【TAP Report】東急グループは24時間365日応募受付!国内老舗アクセラレータープログラム第4期Demo Dayに潜入
スタートアップ企業の支援を通じて産業の新陳代謝を促進し、日本経済の再興を図ることを目的にしている「東急アクセラレートプログラム」(TAP)。4期目となる「東急アクセラレートプログラム2018」Demo Dayが、3月20日にセルリアンタワー東急ホテルにて開催された。
今期はプログラムの変更に加え、募集領域を15に拡大。変化を恐れず、常に変わり続ける同プログラムでは、7社のスタートアップとのプロジェクトが発表された。Demo Day当日は、その共創を進めているスタートアップ各社による事業共創ピッチを開催。その中から、今期TAPの最優秀賞を決める。一体どのスタートアップが最優秀賞に輝いたのか?その模様をレポートしていく。
4期目を迎え、さらに進化するTAP。
Demo Dayは東京急行電鉄株式会社 取締役社長・髙橋氏の挨拶からスタート。社会の変化に対応して、可能性のあるスタートアップと新しいビジネスを創りながら、オープンイノベーションを推進していくTAP。――「今期はプログラムを大幅に変更し、質、量、スピードを向上させた」と髙橋氏が振り返りを行った。
続いて、東京急行電鉄株式会社 事業開発室プロジェクト推進部 プロジェクトチーム課長補佐/TAP運営統括・加藤氏より、TAPの概要説明があった。今までの募集、審査、実装のプロセスにおいては、期間を区切っていたことにより、スタートアップが求めるスピード感を実現できていない時もあったと語る加藤氏。その反省から、今期からは24時間365日、応募を受け付け、毎月審査を行い、フレキシブルにPoCにトライできる仕組みに変更。これは、国内のアクセラレータープログラムでは、TAPだけの試みだという。
更には応募対象をスタートアップだけでなく大企業にも拡大。その結果、応募数は1年間で過去最高の153件を記録した。(過去累計では503件の応募数)さらに、開始当初は応募領域が3領域だったのが、現在は15領域までに拡大。来期も様々な取り組みを行い、日本のオープンイノベーションを推進させていくと加藤氏は話す。
また、事業共創ピッチ前に、内閣府 政策統括官 科学技術・イノベーション担当付イノベーション創出環境担当企画官 石井氏が挨拶に駆けつけた。「TAPは日本のオープンイノベーションの先駆けとして走り続けてきた。そして、その功績は非常に大きい」と壇上で語った。さらに、これからもスタートアップと大企業がWIN-WINになるようなアイデアを発信してほしいと、今後の期待を述べた。
採択企業7社による事業共創ピッチ
TAPのDemo Day に登壇した7つの事業共創から最優秀賞を決定する。スタートアップの各代表者がプレゼンテーションを行い、これまでの取り組みや成果を発表した。
●組織実行力を高める双方向動画×OJT変革サービス
ClipLine株式会社 代表取締役 高橋勇人氏
短い動画を桁違いに活用して、人手不足を解消するサービスを目指すClipLine。東急建設との共創によって、建設業界の人手不足や技術伝承の実現を目指している。
伝えたい技術を短尺動画(クリップ)にし、それをまとめることでカリキュラム(ToDo)を作成。現場はToDoに沿って新人を育成し、新しいノウハウは動画としてクリップに保存。使えば使うほど、企業のノウハウがたまる仕組みだ。導入した企業では、離職率を1/3まで削減できたり、新人教育時間を1/4に短縮。現在では6000店舗で使われ、1万2000人が視聴、クリップは20万本以上、再生回数は1000万回以上となっている。
東急建設との共創では現場作業で必要な手順をクリップにまとめ、この春から研修に導入し、新人育成に活用する。そして、将来的には人手不足に悩んでいる建設業界全体に展開。「OJTよりも低コストで人材育成が可能になるこのサービスにおいて、今後はビジネスモデルをきっちりつめながら展開していく」と高橋氏は今後の展望を語り、プレゼンテーションを締めくくった。
●家具業界最大の200万点超の3Dデータを元にAR/VR/マーケットプレイスを展開
株式会社リビングスタイル 代表取締役CEO 井上俊宏氏
東急百貨店との共創によって、インテリアの購入をもっと楽しく、快適にする取り組みをプレゼンテーションしたリビングスタイル。デジタルで自由にインテリアが選べ、コーディネートでき、ワンクリックで購入できる。さらに、インテリアのオムニチャネルまで実現する。
「インテリアを購入する際には値段やメーカーよりも、デザインを統一し、空間をまとめることが一番のニーズであるというアンケート結果がある。その結果をもとに、『RoomCo』(ルムコ)というメディア上に、プロによるインテリアコーディネートのサービスを開始した」と話す井上氏。このサービスでは、スマホ画面でインテリアコーディネートの提案を受けることができる。好きなインテリアのテイストを選んで、欲しい家具、予算、間取りを送信すると、一週間以内に提案が送られてくる。家具の商品情報も入っているため、購入までの動線も計算されている。これまでに累計で250件の相談があり、95%以上のユーザーが満足し、口コミでサービスも広がっている状態だ。
東急百貨店も年々、家具売り場の面積が減少している現状がある。そこで、このアプリでインテリアを提案し、百貨店で実際に商品が見れるように連動させ、オムニチャネルを実現。東急線沿線は目黒など「インテリアショップの聖地」とも言うべき場所もあるため、そういった場所を中心にしながら、東急線沿線を盛り上げていく狙いだ。
●10代の女の子のためのトレンドメディア、及びイベントの企画・運営
株式会社超十代 代表取締役 平藤真治氏
ティーンズカルチャーテックサービスを展開する超十代。同社は十代の「やってみたい・見てみたい・触れてみたい」を叶えることを目指している。
具体的には、体験型の「超十代フェス」や、十代なら誰でも参加可能な人気インフルエンサーの“部長”と一緒に夢を実現させる「超十代ブカツ」、十代のマストファッション、ビューティー、ライフスタイルなどを発信する「超十代メディア」などを通じて、新たなティーンズカルチャートレンドを創出していく。この取り組みによって、SHIBUYA109エンタテイメントのビジョンである、Making You SHINE!に共感してもらいながら、世界中の若者に新しいムーブメントやカルチャーを提供する。
こうした取り組みを、世界を代表するランドマークSHIBUYA109で実施。そうすることで、世界中に「ヒト・モノ・コト」の発信による共感と感動や新しい世代の活躍する場づくりを実現させていく。日本や中国をはじめ、世界中に様々なソーシャルメディアを活用したライブ放送によるライブコマース番組やエンタメ情報番組なども配信していく構想だ。
●1着1秒での試着を実現する3D試着サービス「Kimakuri」
株式会社ブルームスキーム 代表取締役CEO 中里裕史氏
同社がプレゼンテーションした「Kimakuri」は、若者の購買ニーズが多様化している中で、新しい購買体験の検証を行うサービス。デジタル、リアルの融合により、今までにない買い物の楽しさを創造する取り組みだ。
「Kimakuriによって、服を着まくれることができる世界観を目指す」と語る中里氏。服を探すプロセスは、店を探して、試着して、また店を探して、試着という繰り返し。ECも同様に、注文された服が届くのを待って、いざ試着すると似合わず返品。こうした、服に対するガッカリが蓄積されると、どんどん購買意欲が低下してしまう。
そこで、購買意欲をかき立てるため、「Kimakuri」がAIによってスマホからコーデを提案。自分そっくりのアバターが試着し、3Dによって360°から試着姿を見ることができる。1日分で30コーデ、1カ月で1000コーデ、1年で12000コーデを可能にする。「一生涯の試着数をこえる、それが1年でできる」と熱く説明する中里氏。すでに体験版をリリースしており、アバターと服を試着させる部分を自動化する技術は特許も出願中だ。
今後は、東急グループ全てのECサイトに試着ボタンを設定し、アバターの試着を可能にする構想だ。さらに、リアル店舗にある服も提案することで、来店促進にも繋げる。この夏に渋谷109のIMADA MARKET (イマダマーケット)にて、実証実験を開始する予定だ。
●再配達をなくすスマートフォン連動型置き配バッグ「OKIPPA」
Yper株式会社 代表取締役 内山智晴氏
コンビニなどでも宅配ボックスは設置されているが、実際には使われてないのが現状だ。なぜなら、配達の9割が自宅希望となっているからだ。また、集合住宅の共用部などに、スペースの関係で宅配ボックスが置けないケースもある。
そこで、「OKIPPA」では、バック式の宅配ボックスを玄関ドアの外側にかけておき、その中に配達物が入れられると完了の通知が専用アプリに表示される。この実証実験を30代共働き世帯に実施し、1カ月で6000個もの荷物を受け取った。不在率は51%にも関わらず、再配達を61%削減することに成功。「ユーザー満足度も高く、8割の人が及第点の60点以上をつけ、94%の配送者がこれからも使ってほしいと答えた」とその結果を内山氏が発表。今後は、100万個の設置を目指す方針だ。
さらに、東急グループのConnected Designが提供するホームセキュリティに、「OKIPPA」を組み合わせることで、コストを抑えつつ集合住宅などに付加価値を与えていく。住む人と建物オーナー、そして配送者、全ての人が満足できるサービスへと成長させていく構想となっている。
●不動産/飲食プロデュース/ITプラットフォームで料理人起業家を一貫支援
株式会社アスラボ 代表取締役 片岡義隆氏
「場所と料理人の力で、街や暮らしを豊かにすることを目指すのがアスラボ」と述べた片岡氏。過去には廃墟同然だったテナントビルに、特徴的な飲食店を多数出店させ、料理人の力で見事に復活。ビル周辺にも店舗ができ始め、街全体が活気を取り戻した。飲食業は廃業が多く、それを防ぐためには起業支援と経営支援の2つのサポートが必要だと考える片岡氏。
起業支援では、店舗設備を20万円で提供するなど、起業しやすい環境を作り上げた。経営支援では、ホールスタッフを店舗同士でシェアすることで、人手不足を解消。シェアリングと経営管理で労働時間を削減し、利益率が業界平均の7倍という数字を叩き出す。起業から経営まで一貫してサポートし、全国で50の企業をサポートした。
東急百貨店との取り組みでは、新しい食体験を作り上げる。地域の希少食材を使ったフェアを実施し、フェア会場だけでなく通常の店舗でもその食材を使った料理を提供。これからも、日本全国に眠る希少食材を掘り起こし、その魅力伝えていく。さらに、お客様からも食材などの希望を聞き、参加型のフェアへと展開させていく狙いだ。
将来的には、東急線沿線でのアスラボ横丁の展開も目指していく。
●ファッションの新たな体験を創造し、オシャレを楽しむ全ての人を応援する
株式会社STANDING OVATION 代表取締役 荻田芳宏氏
「服がたくさんあっても、どう組み合わせるか分からない。でも、いつも同じ服を着ていると思われたくない」――そんな声に応えるため、ユーザーのクローゼットを見える化し、AIが手持ちの服の組み合わせを提案するオンライン・クローゼットアプリ「XZ(クローゼット)」を開発したと話す荻田氏。
手持ちの服を撮影、登録することでコーデの提案が受けられる。現在、アプリは80万ダウンロードにのぼり、900万点の服が登録されている。このアプリを使用すれば、店舗に行った際にユーザーが自身のデータを店員に共有することで、精度の高い服の提案を受けることができる。
今後は、AIによるコーデ提案の精度を上げていくことを目標とする。さらに、ユーザーの体型や好みのファッションからも、提案が行えるようにしていく。また、憧れのインフルエンサーやファッションアイコンを登録して、彼らのスタイルを持っている服からコーデができるようにする予定だ。
ライトニングトーク
事業共創ピッチに続いて、スタートアップ4社によるライトニングトークが行われた。その模様をお伝えしていく。
●非金融事業者が金融サービスに参入するためのプラットフォームを提供
株式会社Finatextホールディングス CEO兼 株式会社スマートプラス 取締役 林良太氏
「次世代証券ビジネスプラットフォームを作り上げることを目指す」と語る林氏。大手証券会社で資産運用を行なっているのは400万人とまだまだ少ない数字。資産運用の裾野を広げるため、次なる資産形成サービスを提供していくことを目指している。
●5800人から相性ピッタリの先生を選べる語学レッスン予約サービス
株式会社フラミンゴ 代表取締役社長 金村容典氏
フラミンゴでは、日本で働く外国人語学講師とレッスンを求めるユーザーをマッチングさせるサービスを提供。外国人が働くことがまだまだ難しい日本で、その壁を取り払う可能性を持っている。スキルの高い講師は、法人向けのレッスンを行うことも可能になっている。
●契約業務を効率化させるAI契約サービスAI-CON(アイコン)
GVA TECH株式会社 代表取締役 山本俊氏
このサービスでは、AIによって契約書作成を自動化。スタートアップはもちろん、法律事務所も導入している。また、過去の契約書のデータベースと連携させることで、大企業向けにシステムをカスタマイズすることができる。
●脳科学に基づいた、3歳からの出張料理教室
株式会社Hacksii 代表取締役 髙橋未来氏
子ども向けの出張料理教室を展開するHacksii。最大の特長は、アクティブラーニングをキッチン学メソッドとして確立し、子どもの脳の発育に貢献する点だ。このメソッドによって、「子どもたちが自分でアイデアを生み出せる人材になれるように育成していく」と髙橋氏は語る。
東急グループのイノベーション実例
次に、現在東急グループで進行しているイノベーションプロジェクトが2件発表された。
●東急電鉄鉄道電気設備の保守管理に対するAIを活用した実証実験
FRACTA, Inc. Principal Data Scientist 羽鳥修平氏
アメリカでは水道管の老朽化で漏水が24万件発生し、その更新に110兆円が必要とされている。その課題解決をするために、水道管事故を事前に予測するAIをフラクタが考案。「今後は、様々なインフラの領域にチャレンジすることを目指し、鉄道領域にも事業を拡大していく」と語る。鉄道においても、日々の安全のために点検作業が必要であるが、設備や車両自体の老朽化が問題となっている。そこで、フラクタのAIを活用した、電気設備の故障予測などの実証実験を実施。今後もAIを活用した、鉄道に関わる維持管理を推進していく予定だ。
●落書き等に悩む壁面を活用した街まるごとメディア事業
東京急行電鉄株式会社 事業開発室プロジェクト推進部 イノベーション推進課 片山幹健氏
渋谷の街全体をメディアとして情報発信する「ROADCAST(ロードキャスト)」。ニューヨーク・ブルックリンの落書きをアートに昇華させたことで、その場所が観光地に変わり、企業進出も行われた事例をモデルとしている。落書きに困っている渋谷のビルオーナーが持つ壁面を借りて、メディア化させるビジネスモデルだ。過去にはビームスと連携し、アーティストの協力を得て、渋谷ストリートミュージアムを開催。SNSでの投稿やメディアにも取り上げられ、街のにぎわいと企業プロモーションを実現。「東急以外のビルオーナーにもより多く参加してもらえるように、成長させていきたい」と片山氏は話す。
事業共創ピッチ結果発表
そして、「東急アクセラレートプログラム2018」Demo Dayの最後に、各賞の発表が行われた。Demo Day出席者による投票の結果、「オーディエンス賞」は、【10代の女の子のためのトレンドメディア、及びイベントの企画・運営】を展開する超十代に贈られた。また、「審査員特別賞」は、【組織実行力を高める双方向動画×OJT変革サービス】のClipLineと【1着1秒での試着を実現する3D試着サービス「Kimakuri」】のブルームスキームに決定。
優秀賞には、【再配達をなくすスマートフォン連動型置き配バッグ「OKIPPA」】のYperが選ばれた。そして、最優秀賞に輝いたのが、【不動産/飲食プロデュース/ITプラットフォームで料理人起業家を一貫支援】を展開するアスラボとなった。
取材後記
4期目を迎え、プログラムを大幅に変更したTAP。その甲斐もあり、過去最多の応募数を記録。そして採択された7つの共創事業の中から、見事に【不動産/飲食プロデュース/ITプラットフォームで料理人起業家を一貫支援】を展開するアスラボが最優秀賞に選ばれた。これからどのように社会実装されるのか、他の共創事業とあわせて注目していきたい。そして、第5期目を迎えるTAPでは、どんな革新的アイデアが生まれるのか?今から期待に胸が膨らむ。
(構成・取材・文:眞田 幸剛、撮影:古林洋平)