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事業をアクティベートする VOL.1 | サツドラ・富山社長に聞く、会員数175万人の地域カードを生み出す事業活性化術

事業をアクティベートする VOL.1 | サツドラ・富山社長に聞く、会員数175万人の地域カードを生み出す事業活性化術

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事業をアクティベート(活動的に)するために、企業のキーマンたちはどのような一手を打っているのか?――その具体的なアクションや施策を紐解くシリーズの第一弾に登場するのは、サツドラホールディングスの代表取締役社長の富山浩樹氏だ。

北海道を地盤としたドラッグストアチェーン「サツドラ」を中心に、リテールとマーケティングの融合によって“暮らし変革”を実現している同社は、オープンイノベーションを推進することで事業をアクティベートしている。その一例が、提携企業が100社を超え、会員数175万人を誇る地域ポイントカード「EZOCA(エゾカ)」だ。この他にも、外部企業と新しいサービスを生み出すオープンイノベーションプラットフォーム「サツドラ・イノベーション・イニシアチブ(SII)」では、トヨタの持つ地図情報と「EZOCA」の顧客情報を組み合わせた実証実験を実施。さらに、パートナー企業と共同出資により、POS基幹業務のシステム開発を行なうGRIT WORKSを設立している。

1972年創業という歴史ある企業でありながら、ビジネスの形にとらわれず新規事業やオープンイノベーションを推進し、事業活性化に繋げるための秘訣・ノウハウとは?富山氏から話を伺った。

■サツドラホールディングス 代表取締役社長 富山浩樹氏

卸業を経験後、2007年にサツドラの前身となるサッポロドラッグストアーへ入社。店舗販売の現場や営業部門を経験しながら、社内改革を推進。2015年から現職。サッポロドラッグストアーからサツドラホールディングスへのリブランディングなど、社長就任後もさまざまな改革を行なっている。

新規事業を推進していくために、社内コミュニケーションを重視。

――サツドラさんは1972年創業のドラッグストアチェーンを母体にした老舗企業でありながら、北海道共通ポイントカード「EZOCA」など新しい事業や他社との連携などを意欲的に取り組まれています。まず初めに、なぜ「EZOCA」という新規事業に着手したのでしょうか?

サツドラ・富山氏 : 小売業には、地域の格差をなくすというミッションがあると私は考えています。大きく言えば、人類みんなが欲しいと思える品質と価格で商品を提供すること。北海道の地域格差をなくすためには、企業と人とのコミュニティ形成が必要だと感じました。そのキッカケとして取り組んだのが2014年にスタートした北海道共通ポイントカード「EZOCA」です。

▲北海道共通ポイントカードプログラムとして道内に広く普及している「EZOCA」。

――ドラッグストアという小売業が本流である企業において、「EZOCA」や他社連携・オープンイノベーションなどを推進させていくことに反発はなかったのでしょうか。

サツドラ・富山氏 : 確かに、私が進めようとする事業は、社内では異質に映り、理解されるまでに時間がかかりました。今でこそ「EZOCA」は道内の提携店で使えるポイントカードとして認知されていますが、リリース当初はサツドラで普及させていくために現場の理解が必要でした。

そこで、「EZOCA」の運営を行うために、BtoBビジネスを対象にしたリージョナルマーケティングという地域マーケティング会社設立を設立。あわせて、サツドラ内でも橋渡し役として、事業推進ができる社員を担当者に配置したんです。

そのおかげで、会社全体が「EZOCA」に乗っていくことができ、今では提携社数100社以上、会員数175万人にまで成長しました。この成功体験が貴重なナレッジとなり、新規事業に取り組む際には、サツドラと外部の橋渡し役を置くようにしています。

――新規事業の立ち上げの苦労は、既存事業からアレルギー反応が出ること。そこに対して橋渡し役がいれば、社内に新規事業を浸透させることができわけですね。

サツドラ・富山氏 : 2018年からは橋渡し役をインキュベーターチームとして私の直下に置き、新規事業の受け皿として機能させています。前職で経営企画を担当していた社員をリーダーに抜擢し、新規事業に関わる様々な業務を担当しています。

関係している既存部署でプロジェクト化させてしまうと、元々の業務と板挟みにあいプロジェクトが進まず、社員も疲弊してしまう。事業化や法人化するまでは、インキュベーターチームが橋渡しを担いつつ、社内のヒアリング、資料作成などを巻き取っています。

――「EZOCA」の取り組みやマーケティング会社設立といった先進的な取り組みに対して、社内から「本業と違う」といった声にはどのように対応したのでしょうか。

サツドラ・富山氏 : 社内でのコミュニケーションを大切にし、社内広報などを強化してきました。というのも、社内でヒアリングを行うと、先進的な取り組みに対して「なぜ、それを進めているのか?」、「本業の小売業が大切にされていないのではないか?」といった声がありました。以前から社内を回って、私自身で啓蒙活動を行なっていたのですが、それが足りないとことに気付いたのです。マネジメント層ですら、正しく伝わっていない部分もありましたので、CI室でそういった課題を解決していこうと計画しています。

――なるほど。

サツドラ・富山氏 : 社内報では、社員と私がランチをしながら悩みや疑問に答える対談を掲載したりと幅広いコンテンツを発信しています。また、毎週ウイークリーマガジンも制作し、時事ネタの解説、Q&Aコーナーを設けて質問に答えるなど、社員とのコミュニケーション量を増やすように努めています。

時事ネタはFinTechといった、なるべく新規事業に関連するものを選んでいますが、毎週考えるのが本当に大変ですね(笑)。Q&Aに関しても、いまさら聞けないような基本的なことにも丁寧に答え、社員が見たくなるようなコンテンツづくりを意識しています。それらを社内チャットのタイムラインから随時配信しています。

――サツドラさんは歴史のある会社です。社歴が長く、年齢的にITリテラシーが低い方だと、チャット共有では情報を取れないといった不安はありませんか?

サツドラ・富山氏 : デジタルトランスフォーメーションを徹底させるために、社員にスマホを配布し、チャット形式での社内コミュニケーションを推進しています。実際、メッセージも全てチャットですし、申請書もタブレットで作成・提出しています。会議はもちろんペーパーレス。社内の報告も全てタブレットに上がるため、会長ですら渋々ですがタブレット使うようになっています(笑)。ミーティングもチャットのため、フラットになり、逆に若手の方が発言が多くなっていきました。

何か新しいことに挑戦したいなら、サツドラに集まろう。

――外部企業と新しいサービスを生み出すサツドラ・イノベーション・イニシアチブ(SII)の構想はいつから始まりましたか。

サツドラ・富山氏 : AIを基軸に小売業とそこで働く人々の革新的な未来を創造する「AI TOKYO LAB (エーアイ・トウキョウ・ラボ)」を立ち上げてからなので、今から2年ほど前です。「EZOCA」はリージョナル・プラットホームとして始めたサービス。その流れをくんで、SIIによって北海道を大きな実験の場とする構想を練っていました。また、東京に本社を置く企業が北海道進出を目指すタイミングで、私たちに相談があったので、北海道という地域に対してまだまだニーズがあることを知ったことも立ち上げの理由です。

――SIIと通じて、トヨタさんと新サービスのための実証実験を実施したと伺っています。プロジェクトはどのように進めていきましたか。

サツドラ・富山氏 : 社内と同じやり方で、まず橋渡し役が間に入りながら相互理解を深めていきます。コミュニケーションや関係の構築をどの様にできるかが重要で、キーマンに対しては私が入る場合もありました。この部分は、非常にアナログ的な関わり方です。杓子定規ではなく柔軟に。フレームワークがしっかりしていればプロジェクトが上手いくわけではありませんので。お互いがリスペクトし合える、パートナーシップが何より大切なのです。

他の事例でも同じことが言えます。POS基幹業務のシステム開発を行なうGRIT WORKSという合弁会社を、パートナー企業と合同出資で立ち上げました。このパートナー企業は、当社のPOSシステム開発を依頼していた企業で、元々は発注者と受注者という関係性でした。しかし、開発に関わりながら、主従ではなくパートナーという関係性を構築できた。だからこそ、合弁会社を共に立ち上げるだけの信頼関係が築けたのだと思っています。

――他社との協業で印象に残っているものをお聞かせください。

サツドラ・富山氏 : 3年半を要した「サッポロドラックストアー」から「サツドラ」へのリブランディングプロジェクトです。開始当初は大手代理店からも話を聞き、提案まで受けましたが、どうもしっくりこない。――そうしたときに、EIGHT BRANDING DESIGN(エイトブランディングデザイン)の代表・西澤明洋さんとお会いしたんです。お話しの中から「ブランディングとはこういうことか」と腹落ちできた。そして、私から一緒にやりましょうと依頼し、まさに協業でリブランディングを手がけてきました。

企業コンセプトやキャッチコピー案はお互いが出し合いながら、ときには私の案が採用されることも。その言葉が生まれるまでに積み重ねた会話やプロセスが重要だったので、どちらの案を選ぶといったことではなく、最善を常に考えながらお互いが進んでいくことができたと感じています。こうした経験があったからこそ、他社とのオープンイノベーションを形にできているのだと思っています。

――新規事業の立ち上げやトヨタとの実証実験、パートナー企業との合弁会社設立。社外に強固な協力関係を構築しつつ、サツドラさんはさらなる成長軌道に乗っています。今後はどのような世界観を描いているのか、お聞かせください。

サツドラ・富山氏 : 「何か新しいことに挑戦したいなら、サツドラに集まろう」と思ってもらえるような会社にしていきたいです。新しいことを始めようとしても、社内調整に目が向いてしまって、バイアスがかかることは珍しくありません。しかし、実現したいことに対して純粋な考えが集まれば、バイアスは関係無しに、大きなパワーが生まれる。そんな会社を目指しています。副業・パラレルワークを認めていますので、多様な人材が集まりやすい環境も当社にはあります。これからも、さまざまな人材と新しいことにチャレンジしていきます。

取材後記

事業をアクティベートさせるために富山氏が取ったアクション。それは、社内が抱える新規事業へのアレルギーを少しでも軽減させるための橋渡し役を設けること。そして、社内報、ウイークリーマガジンといった、緻密なコミュニケーションによる社内風土の醸成だ。新規事業やオープンイノベーションを実現させるスピード感やコミット力だけではなく、時には立ち止まり社員と会話を重ね、お互いの理解を深めていくことも必要となる。一見アナログに感じ取れるこれらのアクションを継続させることに、サツドラの強さの秘密が隠されているはずだ。

(構成・取材・文:眞田幸剛、撮影:古林洋平)

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  • 奥田文祥

    奥田文祥

    • 神戸おくだ社労士事務所
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  • horishin

    horishin

    • 投資家
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