事業開発のメソッドを学ぶ実践型WSを開催!ビジネスモデルキャンバスを元に磨かれた事業アイデアとは?
さまざまな産業にテクノロジーをかけ合わせる「X TECH(クロステック)」をキーワードに、社会課題の解決や新規事業の創出に取り組む仙台市。去る11月13日、仙台市は2018年より進めている「SENDAI X-TECH Innovation Project」の一環として、仙台で新たなビジネスを創出したい人たちを対象に、事業創造ワークショップ(SENDAI X-TECH WORKSHOP)を開催した。
このワークショップは、新規事業開発のプロフェッショナルから事業開発のメソッドを学び、実際にビジネスプランを生み出すというもの。審査員特別賞を受賞したチームは、2021年1月に開催される仙台市主催の事業共創プログラム「SENDAI X-TECH BUSINESS BUILD(ビジネスビルド)」への切符も手にすることができる。
▲ビジネスビルドの募集ページ詳細はこちら。なお、応募締め切りは、2020年12月7日までとなる。
仙台のコワーキングスペース「enspace」で行われた本ワークショップには、仙台市内だけではなく遠く大阪からも参加者が集結。各自持ち寄ったビジネスアイデアのブラッシュアップに取り組んだ。本記事では、合計10チームから生まれたビジネスプランの中身を中心に、イベントの模様をレポートする。
10チームが、ワークショップの成果をプレゼン
ワークショップは、「ビジネスモデルキャンバス」を用いた「ビジネスモデル設計」についての座学研修からスタート。その後、学んだことをもとに、各自がアイデアを発表。午後からは、アイデアのブラッシュアップとメンタリングを経て、最終的なビジネスアイデアにまとめあげ、審査員に向けて持ち時間3分で発表をするという流れで行われた。
▲午前中は、「ビジネスモデルキャンバス」を使った、ビジネスモデルの設定の仕方などを学ぶ。
▲午後から、個別メンタリングスタート。メンターは、パーソルイノベーション株式会社にて、グループの新規事業創出プログラム「Drit」の責任者を務める森谷元氏と、eiicon company 代表 /founder 中村亜由子氏が担当。
最終発表の審査員は、続く「SENDAI X-TECH BUSINESS BUILD(ビジネスビルド)」の主催者である仙台市より荒木田氏、事業共創パートナー3社(楽天野球団/ベガルタ仙台/ハミングバード・インターナショナル)より各担当者、さらにメンター2名が加わった以下の6名が務めた。
▲仙台市 経済局産業振興課 主幹 荒木田理氏
▲株式会社楽天野球団 プロモーション部 部長 一ノ瀬玲奈氏
▲株式会社ベガルタ仙台 運営・事業本部 事業・営業部 営業課長 磯田敦氏
▲株式会社ハミングバード・インターナショナル 代表取締役 青木聡志氏
▲パーソルイノベーション株式会社 インキュベーション推進室 室長 森谷元氏
▲eiicon company 代表 /founder 中村亜由子氏(※オンライン参加)
それでは、各チーム最終発表の中身を紹介する。
【Aチーム】 ハイレゾ音源スピーカーを用いた「サイネージジャック」
トップバッターは、株式会社Musignal(ミューシグナル)の本田氏だ。同社は仙台市に拠点を置くスタートアップで、高音質なハイレゾスピーカーを開発・販売している。昨年度の仙台市主催・事業共創プログラムにも採択された企業だが、さらにビジネスプランをブラッシュアップしたという。具体的には、遠隔操作で音をコントロールできる機能を実装。スマホアプリを使って、複数台を一括管理することも可能で、センサーをつければ周囲のセンシングやモニタリングもできるようになった。
進化したプロダクトをもとに、今回提案するビジネスプランは、音をベースにした「デジタルサイネージジャック」だ。コンテンツアイデアは2つあり、1つ目は仙台市が運営する仙台フィルハーモニー管弦楽団とのコラボレーション。パートごとにハイレゾ収音した音を、街中に設置した複数のサイネージを用いて流し、リアルに近いオーケストラを街中に実現するというものだ。2つ目は小売店(生産者)とのコラボレーションで、ASMRという脳に響く音を使って、販促に役立てるというもの。前者はコンテンツの受託制作などで収益化、後者はスピーカーをサブスクモデルで提供し収益化を目指すという。
【Bチーム】 「あでやか切り絵」で、世界に笑顔を
続いて、切り絵作家やイラストレーターとしての実績を持ち、「あでやか切り絵」を主催するGUMI FACTORYの深川氏が発表した。「あでやか切り絵」とは、切り絵風の絵柄を印刷・型抜きした台紙を準備し、その裏側に色紙や千代紙、チラシなどを貼って作品を完成させるというもの。貼るだけで作品が完成するという容易さから、子どもやお年寄りに人気なのだという。東日本大震災の際、仮設住宅など100カ所以上でワークショップを行い、大変喜ばれたと話す。
この経験をもとに、「あでやか切り絵」を世界中に届けていきたいとの熱い想いから、今回のワークショップに参加したという深川氏。マスコットキャラクターで型抜きした台紙を用意して、子どもたちに作品を仕上げてもらうなど、スポーツイベントとコラボレーションできる可能性もあると話す。また、介護施設や水族館、動物園、あるいはECや書店・文房具店といった多彩な販路で、この取り組みを世界中に広げていきたいと伝えた。
【Cチーム】 「商品購入予約権」 販売サイトの運営
3チーム目は、合同会社クラフタスよりCOOの片山氏が登壇。同社は今月11月に立ち上げたばかりの会社で、事業内容はWEB制作だ。メンタリング前は、幅広くオンラインコンテンツの制作を手掛ける会社として事業を展開していく構想を持っていたが、メンタリングで「顧客を絞り切れていない」と指摘を受け再考。顧客を、地域に根差す一次産業・二次産業の中小企業で、大量生産ができず個体差の出しやすい商材を生産・加工している企業に絞ったという。
そこから発想し、完成した商品を売るのではなく、購入権を売る販売サイトの構想に行き着いた。たとえば、夏野菜を冬に予約するといった販売の仕方を考えているという。クラフタスがサイト運営を担い、出品者と購入者をつなげる。同社が一般流通価格よりも高く売れるようセッティングを行い、顧客である出品者には、通常より高く売れる販路を提供する。審査員からは「すでに予約販売ができるサイトはあるが、差別化ポイントは?」という質問が出た。これに対し、片山氏は商品のバラツキを特徴とし、商品を売るよりも、生産者を知ってもらうことに価値を置きたいと回答した。
【Dチーム】 子どもたちの「自ら問い、考え実行する力」を育む、地域未来教育事業
続いて、インバウンドの誘致などに取り組む一般社団法人宮城インバウンドDMO 株式会社VISIT東北から佐藤氏と森川氏が登壇。今回のワークショップでは、「ニューノーマル時代の教育」をテーマに新規事業開発に挑戦したという。まず、コロナ禍により不確実性が高まったことから、「一人ひとりが正解のない人生を切り拓ける」ことが重要だと定義。そこで、「私は何者か」「どう他者と関係を築くか」「どう社会に貢献したいか」の3つの問いに答えられる教育事業の構想を練った。顧客を地方の公立中学生とし、オンライン・オフラインの両軸で教育環境を整えることを目指す。
しかしメンタリングでは、「サービスの成果、誰が何のためにお金を払うのかが分からない」と指摘を受けたという。そこで改めて顧客を親に設定しなおし、同時に中学生の子どもを持つ保護者にメールでインタビューを実施。ここで時間切れとなったが、保護者から得られた声をヒントに、引き続き事業をブラッシュアップしていくと話し、発表を終えた。
【Eチーム】 プロのすごい投球を体験VR
続いて、ゲーム事業などを手掛ける株式会社ハイドより、高橋氏が登壇。同社は、楽天野球団を共創パートナーに想定し、プロ野球選手の投球を、バッターボックスの視点から体験できるVRコンテンツを提案した。具体的には、スタジアムに足を運んでくれたライトユーザーを主なターゲットに、スタジアム内の体験施設で投球スピードなどをVRで体感してもらうというものだ。楽しみながら、選手への理解を深めてもらうことで、集客やグッズ収益の向上にもつなげる。
提案先である楽天野球団・一ノ瀬氏より、「スタジアムではなく自宅でも楽しめる方法はあるか?」と聞かれ、ユーザーから見てスタジアムのほうが敷居が低いと考え、スタジアムでの設置を想定したと回答。自宅で体験できるようにするのであれば、別の視点で考え直したいと答えた。また、「1回あたりの体験料は?」と聞かれ、1000円程度と返答。グループでの体験を促していきたいとつけ加えた。
【Fチーム】 強制×尊重=ナッジデザイン
Fチームからは、東北出身の小松田氏と池田氏の2名が登壇。東北全体の抱える人口減少、深刻な高齢化という課題を、若者の視点から解決していきたいとし、ナッジデザインを切り口に事業構想を練った。ナッジデザインとは、ひねりを加えたデザインのことで、たとえば以下のようなデザインが有名だ。
ビジネスモデルとしては、東北エリアにある地方自治体や民間企業をターゲットに、ナッジデザインを用いた広告・販促の提案を行う。街中にナッジデザインが広がれば、アートに彩られた都市として、街の価値も向上。東北がカジュアルでワクワクするエリアに変貌し、若者の流出を防止できる可能性もあると説明した。最後に小松田氏は、「若者の動くような仕組みをつくって、東北を盛り上げていきたい」と熱意を込めて、プレゼンを締めくくった。
【Gチーム】 選手コラボ飯を、リアルタイムでファンにお届け
続いての登壇は近畿大学の現役大学4年生で、大阪イノベーションハブを拠点に活動するD harbor株式会社の大谷氏だ。同社は、「全国展開したい飲食物提供者」と「他のブランドを提供して副収入を得たい飲食店」をマッチングするプラットフォームを運営している。今年の6月にサービスをローンチし、複数回実証実験を行ってきたが、それぞれ100食以上の売上を達成しているという。
今回は、限定販売の選手コラボ飯を、試合に合わせてリアルタイムで全国に届けるサービスを提案。全国に点在するファンとの交流強化や、地域の飲食店に対する売上貢献、地元食材のプロモーションなどを狙う。すでに、Bリーグ大阪エヴェッサとのコラボレーション実績も持ち、開幕戦にあわせてエリア限定でオリジナルメニューのフードデリバリーを実施した。今後、サービスを広げていく予定だという。
【Hチーム】 AI予測機能で、無駄をなくして売上アップ
Hチームは、宮城県内を中心にオフィス家具などを展開する株式会社ミヤックスから複数名が参加。チームを代表して、武田氏と高橋氏が発表を行った。同社は現在、新規事業としてAI・イノベーション事業の立ち上げに取り組んでいる。今回のビジネスプランでは、顧客を飲食店とその従業員に設定し、飲食店のIT化の遅れ、オペレーションの簡素化、人手不足の3つの課題を解決するソリューションの構築を目指した。
具体的には、2つのシステムを提案。1つ目は、POSシステムのデータを用いた受注・在庫・来客数の予測システムだ。予測システムの導入により、廃棄ロスの削減や、アルバイトのアイドリングタイムの削減を狙う。また2つ目として、店舗のあるレストラン街にカメラを設置し、通行量を調査することで、レストラン街の活性化や課題の発見につなげたいと話す。マネタイズとしては、システムのライセンス料とAI活用人材の育成料を検討中だという。
【Iチーム】 仙台記念日コンシェルジュ
続いては、飲食店などを対象にポイントシステムの開発やHP制作を行うテクノウイング株式会社より廣川氏が登壇。誕生日などの記念日のコンシェルジュサービスを提案した。具体的な顧客イメージとして、「特別な時間を過ごしたい人」「手間をかけたくない人」「スタジアム観戦に不慣れな人」を想定。話題のお店や望むチケットなどを、簡単に手配できるサービスの提供を実現したいと説明した。
マネタイズは、会員(利用者)からの利用料のほか、店舗への送客手数料、サイトへの掲載料や広告料などを検討している。まずは、話題のお店などに行きたいけれど、行けていない層を狙い、プロモーションを仕掛けていくと話す。
【Jチーム】 遠隔作業代行サービス
最後に発表したのは、大阪を拠点に活動する株式会社toraruの西口氏だ。同社は、「現地にいる人」と「世界中にいる人」をつなぎ、現地の人に分身として動いてもらうマッチングプラットフォームを展開している。今回は、顧客をコロナ禍で来日できないアニメ好きの外国人に設定。宮城県と関連するアニメとコラボレーションして、仙台アニメフェスに遠隔作業代行を活用し、参加してもらうという企画を提案した。
具体的には、仙台在住者にスマートフォンやタブレットPCなどを持って動いてもらう。外国人の依頼者は、そのストリーミング映像を見て、仙台在住者とコミュニケーションをとりながら、イベントに参加する。買い物代行なども視野に入れて、ビジネスアイデアを練り上げていく。マネタイズは、仲介手数料やイベント開催者から頂くモデルを構築しているという。
ビジネスビルドへの切符を手にしたのは…
発表後、審査員による喧々諤々の議論のすえ、「審査員特別賞」が決定。今回は2つのチームが受賞した。
<Hチーム> AI予測機能で、無駄をなくして売上アップ
<Jチーム> 遠隔作業代行サービス
この2チームには、2021年1月に開催されるビジネスビルドへの参加権も授与された。
なお、審査で重視されたポイントは、(1)新規性 (2)テーマとの合致度 (3)市場性 (4)実現可能性の4点。また、ビジネスビルドのキーワードが「X-TECH(クロステック)」であることから、テクノロジーを持つチームが評価された。
最後に各審査員が、それぞれのチームにフィードバックを行い、ブラッシュアップすべきポイントなどをアドバイスした。司会者が、「書類選考からにはなるが、ぜひビジネスビルドに、もう一度、応募してほしい」と激励し、今回のワークショップは終了した。
取材後記
ワークショップでは、座学やメンタリングで得たアドバイスをもとに、「(対価を払ってくれる)顧客は誰か」「顧客に対する提供価値は何か」を問い直す様子が見られた。中には、顧客を設定しなおし、新たに設定した顧客に対して、会場からインタビューするチームもあり、新たな事業を生み出そうとする真剣さが感じとれた。
アメリカや中国と比較して、新規事業の創出が苦手だと評される日本だが、こうした“学べる機会”や“実践できる機会”を増やしていけば、苦手克服までそう時間はかからないのではないだろうか。来年1月に開催される「SENDAI X-TECH BUSINESS BUILD」は、まさに実践の場。試してみたいビジネスプランのある方は、ぜひ応募を検討してほしい。
▲応募〆切:2020/12/7 募集ページの詳細はコチラ
(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子、撮影:齊木恵太)