令和のモノづくり ~浜野製作所 浜野社長と語らう~ VOL.1
東京・墨田区で金属加工業を手がける浜野製作所。1978年に創業した同社は、金属加工技術に高い評価を得ており、深海用小型フリーフォール型無人探査機「江戸っ子1号」の開発プロジェクトにも参画。さらに、自社工場内にインキュベーション/コワーキングスペース「ガレージスミダ」を併設。実際に、ガレージスミダで支援を受けたオリィ研究所やチャレナジー、エアロネクストなどのスタートアップは着実に成長を遂げ、その存在感を大きなものとしている。
そんな同社を牽引し、メディアやイベント出演も数多くこなす代表取締役 CEO 浜野慶一氏は、「ガレージスミダ」の設立やスタートアップとの共創を数多く実現。モノづくり系の中小企業や町工場が生き残るための取り組み事例を示してきた。
ここまでの実績を残している根本には、一体どんな考えや思いがあるのか。先行き不透明な令和時代に生き残る、モノづくり中小企業・町工場の“再興の道”とは?――「ガレージスミダ」に伺い、eiicon 代表の中村亜由子が浜野慶一氏にインタビューを実施。同氏の視点から、日本のモノづくり中小企業・町工場、スタートアップに向けたメッセージを発信していく。今回は、その第一弾をお届けする。
▲株式会社浜野製作所 代表取締役 CEO 浜野慶一氏
1962年東京都墨田区生まれ、1985年東海大学政治経済学部経営学科卒業。同年都内板橋区の精密板金加工メーカーに就職。1993年創業者・浜野嘉彦氏の死去に伴い、浜野製作所代表取締役に就任。2014年にガレージスミダを立ち上げる。
将来を見据えると、不安を覚える中小企業は多い。
――令和時代を生き残っていくために、モノづくりに関わる中小企業や町工場が抱える課題は、どのような部分にあるとお考えですか。
浜野氏 : そうですね。町工場に限らずどこにでも将来への不安は潜んでいるのでは、と思います。例えば、大手企業と直接取引をしていなくても、中小企業はモノづくりの枠組みとして、サプライチェーンに組み込まれてしまっている。それがプライムであろうと、五次請けであろうとも同じこと。以前はその枠組みの中で、ビジネスが成り立っていました。しかし、近年では、その枠組みで仕事をしていても稼ぐことが難しくなってきています。
いずれ現状の枠組みから脱しなければならないとしても、どのようにやっていけば良いか分からないのが現状であり、課題であると考えます。
――以前、eiiconで取材した三重ロボット外装技術研究所さんは、元々は1966年に創業した町工場。リーマンショックを境に自動車産業からロボット産業へと大きく舵を切り、産業技術総合研究所(産総研)との共同開発を進めるなど注目を集めつつあります。例えば、そのようにして事業ポートフォリオを変えていく必要があると。
浜野氏 : 危機感にもグラデーションはあると思っています。たとえば、滋賀、三重、岐阜あたりの中小企業は中京・関西とモノづくりの盛んな地域からアクセスが良い。各中小企業の並々なら努力もあって大手企業との付き合いも多く、地理条件的にも恵まれているということができると思います。これまで通り、大手企業からの仕事を請けながら地道にやっていけるかもしれません。――しかし、確実に製造業全体が後退の傾向にあるため仕事のパイは減りつつあります。
――ますます進んでいくグローバル化によってパイが減るということもありますし、スマートファクトリーなどの登場によって自動化・省人化はさらに進んでいき、モノづくりの産業構造自体が変わりつつあります。
浜野氏 : 時代がどんどん変化して行く状況の中に新たな市場や需要が生まれて来る可能性があり、中小企業・小規模零細企業にとってもこの変革時が大きなチャンスになる可能性があります。
――今は大丈夫でも、将来が不安な企業は少なくないと思います。
浜野氏 : 数十年後はどうなっているのか、どこの企業も不安がありますよ。浜野製作所が拠点を置いているここ、東京・墨田区でも、町工場が全盛期の1万社からそろそろ二千社を割るくらいにまで減ってきていますから(※)。
※このような現状を背景に、墨田区では2013年度から、新しいアイデアや発想を持った外部の人材を呼び込み、区内の空き工場等を活用して、区内事業者や区民等と連携をしながら新しい製品、技術、サービスやものづくりコミュニティを創出する「新ものづくり創出拠点」を開設。「ガレージスミダ」も拠点の一つになっている。
収益を先に考えてしまうと、動けなくなる。
――不安を抱える中小企業や町工場に向けて、「次の一手をこうするべき」といったアドバイスはありますか。
浜野氏 : それは、私も知りたいところですね(笑)。
先日、講演に行った際に、浜野製作所の取り組みを紹介したところ、ある会社の社長さんから「新しいことを始めるための、枠組みの作り方、人やお金をどうやって集めるか教えてほしい」という質問があったんです。そのとき私は、「最初からマネタイズさせる方法を考えてしまうと先に進んでいかない」とお答えしました。
――収益を第一に考えてはいけないと?
浜野氏 : 事業・ビジネスをスタートし継続して行くためには「収益」は無くてはならないもので必要なものです。しかし最初の段階・協議の段階から「お金」の話をしてしまうとやること・出来ることが限られてしまい結局、イノベーションを起こせる様な発想は生まれて来ません。そもそもの主旨・目的を明確にしお互いの夢や思いをぶつけ合い皆でワクワク出来る様なプロジェクトを考えることが最初ですね。
ここを踏まえた上で収益の話・枠組みづくり……などの議論を重ねれば良いと思いますが最初から「お金」の事・枠組みの事を議論するとその時点から話が進まなくなりますしワクワクしないプロジェクトになってしまいます。
――最近の浜野製作所の共創でいえば、ロボット事業を展開するアスラテックさんとの事例があります。それも、始まりはさまざまなことを話し合いながら進んでいったと。
浜野氏 : 「三軸トング」という、ロボットアームシステムを共同で開発したのですが、実は数年前からアステラックさんとはお付き合いがありました。
▲アスラテックと共同開発した遠隔作業装置「三軸トング」。三軸トングは「トングの延長」というコンセプトの下で開発したロボットアームシステムで、手の届かない場所での多彩な作業を可能とする新しい”道具”。
アスラテックさんとは、最初、テレビの特別番組の企画で、ロボットによるボクシングの試合を開催することとなり、そのためのロボット開発の中で私たちがハードを、アスラテックさんがソフトを担当したんです。その縁で、お互いの領域に関してさまざまなアドバイスをする間柄になったんですよね。それが今回のロボットアーム「三軸トング」の共創に繋がっていきました。
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アスラテックだけではなく、遠隔操作型分身ロボットOriHimeのオリィ研究所、次世代型電動車椅子・パーソナルモビリティのWHILL、風力発電のチャレナジー、ドローン開発のエアロネクストなど、「ガレージスミダ」を通して飛躍するスタートアップと深いつながりを持つ、浜野製作所。
以前のeiiconのインタビューにおいても浜野氏は次のように話してくれた。――「なんといっても私たちは下町の工場なので、人との関わりも大切にしています。そもそも人情味あふれる地域で育って来た会社ですし、face to faceで本音を語り・思いを共有して人情味溢れるものづくりをしています。IT化・デジタル化はあくまでも手段の1つで常に主旨・目的を明確にして物事の本質を忘れないものづくりを推進して行きたいですね。」。
IT化・デジタル化がさらに加速する令和時代においても、やはり“縁”や“つながり”を大事にすることが、モノづくり中小企業や町工場にとって求められていることだと言えるだろう。――次回、VOL.2では、モノづくり中小企業や町工場の人材育成や組織づくりのヒントを聞いた。
(構成・取材・文:眞田幸剛、撮影:佐々木智雅)