【連載/4コマ漫画コラム(36)】 新規事業担当者の評価
よくある新規事業担当者の話
A君が、社長の鶴の一声で新設された「新規事業なんとか部」に自ら手を挙げて意気揚々と異動してきたのが1年前。既存事業の「こなす業務」から一転、あれもこれも不確実なことばかりに挑戦を続けてきた充実した日々。でも、最近、当初の「やる気」に影が差してきた気がする。
人事評価が芳しくないのだ。
既存事業部にいる時は、日々の業務に真剣に取り組んでいれば、充分によい評価が得られていたのに。
「一体、自分の何がどういけないのか」
そういう疑心暗鬼の芽が生まれてきている。
「失敗を恐れるな」「リスクを取れ」という上司からの掛け声は聞こえてくるけれど、どうも既存事業にそのままいる同期の方が出世も早いし、ボーナスもいいみたいだ。
「ま、仕方ないんじゃない?新規事業なんて、結局会社の業績には何にも貢献していないからな」と、同期の飲み会で冗談半分で言われたことが頭に残っている。
A君は自分は新規事業に向いていると今も思っているし、評価を気にしすぎることもない。むしろ「会社のリソースを使わせてもらえて」「面白い」「ワクワクする」に価値を見出している。それでも……この前向きな気持ちがいつまで続くのかちょっと心配になってきている。
本気?
こういう状態があちこちの会社で散見されます。これでは優秀でやる気がある新規事業の担当者が潰れるのを会社は待っているのも同然です。
問題は、会社・経営陣の「新規事業創出への本気度」です。
本気であれば、「どのように評価して新規事業担当メンバーが活躍するエネルギーを保てるようにするか」ということを経営の大きな課題として取り組むべきです。
「新規事業をやっています」と「言うだけ」「格好つけるだけ」の場合は、その本気度の薄さが「評価の仕方」で露呈します。
難しいけれど
ところが、「新規事業の業務を評価」することは難しい。既存事業であれば、例えば「業績(売上など)」「品質問題の数」「発売予定に向けたQCDの達成」など、既存事業に必要な「定量的なこと」をモノサシにしやすく、それを評価に直結すればいいだけです。
ところが、新規事業ではこのコラムで何度か書いたように(→例えばこちら)、不確実な事柄を進めるためには、『仮説を立てて』『やってみて』『何が分かったかを活かし、次の仮説(そうか、なるほど、そうかも)を立てる』という、定量化が非常に難しいサイクルを回すしかなく、相談に乗りながらどう指導し、評価していくかがマネージャーの力量に委ねられます。
そのため、まずはマネージャー自身が、「新規事業創出の重要性」と「不確実な事柄の進め方」をしっかりと認識して身につけておかなければなりません。そうでないマネージャーを放置してその立場にそのまま置き続けるのは経営の怠慢です。教育をするか、すげ替えるか、社長を筆頭とした経営としての大きな課題として常に注視・注力すべきことです。
新規事業の推進に成功している会社は必ずこういう風に「中間管理職」でもしっかりと経営の意向を理解し、進め方の基本を実行しています。(裏返せば、ダメな会社の多くはここの層が問題であることが(本当に)多いです)
評価は何のため?
さて、評価は、何のためにやるのでしょうか?
「よくやった」という『ご褒美』という面と、「これから会社でもっと活躍してくれ」という『期待』のためです。もちろん、その組み合わせが、本人のモチベーションをアップさせて、現在と未来の会社をしっかり支えてもらうことにつながります。
では、「未来の会社」を作るために頑張っている新規事業担当者にだけ良い評価を与えることができるかというと、そうはいきません。当たり前ですが、特に「ご褒美」としての「ボーナスという金銭」には総枠の上限があるので、会社全体を預かる経理から見ると、総枠を増やすようなことはできず、かつ、既存事業メンバーのモチベーションを下げるのも絶対に避けたいところです。
そのため、特に新規事業では『期待』につながる「大きな権限」を与えるようにするのがいいことです。「大きな」というのには二つあって「人事権や予算(使えるお金)が大きい」ということと、「狭い領域の担当ではなく、業務の幅を広く行える」ということがあります。ある意味「出世」ではありますが、「課長」や「部長」という出世階段の肩書よりも、「XXプロジェクト長」のように「実質活動をするグループの長」にするのです。
これをやると新規事業に向いた社員は大きく伸びます。
昔のシャープが行っていた「金バッジ制度」(正式名称は「緊急プロジェクト(緊プロ)」)もその一つです。平社員でもプロジェクトリーダーになれば、金色の社員証がもらえ、役員等と同等の権限が使えるというものでした。(残念ながら段々と「緊」の方が前面に立ってしまったようですが)。
そして「期待」として大事なもう一つのことは、経営陣が「褒める」ことです。なかなか目に見える成果にたどり着けない新規事業の活動を「褒めて」あげるのです。これは、褒められた本人だけではなく、その新規事業に関わる人達や、会社全体に「新規事業創出はとても大事だ」という経営からの本気のメッセージになります。
新規事業担当者の評価のポイント
では、どう「評価」すればいいのか。
どうしても多少抽象的な言い方になってしまいますが、「こいつに将来新規事業を任せたい」と思えるような日々の活動をしているかどうかが評価ポイントです。
以前も書いた「真の有言実行」がそれに当たりますが、「常に『情熱的(Passionate)』に、でも同時に『論理的(Logical)』に(二重人格的)、『よさそうな仮説』を作り、それに向かって、止まることなく『足掻いて/動いて』いるか」で評価します。つまり、結果ではない。評価する側も大変です。
事業だけでなく評価も「新規」だから、評価の仕方も「足掻く」しかないのです(楽しくね)。
■漫画・コラム/瀬川 秀樹
32年半リコーで勤めた後、新規事業のコンサルティングや若手育成などを行うCreable(クリエイブル)を設立。新エネルギーや技術開発を推進する国立研究開発法人「NEDO」などでメンターやゲストスピーカーを務めるなど、オープンイノベーションの先駆的存在として知られる。