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事業をアクティベートする VOL.2 | Shiftall・岩佐氏 パナソニックと「異文化交流」による事業創り

事業をアクティベートする VOL.2 | Shiftall・岩佐氏 パナソニックと「異文化交流」による事業創り

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事業をアクティベート(活動的に)するために、企業のキーマンたちはどのような一手を打っているのか?――その具体的なアクションや施策を紐解くシリーズの第二弾。今回登場するのは、株式会社Shiftall(シフトール) 代表取締役CEOの岩佐琢磨氏だ。

岩佐氏は、古巣への「出戻り」という変わった経歴を持っている。2003年にパナソニックに入社し、2007年12月に同社を退職。翌年ハードウエアベンチャーの株式会社Cerevoを設立し、IoT技術を活用した様々な” 0→1(ゼロイチ)”のプロダクトを生み出してきた。Cerevoを設立して10年経った2018年、古巣であるパナソニックの子会社として株式会社Shiftallを立ち上げ、代表に就任。なぜパナソニックへの出戻りという選択肢を取ったのか。そして、パナソニックとのシナジーでどのように事業をアクティベートしようとしているのか。――岩佐氏のこれまでのキャリアを振り返り、同氏ならではの視点も深掘りながら、詳しく話を伺った。

▲株式会社Shiftall 代表取締役CEO 岩佐琢磨氏

1978年、奈良県生まれ、京都育ち。立命館大学大学院情報理工学研究科修了。「ネット×家電」の商品開発を志し、2003年、松下電器産業(現パナソニック)に入社。eネット事業本部に配属され、デジタルカメラ「LUMIX」やレコーダー「DIGA」などのネット対応家電の商品開発に携わり、2007年にパナソニックを退職。翌年、ハードウエアベンチャー・株式会社Cerevoを設立し、代表取締役に就任。2018年4月にパナソニック完全子会社となるShiftallを設立。

「ネット家電」領域で、ゼロイチに挑戦したい

ーーまずは岩佐さんのこれまでのキャリアについてお聞かせください。2003年にパナソニック入社したのは、「ネット家電の商品開発に取り組んでみたい」と伺いました。その背景をお聞かせください。

Shiftall・岩佐氏 : そもそもインターネットが好きで、「ネットに関わるビジネスをやりたい」という思いがベースにありました。ちょうど僕はインターネット第二世代くらいで、大学生の時にいわゆる”ドットコムバブル”を経験したんですね。

パナソニックへの入社は2003年ですが、その頃はYahooや楽天といったネット企業もすでにある程度成熟した規模になっていたので、ゼロイチの分野では無いなと思ったんです。

そこで、ゼロイチができるところはどこだろうと考えた結果、これからインターネットが来るであろう分野として「ネット家電」という領域を見つけたんです。当時はまだIoTという言葉も無く、「ネット家電」という言葉は存在するけれど、まだ実物は見たことがない。そんな状況だったので、インターネットのゼロイチをやるならこの領域だな、と考えました。

ーーパナソニックには約5年勤められていますが、その中での学び・気づきはどういったものがありましたか?

Shiftall・岩佐氏 : 大企業の中でゼロイチを作るということは本当に難しいということを学びましたね(笑)。世の中の仕組みって、社会人生活をやってみて初めて見えてくるもので、大企業でよかったなと思う部分は社会の仕組みがよく理解できたことです。当時の僕は「大企業は資金もリソースも潤沢で、最先端の技術力もある。だから世の中にある大半のものは大企業が作っている」と考えていたんですよ(笑)。

中小企業やスタートアップは、資金やリソースが少ない。大企業だからこそゼロイチができると考えていたんですけれど、実は大企業が最もゼロイチと縁が遠い。そのことに気づくことができたのは大きな収穫でした。就活サイトを見ているだけじゃ分からないことでしたね。

ーー大手企業にはゼロイチを作る環境がないということでしょうか?

Shiftall・岩佐氏 : というよりも、大企業でゼロイチをやろうとすると、いろんなところから矢が降ってくるんですよ(笑)。ゼロイチはできないな、と思った決定打の一言があるんですが、自社製品にニッチな機能を搭載しようと提案したことがあるんです。他社さんがすでにやっていたので、僕らも新しいことをやっていこうと。その時「あれは敗者のストラテジーなんだよ」と言われたんですよ。

それは何故かというと、当時僕らはハードディスクレコーダーの「DIGA」を作っていて、「DIGA」は業界シェアNo.1だったんです。製品にアグレッシブな機能を搭載していたのは他社さんなんですが、当時はシェアが低かったんですね。シェアが低いとマニア受けを狙わないと生き残れない。王者はもっとどっしりと構えて、普通の人が普通に使いやすいものを作っていくほうがいい、そう言われたんです。大企業人としては正しい意見だなと思うんですけど、個人としては面白くないなと思ってしまったんですよね(笑)。

ーーなるほど。

Shiftall・岩佐氏 : 例えば、今8K放送が始まっていて、いつか絶対16K放送が始まりますよね。大手はもう研究や開発をしているはずなんですよ。その開発は超最先端の技術だと思います。ただ、32Kが来たら次は64K、その次は128Kが来ますよね。デジカメにしても、500万画素の次は1000万画素になる。僕はそれを「シリアルなイノベーション」と呼んでいるんですけど、坂道をどんどん登っていくことは、資金やリソースがとてつもなく必要になるので、大企業にしかできないイノベーションだと思うんです。

ただ、それはゼロイチではない。「TVじゃなくてディスプレイを目に取り込んでしまおう」という発想がゼロイチだと思うんです。新しい価値軸を見出すことですね。

ーー既存製品のクオリティーを高めるのではなくて、全く新しいものを生み出すのがゼロイチだと。

Shiftall・岩佐氏 : ゼロイチで生み出されたイノベーティブなプロダクトは従来の価値を破壊する一方、従来の価値軸だと評価の低いものになってしまうことが多いんですよ。例えば昔のロボット掃除機はとにかく吸引力が無かった(笑)。

でも、バッテリー駆動の自動型掃除機という点で、従来型の吸引力の高さとか、そういったシリアルイノベーションの価値軸を破壊しているんですね。「自動型って便利だよね」という発想で、従来の価値軸とは別の価値を見出している。ゼロイチの開発は最先端ではないことが多いんです。最先端技術は持っているけれど、新しい価値軸を見出すという点では大手企業は相性が悪いなと思ったんです。

ーーなるほど。その気づきがCerevo創業のきっかけになったんでしょうか?

Shiftall・岩佐氏 : そうですね。仕事って、男女の付き合いとか結婚と近いものがあって、ベーシックな仕事のスキルって大事なんですけど、「あの人はいい人だよね」とかいう基準って、人によって違うじゃないですか。旅行好きな人も居れば、そうじゃない人もいる。そこは相性ですよね。相性が悪いということは、自分にとっても会社にとっても良くないことだと思ったので、じゃあ独立しようと。

Shiftallとパナソニックの「異文化交流」

ーーCerevoを立ち上げて10年程してShiftallを設立し、パナソニックに戻った経緯を教えてください。

Shiftall・岩佐氏 : パナソニック側の体質が大きく変わっていたからです。僕がパナソニックを離れたとき(2007年)は、家電メーカーにとってV字回復のすごくいい時期だったんですよ。ちょうど地デジへの移行の時期でもあったので、これからプラズマTVをガンガン売るぞっていう。ゼロイチをやるよりは既存製品を伸ばしていけばいいという感じだったんですね。

でも、この10年で家電業界全体が逆風になってしまって。パナソニックも例外ではなく、ご存知のように家電業界が「業務転換をしていかなきゃいけない」というモードになっています。Cerevoも資金調達がしたいタイミングだったので、Shiftallチームを作ってパナソニックを変えていく手伝いをしようということになりました。

ーーShiftallは完全なパナソニック子会社になるんですよね?

Shiftall・岩佐氏 : そうですね。Shiftallはパナソニック100%出資で、パナソニックの「ビジネスイノベーション本部」に紐付きます。Cerevoからの継続である約30名がShiftallチームになって、パナソニックとの協働事業と、自社の独自事業の2つの軸でビジネスを展開しています。協働事業としては、パナソニックの「HomeX」事業への協力と「WEAR SPACE」の共同開発。独自事業としてIoT冷蔵庫の「DrinkShift」を展開しています。

▲「DrinkShift」は専用冷蔵庫と組み合わせたクラフトビールの自動補充サービス

ーー協働事業を進める際に、パナソニックの人がShiftallのオフィスにいらっしゃることはあるんでしょうか。

Shiftall・岩佐氏 : もちろんありますよ。今まさに異文化交流中といったところで、出向という形ではなく、パナソニックに籍があるままShiftallのオフィスを利用し、一緒にプロジェクトを進めています。

ーーパナソニック側から「こういう開発をやってくれ」というような干渉はありますか?

Shiftall・岩佐氏 : 協働事業に関しては協力しますが、「Shiftallがやるべきでないものはやらない」とはっきりと伝えていますね。Shiftallはかなり尖ったチームなので、僕らにしかできないことをきちんと主張しながらやっています。パナソニック側もそこを理解してくれているので、上下関係は無く、対等ないい関係が築けていると思いますよ。

ーーShiftallの事業である「DrinkShift」はまさにゼロイチ事業ですが、そこにはパナソニックのメンバーも入っているのでしょうか。

Shiftall・岩佐氏 : 「DrinkShift」に関しては、Shiftallの完全な自社事業です。ただ、「DrinkShift」にはパナソニックしか持っていないコアコンポーネント技術が入っているんですよ。パナソニックには「面白いことをしているなら技術を提供するよ!」と言って協力してくれる方が多いんです。

「DrinkShift」のガラスは冷蔵庫の中が綺麗に見える薄い断熱ガラスを使用しているんですが、薄さ6mmで業界最高峰の断熱性を持つ特殊な2層ガラスなんですね。これはパナソニックのプラズマTVの技術がベースになっているんです。こういったものをスタートアップがゼロから開発するのは難しいですよね。大企業が何十年も積み上げたシリアルなイノベーションのコアコンポーネントをソリューション化してゼロイチを作っていくのが僕らの分野です。

ーーアイデアはShiftallで、コンポーネントはパナソニックのものを活用していくといった形ですね。

Shiftall・岩佐氏 : そうですね。Shiftall独自のビジネスは基本的に僕らでアイデアを出しますが、場合によっては販路の開拓もパナソニックと一緒にしていく可能性もありますね。例えばパナホームの住宅に組み込まれるとか、パナソニックが入っている駅などの公共システムに、実はShiftallのプロダクトが入っているものもあるとか。そんな風になっていく可能性も充分にあると思います。

人材の流動性はこれからもっと高まっていく

ーー岩佐さんのように出戻りキャリアは珍しいと思いますが、「戻りたい」と思える魅力的な企業であるためには何が必要だと思いますか?

Shiftall・岩佐氏 : リクルートの「卒業」という仕組みはいいなと思います。退職時に無理に引き止めないことが1番いいんですよ。「何かあればまた一緒にやろうよ」くらいでいいんです。実際僕もCerevoを辞めて独立した人やチームに仕事を発注しているんですけど、リクルートはそういうのがうまくて、”元リクルート”の間で仕事がすごく回っているんですね。会社を出て行って自分で何か立ち上げる人って、すごい人材である可能性が高い。社内で囲って本領を発揮できないのなら、外に出して発注する、OBネットワークとしていい関係性を築くことが大事だと思います。

ーーなるほど。メーカーはそういった動きが少ないように感じるんですが、その辺りは何か原因があるんでしょうか。

Shiftall・岩佐氏 : メーカーって地方が多いんですよね。そこが難しいところだと思います。例えば広島に会社があるとしたら、囲っているつもりはなくても結果として囲ってしまう形になるんですよ。広島から出るには時間もコストもかかりますし、広島で朝から晩まで働いていると、東京の転職イベントにはなかなか行けない。結果として、人材流動性が下がってしまうんですよね。そういう意味では東京にある会社は強いです。

ーー人材の流動性でいうと、パナソニックも十数年前と今では変わっていますか?

Shiftall・岩佐氏 : 劇的に変わっていますね。十数年前は、パナソニックの社員がスタートアップの人たちと一緒にオフィスを行き来しながらものを作るというのは聞いたことがなかったです。さらに言うと、10年、20年前は業界内での転職はタブーみたいな風潮もありましたからね(笑)。組織って、上が変わると全体が追いかけるように変わるんです。

我々のように、元パナソニックの人間がパナソニックに力を貸すという形は、ここ1〜2年くらいで加速すると思います。現状はまだ狼煙が上がったくらいですけど、当然他社もこういった動きを見ているので、パナソニックに限らず、人材の流動は日本全体で加速するのではないでしょうか。

ーーシリアルイノベーションを得意とする企業と、ゼロイチを得意とする企業。協働はいい影響も多いと思いますが、ハレーションが起きることはないのでしょうか?

Shiftall・岩佐氏 : ハレーションしかないですね(笑)。今回Shiftallがパナソニックの子会社となったことで、チャンピオン事業だけだった会社にチャレンジャー事業が加わったんですね。当面は安泰というチャンピオン事業には僕らのようなゼロイチは必要なかったわけです。でもチャレンジャー事業にゼロイチ人材を増やしていくことが業態転換の目的なので、その先遣隊として僕ら外部部隊が加わった。そこで起きるハレーションは歓迎すべきことだと思います。

ーーそれでは最後にパナソニックのチャレンジャー事業であるShiftallが目指す、これからの展開について教えてください。

Shiftall・岩佐氏 : 2019年中には「DrinkShift」のサービスをスタートしたいなと思っています。まずはビールからスタートしますけど、もっと色々なものを、冷蔵庫以外の製品もどんどんお客様にお届けして、生活必需品であったり、生活を豊かにするものをリフィルし続けていきたいなと思っています。

ーー商品の提供はBtoC向けになるのでしょうか。

Shiftall・岩佐氏 : まずはBtoCでスタートします。BtoBの方が市場は大きいですが、地名度の高い会社じゃないと入り込むのが難しいので。まずはBtoCでしっかり知名度をあげてからBtoB事業を展開していきたいですね。

取材後記

パナソニックとShiftallの関係性を「異文化交流」だと語っていた岩佐氏。ゼロイチを生み出していくことへの真摯な姿勢が非常に印象的だった。「DrinkShift」は、大企業の最先端技術とベンチャー企業の革新的アイディアから生まれた、一風変わった”出戻りキャリア”だからこそ開発に至った製品。人材の流動性が高まり、多種多様なキャリアが増えていくことで起きる異文化交流による事業創りは、日本のビジネスの活性化にも大きく影響を与えることだろう。

(構成:眞田幸剛、取材・文:阿部仁美、撮影:古林洋平)

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  • 奥田文祥

    奥田文祥

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