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【実証実験レポートⅡ】データ活用でコロナ禍の生産性向上を実現。ハミングバードとミヤックスが挑む飲食業のDX

【実証実験レポートⅡ】データ活用でコロナ禍の生産性向上を実現。ハミングバードとミヤックスが挑む飲食業のDX

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仙台市が主催する、事業共創プログラム「SENDAI X-TECH BUSINESS BUILD」――。さまざまな産業に最先端テクノロジーを掛けあわせることで、イノベーションの創出を図る取り組みだ。「SENDAI X-TECH Innovation Project」の一環として開催され、2021年1月の「BUSINESS BUILD DAYS」を経て、合計4チームが本格的な実証実験(インキュベーション)へと進んだ。

それから約1年――。実際にどのような実証実験が行われ、どのような成果が生まれたのか。実証実験レポートの第一弾では、楽天イーグルス×GATARI・toraruの実証実験現場に迫ったが、第二弾となる今回は、仙台を代表する飲食チェーンのハミングバード・インターナショナルと、デジタル活用で企業の課題解決を行うミヤックスの共創成果を追う。

コロナ禍で甚大な打撃を受けた飲食業界が、X-TECHによって得た成果とは。本プログラムへの参加背景から、今後の展開、本取り組みを通じた地域貢献のあり方も含め、両社の代表、および担当者に話を聞いた。

バックヤード業務の自動化・AI化が、飲食店の生産性向上に不可欠

――まず、仙台を代表する飲食チェーンであるハミングバード・インターナショナル社が、「SENDAI X-TECH」にホスト企業として参加しようと考えた背景、課題感からお聞きしたいです。

ハミングバード・青木氏: 背景にある最大の課題は、飲食業界の生産性の低さです。生産性が低いことから、給与水準も全産業を通して最低ランク。今後、永続的に事業を続けていくことを考えると、まずは生産性を高めて、給与水準を上げていくことが必要です。ただ、飲食業界は「おもてなし産業」とも言われ、いわゆるDXからは遠い業界でもあります。お客さまの満足度を下げずに、いかに生産性を上げていくかという課題感を、以前から持っていました。

そうした中、仙台市さんから「SENDAI X-TECH」プロジェクトの一環で、飲食業のイノベーションに取り組みたいというお話をいただきました。私たちとしても、非常に興味のある内容だったため、参加することにしました。


▲【写真左】株式会社ハミングバード・インターナショナル 代表取締役 青木聡志氏

【写真右】株式会社ハミングバード・インターナショナル 株式会社 ハミングバード・インターナショナル事業本部 本部長 塚田知也氏

――共創パートナーとして、仙台を拠点にデジタルを活用したサービスを提供するミヤックス社を採択されました。採択時、どういった期待をお持ちだったのでしょうか。

ハミングバード・青木氏: 飲食店ではPOSレジを使っていますが、そこから得たデータをどう分析して営業に活かしていくのかに関しては、手が行き届いていないというのが実情でした。こうしたバックヤード業務を、自動化・ロボット化していくことこそが、今後の生産性向上につながるだろうと考えていたんです。

ミヤックスさんはまさに、そういった取り組みを進めようとしている会社だったので、一緒に取り組んでみたいと思いました。需要予測を行い、対策に結びつけていく部分をAI化する。長期的な視点で考えて、この取り組みが、当社を足腰の強い会社にしていくために効いてくるだろうと。そうした期待を持っての採択でした。

――次にミヤックスの高橋さんにお伺いします。2020年11月に開催された「SENDAI X-TECH WORKSHOP(ワークショップ)」に御社の若手社員がご参加され、その後のビジネスビルドへと進まれました。ワークショップに参加しようと考えた理由は?

ミヤックス・髙橋氏: ワークショップに申し込んだ理由は、青木社長のお話と通じるところがあって、当社としても足腰の強い会社にしていかねばならないという考えがあったからです。とくに、当社の遊具事業と施設事業に続く3つ目の事業(MIYAX DIGITAL事業)を確立するにあたり、しっかりと社員を自立させる必要がありました。今回のようなワークショップやビジネスビルドに身を投じさせ、社員の成長を促すことが当初の狙いのひとつでしたね。


▲株式会社ミヤックス 代表取締役社長 COO 髙橋蔵人氏

――スポーツチームとの共創など、いくつか募集テーマがあった中で、なぜハミングバード社のテーマに応募されたのでしょうか。

ミヤックス・髙橋氏: ハミングバードさんの提示テーマが、まさに我々がサービス提供したいと考えている領域だったからです。データを正確に見て、飲食店もPDCAをまわせるようになるための仕掛けづくりですね。そういったところを、お手伝いしていきたいとの考えから、ハミングバードさんのテーマに応募しました。

データから導き出された、マリトッツォの効果的な売り方

――具体的に、両社でどのような実証実験を行われたのでしょうか。

ハミングバード・塚田氏: コロナ禍で飲食店はミニマムでの運営を余儀なくされる状況でしたから、カフェのテイクアウトで実証実験を行いました。具体的には、仙台の地元企業であるお茶の井ヶ田さんとコラボで、マリトッツォを販売しました。店内での飲食がかんばしくない中、テイクアウトの需要を増やしていこうという狙いです。その出数分析において、ミヤックスさんのデータ分析が非常に活躍しました。

――データ分析が活躍したとは?

ハミングバード・塚田氏: ミヤックスさんのデータ分析から、男性が夕方にテイクアウトでマリトッツォを購入する割合が、非常に高いことが分かりました。この発見をもとに、それまでは“朝に製造したものを出し切って終わり”という運用にしていたのですが、夕方以降にも再度、多めに陳列する運用に変更。同時に、「お持ち帰りでいかがですか」という店内スタッフによるお声がけを、17時以降に徹底して行いました。

――結果はどうだったのでしょうか。

ハミングバード・塚田氏: 結果として、ディナータイム手前の売上を大きく伸ばすことができました。それに、毎日予定数量を完全に売り切ることにも成功したんです。このコロナ禍において、商品ロスなく完売できるというのは、非常に大きなプラスでした。私たちは従来、店内飲食をメインで考えてきたため、まさか夕方以降にこれほどテイクアウトが売れるとは思っていませんでした。そこを強化できたことは、本当に大きな成果だったと感じています。


▲お茶の井ヶ田とのコラボにより、期間限定で販売された「マリトッツォ」(画像はHUMMING MEAL MARKETのInstagramより抜粋)

――「17時以降、男性の購買率が高い」という発見は、ミヤックス社の力添えがあってこそですか。

ハミングバード・塚田氏: はい。従来のシステムだと、「マリトッツォが何個売れた」までしか調べられませんでした。一方で、ミヤックスさんからご提案いただいたTouch Point BIというツールを活用すれば、「どういうお客さまが、どの時間帯に、何と組み合わせてマリトッツォを買っているのか」という、より複雑なデータを取得することができます。それを参考にできたことが、今回の成果につながったと思います。

――塚田さんのお話を聞いて、高橋さんはどのようにお感じですか。

ミヤックス・髙橋氏: データ分析からは、いつも新しい気づきがあります。現場の方だと、勘や経験で分かる部分もあるとは思いますが、2軸・3軸でデータを見ることで、新たに見えてくる発見もあります。今回は井ヶ田さんとコラボしたマリトッツォの販売で、データを抽出してさまざまな軸で分析を行いました。この分析からスタッフの方が気づきを得て、「次はこんな分析がやってみたい」というループに入っていただけたなら、当社としてもうれしいです。

――「SENDAI X-TECH BUSINESS BUILD(ビジネスビルド)」では、地元の大学生もデータ分析に参加するという提案でした。

ミヤックス・髙橋氏: はい。私がレビューを行っていますが、データ分析においては大学で経済学を専攻している学生さんたちに手伝ってもらっています。今、分析を担当している学生さんは、日頃、飲食店でアルバイトをしている子で、より現場に近い目線を持ってくれています。

――地元の学生さんがデータを分析することに対して、塚田さんはどのようなメリットをお感じですか。

ハミングバード・塚田氏: 年齢問わず、数字はだれが見ても同じものです。しかし、“商品の魅力”などといった数字には表れない部分を補完する若い方の感性は、我々飲食業には特に必要ですし、非常にありがたいと感じていますね。


▲仙台を中心に、多様な業態の飲食店を展開しているハミングバード。(画像はHUMMING MEAL MARKETのInstagramより抜粋)

正確な需要予測にもとづくロスゼロ発注、併売分析の可能性も

――改めて、ミヤックス社と取り組んでよかった点や、今後の期待をお聞きしたいです。

ハミングバード・塚田氏: 飲食店の場合、「出数=発注数」になります。当初、正確な需要予測が発注に役立つだろうという期待を持っていました。現状だと、経験とスキルのある従業員が、「だいたい、これぐらいかな」と予測をして発注をしています。しかし、データをもとに正確な予測ができれば、無駄なく発注できる可能性があります。

また、今までできなかった、「組み合わせ出数」という考え方ができるようになりました。例えば「30代の男性がコーヒーを飲んでいたら、これをあわせて買う確率が高い」ということを把握できます。Touch Point BIの画面上に分かりやすく可視化されるため、経験の短いアルバイトスタッフでも簡単に理解できるものです。この点にも可能性を感じていますね。

――併売分析は、色々な業態に展開できそうですね。

ハミングバード・塚田氏: できると思います。例えば、居酒屋であれば「このお酒を注文した人は、このおつまみをたのみがち」という分析ができますし、カフェであれば「コーヒーを注文した人は、このケーキをたのみがち」という分析ができます。業態によって差はあると思いますが、飲料と食べ物の関係性において、十分に応用ができるものだと考えています。

――共創を開始して約1年。アフターコロナを見据え、次のステップとして両社で、どのようなことにチャレンジしていきたいですか。

ハミングバード・青木氏: 外部環境に大きく左右された1年だったので、当初、予定していた活動をまだ十分にできていません。実証実験を行って次のステップに進みたいところではありますが、次のステップはまだ見えていないのが正直なところ。ですから、まずは当初予定していた需要予測をしっかりと実施したいです。

ミヤックス・髙橋氏: 2021年度の下期頃から本格的に取り組みを開始し、現場の方たちが抱えておられる課題などが見えてきました。ですから、現場の課題感をより深く理解し、安定期に入ったときに価値を高められるよう、下準備をしておきたいですね。次のステップは、現場で働く皆さんが楽になる状況をつくること。データで判断しながら、しっかりと売上が伸ばせる仕組みを構築することが、次に取り組むべきことだと思っています。


▲Touch Point BIの管理画面

「SENDAI X-TECH」を通じた、地域貢献のあり方とは

――「SENDAI X-TECH」への参画を通じた、仙台市への地域貢献をどのように捉えておられますか。

ハミングバード・青木氏: 当社の実証実験を通じて得られる成果が、同様の地方の飲食店に少しでも参考になればよいと思いながら取り組んでいます。まだテスト段階なので、成功と失敗を繰り返しながら進めていくことになりますが、これらの取り組みから得られた結果が、飲食店全体の生産性向上や、永続性、成長性を高めることにつながればと思いますね。「飲食を通じた街づくり」は、当社の大きなテーマのひとつ。ですから、今後も継続していきたいです。

ハミングバード・塚田氏: 当初、このお話をいただいた際、ワクワクしたんですね。というのも、飲食業界は人の手だけに頼りがちな労働集約型のビジネスです。外部環境を鑑みれば、発展性の乏しい業界だと感じていました。ですが今回の取り組みを通じて、飲食店の新しいスマートオペレーションを当社で構築し、成功事例として仙台の街に広げる。そして、仙台の飲食店が元気になっていけば、仙台の街に貢献できるだろうと。まだ実現には至っていませんが、そうした形で地域に貢献できるのではないかと考えています。

――高橋さんは、どのようにお考えですか。

ミヤックス・髙橋氏: 各々が協力しないとできないことを、集まって解決する場が必要だと思います。働く人がこれから少なくなる中、2年後には本格的な働き方改革が始まることが予測されます。困ったことがあれば、まずは手を挙げてみる。今は自分たちですべて解決するという時代ではないので、そうすれば誰かが一緒に解決してくれるかもしれません。そういうことを、この事例から感じ取っていただければ、ひとつの地域貢献になるのではないかと思っています。

――今後の「SENDAI X-TECH」に期待することは?

ハミングバード・青木氏: この取り組みの認知度が高まり、もっと仙台の企業の参加が増えると、よりよい取り組みになると思います。また、それぞれの業界が「こういうことで困っている」という課題を提示し、それに対して各社から提案をしてもらうという形があってもいいのではないでしょうか。そうした形での新たな展開にも期待をしています。

――最後に、仙台企業に向けてのメッセージをお願いします。

ミヤックス・髙橋氏: 一歩を踏み出すことに躊躇はあると思いますが、行政の資金を活用しながら踏み出してみることも重要です。とくに現状だと、IT企業側、支援する側が圧倒的に足りていません。1社で難しければ、複数社で組んで参加することも可能です。ですから、まずはこういった場に出てみることも、地元企業には大事な一歩だと思います。

取材後記

フードロスが社会問題として注目を集める昨今。今回のようなデータ活用によるフードロス削減も、有効な手だてのひとつとなりそうだと感じた。また、地元の大学生が参画している点もユニークだ。若手の育成という面においても、仙台に貢献する取り組みになっているのではないだろうか。飲食店におけるデータ活用――そのモデル事例が、本取り組みから数多く生まれ、社会に示されることに期待したい。

(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子)

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  • 古橋レイ

    古橋レイ

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  • 眞田 幸剛

    眞田 幸剛

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