【オンライン説明会レポート】ニューノーマル時代のビジネスを、“最速”で都市に実装する――仙台市主催の共創プログラムが今年度も開幕!
政令指定都市の中で、福岡市に次いで2番目の開業率(※)を誇る仙台市――。今年の7月には、内閣府のスタートアップ・エコシステム拠点形成支援プロジェクトにおいて「推進拠点都市」に選ばれ、産学官連携によるエコシステムの形成が加速している。
仙台市は2018年から「SENDAI X-TECH Innovation Project」を始動。その一環として、仙台市に拠点を置く企業と、テクノロジーを持つスタートアップの共創プログラムを、これまでに2回開催してきた。振り返ると、2018年度には楽天イーグルスとともにアイデアソンを開催。2019年度には藤崎百貨店を加えて、アクセラレータープログラムを開催。この流れを汲むかたちで今年度は、「SENDAI X-TECH BUSINESS BUILD(ビジネスビルド)」をスタートする。
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今回のビジネスビルドでは、事業共創パートナーに楽天イーグルス(プロ野球)、ベガルタ仙台(プロサッカー)、ハミングバード・インターナショナル(飲食)の3社を迎える。また、藤崎百貨店、ショッピングセンターSELVA、泉中央駅前広場、仙台うみの杜水族館、スマートイノベーションラボ 仙台(NTT東日本が運営)もバックアップに加わるという豪華さだ。去る11月5日、本プログラムの説明会がオンラインで行われた。この記事では、説明会の中身をレポートする。
●記事前半:プログラム説明
●記事後半:パネルディスカッション「仙台市×楽天野球団×akippa(共創実績事例)」
※出典:経済センサス基礎調査(総務省) 経済センサス活動調査(総務省・経済産業省)
プログラム説明/ テーマは、ニューノーマル時代の「エンターテインメント」「スポーツ」「飲食店」
本年度のプログラム「SENDAI X-TECH BUSINESS BUILD」の概略はこうだ。――事業共創パートナーである、楽天イーグルス、ベガルタ仙台、ハミングバード・インターナショナルの3社が抱える課題を元にした「エンターテインメント」「スポーツ」「飲食店」という3つのテーマに対して、応募企業がテクノロジーを活用したビジネスアイデアを提案。
書類審査を経て選ばれた企業(10社程度)が、2021年1月15日・16日に開催されるイベント「BUSINESS BUILD DAYS」に参加し、アイデアをブラッシュアップする。その後、社会実装に向けてインキュベーションを行うという流れとなる。
また上記3社に加えて、アイデアを街へと広げていくためのサポーター企業として、藤崎百貨店、ショッピングセンターSELVA、泉中央駅前広場、仙台うみの杜水族館、スマートイノベーションラボ 仙台(運営:NTT東日本)の4社も参加。プログラムを強力にバックアップする。
説明会では、まず荒木田氏が仙台市の取り組みについて発表。その後、事業共創パートナー3社が、それぞれの課題・テーマについて説明し、続いて協力企業も各支援内容を共有した。
●プログラム主催者/仙台市
経済局産業振興課 主幹 荒木田理氏
仙台市を含む東北エリアは、復興需要の収束や人材の首都圏流出などが大きな課題となっている。こうした状況を打破するべく、仙台市経済局では昨年度から5年計画で、「仙台市経済成長戦略2023」を推進中だ。
その中で、既存産業・業種にテクノロジーをかけ合わせることで、社会課題の解決と経済成長の実現を目指す「SENDAI X-TECH Innovation Project」を進めている。これまで、フィリップス社を誘致しヘルステック領域でのオープンイノベーションを進めたり、ノキア社や東北電力グループなどとともに防災テックに取り組んだりもしてきた。
また、IT人材の育成や共創プログラムも実施。共創プログラムでは、仙台市の地場企業と、市内外のスタートアップなどとのコラボレーションにより、新しい事業の創出にチャレンジしている。今回のプログラムもその一環で、今年で3回目の開催となる。仙台市の施設を使って実証実験を行いたい場合などに、担当部署との間に入って調整を行うワンストップ窓口「クロス・センダイ・ラボ」を新設したので、是非活用して社会実装を加速化してほしいという。
荒木田氏は、「“アフターコロナ最速実装都市 仙台市”をスローガンに、新しいビジネスアイデアを仙台市に実装し、そこから国内外へと展開していきたい」と意気込みを語り、発表を終えた。
●事業共創パートナー/株式会社楽天野球団(エンターテインメント)
マーケティング本部長 江副翠氏
楽天イーグルスは、「ボールパーク構想」を掲げ、まる1日スタジアムで楽しめる空間づくりに力を入れている。たとえば、個性豊かな50種類以上もの席種や、観覧車、スタジアム内ホテルを設けているほか、オリジナルのEaglesブランドのグルメやイベントも数多く企画。スマートスタジアム化も進めており、完全キャッシュレスや全面自動ゲートも他球団に先駆けて導入した。
こうした先進的な取り組みを進めてきた球団だが、新型コロナにより経営は一転。売上の約30%強を占めるチケット収入が前年比で約8割減になるなど、大きな打撃を受けている。新型コロナ対策として、スタジアムの飲食店舗待機列の密を避けるための事前オーダーサービスや、1試合50万円のプレミアムチケット、自宅からでも楽しめるオンライン観戦などの施策を試行錯誤で実行してきたが、売上の減少をカバーできるには至っていないという。
このような背景を踏まえ、今回のプログラムでは2つのテーマを提示する。1つ目は「コロナ禍でも安心安全なスタジアム」、2つ目は「オンラインで疑似観戦体験」だ。オンラインとオフラインの両軸で、ニューノーマル時代に対応した、新たなワクワクする観戦体験を生み出すアイデアを求めているという。
主な提供リソースは、スタジアムや球団自社媒体、各種データなどだ。江副氏は、「課題に直面しているスポーツ業界だからこそ、新しいものを見いだせる好機だと思っている。皆さまと一緒に共創して新しいビジネスモデルをつくっていきたい」と想いを語り、発表を終えた。
●事業共創パートナー/株式会社ベガルタ仙台(スポーツ)
運営・事業本部 事業・営業部 営業課長 磯田敦氏
ベガルタ仙台は、26年前に設立されたプロサッカークラブだ。宮城県と仙台市が筆頭株主に名を連ねるなど、市民クラブとしての特色が強い。高齢者施設や学校、祭りなどに選手や関係者が参加するなど、地域に根差した活動にも力を入れている。スタジアム来場者は40台がもっとも多く、ファミリー層が中心だという。
こうした特徴を持つ同社が提示するテーマは3つだ。1つ目は、「店舗の混雑状況や導線がすぐ分かり、安心&スマートなスタジアム体験」。スタジアムがコンパクトなので、試合前やハーフタイムなどに来場者が同じ場所に集中する。この課題に対し、密を作らないソリューションを求めている。
2つ目が、「コロナ禍で制限がある中でも楽しめる、スタジアムでの特別な観戦プラン」。試合のネット配信なども行っているが、迫力・雰囲気・臨場感などを考えると、リアル観戦に叶うものはない。そこで、コロナ禍の制限がある中でも、リアルで楽しめるソリューションに期待しているという。
3つ目が、「周辺店舗等との連動による、スタジアムから地域に広がる都市体験」。これまでも地域に根差した活動を続けてきたが、さらに一歩踏み込んだ地域連携や地域活性化に貢献できるアイデアを求めている。アナログだけではなくデジタルも駆使しながら、新しい地域連携のあり方を模索していきたいという。
なお、提供リソースは、ホームゲーム時のスタジアム内コンコースとエントランス、および2万人が同時接続できるFREE Wi-Fiなどがあるという。
●事業共創パートナー/株式会社ハミングバード・インターナショナル(飲食店)
代表取締役 青木聡志氏
ハミングバード・インターナショナルは、仙台市内を中心に飲食店を運営している企業だ。1957年に創業して以来、イタリアンを中心に5業態17店舗を展開している。新型コロナの影響によって、2020年3月期は、通期で40%以上の減少を見込むほか、4月以降に2店舗を閉店するなど、厳しい経営環境にある。
こうした状況下、同社が取り組みたいテーマは3つだ。1つ目は、「販売チャネルを横断した売上(集客)増加」。すでにデリバリー専門店の開設や、テイクアウトの強化などを行っているが、プラスアルファで実施できる施策を求めているという。
2つ目は「省力化」。以前から人手不足が深刻で、部分的なIT化には取り組んできたものの、抜本的な解決にはつながっていない。そこで、店舗のオペレーションやバックオフィス業務を省力化し、生産性を高めるソリューションに期待しているという。
3つ目は、「新たな発想によるフードビジネスの形」だ。「飲食店」という枠組みにとらわれず、「フード」を活用した新しいビジネスを創出したいと話す。提供できるリソースは、市内直営レストランに加えて、POSレジ情報などの各種データだという。最後に青木氏は、「飲食は今、非常に厳しい状況にありますので、ぜひ皆さまからアイデアを頂戴できれば」と語り、発表を終了した。
●サポーター企業(4社)
続いて、サポーター企業が自社の特徴と支援内容について紹介した。主な内容は以下の通りだ。
【株式会社藤崎】
仙台市に本店を構える老舗百貨店。本店以外にも、東北全体に地域店舗・サテライトショップを17店舗展開するほか、外商やEC、移動販売などの販売チャネルも保有する。
<支援内容>事業アイデアに合わせて、藤崎百貨店の様々な場所(自主運営ショップや屋上広場、外壁ウィンドウ、地域店舗、移動販売車など)が提供可能。
【仙台うみの杜水族館】
2015年7月にオープンした「復興を象徴する」水族館。三陸の海を再現した大水槽などが特徴で、ナイト水族館など多彩なイベントも実施。老若男女問わず、幅広い年齢層に親しまれている。
<支援内容>事業アイデアに合わせて、館内のPRスペースの提供や館内でのイベント開催、来館者に向けたサービスの提供が可能。
【東日本電信電話株式会社(NTT東日本)】
NTT東日本は、地域が抱える課題・ニーズに対して幅広い取り組みを実施。技能伝承や中小企業のDX支援などにも力を入れている。
<支援内容>同社が運営するコワーキングスペース「スマートイノベーションラボ仙台」を、議論の場や情報発信の場として提供可能。ラボ内にある高性能GPUサーバを使って、AI実証実験なども実施可能。
【セルバ事業所/泉中央駅前地区活性化協議会】
SELVAは、仙台北部の交通拠点である泉中央駅前に立地する商業施設。泉中央駅はベガルタ仙台のホームスタジアムの最寄駅で、通行量が多く集客力の高い場所でもある。
<支援内容>SELVA内にあるイベントスペース(屋内)や、泉中央駅前広場(屋外)などを提供可能。
仙台市×楽天野球団×akippa 共創実績事例共有/街ぐるみで解決を目指す、「スタジアムの駐車場不足」
また、本説明会では、昨年度実施した「SENDAI X-TECH Accelerator」をきっかけに始まった、共創プロジェクトの紹介も行われた。プログラムの主催者である仙台市、事業共創パートナーである楽天野球団、プログラム参加企業であるakippaの各代表者が登壇し、それぞれの目線から質問に答えた。
<登壇者>
パネルディスカッションのテーマは、「共創事例から紐解く、地方都市で目指すニューノーマル時代のビジネスとは」だ。本共創プロジェクトは、楽天イーグルスの抱える「スタジアムの駐車場不足問題」に対して、akippaの提供する予約制駐車場のマッチングプラットフォームを活用し、スタジアムへのスムーズなアクセスの実現を目指すというもの。3者がそれぞれの強みを活かして、次のような役割分担でプロジェクトを進めている。
Q1 「各社それぞれ何を求めて共創に至ったのか?」
モデレーターを務めるeiicon company・佐藤からの上記質問に対し、仙台市・荒木田氏は、新しいテクノロジーと地域で抱える課題をかけ合わせて、新しいビジネスを作ることを目的にプログラムを開始したと説明。加えて、地域の活性化や住民サービス向上につなげる狙いもあったと、主催者側の意図を伝えた。
akippa・大塚氏は参加理由について、行政も含めたプロジェクトであることから、通常では実現できない「街づくり」に貢献できることに魅力を感じたと返答。また、akippaのビジョンが「あなたの"あいたい"をつなぐ」であることに言及しながら、コロナ禍でも車で安心して移動ができる環境づくりを行うことで、仙台市を日本で一番、人と人が出会いやすい街にしたいとの想いを伝えた。
同じ質問に、楽天野球団・加藤氏は次のように返す。楽天イーグルスは、常に新しいことに挑戦する気質を持つ会社だが、自社内だけのアイデアでは限界があると感じていた。そこで、次のステップにつながるようなアイデアを、色んな方から募集したいと考え、本プログラムに事業共創パートナーとして参加したのだという。
Q2 「共創を進める上での壁、それをどのように乗り越えたのか?」
この質問に対し、仙台市・荒木田氏は、楽天イーグルスの課題と、スタートアップの提案をどうつなげるか。どう付加価値をつけていくかが、この共創プロジェクトで、もっとも悩んだ部分だったと振り返る。そのうえで、2社の取り組みだけで終わらせず、街全体の取り組みへと昇華させるために力を注いできたと答えた。
akippa・大塚氏は、本業のまったく異なる3者が集まって、大きな課題を解決しようとしているので、通常よりもチームワークが必要だと感じたことを共有。今回のケースだと、市有地の調整については仙台市、プロジェクトが動き出した後の周知や価値増幅は楽天イーグルス、予約制駐車場の運営についてはakippaと、それぞれの得意分野が異なる。このことから、相手の得意な部分を信頼し任せるところは任せて、自分たちのできるところはしっかりやる。これが重要だと強調した。
楽天野球団・加藤氏は直面した大きな壁として、新型コロナを挙げる。開幕の延期や入場人数の制限から、駐車場不足そのものがなくなったこと、事業化自体が危ぶまれたことが大きな壁だったと話す。しかし現在は、有観客試合も始まりプロジェクトが再開しているとし、市有地の活用のほかにも、地域住民との連携により民間の空きスペースを駐車場化する動きも進んでいると話した。
Q3 「仙台市から、共創でどのようなニューノーマル時代のビジネスを生み出せるか?」
仙台市・荒木田氏は、本年度のプログラムではとくに、コロナ禍で大きな打撃を受け、変革を迫られている「プロスポーツ」と「飲食」の領域で、新しいビジネスを起こしたいと回答。さらに、同市が起業支援に力を入れていること、人口や経済規模の観点からテストマーケティングを行う場所として最適であること、民間と行政のコミュニケーションが活発で顔が見える関係性があることを挙げながら、「仙台の街を利用して、新しいビジネスを作ってほしい」と熱意を込めた。
akippa・大塚氏は、スタジアムや駅前のビジネス街、海側の観光地などを例に挙げながら、仙台市が多彩な交通要素のある街だと指摘。市有地や民間遊休地の駐車場化を進めることで、働きやすく、観光しやすい街にしていきたいと話す。さらに災害時の車の避難先や車中泊用、ボランティアの駐車場として、平時より空きスペースを駐車場化して認知を広げておくことは有効だと述べ、災害対策や観光周遊を含めてビジネスを広げていく構想を語った。
楽天野球団・加藤氏は、新型コロナの影響で従来の観戦の常識が崩れているとし、スタジアムでの新しい観戦体験や自宅からの観戦のあり方を、第三者のアセットやテクノロジーを活用しながら、見出していきたいとの考えを示した。
応募〆切:2020/12/7 募集ページの詳細はコチラ
取材後記
3回目となる本年度のプログラムの特徴は、コロナ禍の影響を強く受ける「プロスポーツ業界」と「飲食業界」に、新たなソリューションやビジネスモデルを提案し、実装を目指すものだ。新型コロナに関しては、国内だけではなく全世界が同質の悩みを抱えている。だからこそ、ここで生まれたアイデアは全国・全世界へと広げられる可能性がある。
荒木田氏の話にあった通り、仙台市は「アフターコロナ最速実装都市」を標榜している。行政と民間が連携し、最速でアイデアを社会実装し、それを国内外へと広げる――本プログラムは、そのためのきっかけとなるはずだ。
※説明会の模様は以下にてアーカイブされています。あわせてご覧ください。
(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子)