仙台市×楽天イーグルス 実証実験に向けた経過を披露!新たなファン層を獲得する「3つのビジネスモデル」
楽天イーグルスの試合の来場者やスタジアムでの購買等に関するデータやスタジアム施設などの資源を活用し、仙台市内外のIT企業と共にスポーツ観戦をさらに楽しむための方法や仕掛けなどのアイデアを出し合う「仙台市×楽天イーグルス エンターテックアイデアソン」。
2/2〜2/3に選抜された10チームが参加したこのアイデアソンでは、以下の3チームの提案が審査員によって採択(※)。仙台市や楽天イーグルスとおよそ1ヶ月半のブラッシュアップ期間を経て各チームのアイデアがお披露目される「エンターテックアイデアソン DEMODAY」が3/21に開催された。
<採択された3チームの提案>
■チーム名 ニューロマジック『愛を待つより愛しに行く〜会いに来るイーグルス選手〜』
■チーム名 iTeam『Throw Coin -応援をもっと身近に-』
■チーム名 ずんだ組(株式会社Standbyme)『仙台丸ごとボールパーク構想』
DEMODAYのオープニングには、仙台市長 郡 和子氏が登壇した。テクノロジーの力でイノベーションを生み出し、都市の体験をアップデートしていくことを目指す「SENDAI X-TECH Innovation Project」を推進している仙台市。――こうした取り組みに挑戦している郡氏は、「街の活性化に寄与している楽天野球団とのコラボレーションによって新しい観戦のカタチを生み出すことにワクワクしている。仙台市としても最大限協力していきたい」と、期待を込めて語った。
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スポーツにテクノロジーを取り入れ、様々な課題を解決する
次に、「スポーツ×テクノロジーで地方都市を盛り上げる!」をテーマとしたトークセッションが行われた。登壇したのは、仙台市 経済局産業政策部 産業振興課長 白岩氏、楽天野球団でボールパーク構想を推進する川田氏、楽天でスポーツサービス開発部のマネージャーを務める福田氏、そしてモデレーターを務めるスポーツ庁・忰田氏の4名だ。
<画像左>仙台市 経済局産業政策部 産業振興課長 白岩靖史氏
1996年中央大学卒業、1998年10月仙台市役所入庁。2001年日本政策投資銀行地方開発部出向。その後、企画、施政方針、PFI/PPP、市長秘書を経て、2010年経済局産業プロジェクト推進課配属。2011年より、仙台フィンランド健康福祉センタープロジェクト担当。2016年より現職。
<画像右>株式会社楽天野球団 ボールパーク本部 本部長 川田喜則氏
2006年に楽天グループに入社。経理財務部門を担当し、2008年に楽天野球団へ異動。2012年から球場責任者として、球団社長である立花陽三氏と共にボールパーク構想を推進している。
▲楽天株式会社 Media & Sports Company スポーツサービス開発部 マネージャー 福田睦美氏
2008年に新卒で楽天に入社。入社から3年間はエンジニアとして、その後はプロデューサーとしてポータル系サービスを複数担当。2015年には現スポーツサービス開発課立ち上げメンバーとして携わり、東北楽天ゴールデンイーグルスのファンクラブシステムをゼロから構築した。現在は東北楽天ゴールデンイーグルス・ヴィッセル神戸のTech分野を様々な面から支えている。
▲スポーツ庁 参事官(民間スポーツ担当)付 参事官補佐 忰田康征氏
2009年、経済産業省に入省し、地域経済政策や貿易政策等を担当。2015年から2年間、オーストラリアのグリフィス大学でスポーツマネジメント修士号を取得。2017年6月からスポーツ庁に出向し現在に至る。スポーツ庁では、スポーツの成長産業化実現に向けて、スタジアム・アリーナ改革やスポーツ経営人材の育成・活用、SOIP(スポーツオープンイノベーションプラットフォーム)の推進等を担当。
まず、仙台市の白岩氏はスポーツの価値について、“地域活性化”と“健康づくり”という2点に加えて、“未来を感じられるもの”という点を挙げた。日本全体だけではなく仙台市も、さまざまな面において縮小傾向にあるが、テクノロジーとスポーツを掛け合わせることによって人間の可能性を拡張させ、将来に希望を持って生きられるようにしていきたいと白岩氏は語る。さらに、楽天イーグルスとの取り組みによって、まちづくり、産業、そして仙台市の人々にとってもプラスの波及効果が期待できると話した。
次に、楽天野球団の川田氏は、スポーツとテクノロジーの相性は「とても良い」と語る。昔は、テレビで野球観戦すれば満足していたが、今はスタジアムに足を運び、美味しい飲食やスコアボードの演出など、“体験すること”で満足してもらっている。これからはそれを超えるものが求められており、そこにテクノロジーを活用したいと言う。さらに、楽天グループのテクノロジーを駆使することで、“競技人口が伸びない”、“観戦者を増やしたい”といった課題を解決できると話した。
それに加えて、楽天の福田氏は、自社のサービスが次から次へと生まれていることに言及。さらに同社には、技術研究所があり、例えばAR・VRといったテクノロジーの先端研究も手がけている。さらに、楽天イーグルスやヴィッセル神戸といったスポーツチームのデータ分析も行っている。このような楽天のサービスや技術、ノウハウと地域経済の掛け算によって、スポーツの新しい価値を生み出すことができるのでは、と話した。
最後にスポーツ庁の忰田氏は、スポーツ庁が推進する「スポーツオープンイノベーションプラットフォーム」(SOIP)構想を紹介。国としても、スポーツとテクノロジーを掛け合わせたイノベーションに積極的に取り組んでいくことをアピールした。
3チームの“アイデア”が、実用化に向けた“ビジネスモデル”に進化
トークセッション終了後に、3チームによるプレゼンテーションが行われた。アイデアソンから、わずか1ヶ月半という短い期間の中、3チームは仙台市や楽天イーグルスからメンタリングを受けながらビジネスモデルを綿密に構築していった。実際に、どのような提案内容になったのかについて以下に紹介していく。
1.チーム名 ニューロマジック 『会いに来るイーグルス選手 〜60秒間のユニフォームデート〜』
最初に登壇したのは、ウェブサイトの企画・制作などを手掛ける株式会社ニューロマジックのメンバーで構成される「ニューロマジック」チーム。楽天イーグルスのスタジアム稼働率は9割を超え多くのコア・アクティブファンに支えられているが、全国に数百万人はいると見込むライトファンを取り込むことが今後の鍵になると同チームは分析する。
そこで、楽天イーグルスのライトファン層がより好きになって優先度をあげてもらうために、イーグルスからの「愛」を伝える場を作れないか?というアイデアが提案の起点となっている。サービスコンセプトは、『愛を待つより愛しにいく 会いに来るイーグルス選手』。仙台市内の商業施設や商店街、パートナー企業とコラボレーションし、ハコ型の体験場を設置。そのハコの中に、大型モニターや3Dデプスカメラ、音声認識といったテクノロジーを取り込み、モニターから流れる選手映像がリアルタイムに変化。「夢のバックヤードが、街なかに出現!」「CLUBゴールデンイーグルス〜銀次の部屋〜」といったストーリーをもとに、あたかも選手とやりとりをしているかのような新しい体験を提供する。
こうした非日常の世界を仙台市内の街なかで体験してもらうことで、仙台市内にワクワクを、パートナー企業に集客を、楽天イーグルスに新しい出会いと盛り上がりを生み出すというプランだ。
2.チーム名 iTeam 『Throw Coin -応援をもっと身近に-』
地元仙台のIT企業である株式会社SRA東北のメンバーで構成される「iTeam」。同チームが提案したのは、選手への想いをデジタルで届ける業界初のライブ投げ銭サービス「Throw Coin」だ。
ユーザーはアプリ上で応援コインを購入。選手を選択し、スワイプすることで、応援を送ることができる。投げ銭で応援された度合いをリアルタイムにスタジアムに表示。現在どの選手がたくさん応援されているかを感じることができ、選手に対しても応援の想いが届くようになる。仙台市街の応援の可視化も想定し、パブリックビューイングやデジタルサイネージに表示。街中から応援している雰囲気を提供する。
まずは2019年9月にWebアプリをリリース。その後はスマホアプリ化、ARアプリ化を実現させ、利用ユーザー5万人程度を目指していくという。
3.チーム名 ずんだ組 『仙台丸ごとボールパーク構想』
最後に登壇したのは、2019年に設立されたばかりの株式会社standbymeのメンバーで構成される「ずんだ組」チームだ。同チームは、「仙台市には、すぐそばに野球がある文化を作る」・「仙台をスポーツの街に!」・「東北全体をボールパークに」という3つの将来像を実現したいと話す。
そこでまずは、「仙台だと野球をキッカケに友達ができる」状態を生み出すために、初対面の人とでも野球観戦が楽しめる仕組みが必要と説いた。そこでstandbymeが提供する映画鑑賞のマッチングアプリ「cinemally」のスキームを取り入れ、野球観戦をしたい人同士を繋げることをフェーズ1とした。そして次のフェーズでは、野球観戦をエンタメ体験として楽しみ、それが球場内外で継続的に循環する仕組みを生み出す構想だ。
また、「ずんだ組」チームは、実際に「cinemally」のスキームを取り入れたアプリのデモを披露。サービス実用に向けたアピールを行った。
3チームによるプレゼンテーション終了後には、全体講評として株式会社楽天野球団 代表取締役社長 立花陽三氏が登壇。3チームの提案内容について、「新しいファン層の拡大ができるプラン。法的なリスクなども精査しないといけないが、楽天独自のテクノロジーも掛け合わせつつ積極的に取り組んでいきたい」と語った。また、仙台市による協力にも感謝を述べ、自治体と一緒に仙台を盛り上げいきたいと今後の意気込みを述べた。
取材後記
プレゼンテーションを行った3チーム中、2チームは東京を拠点している。2月の採択から短期間のなか、週1回以上オンラインなどでミーティングを重ねながらアイデアをブラッシュアップしてきた。その甲斐もあり、2月のアイデアソンよりもビジネスモデルが整理され、実用化に向けて着々と準備が進んでいると感じられたDEMODAYとなった。仙台市や楽天野球団のバックアップを受け、これからは楽天生命パーク宮城で開催される楽天イーグルスの一軍戦や、仙台市のスポットにて実証実験を進めていく。エンターテインメント×テクノロジーで人々にワクワクを提供するサービス実用化を期待したい。
(構成・取材・文:眞田幸剛、撮影:古林洋平)