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企業と大学はオンラインで繋がる時代へ。ニューノーマル時代の産学連携とは?「産学連携オンラインマッチングEXPO」をレポート!

企業と大学はオンラインで繋がる時代へ。ニューノーマル時代の産学連携とは?「産学連携オンラインマッチングEXPO」をレポート!

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「産学連携」とは聞き慣れた言葉だが、いざ自社で実践するとなると、どう着手すべきか分からないことも多い。こういった時に頼りにできる存在が、株式会社キャンパスクリエイトだ。

電気通信大学のTLO(技術移転機関)として発足した同社だが、現在では広域TLOとして、電気通信大学のみならず全国各地の大学と連携。産学連携に興味を持つ企業との橋渡し役を担っている。――そんなキャンパスクリエイトが、12月15日~17日の3日間にわたり、オンライン上で開催したのが「産学連携オンラインマッチングEXPO」だ。


大学の研究者が、オンライン上で研究成果や独自技術を発表。それを見たイベント参加者が、リアルタイムで質問を投げかけたり、オンラインミーティングを予約したりと、画面上で交流を図れるというものだ。このイベントには、約60名の大学研究者が参加しプレゼンテーションを行ったほか、参加者は3日間で560名を超えたという。

今回は、パネルディスカッションやベンチャーピッチも催され大いに盛り上がった「産学連携オンラインマッチングEXPO」の様子を、イベントレポートとして紹介する。

※関連記事:3社対談で解き明かす「コロナ禍における産学連携のススメ」

多彩な分野の研究者らが、研究内容をプレゼン

イベントの核となるのは、大学研究者の発表と、その後の交流だ。会期中、約60名の研究者がそれぞれの研究内容を、持ち時間15分で披露した。発表の後には視聴者からリアルタイムに質問が寄せられ、研究者はその場でいくつかの質問に答えた。ここでは、2つの研究発表について簡単に紹介する。

【研究発表(1)】 「マイクロ波を化学や生物へ利用 !? 」

上智大学 理工学部 物質生命理工学科 教授 堀越智氏

最初に紹介するのは、マイクロ波の化学・生物への応用について研究する堀越氏の発表だ。発表では、「マイクロ波加熱の特徴を生かした水素エネルギーの貯蔵・輸送」「マイクロ波電磁波の特徴を生かした植物育成」「加熱と電磁波の特徴を生かしたインテリジェント調理器」の3テーマについて紹介されたが、ここでは2つ目の植物育成にフォーカスする。

堀越氏によると、植物の種、あるいは小さな芽に、微弱なマイクロ波を1回あてるだけで、茎・花・種子の成長が著しく早くなるという。これは、植物がマイクロ波を良質なストレスだと感じるためだ。たとえば、マイクロ波をあてたルッコラと、あてていないルッコラの成長を比較すると、葉面積で2.1倍、生体重で5.4倍の差が生じ、味も変わるという。


また別の効果として、マイクロ波をあてることで、害虫忌避効果が促進されることも確認された。マイクロ波処理済植物と、未処理植物を並べ、モンシロチョウの幼虫で実験したところ、9割程度の確率で幼虫は未処理植物を選んだという。ほかにも、イチゴの高温耐性が向上した例や種が大きくなった例など、マイクロ波を植物にあてることで、さまざまな効果が確認できているそうだ。

【研究発表(2)】 新しいアイデアの生成を行う創造的な人工知能(AI)

静岡大学 情報学部 講師 須藤明人氏

次に紹介するのは、創造性を情報の観点から研究する須藤氏の発表だ。須藤氏は研究成果をもとに、新しいアイデアの生成をAIでサポートするツール「創造AI」を開発した。「創造AI」とは、ツールにテーマを入力すると、アイデア創出のヒントとなる複数のキーワードが自動出力されるというものだ。

たとえば、「香り」に関する新しいアイデアを創出したい場合、ツールに「香り」と入力する。そうすると、10秒程度で「香り」と組み合わせれば効果的なキーワードが複数出力される。出力されたキーワードとテーマをかけ合わせて、自身でアイデアをつくる。たとえば、出力されたキーワードが「死体」なら、「香り×死体」で「故人の人柄を偲ぶ香水」というアイデアを出すといった流れだ。


須藤氏によると「創造AI」は、創造性の重要な要素である「絶妙な組み合わせ」を出すようトレーニングされているという。これを使うことで、アイデア発散の限界を突破でき、「毎回、同じようなアイデアしか出ない」という悩みを解決できる。つまり、AIによる自動化で、創造のプロセスを効率化することができるのだ。

学習モデルがデータから学んでいることは、「新しい有益な繋がり」の関係性で、裏ではグラフ構造学習を行っている。学習に用いる大規模データの例としては、Wikipediaの全文やAmazonでヒットした商品などがあげられる。群分けテストでは有意差を確認できているほか、すでに15社程度に導入済で、「今までにない新しいアイデアが出た」といった高評価を得ているという。

パネル(1) 「アカデミア視点で語る産学連携のこれから」

本イベントでは、2つのパネルディスカッションが催された。初日に開催されたのは、大学研究者を招いてのディスカッションだ。豊富な産学連携実績を持つ5名の大学研究者が、現状感じている課題や今後の期待について明かした。その一部を紹介する。

<登壇者>

■大阪大学 長井隆行 教授 /主な研究分野は、AI・ロボティクス。

■法政大学 山田泰之 准教授 /主な研究分野は、デザイン工学。

■静岡大学 須藤明人 講師 /主な研究分野は、機械学習を用いた情報生成学。

■奈良先端科学技術大学院大学 網代広治 教授 /主な研究分野は、高分子化学。

■千葉大学 津村徳道 准教授 /主な研究分野は、画像処理。

※ファシリテーター/株式会社キャンパスクリエイト 高橋めぐみ氏


――パネルディスカッションは、「産学連携に取り組む意義とは。研究者にとって産学連携は必要か」という質問からスタート。これに対して、須藤氏は次のように答えた。

静岡大・須藤氏: 一般論としては、分野マターでどんな研究を目指すのかによる。私の場合、産学連携をせざるを得ないと思っている。なぜなら、興味が数理的な理論に加えて、社会現象にまで及んでいるからだ。この社会で起きているさまざまな現象に生々しく触れることが、研究に不可欠だと強く感じている。これは書籍で得ることはできない。そういう意味で、産学連携は必要不可欠だと考えている。

――議論は進み、続いてのトピックである「産学連携が抱える課題」について話が及ぶと、数多くの産学連携実績を持つ長井氏は、一番難しいポイントとして人的リソースの問題をあげた。

大阪大・長井氏: (共同研究で)「大学の研究員が主体となるケース」「企業の研究員が主体となるケース」の両方を経験したが、企業から実働部隊を出してもらうほうが、円滑に進むし成果も出やすい。産学連携にかける企業側の意図はさまざまだが、技術を商品化しなければならないような差し迫った場合には、やはり企業から人的リソースを出してもらわないと、大学側としてはやりきれない。一方で、学生のスカウトや知識の循環が目的であれば、その年々で頑張ってくれる学生に担当してもらうのも、学生自身の経験になるので悪くはない。人的リソースが課題で、受けたくても受けられないこともある。

――「産学連携を進める難しさ」として、山田氏は年度・締め日の違いも指摘した。

法政大・山田氏: 大学と企業で年度が違う。補助金や企業の締め日と、大学の会計・書類の締め日が異なる。そうすると、「短期間で成果を出して」と言われても、共同研究費としていただいたお金を使わずに成果を出さないといけないことも。手続き上の足枷から、この期間は(共同研究を)受けられないと返答せざるをえないこともある。

――また、複数企業と同時並行で共同研究を進めることについて、津村氏は次のように答えた。

千葉大・津村氏: 競合となる企業と、同時並行で共同研究は行わないようにしている。海外の大学だと、予算が出れば専門の部屋を設けて情報管理を行う例もあるが、日本では難しい。日本ではゼミで共有したりもするので、学生をそこまで縛れない。もちろん学生に対して注意はするが、ある程度漏れることを前提として、管理を行うようにしている。そうすると、競合の同時並行はやはり難しい。

――続いてのトピック、「コロナ禍における産学連携の現状と変化」に関して、分析設備を使って研究に取り組む網代氏は次のように共有した。

奈良先端科学技術大学院大学・網代氏: 実験は研究室に来ないとできないので、三密を避けるためにシフトを組み、人数管理を行いながら進めている。産学連携に関しては、(企業の担当者たちと)一緒に実験をすることは少ないので、大きな支障はない。こちらでデータを取得し、オンラインでディスカッションをしている。むしろ出張が減ったことで、効率的に時間を使えるようになった。

――最後に、「これからの産学連携」について長井氏と山田氏が展望を語った。

大阪大・長井氏: 研究者が、自分の所属に関係なく、アドバイザーとして色んな企業に知の循環をする。大学という枠ではなくひとりの研究者として社会に貢献する。究極的には、全員がフリーランスのように、プロジェクトベースで仕事をするようになるのではないか。コロナでフレームワークが変わる、よい機会だと思っている。

法政大・山田氏: (企業からは)専門的なこの部分だけ一緒に研究してほしいとよく言われる。そうではなくて、企画段階から相談をいただき、問題の全体像を一緒に議論できる関係性を構築できるとよい。その中で、全体を考える先生がいて、先生同士の横のつながりの中で専門分野を考える先生が出てくる。そういった形で、大学の横のつながりが加速していくとよい。

パネル(2) 「企業のキーマンが集結――産学連携の今」

続いて、2つ目のパネルディスカッションについて紹介する。このディスカッションでは、産学連携に取り組む以下4社の担当者が登壇し、産学連携の効果や課題、今後について語った。

<登壇者>

■TIS株式会社 エグゼクティブフェロー 油谷実紀氏 /大手SIer。産学連携実績としては、会津大学との自律移動ロボットに関する共同研究などがある。

■日本電子株式会社 オープンイノベーション推進室 室長 杉沢寿志氏 /電子顕微鏡や分析機器などを製造・販売。主要顧客は大学や研究機関。

■株式会社電通サイエンスジャム 取締役 木幡容子氏 /慶応義塾大学の教授(同社CTO兼務)と共同開発した、脳波から感性を可視化するサービスなどを展開。

■黒金化成株式会社 経営企画 企画グループ マネージャー 沼崎玲氏 /有機合成化学専門の受託開発メーカー。電気通信大学の教授とともにバイオマーカーを商品化。

※ファシリテーター/株式会社キャンパスクリエイト 米内あゆみ氏


――最初のトピックは、「産学連携による具体的な成果」についてだ。電気通信大学教授との共同開発によりバイオマーカーを事業化した沼崎氏は、次のように振り返った。

黒金化成・沼崎氏: 黒金化成は受託事業のみを行ってきたため、ネタ探しからのスタートだった。電気通信大学の牧先生(牧昌次郎准教授)にお会いし、「この赤く光るバイオマーカーを使えば、見えなかったものが見えるようになる!絶対売れますよ!」と助言をもらい、それが共同開発のきっかけに。自社の製造技術を用い、バイオマーカーの量産化を成し遂げ、市販化にこぎつけたが、マーケット展開という壁にぶつかった。途方に暮れていたが、ここでも牧先生に助けられた。牧先生のネットワークで先端研究を行う大学の研究者に最初のユーザーになって貰ったのだ。このお陰で市場展開がスムーズに進み、来年にはアメリカにも輸出する予定だ。

――次のトピック、「産学連携で困ったこと」について、杉沢氏と木幡氏は次のように話した。

日本電子・杉沢氏: お金のマネジメントには困っている。大学は基本的に単年度会計。プロジェクト全体で、効率的にお金を活用できるような仕組みにしてほしい。また、個別の部局とやり取りをするのは、煩雑で進めづらい。産学連携に慣れた専門部署が、全体を統一して設置されていると、企業側としては非常に進めやすい。

電通サイエンスジャム・木幡氏: 言語が難しすぎることには困っている。その分野に詳しいクライアントであればすぐに伝わるが、「そもそも脳波って?」から始まると、技術の説明や指標の背景から分かりやすく翻訳しなければならない。翻訳は私たちの仕事でもあるので、注意して翻訳するようにはしている。

――逆に、「産学連携で良かったこと」について尋ねられた杉沢氏は、産学連携がマーケットの探索や人材の発掘にもつながっていると語った。

日本電子・杉沢氏: 大学に行くと、ビジネスチャンスをたくさん発見できる。産学連携は、そういった新しいマーケットの探索にもなっている。また、人材の採用が難しくなっていることから、採用という意味でも注目している。

――続いて「産学連携のこれから」について話題が移ると、油谷氏は次のような見解を示した。

TIS・油谷氏: 菅総理の話にもあったが、日本はデジタル化が遅れているので、デジタル化を急がないといけない。IoTやVRは、これまで大学が長年かけて研究してきたテーマだが、今ようやく日の目を見る時期に来ている。文科省だけではなく、経産省、総務省、新設されたデジタル庁も、そういった技術に注目をしている。実際に商品化していく時期に来ていると感じるので、産学連携がより重要になってくるだろう。

――最後に、これから産学連携に取り組む企業に向け、木幡氏よりアドバイスが投げかけられた。

電通サイエンスジャム・木幡氏: 大学の先生方が持っている知識・技術はすばらしい。一方で、こちらから「こんな風に使えるのでは?」と提案すると、「そんなこと、思いもよらなかった」と言われることも多い。お互いのアイデアを持ち寄ったほうが、よりよい形になるはずなので、ぜひドアノックしたらいいのではと思う。

取材後記

企業側から見ると敷居が高そうに感じる大学との連携だが、「産学連携オンラインマッチングEXPO」は、その敷居を下げるものだと感じた。オンライン開催であることから、どこからでも発表が聞けるうえに、気になる発表だけ選んで視聴することも可能だ。さらに、その場でアポイントを取得して、短時間のミーティングもできる仕組みになっていた。まさに、気軽にドアノックができるものだ。

さらに、このイベントに出展した研究内容は開催後も、研究内容をアーカイブとしてイベントホームページ(https://www.campuscreate.com/ccc/online-expo_202012)にて紹介し、企業ニーズの受け皿になっていく予定との事だ。イベントに参加できなかった企業担当者や、参加した企業担当者から、さらに大学研究者との交流をされたいというニーズに応え、マッチングの機会創出を継続的に行っていく試みだ。

大学にはさまざまなシーズが存在する。自社の事業と組み合わせることで、大きく花開くものもあるだろう。産学連携に興味のある方は、キャンパスクリエイトに相談してみてはどうだろうか。

(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子)

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