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患者支援プラットフォーム、アピアランスケア、栄養摂取サポート、運動習慣プログラム、センサー付きデバイス――小野薬品が採択企業5社と挑む、「がん共生のニュースタンダード」を共創するワークショップに密着

患者支援プラットフォーム、アピアランスケア、栄養摂取サポート、運動習慣プログラム、センサー付きデバイス――小野薬品が採択企業5社と挑む、「がん共生のニュースタンダード」を共創するワークショップに密着

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「病気と苦痛に対する人間の闘いのために」を経営理念とし、1717年(享保2年)の創業から300年以上にわたって患者さんに薬をお届けしてきた小野薬品工業。がん治療薬『オプジーボ』を開発・製品化したことで知られる同社は、新薬の開発を主軸としながらも、多方面から患者さんやそのご家族の苦痛を和らげる挑戦を続けている。

そして同社が現在、開催しているのが『HOPE-Acceleration 2024』と称したオープンイノベーション型事業創造プログラムだ。同プログラムは、「がんと共に生きる時代」において医療の枠を超えた「がん患者さんとそのご家族のウェルビーイング向上」をテーマとした事業の創出を目的としている。

2024年1月より共創パートナー企業を募集。書類選考と面談選考を経て、5社がプログラムに採択された。その5社のプロジェクトメンバーが集まり、小野薬品工業の担当者とともに共創事業の方向性を定めるワークショップが、5月30日と31日、都内で開催された。本記事では、その様子をダイジェストでレポートする。

「がん患者さんとそのご家族のウェルビーイング向上」を意図した事業創造プログラム

創薬分野においては、1960年代より外部のバイオベンチャー企業やアカデミアと積極的に連携してきたという小野薬品工業だが、今回の『HOPE-Acceleration』は創薬分野外で共創による新規事業創出を狙うものだ。同社は創薬分野の外側へと事業ドメインを拡大していくことを意図している。

本プログラムの責任者である小野薬品工業株式会社 経営戦略本部 BX推進部 部長 藤山昌彦氏は、事業ドメイン拡大の方向性についてTOMORUBAの取材で次のように語っている。

「患者さんは生活の様々な場面で苦痛を抱えておられます。それらの苦痛を和らげられる事業を生み、新たな価値を提供したいというのが私たちの考えです。ペイシェント・ジャーニー(Patient Journey) という概念があるのですが、患者さんは病気を疑い不安を抱える段階から治療を受ける段階、治療後の段階、治らず終末期を迎える段階まで、一連のジャーニーを経験します。このなかで、医薬品を通じて価値提供できているのは、実は「治療を受ける段階」だけなのです。

しかし、患者さんは治療の段階に限らず、より広く長い文脈で苦痛を抱えておられます。私たちは、それらにも向き合いたい。こうした想いから『“医療”の枠にとらわれない価値創造を目指す、オープンイノベーション型事業創造プログラム』というコンセプトを設定しました。価値提供の対象は患者さん本人だけではありません。そのご家族や医療従事者にも、新たな価値を提供していきたいと考えています」(藤山氏)

こうした考えのもと立ち上がった『HOPE-Acceleration』では、今年度、次の3つのテーマ例を提示して共創パートナーを募集した。

●募集テーマ1…… 「がんになっても」自分らしく暮らせる多様なシーンのウェルビーイングの実現(がん患者さん向け)

●募集テーマ2……「第2の患者」ともいわれるがん患者さんのご家族、患者さんもご家族もいたわれる社会の実現(がん患者さんのご家族向け)

●募集テーマ3……がん患者さんの多様な価値観に応じた治療や、院内外で連携したチーム医療の実現(がん治療 医療従事者向け)

採択5社が2日間の「事業共創ワークショップ」に参加、当初のアイデアを具体的なアクションプランへ

3つのテーマに共感し、応募〜採択された5社が、小野薬品工業の東京オフィスに集結。同社社員とともに対面で議論を交わす、2日間の事業共創ワークショップに参加した。このワークショップは、メンターのアドバイスを受けながら、採択企業と小野薬品工業の社員が一体となって、共創事業の骨子を練り上げる場だ。

1日目(DAY1)には、採択企業と小野薬品工業のメンバーが互いの理解を深めるとともに、ソリューションの方向性やターゲット設定について議論をした。メンターとのディスカッションの時間や、途中経過を発表する中間プレゼンの時間も設けられ、各チームは限られた時間の中でアイデアのブラッシュアップに取り組んだ。

2日目(DAY2)には、ビジネスモデルやマネタイズ方法の検討、実証実験(PoC)の内容精査などを実施。メンターからの助言を受けながら、最終プレゼンに向けて準備を進めた。採択企業の参加者、小野薬品工業の社員、メンターが積極的に意見交換を行い、具体的なアクションプランを形作った。なお、メンターを務めたのは、社内外を含めた次の6名だ。

【事業共創ワークショップ メンター】

▲藤山 昌彦 氏(小野薬品工業株式会社 経営戦略本部 BX推進部 部長)

▲小林 正克 氏(小野デジタルヘルス投資合同会社 エグゼクティブインベストメント ディレクター)

▲錦織 正憲 氏(小野デジタルヘルス投資合同会社 インベストメント ディレクター)

▲鎌田 和博 氏(Spiral Innovation Partners ジェネラルパートナー)

▲笹原 優子 氏(株式会社NTTドコモ スマートライフカンパニー ライフスタイルイノベーション部長)

▲村田 宗一郎 氏(株式会社eiicon 執行役員)

最終プレゼンには小野薬品 副社長・辻󠄀中氏も参加、5つの共創チームの発表内容とは

2日目の終盤には、全5チームがワークショップの成果をメンターの前で発表。この最終プレゼンの場には、小野薬品工業株式会社で代表取締役 副社長執行役員/経営戦略本部長 兼 ビジネスデザイン部長 兼 サステナビリティ推進部長を務める辻󠄀中聡浩 氏(以下写真)も参加し、すべての発表に対してフィードバックを行った。

――ここからは、最終プレゼンで披露された発表の概要について紹介する。

●Aチーム 「医療と患者のスキマを埋めるプラットフォーム」

Aチームは、医療と患者のスキマを埋めるプラットフォームの構築を目指す。採択企業が収集しているがん患者さん個人のリアルな声をもとに、表に出ず埋もれている課題を可視化・明確化し、必要なサービスやソリューションにつなげていくというものだ。これを通じて、患者さんがより自分らしく生きられる社会を実現したいとした。

●Bチーム 「ネイルから始めるアピアランスケアのプラットフォーム」

Bチームは、がん患者さんの外見の変化に着目し、この課題を軽減するためのプラットフォーム開発を提案。まず、ネイルドネーションサービスを通じた爪のケアから始め、髪や胸、体型のケア、さらには心のケアも提供していく計画だ。将来的には総合的なアピアランスケアのプラットフォームを構築することで、外見の変化により、がん患者である自分“以外”の時間を持てない現状を改善していきたいとした。

●Cチーム 「がん治療の副作用予測と症状管理および栄養摂取サポート」

Cチームは、がん患者さんの退院後の食生活をサポートする事業案を披露。デジタルツールを通じて、副作用対策や栄養摂取のサポートを行っていきたいと話す。メインターゲットは、30代~60代までの働いている人たち。そうした患者さんたちが、副作用に悩まずに退院後の生活を送り、早期に職場復帰できる世界観を実現したいと語った。

●Dチーム 「乳がんサバイバーのための運動習慣プログラム」

Dチームは、がんサバイバーの人たちを対象とした運動習慣プログラムを提案。運動を習慣化することで、がんの再発予防やメンタルヘルスの向上につなげたいという。採択企業の持つ健康管理デバイスとアプリを活用して実現を目指す。まずは、予後が長く患者数の多い乳がんサバイバーから導入を図りたいとした。

●Eチーム 「コネクト・ケア:がん患者さん、家族、医療従事者を繋ぐセンサー」

Eチームは、センサー付きウェアラブルデバイスを開発・展開する採択企業とともに、排尿障害の課題を解決する事業案を発表。入院から日常生活を取り戻すまでの各ステージに合わせた適切なサービスを提供し、自分らしく生活できるようサポートしていきたいとした。まずは、子宮頸がんの患者を対象にサービスを展開し、将来的には同様の悩みを持つすべての人たちへとサービスを拡大させる方針だ。

社内外のメンターが、3カ月後の「DEMO DAY」に向けた動き方をアドバイス

2日間にわたる事業共創ワークショップの締めくくりとして、5名のメンターが講評を行った。講評の中から、8月に開催する「DEMO DAY」に向けたアドバイスについて語られた部分を中心に抜粋して紹介する。

本プログラムで責任者を務める小野薬品工業・藤山氏は、同社内で経営陣に新規事業提案を行ってきた経験を踏まえながら、「提案自体の素晴らしさも評価されるが、最後に勝負を分けるのは、起案するチームメンバーが顧客の課題に共感し、その事業の可能性を本当に信じているかどうかだ。その姿を経営陣に見せていくことが重要だ」とアドバイス。

その真剣な姿は「粘り強く顧客の声を拾い上げていく」ことや「競合との違いを丁寧に作り上げていく」ことで示すことができると話す。「ファクトや裏付けがなければ、熱く語っても絵空事になる」とし、一次情報を取得してロジックを積み重ねていき、『絶対にこの事業が必要だ』ということを、熱く語ることが大事だと伝えた。

最後に、「少しでも多くの情報を取得し説得できるような、そして、自分自身が『この事業を、絶対にやらないといけない』という想いになるような、そんな活動をこの3カ月で取り組んでもらえると嬉しい」とメッセージを送った。

続いて、小野薬品工業のCVCで投資業務に携わる小林氏が登壇。小林氏は当初、小野薬品で提供できるアセットが限定的ではないかと感じていたそうだが、「皆さんの話を聞いていて、実際には多くのアセットがあることに気づくことができた」と話す。「ここから3カ月間、小野薬品のアセットを使い倒していただき、DEMO DAYに向けて全力で走ってほしい」と呼びかけ、自身もプロジェクトの成功に向けて積極的に協力していく旨を伝えた。

同様に、小野薬品工業のCVCから参加した錦織氏は、CVCとしてスタートアップと面談する際、スタートアップが取り組まれている事業が小野薬品にとってどのような価値を生むことができるのか、正直、不透明な場合も多いと話す。「今回のプログラムでは、各社がどのような価値を創出できるか一生懸命考えてくださり、これから3ヶ月も一緒に考えさせてもらえることに、本当にワクワクしている」と述べ、「小野薬品が取り組む意義もそうだが、両社で取り組む意義をより明確にしていただき、DEMO DAYを迎えられればと思う」と伝えた。

次に、コーポレートベンチャリング支援を専門に行うSpiral Innovation Partnersの鎌田氏が登壇。自身が本プログラムの参加者だと仮定したうえで、自分なら「DEMO DAYまでの3カ月で審査項目を満たすために、逆算して足りていない点を考え、項目毎にアクションに落としていくだろう」と話す。「DEMO DAYのプレゼンのなかでも、それらの審査項目が満たされているかをチェックしながら進め、まずは確実に次のステップを通過できるようにする」と述べ、審査項目から逆算するアプローチもあることを示した。

最後に、『HOPE-Acceleration 2024』の運営支援を行うeiiconの村田氏が壇上に立ち、2つの留意点を伝えた。1点目が、「スタートはこれからだ」ということ。「3ヶ月はあっという間に過ぎるので、何をするかをしっかり決めて着実に進めていくことを、ぜひチームで取り組んでほしい」と話す。2点目が、「この事業を進めていくことに、どこまで意志を持って取り組めるかが最後に勝負を分ける」とし、事業に意志を込めることの重要性を強調した。

取材後記

「2人に1人は生涯のうちに1度はがんに罹患し、3人に1人はがんで亡くなる(※)」と言われている現代。本プログラムの根幹にある「がんとの共生」というテーマは、誰もが他人事にできないものだろう。

今回、提案された5つの共創事業は、いずれも「がんとの共生」を叶えるものだ。これらが社会に実装され、プログラム名にある通り、誰かのHOPE(希望)になることを願わずにはいられない。8月末には約3カ月のインキュベーション期間での成果を発表する「DEMO DAY」が予定されている。5チームがこの先、どのような進化を遂げていくのか、引き続き注目していきたい。

※オノオンコロジー「日本人のがん罹患状況」より

(編集:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:齊木恵太)

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  • 増山邦夫

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