべきだが、信頼のない活用は社会を壊す。私たちは“信頼されるデータ活用”の基盤をつくる」と強く訴えた。
技術の実用性も証明済みだ。KDDIとの業務提携を発表し、約4000万人のユーザーデータを同社の基盤上で解析中であることを明かし、会場の関心を集めた。また、複数の大手企業への導入も進み、上位3社で平均5000万円規模という高単価の契約実績を誇る。また、秘密計算をSaaS型で誰もが扱えるようにする「AutoPrivacy」もリリース済みで、データ活用の民主化を推し進めている。

審査員からのQ&Aでは、今後の成長に向けた課題や競合との差別化について質問が集中した。
フォースタートアップス株式会社の志水雄一郎氏からは「このまま東京予選の優勝もあるのでは」という評価とともに、「今後どの課題を解決すれば、この成長が本当に実現できるのか」との問いが寄せられた。高橋氏は、現在の基盤技術としてNVIDIAのチップを活用したハードウェアベースの秘密計算を実用化していると説明。その上で「これを社会に広く普及させていくためには、クラウドプラットフォーマー(CSP)との連携によって、デファクトスタンダードの中に組み込まれることが重要」と語った。さらに、株式会社eiiconの中村亜由子氏からは「競合として意識している企業は?」という質問が挙がった。これに対し高橋氏は、「国内ではNTTと弊社のみが秘密計算技術を提供しているが、我々のようにクラウドプラットフォームとして展開している企業は存在しない」と説明。グローバルではFortanixなどが競合になるが、「規制準拠の観点でも利用できるクラウドを目指すことで、差別化を図っていく」と語った。

スタートアップワールドカップ2025東京予選:【準優勝】インターステラテクノロジズ株式会社——宇宙をもっと近くへ

▲辻 高広 氏 / インターステラテクノロジズ株式会社 取締役CFO
準優勝に輝いたのは、北海道・大樹町を拠点とする宇宙スタートアップ、インターステラテクノロジズ株式会社。同社は「誰もが宇宙へ手が届く未来」を目指し、低コスト・高頻度な小型ロケットの開発・打ち上げを進めている。
プレゼンテーションの冒頭で辻氏が語ったのは、「宇宙は夢物語ではない」という現実だ。天気予報、GPS、モバイル通信、ポケモンGOまでもが、すでに宇宙データの恩恵を受けている。この宇宙データを届ける役割を担うのが、まさにロケットだ。
今後10年で衛星打ち上げの需要は約15倍に増加すると予測される一方で、それを運ぶロケットの供給は3倍にとどまるという深刻なギャップが生じている。とりわけ日本からの打ち上げ回数は年間わずか5回。そこに、インターステラテクノロジズが切り込む。
特筆すべきはその事業構造だ。創業者堀江貴文氏をはじめ、航空宇宙・自動車メーカー出身者を含む技術者集団が、自社でエンジンや燃料系統まで内製し、「世界最高レベルのものづくり」を実現している。ロケット燃料に地元の牛の排せつ物由来のバイオエタノールを活用するなど、地域密着型の独自技術もユニークだ。
また、宇宙インフラの中核となる宇宙インターネット事業も並行して推進。将来的には、スマートフォンなどのモビリティ端末が直接ブロードバンド通信できる世界を見据える。これはSpaceXのStarlinkでも未達の領域であり、挑戦のスケールは世界級だ。
審査員からのQ&Aで、やはり話題の中心となったのはグローバルでの競争環境。特にSpaceXにどう対抗していくのかが焦点となった。
フォースタートアップスの志水雄一郎氏からは、「このビジネスはグローバルで戦うことが前提。SpaceXにどう勝つのかが最も重要では」との問いが投げかけられた。
これに対し辻氏は、「まず根本として、打ち上げ需要に対して供給が圧倒的に不足している。商業的に打ち上げられるだけでもマーケットは取れる」と前置き。そのうえで、「SpaceXやRocket Labも、本当の意味での低コスト量産にはまだ至っていない。我々はトヨタとの連携を通じて量産体制を整え、そこに競争優位性がある」と語った。
単なる“夢”や“ロマン”ではなく、現実的な供給ギャップに基づく戦略を武器に、グローバル市場での存在感を高めようとしている姿が印象的だった。

スタートアップワールドカップ2025東京予選:【第3位】株式会社NearMe——「AI×相乗り」で切り拓く、持続可能な移動の未来

▲髙原 幸一郎 氏 / 株式会社NearMe 代表取締役社長
第3位に選ばれたのは、“ドア・ツー・ドア”の移動課題に挑むモビリティスタートアップ、株式会社NearMe。高齢化やインバウンドの増加、都市部と地方の交通格差といった日本特有の移動問題に、AIを活用した「相乗り最適化」というアプローチで挑む。
プレゼンを行ったCEOの髙原氏は、「未来の移動はシェアが当たり前になる」と語る。タクシーやライドヘイリングといった“量”の解決策だけでは限界がある中で、NearMeは“質”に着目。1台の車に複数人が最適に乗り合わせる「シェアライド」を、テクノロジーの力で実現している。
空港アクセスの課題に特化したサービスからスタートしている。たとえば羽田空港まで自宅から約3,000円でドア・ツー・ドア移動が可能なモデルを展開。既に累計100万人以上のユーザーに利用され、AIによるルート最適化で従来の2倍以上の輸送効率を生み出している。
この仕組みはすでに、地方自治体や高齢者支援などにも横展開されており、多くの都道府県で導入実績がある。今後は観光・通院・通勤など多様なシーンに応用され、数兆円規模の移動マーケットへと拡大が期待される。海外展開についても、欧米のUberなどと比較し、「商用車を使った最大9人乗りの仕組み」という日本独自のアプローチが、国際市場でも先行優位をもたらすと見込んでいる。
「住んでいる人、交通事業者、地域社会が三方よしで持続可能なまちづくりを実現したい」と語る髙原氏。課題先進国・日本発のモデルが、世界の移動課題解決の鍵となりそうだ。
審査員からのQ&Aでは、海外展開における戦略と、国内における実績についての具体的な質問が寄せられた。D4V合同会社の太田明日美氏からは、「海外では既にシェアライドの競合が多い中で、どのように差別化していくのか?」という問いがあった。髙原氏は、「欧米のライドシェアは基本的に自家用車を使う前提のサービスで、2人乗車程度が中心。一方、日本では商用車を活用することで最大9人が乗れる。これにより効率的なマッチングが可能になり、日本の方が先行優位性がある」と回答。国内でこのモデルを確立し、海外へ展開する構想を示した。さらに、アステリア株式会社の平野洋一郎氏からは、「トラクションの実績は?」との質問も。これに対し髙原氏は、空港送迎サービスだけで累計100万人が利用しており、高齢者の移動支援などの目的で全国の自治体の半数以上にすでに導入が進んでいると述べ、社会課題解決と成長の両立を目指す姿勢を示した。

スタートアップワールドカップ2025東京予選:その他の受賞(スポンサーアワード)
スポンサーアワードとしてジャパネットグループが選出したのは、異種金属を溶かさず接合する技術を開発した株式会社LINK-US。超音波振動による安全な接合技術は、特にEVバッテリー製造の現場において高い応用可能性があり、投資資金 5,000万円の支援が授与された。


▲光行 潤 氏 / 株式会社LINK-US 代表取締役
パネルディスカッション:産官学が語る日本のイノベーション戦略
イベント内では、二部構成のパネルディスカッションも実施された。
第一部「日本企業がグローバルな舞台で輝くためのイノベーションの重要性」をテーマに、アクセンチュアジャパン 代表取締役社長/CEO 兼 アジアパシフィック共同CEOの江川昌史氏、デル・テクノロジーズ株式会社 代表取締役社長の大塚俊彦氏、Forbes JAPAN Founderの高野真氏らが登壇。大企業がスタートアップ文化を壊さずに活用するV&A(Venture & Acquisition)の重要性や、日本におけるExitの多様化などが論じられた。


第二部では「次世代の挑戦:日本の若者はどうイノベーションを起こすか」をテーマに、一橋大学 名誉教授 兼 デジタルハリウッド大学大学院特命教授 米倉誠一郎教授、株式会社ジャパネットホールディングス 代表取締役社長兼CEO 高田旭人氏、LinkedIn 日本代表 田中若菜氏、そして平将明 デジタル大臣が登壇。田中氏は「起業家が個人としてブランドを持ち、信頼をネットワーク化する時代が来ている」と指摘し、平氏も「政治や行政がスタートアップの成長を阻害しない環境を作る責任がある」と述べた。


また、年間を通じて最もインパクトのあったスタートアップに贈られる「Startup of the Year」には、タクシーアプリ「GO」を提供するGO株式会社が選出。都市交通のDX化を牽引する存在として、その社会的インパクトが認められた。

取材後記
会場を包んでいたのは「日本から世界を変える起業家たちを、真剣に後押しする」という強い機運だった。そしてそれに呼応するように、審査員や観客たちの視線も真剣だった。世界大会へとつながる東京予選は幕を閉じたが、スタートアップたちの挑戦はこれからが本番だ。世界決勝戦は、2025年10月15日から17日までの3日間、サンフランシスコで開催される予定だ。
(編集・文・撮影:入福愛子、撮影:加藤武俊)