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新しい移動の概念を作り出す。日産がオープンイノベーションの先に見る世界

新しい移動の概念を作り出す。日産がオープンイノベーションの先に見る世界

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新型コロナウイルスによって人々の移動への意識は大きく変わった。電車のような画一的な移動から、車・バイクやタクシーなど個別の移動が再注目されている。しかし、その流れは決してコロナショックに始まったことではなく、以前より起きていた変化に対し、新型コロナウイルスが拍車をかけたと言ったほうが正しいだろう。

ライフスタイルが急速に変化し、かつ多様化する現代において、人と車の関係を見直す時期が来ているのかもしれない。日本を代表する自動車メーカー・日産もまた、新しい価値を作り出すために頭を悩ませる一社だ。

これまでも他社との共創で新たな価値の創出に力を入れてきた同社。今回、新たに神奈川県のアクセラレータープログラム「BAK NEW NORMAL PROJECT 2021(以下、BAK)」にパートナー企業として参加することで、オープンイノベーションを加速するつもりだ。

「私達には大きなリソースはあっても、アイディアやアジリティが足りない。」

そう謙虚に語るのは、商品企画本部商品中長期ビジョン戦略部主管の平野 剛志氏。今回は同社のオープンイノベーションを推進している三好健宏氏とともに、BAKへの意気込みを聞いた。

BAK NEW NORMAL PROJECT 2021…コロナ禍で顕在化した様々な課題を、神奈川県の企業とベンチャー企業との共創で解決を目指すプロジェクト。


大きな課題に取り組むためには、オープンイノベーションが欠かせなかった

まずはコロナによって事業にどのような影響があったのか教えてください。

平野:コロナによって最初に起きた変化は、電車やバスなどの公共交通などを避け、バイクや自転車などの個別のモビリティを活用するようになったことです。リモートワークなど、多様的な働き方が普及し始めると、その傾向はより強くなり、最近では車の中で生活や仕事をする「バンライフ」というライフスタイルにも注目が集まっています。


▲商品企画本部商品中長期ビジョン戦略部主管・平野 剛志氏

しかし、このような変化は今に始まったことではなく、以前からMaaSやスマートシティという文脈で注目され始めていたもの。新型コロナウイルスによる影響は、その変化のトリガーになったものだと思っています。

新型コロナウイルスによる変化は、以前から起きていた変化の延長だと。

平野:強いて言うなら、医療の分野で新しい活用がされるようになりました。ミニバンを改造して車の中で診察をしたり、感染対策をしながら患者さんが移動できるように活用されています。

ただし、大きな変化を見ると、これまでの変化の延長と言っていいかもしれません。

業界が大きく変化しているなかで、日産としてどのようなビジョンを掲げているのか聞かせください。

平野:私達が最も注力しているのは「カーボンニュートラル」、つまり脱炭素社会の実現です。国としても2050年までにカーボンニュートラルを実現すると謳っており、私達も自動車メーカーとしてサステナブルな社会への実現に貢献したいと思っています。

しかし、CO2の排出を抑えるためにはハードウェアの改革だけでは限界があります。ソフトウェアの活用や、新しい移動のアイディアなど、多面的な取り組みが欠かせません。しかし、私達にはリソースはあってもアイディアやアジリティが足りないのが課題。そこで新しい価値を生み出すためにも、ここ数年オープンイノベーションにも注力してきたのです。

自動車メーカーだから思いつかないアイディアで、新しいベネフィットを作り出していく

これまでのオープンイノベーションの取り組み実績について教えてください。

三好:これまでVC活動の一環としてプラグアンドプレイ(PnP)との共創で、ベンチャー企業と様々な機能や新しい挑戦をしてきました。大きなプロジェクトとしては、2018年に株式会社ディー・エヌ・エーと共同推進した無人運転車両を活用した「Easy Ride(イージーライド)」が挙げられます。横浜では実証実験も行い、神奈川県の「さがみロボット産業特区」における重点プロジェクトにも位置づけられています。

他には、日産横浜工場の生産性を挙げるために、ベンチャー企業とマッチングに取り組んだ事例があります。


▲三好健宏氏

これまでの取り組みを振り返って、どのように評価されていますか。

平野:正直、まだ取り組みを評価する段階には来ていないと思っています。

また、これらの取り組みは成功か失敗かで評価するようなものではなく、常に気づきを得ながらブラッシュアップしていくもの。今回「BAK」に参加したのも、これまでの気付きからソフトウェアの重要性に気づいたからです。

三好:よくも悪くも私たちの事業は、IT企業に比べて時間軸が長くなりがちです。車の開発は2~3年以上要するものが多いので、短期的に成功失敗の判断をするのではなく、全てを経験として受け止めて長期的な視点で取り組んでいきたいと思っています。

BAKを通して、期待している成果があれば教えてください。

平野:私達が目指しているのは、ユーザーに対して新しいベネフィットを生み出すこと。これまではハードウェアの力だけで新しい価値を生み出してきましたが、それだけでは限界があります。

ユーザーにとって、モビリティの使い方や買い方さえ変わっている中で、どのようなサービスが最もユーザーにフィットするのか考えなければなりません。しかし、残念ながらそこは私達にとっての弱点なので、ベンチャー企業から臨機応変な提案を期待しています。

三好:私達もユーザーにとって新しい価値を届けるために、日々アイディアを練ってはいるものの、それは車中心の発想から抜け出ていません。例えば「ゴルフをする人がどんな車なら使いやすいか」「安心してドライブできるように換気性能を高めてみよう」といったアイディアしか出てこないのです。

しかし、ユーザーに新しい価値を届けるには、一旦車から離れて日々の生活から考えてサービスを構築していかなければなりません。これまで車作りばかりしてきた私達にとって、そこに限界を感じています。ベンチャー企業に限らずとも、異業種の会社と組むことで、私達にない視点を取り入れていきたいですね。

共創で実現を目指す5つのテーマ

具体的に今回のプロジェクトで想定しているテーマについて教えてください。

平野:テーマは大きく次の5つです。


運転スキルの見える化

1つ目は「運転スキルの見える化」。以前から、「免許は持っているけど、運転は苦手。しかし、生活環境の変化で運転せざるを得なくなった」という方がいるのは認識していました。例えばコロナにより電車利用を避けるため運転せざるを得なくなったものの、運転が苦手で不安を感じていると方の話も聞いたことがあります。

もっと多くの人に車に乗る体験を楽しんでもらうために、例えば運転スキルを点数で表示し、ゲーム感覚で自然と運転がうまくなるシステムを開発しようと思っています。楽しみながら学ぶことで、できるだけ多くの方に車の運転を楽しんでもらいたいです。


パーソナライズされた移動の提案

続いては「パーソナライズされた移動の提案」です。今は密にならない移動が求められていますが、それは簡単なことではありません。例えばレストラン1か所に行くだけなら、店の混雑状況だけを調べればいいですが、目的地が複数あったり制限時間がある場合はどうでしょう。

土地勘のない場所で「3時間以内に、密にならずにAとBに寄った後に食事して帰る」といったプランを立てるのは大変ですよね。私達が実現したいのは、ビッグデータを活用して細かい条件にも対応したうえでも密を避ける賢い移動の提案をするサービスです。

社内外でも楽しめる観光

3つ目は車内外のカメラやセンサーを活用し、運転中に写真や映像を撮影・共有できるサービス。どのようなルートを通って移動したのか、ストーリー立てて思い出に残せます。

最近では、スマホやPCに入っている写真を勝手に整理して、「1年前の思い出」といったように提案してくれますよね。単に写真を撮るだけでなく、記録された写真や映像を整理して、また旅行に行きたくなるような思い出作りを提供できればと思います。

安心・安全かつ効率的な周遊によって、最適なモノ・コトに出会える

4つ目はビッグデータを活用して、安心安全にヒトやモノを繋ぎ、効率的な移動を実現するサービス。例えば旅行の行き先や目的で相性のいいユーザーをマッチングし、効率的な相乗りを実現します。

公共交通のような大きな集団でも一人でもない、「小さな集団」での移動を促進することで密を防げます。また、リアルタイムでお店の混雑状況が分かれば、効率的に人を分散して安心・安全な移動を提案できるでしょう。

非対面での物流・出荷の支援

最後は物流に関してです。農家などのエッセンシャルワーカーは、出勤や出荷など人との接触を避けられません。

出荷側が効率的に集配を代行できるようになれば、人の移動や対面を最小限に抑えられます。将来的に自動運転技術と組み合わせられれば、人同士の対面をゼロに抑えられるでしょう。


大企業のプロセスを理解してくれるベンチャー企業と組みたい

プロジェクトを実現するために、どのようなベンチャー企業を探していますか。

三好:いずれのプロジェクトも一つだけの技術だけで実現できるわけではないので、特定の技術に絞るのは難しいですね。ベンチャー企業のコア技術を一つのプロジェクトとして束ねたいので、使えそうな技術を持っている会社とは幅広く組んでいきたいです。

強いて言うなら「大企業のプロセスがわかっている企業」と組みたいです。例えばスマホアプリは半年で作れますが、車は3~5年は必要です。それは決して私達が大企業病で遅いわけではなく、命のかかっているものを作っているからそれだけ慎重な検証が必要だからです。

「大企業は決断や開発が遅い」ではなく、なぜ大企業の開発がそれだけ時間をかけているのか、そこをご理解いただいた上で共創したいですね。

これまでもオープンイノベーションを実践してきた中で、今回のBAKで新しくチャレンジすることがあれば教えてください。

三好:こんなにテーマを絞ってベンチャー企業を募集するのは初めてです。これまではベンチャー企業ありきでアイディアを拡げていくことが多かったので、今回どんな提案をもらえるのか楽しみにしています。

平野:これまでもテーマを決めてからベンチャー企業を探すことはありましたが、これまではミッシングピースを探してきました。例えば自動運転を実現するなら、不足している技術を持った会社を探すといったように。


今回はテーマは決まっているものの、技術領域ではなく「目指したい社会」を掲げての募集です。広く提案を請けるので、私達にとっても新しいチャレンジだと思っています。

ベンチャー企業と共創していく上で、どのようなリソースを提供できますか。

平野:一つは私達の調査部隊です。市場調査を専門に行っているチームがいるので、調査設計や法規動向について詳しい情報を提供できます。経産省や国交省とのコネクションも活用しているので、より深い情報を提供できるはずです。

2つ目はハードウェアです。共創を進めていく上で、車を改造する必要があれば好きなだけ提供したいですね。車を提供するだけでなく、専門の技術者もいるので、どのように改造し、どのようにデータを吸い上げるかなどの相談にも乗れますね。私達もソフトウェアを作っている部署がいるため、いかにソフトウェアを車と融合させるか、その知見は提供できるはずです。

また、ビジネス検証に行く場合は、私達のビジネスプランニングと連携して、一緒にビジネスを作り上げてもらいます。

最後にプログラムに応募するベンチャー企業へのメッセージをお願いします。

平野:今回は私たちも一緒に学んで行きたいと思っています。ベンチャー企業のアジリティの高さやクリエイティブの部分はぜひ学びたいですね。私達のリソースも惜しみなく提供するので、Win-Winの関係を築けたらと思います。

三好:最近TVを見ていて思うのは、新型コロナウイルスにまつわるCMだらけで各社の対応がとても早いということ。私達もスピーディに事業を展開していかなければならないと思っているのです、ベンチャー企業の方々にぜひ支援してもらえればと思います。実験だけでなく、社会に実装して価値を届けるところまで一緒にやれたら嬉しいですね。

●「BAK NEW NORMAL PROJECT 2021」のパートナー企業・日産の詳しい募集テーマはこちら(応募締切:7/26まで)


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BAK NEWNORMAL PROJECT2021

BAK NEW NORMAL PROJECT 2021とは、新型コロナウイルスの感染拡大により、顕在化した様々な課題を神奈川県の企業とベンチャー企業との共創で解決を目指すためのプロジェクトです。