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250件超の社内ビジネスアイデア実践コンテストへの応募、共創プロジェクトは約100件進行中――『Yume Pro』構想から約4年、社内文化はどう変化したのか

250件超の社内ビジネスアイデア実践コンテストへの応募、共創プロジェクトは約100件進行中――『Yume Pro』構想から約4年、社内文化はどう変化したのか

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イノベーションの創出を目指していても、会社全体が一枚岩になりきれず、有望なビジネスアイデアが消えてしまうことは多い。だが、もし、全社員がイノベーション創出に対して前向きで、協力し合う文化が醸成されていたとしたら、状況は変わるのではないだろうか。

日本で初めて電話機を開発し、その後もATMやVoIPシステムなど、数々の先進的なプロダクトを世に送り出してきた沖電気工業株式会社(以下、OKI)。同社は今、『全員参加型イノベーション』をビジョンに掲げ、OKIグループ全社員を巻き込んだ、社内文化改革に挑んでいる。グループ全体の各部門から、自発的なイノベーション活動が生まれるよう、促していこうとする取り組みだ。

2017年の構想策定を皮切りに、2018年に活動を本格的に開始。まもなく4年が経とうとしているOKIのイノベーション・マネジメントシステム『Yume Pro(ユメプロ)』。TOMORUBA編集部ではこれまで、『Yume Pro』の活動について取材を重ねてきたが、今回は社内文化改革を担う3名(千村氏・福永氏・岩本氏)に、4年間の活動を通じて得られた手応えや、社内文化の変化について聞いた。

『全員参加型イノベーション』の実現に向け、3つの活動に注力してきた4年間。成果として、現在100件近い共創プロジェクトが進行中。

――まず、『Yume Pro』の変遷と現在地についてお聞きしたいです。

千村氏: 『Yume Pro』の活動自体は2018年4月にスタートしました。当時の私たちの目標は、5年間でイノベーションが日常的な活動になる社内文化をつくること。イノベーション研修やYume Pro チャレンジ(ビジネスアイデア実践コンテスト)といった仕組みを構築しながら運営をしてきました。

そうしたなか2020年12月に、この活動をOKIグループ全体へと拡大する方針が決定。これを『全員参加型イノベーション』と呼び、社長自ら社内外へと発信をしました。『全員参加型イノベーション』とは、新規事業部門だけではなく、経理や総務といった管理部門も含めた全社員が仕事を変革していくことをいいます。この方針を踏まえ、私たちもすべての職種の社員に向けて、研修・教育活動の展開を図っていくことにしました。


▲沖電気工業株式会社 OKIイノベーション塾 塾長 千村保文 氏

――御社の場合、体系的なプロセスも特徴的です。

千村氏: OKIのイノベーション・マネジメントシステム(IMS)は、従来のように完成した製品を売るだけではなく、事前に顧客の声を聞いて機会を特定し、コンセプトの創造と検証を行い、ソリューションを開発していくことが特徴です。機会の特定においては、社会課題やSDGsを起点とします。会社としても支援する体制を整備し、経営トップもリーダーシップを発揮する。OKIではこうしたプロセスを整え、イノベーション活動を推進しています。



――『全員参加型イノベーション』の実現に向けて、具体的にどのような取り組みを行っているのですか。

千村氏: 現在、『経営層による文化浸透』『社員の実践支援』『イノベーション研修』の3つの活動を推進しています。



『イノベーション研修(Ⅲ)』では、全社員を対象に図のとおり複数の研修を実施。ですが、研修を受けても現場に戻ると多忙で忘れてしまうこともあります。そこで、『経営層による文化浸透(Ⅰ)』という形で、経営層が社員と昼食をとりながらイノベーションについて対話するという場を設けたり、イノベーションの責任者・推進者によるフォーラムを開催したりしています。

加えて、「イノベーションを興したい」と思ってアイデアを出しても、現場でつぶされてしまうこともあります。ですから、筋のよいアイデアは全社で支援するという考えのもと、『社員の実践支援(Ⅱ)』として、ビジネスアイデア実践コンテスト(Yume Pro チャレンジ)を毎年開催。さらに、Yumeハブというエバンジェリスト(伝導師)を各拠点に配置したり、Yume ST(ユメ スタ)という共創スペースを本社と高崎事務所に設置したりと、イノベーション活動を支援する環境を整えています。

イノベーション研修受講者数や社内ビジネスアイデア実践コンテスト応募数が加速度的に増加

――参加状況はどうなのでしょうか。

千村氏: 実は、着実に参加者数が伸びています。基礎研修の受講者は現在7,561名となりました。(※3月25日現在)OKIグループには国内に約1万2,000人の社員がいます。当初「社員の半数がイノベーションを理解しはじめたら、会社の雰囲気も変わるだろう」と考え、6,000名超の受講を目指していました。現在、ようやく社員の半数を超えたという状況ですね。

――FY20とFY21を比較すると、Yume Pro フォーラムやYume Proチャレンジの参加者も、際立って伸びているようです。

千村氏: 研修やフォーラムは、オンライン化したことで、全国から参加者が続々と増えるという結果になりました。また、Yume Proチャレンジの応募数も、18年度の37件からスタートし、20年度に100件増え、21年度には250件以上の応募がありましたさらに100件増えています。当初、社員の多くは「経営陣は本気で支援してくれるのだろうか」という疑念を持っていたようです。しかし、受賞したアイデアに対して1億円の資金を出し、経営陣が支援する様子を見て、この取り組みに対する本気度が、社員に伝わったのではないかと思います。



「社内の文化が変わる兆しは、確実に見えてきている」

――これらの研修・教育活動から、「社内の文化が変わってきた」という手応えはありますか。

千村氏: ありますね。先日、Yumeハブのメンバーが、社内のイノベーションに関するアンケートをとりました。アンケートには約1,200名の社員が答えてくれました。その結果を見ると、「言葉は知っている」という人が8割程度。「本当に理解している」という人の割合は少し下がり、「何らかの行動をしている」という人が3~4割でした。多いと見るか少ないと見るかは人それぞれですが、3~4割の人たちが何らかの行動をしているのです。これは、5年前と比較すると大きな変化ではないでしょうか。

――福永さんにもお聞きしたいです。社内文化の変化の兆しを、どのような点から感じておられますか。

福永氏: さきほど、Yume Pro チャレンジの応募数増加の話が出ましたが、2021年度の応募の半数近くが、初めての応募でした。最初の1年は、新商品企画や研究開発を担務していて応募してくれることが想像できた方からの応募が多かったという印象でしたが、最近は面識のない方の応募も増えています。2021年度に初めて応募してくれた方からは、「去年はイノベーションのことなんか、考えもしなかった」という声も聞かれます。こうした点から、変化が起きているとの実感がありますね。


▲沖電気工業株式会社 イノベーション推進センター 企画室  IMS・教育・プロモーション担当部長 福永茂 氏

――一部の人たちだけではなく、OKIグループ全体に、イノベーション活動が浸透しつつあるのですね。初参加者が増えたというYume Pro チャレンジですが、何か工夫はされているのでしょうか。

千村氏: 2020年度から、すべての応募アイデアに加速支援者をつけるという取り組みをはじめました。加速支援者とは、BMC(ビジネスモデルキャンバス)の書き方を教えたり、ヒアリング先を探す手伝いをしたりする支援者のこと。先輩イノベーターなどにお願いしています。一次審査を通過したら、別の加速支援者がつくという形で支援をしています。

――FY21は、254件のすべての応募に対して、加速支援者がついたのですか?

岩本氏: はい、つけました。実は、応募者と加速支援者が、相互に学び合うという状況もできつつあります。加速支援を行うためには、加速支援者自身も一緒に学ばなければ、支援は難しいと思っています。私たちOKIは、ひとりの天才がイノベーションを興すのではなく、それぞれの強みや弱みを補いあい、チームOKIでイノベーションを興そうとしています。

そう考えた場合、他の人の加速支援を行うのは当たり前。昨今では、加速支援の希望者も増えていますし、営業と研究開発といったこれまでは距離が離れていた他部門が、一緒に協力して動くといった文化も醸成されつつあります。


▲沖電気工業株式会社 イノベーション推進センター 企画室 教育プロモーションチーム 課長代理 岩本聡 氏

福永氏: 加速支援者の割り当てを検討する際、その分野と違う視点を持った人にお願いするといった工夫もしています。OKIの課題は、部門間連携です。「部門間連携をやっていきましょう」と促しても、なかなか進みません。しかし最近、Yume Pro チャレンジで上位にのぼってくるチームは、部門をまたがった人たちが連携しているケースが多い。さまざまな視点から磨きあげられたアイデアは、非常に完成度が高いと感じています。

実際、昨年度のYume Pro チャレンジで大賞を獲得したのは、社内研修で出会った複数の部署の若手社員が、研修のなかで発想したアイデアをもとに応募したものでした。大賞を受賞したことから、発案者がプロジェクトマネージャーになり、現在、事業化に向けて活動しているところです。

会話の中心が「機能・性能」から「顧客価値」へと変化

――岩本さんからも、変化の手応えについてお聞きしたいです。

岩本氏: 以前のOKIだと、製品・サービスの機能や性能の話になりがちだったんです。しかし今では「お客さまにとっての価値は何なのか」という話が、社内で常に出てきます。そういう会話が当たり前のようになってきたことは、大きな変化のひとつだと捉えています。

また、Yumeハブのメンバーや社員が、「世の中のイノベーションはこうだけど、OKIのイノベーションはこうだよね」と、自分の言葉に置きかえて語れるようになりました。イノベーションが、会社からの押しつけになっていないのです。自分の心の中から湧きあがる意志を持って行動するメンバーが、次第に増えてきているとの実感があります。

――多くの社員にとって、イノベーション活動が自分事化しつつあるということですね。

福永氏: その通りだと思います。『全員参加型イノベーション』が打ち出されたとき、「何を言いたいのかが分からない」「どう考えて職場に発信したらいいのか…」と混乱する様子もありました。しかし、先日開催されたYumeハブ活動の発表会では、「私たちはこう考えて、こう発信しています」と、それぞれが自信を持って言えるようになっていました。まさに、自分たちで、イノベーションを考えられるようになったのだと思います。

会社の“ナカ”から“ソト”へ――社内文化改革の成果は、社外との共創活動の成果へ


――イノベーション創出に向けた社内文化改革が、社外との共創活動につながっている感触はありますか。具体的な事例があれば、お聞きしたいです。

千村氏: 現在、100件近い共創プロジェクトが進行中です。いくつか例をあげると、まず、富士通グループのPFU株式会社さまと一緒に、SDGs達成に向けた共創ワークショップを開催しました。また、JR東日本さまとは、新しくできた高輪ゲートウェイ駅の駅前広場にて期間限定で開催したイベント空間にOKIのAIエッジロボットを展示。ご来場いただいたお客様に、に触れていただきながら実際にロボットを操作する取り組みを実施。コクヨ株式会社さまとも、OKIの行動変容エンジンを使って、心と体の健康性を高めるオフィス向けソリューションの検証を行っています。

海洋分野でも共創プロジェクトを進めています。具体的には、OKIのフライングビュー(※1)というもともと車に搭載していた技術を船に応用し、海上技術安全研究所様と自律・遠隔操船へのフライングビューの適用について共同で取り組んでいます。

また、OKI主催で『AIエッジカンファレンス&ソリューションコンテスト』というコンテストを開催しています。このコンテストで昨年、最優秀賞を受賞した視線シミュレーションAIの株式会社ウサギィさまとは、視線の映像解析から人の興味を予測する取り組みを推進中。非常に多くの共創プロジェクトが進行していますね。


※1:フライングビューとは、OKIのリモートモニタリングシステムのこと。4台のカメラ映像から生成された周囲360°の俯瞰合成映像により、現場で稼働する移動体の周囲を、進行方向、左右、後方、さらには上空から見た周囲全体など、見たいところから俯瞰的な映像として見ることができる。

――大企業やベンチャーに限らず大学まで、幅広いパートナーと共創プロジェクトが進んでいるのですね。

千村氏: OKIでは研修によって社員に動機づけを行い、そこから出てきたアイデアを加速支援し、お客さまと一緒に検証をしながら事業化にもっていく。これをイノベーションのひとつの形として、全社員が取り組もうとしています。

これまで100年以上にわたり、OKIは顧客から指示されたものを、言われた通りに開発・製造し、信頼を得てきました。しかし現在は、私たちのほうから社会課題を先取りし、「これをやりませんか」と顧客に提案しようと試みています。矢印の方向を逆にするという意味で、これらの取り組みをOKIでは『矢印革命』と呼んでいます。

矢印革命は、商品の企画・開発部門だけにとどまりません。社内の法務や総務といった管理部門でも同様です。自分で考えて「こうしましょう」と提案のできる社員を、OKIグループ全体のなかに増やしていきたい。そして、自発的に動ける社員を評価する仕組みへと変えることで、『全員参加型イノベーション』のさらなる実現へとつなげていきたいと考えているのです。


取材後記

規模の大きな企業であればあるほど、社内の文化・風土を変えるために、多大な時間を要することは想像に難くない。しかし、だからこそ、管理部門も含めたあらゆる部門が、イノベーションに前向きな姿勢となり、お互いに支援を惜しまない文化となれば、それは企業にとって大きな強みとなるはずだ。『Yume Pro』の構想から約5年。取材からは『Yume Pro』を担うリーダーらの弛まぬ努力ゆえに、着実に社内に変化が生じている様子が伝わってきた。また、社内で育まれたビジネスアイデアが、社外へと提案され数多くの共創プロジェクトが生まれているようだ。OKIの社内で育まれたビジネスアイデアが、日本の社会を変えるイノベーションとなる――力を結集したチームOKIなら、実現する日も遠くないのではないだろうか。

(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子、撮影:齊木恵太)

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