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大学の知を起点に企業がイノベーションを起こす――新たな産学官連携の姿を描く、経産省・川上氏の構想に迫る

大学の知を起点に企業がイノベーションを起こす――新たな産学官連携の姿を描く、経産省・川上氏の構想に迫る

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AI・IoTなど最先端テクノロジーを活用した新たな未来社会 「Society 5.0」――。技術革新のスピードは驚くほど速く、もはや企業単体ではキャッチアップできない時代へと変わりつつある。

そんな状況下、経済産業省が挑む新たな事業がある。「産学融合拠点創出事業」だ。来年度より開始する本事業では、「産」と「学」の連携を「官」がサポートし、一体となってイノベーションの創出を目指すという。事業の開始に先立ち、2月6日には『Society 5.0産学官を巻き込む未来。今すべきこととは?』と題したイベントも東京・品川にて開催される(参加費無料)。

本イベントは、来るべきSociety 5.0時代において、「産学官連携の姿はどうあるべきか」「実現した先にどのような未来が描かれるのか」を、各事業会社・大学・団体などでイノベーションを起こすべく日々挑戦を続ける皆様をとディスカッションしながら、未来の姿を共に考える機会となる。

eiiconではイベントの開催にあたって、経済産業省にて本事業をリードする、大学連携推進室長 川上悟史氏にインタビューを実施。日本経済の舵取りを担う経済産業省が、今、産学官連携を強化する狙いや具体的な事業プランについて話を聞いた。

■経済産業省 産業技術環境局 大学連携推進室長 川上悟史 氏

2000年、経済産業省に事務官として入省したのち、NPOやM&Aに関わる政策立案に携わる。2008年、リーマン・ショック後の経済対策、経済成長戦略の取りまとめに従事。2011年、エレクトロニクス産業を担当し、自動車用、電力需給用のリチウムイオン電池LEDの普及などに取り組む。2013年には産業技術環境局に異動し、産総研(研究開発法人)の中長期目標の策定や、研究開発税制の改正、研究開発ベンチャー支援制度の立ち上げなど企業のイノベーション推進を担当。2017年から内閣官房東京オリンピック・パラリンピック推進本部事務局で、大会に向けた政府全体の調整、チケット高額転売対策、交通対策の立案などを経て、2019年7月より現職。現在は産学連携推進に向けた環境整備を牽引する。

産学が「相対する」のではなく、「一体となる」

――まず、経済産業省が「産学融合拠点創出事業」に取り組む背景からお伺いしたいです。

川上氏 : 私たちは産学連携を「オープンイノベーション」の一種と認識しています。これまで日本企業は、自前で高品質な製品を開発することで勝ってきました。しかし、世の中の変化・技術革新のスピードが速くなった近年、この手法が通用しなくなりつつあります。こうした背景から、自前主義ではなく、外部の知を取り入れるオープンイノベーションが、世界的にも重要な概念となってきました。最近では、経営層の方々を中心に、日本においても企業のオープンイノベーションに対する関心が高まっています。

――確かに、オープンイノベーションに取り組む企業が増えました。今回の「産学融合拠点創出事業」は、オープンイノベーションの中でも、大学と企業の連携を図るものですね。

川上氏 : そうです。これまでも、大学と企業が向き合って、知財のやり取りを行う産学連携や、少額の資金で共同研究を行うなどの「お付き合い程度」の形は多数ありました。しかし、今回、私たちが取り組もうとしている事業は、「相対して」ではなく「一体となって」、大学と企業が課題の設定から議論をしていく形です。これを、私たちは「産学融合」と呼んでいます。

実は、日本でもトップ層の大学では、この「産学融合」は着実に進んでいます。我々としては、これを中堅、地方の大学を含めて、更に広げていきたいと考えています。そのために、複数の大学と複数の企業が、様々なシーズや課題を持ち寄って、一体的にイノベーションを起こしていくような仕組を作りたい。これを実現するために、地方も含めていくつかの場所で産学融合拠点の先行的なモデルを動かし、各大学で埋もれている研究シーズやポテンシャルを引き出しながら、ノウハウを広げていこうと考えています。

――なるほど。経済産業省が今、「大学」に注目するのはなぜですか。

川上氏 : 「最先端の知」を提供する大学を、イノベーションを起こす上で、その中心に位置づけられないかと考えたからです。大学を起点に企業がイノベーションを起こす――そんなビジョンを描いています。

AI・IoT時代に突入し、技術革新のスピードが飛躍的に上がっています。すなわち、速く、難しいことをやらなければならない時代になりました。先日、研究者の方から聞いたのですが、AIの分野では1日に主要な論文が100本以上出されており、専門の研究者でも、とても読みきれない状況にあるそうです。そんな時代だからこそ、「オープンイノベーション」で役割分担や分業を行って、知を理解し、次の新たな知に展開していく、あるいは社会実装につなげていく必要があります。そのためには、当然、「最先端の知」を理解して生み出す大学の存在は欠かせません。

「産学融合」を成功させるために、必要な要素とは?

――産学融合によるイノベーション創出にあたって、課題となりうることはありますか。

川上氏 : かつての産業クラスターなど、官主導の産学連携に向けた取組は、これまでも実施されています。昨年夏、地方の経済産業局の皆さんを中心に、その反省点についてもヒアリングをしました。聞いた話から見えてきたことは、「場はできる、人も集まる、マッチングもできる。ただ、その後が続かない」ということでした。つまり、マッチングした後に、事業として作り込み、実際に動かしていくということができていない、これを担う人が少ないということです。本当の意味でのイノベーションにまでつなげられる人材がいないのです。

ですので、特にマッチング後をいかに進めるかが大きな課題だと捉えています。今回は、結果から逆算して場づくりからデザインします。マッチングの仕方もしっかり考え、後半部分をリードする、つまり最後の仕上げができる人材の創出も図ります。日本は最後の仕上げを行う人材が足りていません。いかにその人材を育成するかが、本事業のポイントだとも言えます。

――確かに、事業を育て上げる人材がいなければ、イノベーションは結実しません。

川上氏 : はい。それ以外にもうひとつ課題があります。私は、産業技術分野での業務経験はあるのですが、文系出身ということもあり、大学の理系研究者の方々と会話する中で、「言語が違うな」と感じることがよくあります。聞くところによると、理系の異分野間の研究者同士ですら、言語が違うと感じることがあるそうです。したがって、おそらく、産学連携のもう一方の当事者である企業のビジネスパーソンも同じ感覚をお持ちになられると思います。

この言語の違いをどう埋めていくか。もちろん、各自がこの点を意識をするという方法もありますし、言語の標準化や概念の標準化を行う方法もあります。ベンチャーの世界では、長年をかけて、かなりの程度、言語の標準化ができていますから、これを産学連携の現場レベル、研究室レベルでどう進めていくか、今後取り組むべきテーマのひとつですね。

――なるほど。産学融合で、特にフォーカスしていきたい領域はあるのでしょうか。

川上氏 : アカデミアから見ると、AIや情報、バイオテクノロジーなどが最先端分野です。一方で、産業界から見ると、こうした分野に加え、最近、数学のニーズが高まってきていたり、たとえば溶接の技術や金属加工の技術、あるいは摩擦を制御するような技術などが求められていたりもします。アカデミアからは必ずしも注目されていないものの、産業界では極めて重要なニーズがあるような領域にも、光を当てていきたいです。

――オープンイノベーションにより、スピーディーに大きな成功事例を生むには、何が必要だとお考えですか。

川上氏 : 一番大事なのは、誰もが認める成功事例を数多く輩出することでしょうね。日本人はキャッチアップする能力に長けていますから、「オープンイノベーションに取り組めば、こんないいことが起こる」という事例さえたくさん創出できれば、日本にも根づくと思います。

ただ、成功事例から学ぶ際、事例をそのまま真似るのではなく、しっかり「要因分解」を行い、自社に必要な要素を取り込んでいただくべきですね。我々としても良い事例を研究し、要因を分解した上で、産学連携の関係者に共有すべく、現在、「産学官連携ガイドライン」の検討を進めています。この成果については、この春ぐらいにお示ししたいと思います。

「産学融合」の未来を考えるイベントを開催

――「産学融合拠点創出事業」を始動するにあたり、2月6日に品川でイベントを開催されると聞きました。川上さんも参加されるとのことですが、同イベント開催の目的についてもお聞きしたいです。

川上氏 : 「Society 5.0」時代の産学融合は、これまで一つの組織内で行ってきた研究開発を、世の中全体で実施していこうというコンセプトですので、その担い手が必要になってきます。全体をプロデュースしていくコーディネーターはもちろんですが、大学や企業の中にも、外部の知をつないでいく意識を持った人を増やしていかねばなりません。そのきっかけを作るためのイベントです。

――イベントの主な参加対象はどのような方たちですか。参加者に向けて、メッセージもお願いします。

川上氏 : 大学からは、研究者、産学連携の担当されている方などにご参加いただきたいです。企業からは、企業内の研究者や新規事業開発担当者、オープンイノベーション担当者、あるいは経営層の方々などにもご参加いただきたいと考えています。

また、産学の間に入ってコーディネートしていきたい方にも、ぜひ来てほしいですね。商社などで事業開発を担われていた方や、すでに地域で事業開発関連のコーディネーターをされている方などをイメージしています。

オープンイノベーションと言われ始めて久しいですが、その担い手は足りていません。大学と企業をつなぎ、産学一体となったオープンイノベーション創出を、自らの手で進めていきたい方々と、本イベントを通してぜひ議論をしたいですね。

――最後に、川上さんご自身がどんな未来を実現したいのか。モチベーションの源泉になっている「想い」があれば教えてください。

川上氏 : イノベーションを通じて、この国の経済を強くしたいということですね。

すごく荒っぽい言い方かもしれませんが、個人的には、日本が世界の中で先進主要国として認められるようになったのは、経済的に強くなったことが大きいと考えています。高度成長期などを通じて、まさに先人たちが新たな事業を興し、イノベーションを起こしてくれた結果として、経済大国になりました。それが、平成の時代にかなり凋落をしてしまった感はありますが、もともと「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われたポテンシャルを持つ国です。ですので、再び押し上げることは不可能では無いと考えています。

ただ、かつてよりも外部環境は厳しくなっています。少子高齢化や財政の悪化というこれまで先進国が経験したことの無い課題を抱えています。しかし、これらの課題は、今後、世界の他の国が日本の後に直面する課題でもあります。これらの先進的な課題を、イノベーションを通じて克服できれば、この国を経済で復権させることは出来るのではないかと思います。今後、超高齢者社会が到来しますが、私たちの世代がリタイアする2040~50年頃にはピークを脱します。その頃までに、次の日本を作っていくための貢献をしたい。微力ではありますけど、そんな想いで仕事に取り組んでいます。

取材後記

大学発のベンチャーが加速度的に増え、「大学で生まれた技術を社会に実装したい」というエネルギーを感じる昨今。大学の「知」を、いかに社会や経済の発展に活かしていくか、その仕組みの構築と運用が重要であることは言うまでもない。2月6日に開催されるイベント『Society 5.0 産学官を巻き込む未来。今すべきこととは?』では、経済産業省の熱意あるリーダーたちと、「産学融合」によるイノベーションの創出について、本気で議論を交わせる絶好の機会だ。産学融合について共に考え行動を起こしたい方は、ぜひイベントに応募してほしい。(応募締切:2020年1月27日)

<『Society 5.0産学官を巻き込む未来。今すべきこととは?』イベント概要>

【日時】 2020年2月6日(木)19:00~22:00(受付開始18:30)

【場所】 AND ON SHINAGAWA (東京都港区高輪3丁目24-18 高輪エンパイヤビル9F)

【参加費】 無料

【対象】

・企業での新規事業開発の経験者、オープンイノベーション担当者

・企業と大学間の産学連携に関心がある方

・研究開発型スタートアップの創業者、起業経験者

・ベンチャーキャピタリスト(VC)

※地方創生、社会的価値創造に関心の高い方を歓迎します。

▼イベントの詳細・参加申し込みはコチラ▼

(編集:眞田 幸剛、取材・文:林和歌子、撮影:加藤武俊)

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コメント5件

  • 田上 知美

    田上 知美

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  • 山本 俊太郎

    山本 俊太郎

    • 国立研究開発法人情報通信研究機構
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  • Ayuko Nakamura

    Ayuko Nakamura

    • eiicon
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    持続的な取り組みにするためには、
    危機感よりも成功体験が有効、これは我々も日々感じているポイント。
    
    人は「うまくいく」体験をすれば繰り返す。オープンイノベーションもそう。
    実践において成功体験を積みそれを科学しさらに改善・展開するのが一番いい。
    
    
    
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