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【連載/4コマ漫画コラム(71)】 新規事業担当者やイノベーターが持つべき倫理観

【連載/4コマ漫画コラム(71)】 新規事業担当者やイノベーターが持つべき倫理観

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今回のお題は「新規事業担当者やイノベーターが持つべき倫理観」。実は毎回、「お題」は本コラムを担当して下さっているS氏からもらって、後は私が自由に4コマとコラムを書くスタイルでやっているのですが、今回のはいつにも増してとても難しいお題です。

確かに、最近は「倫理観」を疑うような事件が当たり前のように勃発している感じがします。日本で最近発生した大手通信会社間の転職に伴う重要機密情報持ち出し事件もその一つですし、大手企業がベンチャーの模倣をしたり特許を侵害したりして訴訟になっているのも倫理観の欠如を感じます。何よりトランプ元大統領の発言や行動の多くに違和感があるのも倫理観の違いとも言えるかもしれません。

新規事業へ踏み出せる倫理観

私のお仕事は「新規事業のメンター」です(気持ちの上では「&漫画家」も、ですが)。

「新規事業のメンター」として、様々な新規事業創出のお手伝いを行ったり、会社の中の若手に「新規事業を起こしたり携わったりするのは、とっても面白いよ」と背中を押して心に火をつけたりする講習や研修を行っています。

その際、「倫理観」に関係することでよく伝えているメッセージがあります。

「悪いことをしなければいい」です。

そして、「悪いこと」とは「人間として悪いこと」と「法律を犯すこと」と説明しています。

大抵の場合(特に大企業の若手社員の場合)、「新規事業に踏み出せない理由」の根底にあるのが「なんとなく怖い、不安だ」ということです。そこで、「大丈夫だよ~、悪いことをしなければ何に挑戦しても会社をクビになったりしないから」という文脈での背中を押すメッセージとして伝えています。

加えて、「恐らく皆さんの中で六法全全書を読破して完璧に覚えている人はいないと思う。それでも毎日イチイチ『これはもしかしたら法律を犯しているのではないか』という不安に駆られずに生活できているのは、法律も基本は『人間として悪いことをしなければ犯すことはない』という風にできているからだ」と解説しています。

むしろ会社に入って、同じ風土の中で暮らし続けている内に「社内のおかしな当たり前」が人間としての自分を侵食していってしまい、気が付かないうちに「人間として悪いことをしてしまう」ことがあちこちで散見されます。大企業で時々起こるデータ改竄や脱税などの不祥事やパワハラもその例でしょう。また、「下請法」に抵触したことをやってしまうのも「人間としてどうなのか」を疑わざるを得ません。

新規事業の開発はチャレンジそのものです。チャレンジをしながらも「人間として悪いことをしない」だけは何が何でも守っていくべきです。ただ、具体的に考えていくと「これってどうなの?悪いことなの?悪いことじゃないの?」と悩んでしまうことが沢山あるのも新規事業の特徴です。ここからは、私も悩みながら書くことにします。

以下、倫理観の根幹をなしている二つのことを取り上げてみましょう。

倫理観1「人を傷つけてはいけない」

他人を傷つけるのは悪いことです。

でも全く他人を傷つけずに新しいことはできるのでしょうか。

世の中を変えるくらい大きな変化を生む「破壊的イノベーション」。この名称にもあるように、素晴らしいイノベーションは既存のものを破壊するのです。そうすると当然それまでの事業をやっていた人たちを傷つけます。それでも「以前より素晴らしい新しい世界が来るのであれば、それはOKとすべきでしょう」というのが現在の世界の常識なのでしょう。本当にそれでいいのでしょうか、と悩みます(が、それほど大きなイノベーションを起こしたことはないけれど)。

また、それに比べるととても小さな話ですが、新規事業を創るための初期段階においてメンバーを社内公募などで集めると、既存事業部にとっては痛手になります。昔、私も社内公募で人を集めた時に、既存事業部のお偉いさんから呼び出されて「人さらいめ!」と怒鳴られたのを思い出します。

「人を傷つけたくない」という優しすぎるかもしれない倫理観は単に「古い」で片付けられるものなのでしょうか。深く考えると悩みます(が、寝られないほど悩んだことはありませんが)。

(ちなみに私の4コマ漫画にも結構「毒」があって、特定の個人への攻撃にはならないように気を付けているのですが、それでも誰かを傷つけているかもしれません。だって毒がないと面白くないもん(^o^;))

倫理観2「盗んではいけない」 

盗みは悪いことです。モノを盗むことだけでなく、無形のアイデアや知財を盗むのも悪いことです。

でも、このこともよく考えるととても難しい。

人は言葉を学ぶのも親の言葉の真似から入ります。そして、様々な知識も学習や勉強を通じて、昔の人が培ってきた知恵や知識を吸収しているのです。おかげで人類はここまで発展してきたのは間違いありません。

そういう「真似る」「吸収する」ということと「盗む」は紙一重です。人の真似をする、人から吸収する時にイチイチ全ての許可を得たりはしません。

既に歴史上の逸話になっていますが、スティーブ・ジョブズがPARC(パロアルト研究所)を訪れてAltoのGUI(グラフィカル・ユーザ・インターフェース)に感銘を受け、それをある意味「盗んで」その後のマッキントッシュにつなげたことなどは、本当に倫理上いけないことだったのでしょうか。「いけないかどうか」と言われると確かに「いけない」気がします。でもそのおかげで今の世界はあるのです。PARCだけがそのアイデアを保有し続けていたとしたら、今の使いやすいUIは存在しなかったとも言われています。

特許についても、今は「他社が真似できないように参入障壁を作る武器」として捉えられている場合が多いですが、元々、Patentという言葉の語源はラテン語のpatentesで、その意味は「公開・open」だったのです。

つまり、他の人が真似できるようにすることが特許の本来の目的で、アイデアや技術を生み出した人が自分だけの秘密にせずに広く世の中の人に使ってもらうための制度だったのです。そのために「特許権」を明確にして、期限付きでその権利を売れるようにしたのです。言い換えれば、お金さえ出せば真似していいよ、みんなで真似してね、ということだったのです。それが国の発展や人々の生活改善につながると考えた制度でした。

こう考えていくと、単純に「盗んではいけない」で思考停止していていいのか、悩みます。

新規事業は自分の頭と心で

こういう悩みは出来上がった既存事業だけを粛々とこなしているだけでは中々味わえません。あれこれ悩むことができる新規事業は、自分で乗り越えていかなければならないので、大変だけど楽しいのです。ご自身の倫理観をしっかり持って、悩みながらも前進していってください。

(できれば「倫理観の磨き方」も書いてみようかと思ったのですが、どうやると磨けるかなんて聖人君主でもない私には無理でした。)



■漫画・コラム/瀬川 秀樹

32年半リコーで勤めた後、新規事業のコンサルティングや若手育成などを行うCreable(クリエイブル)を設立。新エネルギーや技術開発を推進する国立研究開発法人「NEDO」などでメンターやゲストスピーカーを務めるなど、オープンイノベーションの先駆的存在として知られる。

▼これまでの4コマ漫画コラムがアーカイブされている特設ページも公開中!過去のコラムはこちらをご覧ください。

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