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【実証実験レポート】楽天イーグルス×GATARI・toraruが届ける“未知の応援体験”―最先端テクノロジーをファンはどう受け取る?

【実証実験レポート】楽天イーグルス×GATARI・toraruが届ける“未知の応援体験”―最先端テクノロジーをファンはどう受け取る?

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さまざまな産業×最先端テクノロジーによって、次々とイノベーションが生まれる都市を目指す仙台市。同市は、「SENDAI X-TECH Innovation Project」の一環として、昨年度、事業アイデアを社会に実装する共創プログラム「SENDAI X-TECH BUSINESS BUILD」を開催した。

アイデアの実装先は、仙台を代表するプロスポーツチーム「楽天野球団(東北楽天ゴールデンイーグルス/以下、楽天イーグルス)」「ベガルタ仙台」、飲食事業を展開する「ハミングバード・インターナショナル」の3社だ。2021年1月に、ビジネスアイデアをブラッシュアップするイベント「BUSINESS BUILD DAYS」を開催。採択された複数社がインキュベーションへと進み、実証実験に向けて準備を進めてきた。

本記事では、この共創プログラムから生まれ、実際にスタジアムで実証実験を行った2つの事例を紹介する。ひとつは今年6月に開催された「楽天イーグルス × GATARI」による「声で繋がる がんばろう東北の輪」。もうひとつは8月に開催された「楽天イーグルス × toraru」による「リモート打撃練習見学会・リモートタッチ会」だ。

――2つの先進的な取り組みは、楽天イーグルスのファンに、どう受け入れられたのか。実証実験の現場を追った。

※関連記事:仙台市を舞台に「ニューノーマルの最速実装」を目指す4つの共創プロジェクトの“その後”を公開!――「SENDAI X-TECH BUSINESS BUILD DEMODAY」 

「声で繋がる がんばろう東北の輪」(楽天イーグルス × GATARI)

「声で繋がる がんばろう東北の輪」は、楽天イーグルスが毎年開催する大規模イベント、「がんばろう東北シリーズ」の一環として行われた。東日本大震災を契機にスタートしたこのイベントは、今年で10年目を迎える。例年、多くのファンや地元の人たちで賑わう、楽天イーグルスにとっての一大イベントである。今年は、6月18日(金)から3日間の日程で、オリックス戦にあわせて開催された。

――「声で繋がる がんばろう東北の輪」とは、どのような企画なのか。

「声で繋がる がんばろう東北の輪」は、参加者がタブレットを持って「楽天生命パーク宮城」の外周を歩くと、タブレットの画面上に「音の輪」が現れ、その輪に入ると「声」(応援メッセージなど)が自動的に聞こえてくるというもの。イベント参加者は、「声」が保存された声スポットを探して歩きまわり、タブレットを通して「音の輪」を見つけたら、その場所に保存された「声」を聞く――そんな内容のイベントだ。

外周上に保存された「声」は、「がんばろう東北シリーズ」に賛同する、あばれる君、サンドウィッチマン、ファンキー加藤などの著名人のほか、楽天イーグルスの選手、ファンなどから広く集められた。


▲スタジアム外周には、100以上の声(応援メッセージなど)が配置された。

裏側では、GATARIが開発した Mixed Reality プラットフォーム「Auris(オーリス)」 が使われている。「Auris」とは、空間のスキャンから空間編集(トリガーとアクションの配置)、クラウドへの保存、マルチプレイヤーでの復元・体験までをスマホアプリひとつで実現できるものだ。

既存設備に一切干渉することなく、空間上で指定した位置に、音声などのデータを配置することができる。「Auris」を使えば、一度、配置した位置を変更することも容易だ。

――ファンたちは、どのようにイベントを楽しんだのか。

参加者らは貸出用として準備されたタブレットを持ち、「声」を探してスタジアムの外周を歩きまわった。とくに目立ったのは、自身が応援する特定の選手や著名人の声を探して歩きまわる参加者たちの様子。イベントそのものを楽しむ以上に、特定の人の声を探して楽しむ人が多く見られた。性別問わず、幅広い年齢層の人たちが参加し、ピークの試合開始直前には、用意した30台のタブレットが、すべて出払うほどの盛況ぶりだった。最終的に、合計で200名近い参加者がこのサウンドウォークを体験したという。


――参加したファンたちの感想は。

参加者からアンケートを取得したところ、「何もないところから声が聞こえて、不思議な体験だった」「新感覚だった」といったコメントが寄せられた。

一方、楽天イーグルス・一ノ瀬氏は、当日の参加者たちの様子を踏まえて、「コンテンツとして楽しんでもらう場合、目当ての人の声があるかどうかに依存してしまう」とコメント。自分たちの発信したい内容を一方的に配置するだけでは、エンターテインメントとして課金できるサービスにまで仕上げるのは難しそうだと分析した。

――初となるスタジアムでの取り組みで、両者にはどのような苦労があったのか。

開催にあたって苦労した点を、楽天イーグルスとGATARIの双方に聞いた。楽天イーグルス・一ノ瀬氏は、一般の人たちから「声」を集めることに苦戦したと明かす。公式HPやファンクラブ「TEAM EAGLES」などを通じて告知を行ったが、思うように集まらなかった。そこで、スタジアムの来場者に直接、声をかけてまわって集めたという。初めての取り組みだったため、「音声コンテンツに対するイメージが湧きづらかったのでは」と振り返る。

一方、GATARI・竹下氏は、苦労したこととして、「負荷の確認」と「電波」をあげた。今回、初めて3桁にも及ぶ音声データを扱ったことから、Aurisがそのデータ量に耐えられるかどうか心配だったと話す。そこで、近所の広い公園へと行き、実際に数百個のデータを配置してみて、負荷に耐えられるかどうかの検証を行ったそうだ。

また開催日当日は、電波のトラブルが発生した。そこで、音声データをクラウドから端末に保存しなおし、位置を合わせるだけで体験できるよう設計を見直したり、家電量販店へと走りSIMカードを購入して端末の電波受信を強化したりするなど、臨機応変に「環境に合わせた対策」を行ったという。

さらに、試合の開始直前には「選手の声だけを急いで聞きたい」という要望があった。そこで、当初は受付から一番遠い場所(ゴール地点)に選手の声を配置していたが、急遽、受付から一番近い場所(開始地点)に置き換えるという対応を取った。容易に配置替えができることは「Auris」だからこその特徴で、球団関係者からは驚かれたという。


――今回の実証実験で得られた気づきや、今後の展開予定は。

楽天イーグルス・一ノ瀬氏は、エンターテインメントでマネタイズする難しさはあると前置きしながらも、手軽に配置を変えられるAurisの特徴を活かして、「分かりやすく案内を行うツールとして、活用できる可能性はありそうだ」と話した。

GATARI・竹下氏もマネタイズの難しさに同調しつつも、「声は今もスタジアムの空間上に残っていて、権利を消さない限り、何十年先までそこにあり続ける状態を作り出せる。なので、例えば施設のインフラとして活用できる可能性もあるのではないか」と語った。また今後、個人のスマートフォンでも同じ体験ができるよう、新たなシステムのリリースも予定しているという。

「リモート打撃練習見学会・リモートタッチ会」(楽天イーグルス × toraru)

「リモート打撃練習見学会・リモートタッチ会」は、8月29日(日)、千葉ロッテマリーンズ戦の試合前に、ファンクラブ会員に対する限定イベントとして開催された。イベントは、試合を直前に控えたスタジアムの一室で開始。会場に集まったのは、ファンクラブに加入する約50名のコアなファンたちだ。本イベントの告知を行ったところ、驚くことに500名を超えるファンから応募が殺到したという。つまり、集まったのは約10倍の倍率を勝ち抜き、チャンスを得た人たちだ。


――「リモート打撃練習見学会」とは、どのような企画なのか。

「リモート打撃練習見学会」は、フィールドで直前練習に取り組む選手の姿を、リモートで見学できるものだ。ただし、受動的に見学するだけではない。参加者は、toraruの開発した代行型の擬似移動サービス「GENCHI(ゲンチ)」を用いて、選手と同じフィールド上に立つ球団スタッフに指示を出し、動いてもらいながら見学することができる。通常では入れないフィールド上に自らが立ち、選手の至近距離を歩きまわっているような感覚を疑似的に実現することが特徴だ。

球団スタッフへの指示出しは、マイクやコントローラーを用いて行う。球団スタッフがフィールド上のスマートフォンから伝送される映像は、会場の参加者の目の代わりとして、会場の大型モニターに遅延なくリアルタイムで映し出される。


▲参加者はスタジアム内の一室から、フィールド上にいる球団スタッフに指示を出す。指示に従って球団スタッフが動き、現地の映像と音声を届ける。



▲選手たちはフィールドで直前練習に取り組む。

――ファンたちは、どのようにリモート作業代行サービス「GENCHI」を使ったのか。

ある女性は、「大地選手(鈴木大地選手)を映してください」と球団スタッフに依頼。すると、球団スタッフがフィールド上で、鈴木選手を探して移動。真横から練習する姿を映した。また「時間の許す限り、辰己選手(辰己涼介選手)をお願いします!」と伝える熱いファンも。あるいは「後ろから投げる姿が見たい」と伝える野球通の男性もいた。「ベンチの様子を見てみたい」と伝える人も多く、ベンチでくつろぐ選手を見て喜ぶ様子が見られた。

また、外国人選手に向かって英語で話しかけるファンも登場。「(英語で)好きな日本語は何ですか」と尋ねたところ、選手が「マカセテ(任せて)だ」と答える場面もあった。見学会の中で、もっとも盛り上がったのは、小山コーチ(小山伸一郎コーチ)がアップでモニター上に映し出されたシーン。会場からは拍手があがるほどだった。希望者を一巡した後、「おかわりは?」という司会者の陽気な呼びかけに対し、2回目に挑戦するファンも続出した。

本企画をリードした楽天イーグルス・岩田氏によると、ファンクラブの会員は「特定の選手が好きな人」と「野球が好きな人」の半々程度に分かれるという。今回の見学会においても、前者は特定の選手を追いかける一方で、後者はプロ選手の技術を、普段とは違った角度から見ようとする様子がうかがえた。


▲楽天イーグルスの岩田氏

――「リモート打撃練習見学会」を終えて、参加したファンたちの感想は。

参加者からアンケートを取得したところ、「フィールドに実際にいる感覚になり楽しかった。選手の練習姿がリアルタイムで見られるのは、このコロナ禍中にはありがたい体験だった」「好きな選手を、希望するアングルから見ることができて楽しかった」など、好意的なコメントが多数寄せられた。

これらのコメントに対し、本企画の立案者であるtoraru・西口氏は「“フィールドに実際にいる感覚になった”という意見をいただけて、非常にうれしかった」と喜ぶ。この“没入感”こそが、同社の提供したいものだったからだ。

「私たちは、YouTubeやオンラインツアーのような映像を見て楽しむ2次元の仕組みではなく、メタバース(仮想空間)のように自身でリアルワールドに参加していく3次元の仕組みを、“GENCHI”と名付けて呼んでいます。カメラ映像を目の代わりにし、マイク入力を耳の代わりにし、現地に入っていく新しい感覚を広げたい」(西口氏)と意気込んだ。


▲「リモート打撃練習見学会」の後、触覚伝送技術を用いた「リモートタッチ会」も実施された。参加者は別室にいる黒川史陽選手と、リモートでタッチ。タッチの触感に声をあげて驚く人もいた。「新感覚だった」などの感想が寄せられた。



▲触れている感覚をよりリアルに伝えるため、豊田合成株式会社の「e-Rubber」と呼ばれる次世代ゴムが活用された。

――初めての取り組みで、懸念や乗り越えなければならない壁はあったのか。

楽天イーグルス・岩田氏は「お客様にこのイベントの魅力を伝えられるか不安ではあった」と振り返る。しかし、いざ開始してみると、想像を超えるほど大勢の方々からご応募をいただくことができ、「杞憂だった」と安堵したそうだ。

一方、toraru・西口氏は「フィールド上の電波」に苦戦したと話す。周りに高いスタンドのあるフィールドのような谷間地形は、モバイル電波が入りづらい代表例なのだという。また、フィールドは球団関係者の中でも特定の人だけしか入ることのできない場であることから、通信可否レベルの確認が困難だったと振り返る。こうした中でも、楽天モバイル社や球団スタッフの熱意ある協力のもと、実現にこぎつけることができたと語った。

――今回の取り組みから得られた気づきや、今後の展開は。

楽天イーグルス・岩田氏は、ファンたちは選手との触れ合いを求めているが、コロナ禍という情勢下であることから、実現は難しかったと話す。しかし今回、「GENCHI」を用いることで、選手との触れ合いが実現できた。「モニターを介するため、リアル性という面でファンの求める水準に達するか懸念はあったが、実際やってみると、お客様に大きなリアクションをとっていただくことができた。満足いただけたのではないか」と評価した。今後の展開については、「他県在住者など、スタジアムに来場できない人たちに向けて、何か取り組みを実施したい」と期待を込めた。

toraru・西口氏は、電波状況によって接続できない場合の対応方法や、音質・画質の面では改善の余地があると話す。また、3次元の体験であることをより分かりやすくするため、仕組みを向上させていきたいと語る。今後の展開としては、当初の目標通り「ファンが自宅から遠隔で来場できるサービスの開発や、病気などで来場したくてもできない人たちに向けたサービスの開発などに取り組んでいきたい」と展望を述べた。

取材後記

「最先端テクノロジー」に、プロ野球という「身近なコンテンツ」を掛け合わせることで、ファンたちに新しい体験を提供した2つの取り組み。GATARIとの共創では200人もの参加者が体験し、toraruとの共創では500人以上の応募が殺到したという。いずれも、これまでスタジアムでは試されたことのない実証実験だったが、参加者たちは「最先端テクノロジー」を通じて、応援する球団との交流を存分に楽しんだのではないだろうか。今後もスタジアムという場から、新たな取り組みが続々と生まれてくることに期待したい。

(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子、撮影:加藤武俊)

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