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高齢化はチャンス こゆ財団の「持続可能な農業」を作るオープンイノベーション

高齢化はチャンス こゆ財団の「持続可能な農業」を作るオープンイノベーション

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オープンイノベーションを通じて地方を盛り上げている組織へインタビューするシリーズ「地方の共創力」。今回は人口約17000人の宮崎県新富町に拠点を構える地域商社「こゆ財団」を取り上げます。ここでは、事務局長の高橋邦男さんに話をうかがいました。

こゆ財団は新富町の強みである農業を活用した地域商社として2017年に設立された一般財団法人です。「一粒1000円の国産生ライチ」など、特産品のブランディングや販路開拓を通じて得られた利益を人材育成に投資をするというモデルで、地域に新しい事業をつくりだしています。

2018年には、首相官邸で開催された「まち・ひと・しごと創生会議」で国の地方創生優良事例に選出されており、注目が集まっています。

農業で地域を活性化する取り組みは様々な企業や自治体で進んでいますが、なぜ新富町のこゆ財団が地方創生優良事例として高い評価を得たのでしょうか。

「オープンイノベーション」や「地域の関係人口」といった切り口で話をうかがいましたが、意外にも高橋さんが教えてくれたのは徹底した「持続可能な農業」を実現するアプローチでした。 

こゆ財団事務局長 高橋邦男

雑誌の編集者として講談社やリクルートなどのメディア企画編集に20年間携わった後にUターン。地元行政広報紙などの編集を経て2017年4月より現職。

役場に危機感「外に組織を作らなければ」

──はじめに、こゆ財団を設立した背景や組織の構成などを教えて下さい。

こゆ財団は一般財団法人ですが、役場から出向しているメンバーもいて、「新富町役場が作ったベンチャー企業」という立ち位置です。新富町では人口減少に歯止めがかからず、どうやって地域を持続可能にするかが課題としてありました。そんな中、新富町役場職員で現在はこゆ財団執行理事でもある岡本啓二らが「観光協会を発展的に解体して、役場の外に新たに組織を作ろう」と提案。ふるさと納税の活用などを計画に盛り込み、1年間の準備を経て設立に至りました。

一番大きなポイントは、新富町役場の中から人材が立ち上がり、役場の外に組織を作ったことです。

──役場と並走しながら新富町に経済を生み出す民間の組織を作ったわけですね。現在はどのような事業を展開していますか?

事業は大きくふたつあって、1つは産業振興です。農産物に代表される町の特産品を活用して、お金を稼いでいます。そこで得た利益は人材育成に再投資し、新たな人材といっしょにまたお金を稼いでいく、というループを作っています。

看板商品「1粒1000円のライチ」はどのように生まれたか

──こゆ財団が手掛けた商品の中で有名なのは「1粒1000円の国産生ライチ」です。どのように商品開発されたのでしょうか。

そもそも、国内で流通しているライチの9割以上が中国産の冷凍品です。わずかしかない国産ライチはとても価値が高いんですよね。

ちなみにライチはこゆ財団が作ったわけではなく、20年近く前から新富町でつくられていました。農家さんがライチの生産に、独自にチャレンジされていたんです。

新富町で生産されている「新富ライチ」

──20年近くも前から!

ただ、国産ライチ自体が知られていないため、その高い価値はなかなか広がりませんでした。農家さんは1粒50g・糖度15度以上のライチを作る技術を磨き続けていたので、あとは認知してもらえる市場をどう作るか。農家さんはブランド化のノウハウは持っていないので、私たちがいっしょにブランド化に取り組みました。

こゆ財団では国産ライチを使ったアイス、チョコ、クラフトビールなどの加工品も商品化している。写真は「ライチハーブティー」

サステナブルなモデルを評価され優良事例に選出

──2018年11月にこゆ財団は、内閣官房「まち・ひと・しごと創生本部」から国の地方創生優良事例に選出されています。

まさか選出していただけるとは思っていませんでしたので、ただただびっくりしました。

選出していただいた理由としては、まず私たちが地域の特産品を活用して稼ぐという、地域商社としての活動があると思っています。

例えばライチは、世の中に知られていない特産品の本質的な価値が伝わる売り方をしたことによって、高級フルーツ市場に新たに名を連ねることができたのではないかと思います。私たちも取引させてもらっている東京・銀座の「カフェコムサ」さんでケーキの食材に採用していただいたのは、とても大きなインパクトがありました。

また、私たちが得られた利益を人材育成に再投資していることも評価をしていただきました。私たちは設立前の段階から、利益は人材に再投資し、新たな人材が新たな商品やサービスをつくり、また稼いでいくというサステナブルなモデルを描いていました。国も設立や活発な活動を推奨している「地域商社」として、こうしたサステナブルなモデルで事業を行なっていることが、優良事例に選んでいただくことにつながったのではないかと思います。

首相官邸で開催された第16回「まち・ひと・しごと創生会議」で、こゆ財団 代表理事の齋藤潤一氏が取り組みを発表する様子(首相官邸ホームページより引用)

若手農家や農業ベンチャーらと立ち上げた「儲かる農業研究会」

──新富町では若手農家やベンチャーが集まる「儲かる農業研究会」があると聞きましたが、こゆ財団はどのように関わっていますか?

「儲かる農業研究会」は、こゆ財団のコーディネートのもと、地域の若手農家や農業ベンチャーが集まっている勉強会です。

参加している若手農家は、二酸化炭素濃度や水分量といったビニールハウス内の情報をセンサーを介してデータ化していて、研究会ではデータを活用した効率化や、収量の向上には何が役立つのかを学び合っています。

勉強会では、2019年2月に新富町に本社を移転した農業ベンチャーのテラスマイル株式会社が提供する農業経営分析サービス「ライトアーム」を活用しています。

関連ページ:テラスマイル

若手農家や農業ベンチャーを中心に15〜6名で組織される「儲かる農業研究会」の様子

人手不足の解消策と副産物の関係人口

──こゆ財団は農業人材マッチングサービス「シェアグリ」で超短期求人を募集していますね

そもそも第一義的にあったのは農業の人手不足を補うための超短期求人です。新富町には1日1~2時間だけでも農作業をやってみたいという方々のニーズがあって、繁忙期に人手が欲しい農家さんとマッチングしたいと思っていました。そこで、シェアグリさんが農業人材のマッチングというピンポイントのサービスを始められたと聞いてコンタクトしたところ意気投合して、連携することになりました。

シェアグリは人手不足の補完として役立つのはもちろんですが、副産物的に関係人口(※)にも結びついていると思います。農家さんの人手が賄われて、シェアグリさんが新富町で事業を拡大される可能性を探っていった結果ですね。

※関係人口:観光客(交流人口)以上、定住未満で地域との関わりを持つ人々のことを指す言葉で、地域創生の指標の1つとして用いられる。

それと、私自身もともと関係人口という言葉すら知りませんでした。でも、一昨年にカルチャー雑誌のソトコトの編集長である指出一正さんが新富町を訪問されたときに、「ここは関係人口をどんどん案内できる場所になっているね」とおっしゃっていただいて、こゆ財団にとっても新たな気づきになったという経緯もあります。

スマート農業を活用すれば高齢化はむしろチャンスに

──「関係人口」と同様に、「スマート農業」という言葉も地方創生や農業領域のプレイヤーにとってビッグワードとなっています。スマート農業市場について、こゆ財団はどのように考えていますか?

スマート農業は、明らかなチャンスだと思って取り組んでいます。

こゆ財団には、町の主幹産業である農業を活性化したいという明確な意図があります。日本は高齢化していますが、少ない人手でもテクノロジーを活用すれば、たくさんの農地でクオリティの高い農作物を安定的に収穫できる状況が生まれます。そうすることで、人手不足や高齢化の課題解決だけではなく、農家さんの所得向上にも貢献できるのではないかと考えています。

新富町ではAIやIoT技術の積極的な研究開発がスタートしている

日本は人口減少ですが、世界的には人口は増加傾向にあります。食糧難や環境問題がこれから深刻化していく予測がある中で、新富町でアグリテックやそれに明るい人材を育成できれば、世界を舞台にした農業ビジネスが展開できる可能性があります。

──新富町やこゆ財団の事業において、オープンイノベーションはどのような役割を担うと思いますか?

もともと、こゆ財団は役場の組織を官民共同で再組成してスタートしたという出自の話をしましたが、今考えれば、こゆ財団の成り立ちはまさにオープンイノベーションだと思います。

農業に限らず、オープンイノベーションの雛形は官民連携だと思っています。オープンイノベーションで有名な神戸市では、役場の知識を外に出したり、民間の知恵を役場に取り入れて、双方に情報や人材を動かしていくという新しいスタンスが確立されています。新富町でも、神戸市のようなオープンイノベーションを推進する余地はたくさんあるので、いち早く流れをつくっていきたいですね。

こゆ財団は、スピード感のある事業展開をモットーにしています。テクノロジーの発達のおかげで情報のやり取りにもはや地域間の格差はなくなっています。これは行政にも同じことがいえると思っていて、新富町のような小さくてフットワークの軽い自治体ほど、オープンイノベーションをどんどん進めていけるのではないかと思います。それによって新しい働き方や暮らし方が地域に浸透すれば、例えば世界から注目される町にもなれるのではないでしょうか。

【編集後記】こゆ財団はスマート農業の拠点「新富アグリバレー」を開設

こゆ財団は、地元の農家や農業ベンチャーを支援し、あわせて全国からも農業ベンチャーを誘致することで、農業をコアにした強固なコミュニティを築こうとしています。

さらに、インタビュー後に高橋さんから、新富町の新たな取り組み「新富アグリバレー」の構想を教えていただきました。「新富アグリバレー」は新富町中心部のスーパー跡地を農業ベンチャーが集積するコワーキングスペースにリノベーションするもので、先日11月10日は開設記念イベントを開催。130人を超す来場者が県内外から集まり、スマート農業に関する関心の高さが現れていました、こゆ財団はここに農業ベンチャーを10社誘致する計画です。

新富アグリバレーはまさしく、人材育成への投資の象徴となる施設になりそうです。こゆ財団は11月末まで、「新富アグリバレー」の開設資金支援を目的としたクラウドファンディングに挑戦しています。こゆ財団の活動に興味のある方や、農業ベンチャーは詳細をチェックしてみてはどうでしょうか。

関連ページ:空き店舗を改装して、スマート農業の集積地「新富アグリバレー」をつくります!

(編集:眞田幸剛、取材・文:久野太一)

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