中電不動産・豊島・中日本航空・FUJI・Minth Group・メニコンの6社が集結――名古屋市『CIRCLE』リバースピッチで語られた、共創による新たな事業構想
名古屋市が主導し、名古屋周辺の事業会社と全国のスタートアップによる事業共創を強力に後押しするプログラム『CIRCLE』。去る9月8日、同市のイノベーション拠点であるナゴヤイノベーターズガレージにて、共創の起点ともなる今年度のリバースピッチイベントが実施された。
本リバースピッチには、中電不動産、豊島、中日本航空、FUJI、Minth Group、メニコンの名古屋エリアに拠点を持つ事業会社6社が登壇。保有するリソースや直面する課題を共有しながら、全国のスタートアップと共に挑みたい具体的な共創テーマを提示した。
会場には新規事業開発を担う企業関係者やスタートアップが多数集結し、各社の発表に熱心に耳を傾けるとともに、終了後も活発なネットワーキングが行われた。本記事では、名古屋エリアの事業会社6社が提示した具体的な共創テーマや求めるパートナー像など、リバースピッチの内容を中心に当日の模様を詳しくレポートする。
【オープニング】 名古屋発の共創を加速させる『CIRCLE』――行政による支援体制の拡充と、昨年度の成果を背景に進む新たな共創
開会にあたり、名古屋市 経済局 スタートアップ支援課の佐橋氏が登壇した。同氏は、名古屋市の地元企業による新規事業やイノベーションを応援するため、前向きな取り組みを行っていきたいと説明。行政の持つフィールドなどの活用も含め「うまく使っていただけると、大変ありがたい」と呼びかけた。
また、2026年9月からはスタートアップ支援を目的に、市が公共調達において、スタートアップのサービスや商品を買いやすくする制度(新事業分野開拓者認定制度)を始めることにも言及。興味があれば声をかけてほしいと語り、次の事業説明へとつないだ。
▲佐橋学氏(名古屋市 経済局 スタートアップ支援課 課長補佐)
続く事業説明では、オープンイノベーションプログラム『CIRCLE』の概要が紹介された。本プログラムは、名古屋エリアの事業会社と全国のスタートアップによる共創から、新たな事業を生み出すことを目的としている。オープンイノベーションを目指す地元企業をホスト企業とし、テーマ設計からパートナー探索、今回のリバースピッチに至るまで、各社の状況に応じた伴走支援を行う。
▲『CIRCLE』では共創コーディネーターを配置し、事業会社・スタートアップ双方へのニーズヒアリングからマッチングした共創プロジェクトの支援までを一気通貫で実施する。
昨年度にも同様のプログラムを展開しており、支援企業数14社、マッチング数109件を記録。そのうち秘密保持契約(NDA)の締結や実証実験へと進んだ成果件数は10件にのぼったという。
【リバースピッチ】 中電不動産・豊島・中日本航空・FUJI・Minth Group・メニコンの6社が登壇――共創による新たな事業創出へ
さらなる成果創出に向けてスタートを切った今年度の『CIRCLE』。当日のリバースピッチには、新規事業開発や課題解決に挑む事業会社6社が登壇。自社のアセットをもとに共創を呼びかけた、各社のリバースピッチの模様を紹介する。
【1】中電不動産株式会社
屋外フィールド作業の安全・省力化を、ともに実装へ
中部電力グループの一角として、不動産、建設、緑化事業を展開する中電不動産株式会社。今回は、緑化事業の屋外フィールド業務における「急傾斜地伐採」と「刈払機作業」の2つをテーマに掲げて、共創パートナーを募集している。
1つ目の「急傾斜地伐採」では、倒木方向の見誤りによる事故リスクが高く、安全判断の標準化が急務となっている。長年の経験や勘だけに頼る体制から脱却し、さまざまな技術を活用して倒木リスクを事前に可視化することで、現場作業者の安全を支える仕組みの導入を求めている。
2つ目の「刈払機作業」では、草刈りに伴う飛び石で人身・車両等への被害発生を抑制するため、対策が喫緊の課題だ。周辺確認や養生にも多大な時間を要している。これに対し、カメラやセンサーによる危険検知、飛び石を抑える装備や制御技術、VR安全教育など、現場で長く機能する提案に期待しているという。
同社から提供できるアセットには、山間部などの屋外実証フィールドや刈払機作業の現場が挙げられる。また、現場担当者と一体となって、課題整理や改善・検証を進められる体制も強みだ。単なる発注者ではなく、「最初の利用者」かつ「事業化のパートナー」として効果検証と数値化をスピーディーに行い、投資対効果を明確にしながらサービスの事業化や他社展開を進める考えだ。
共創パートナーには、技術の目新しさだけでなく、現場を理解して実装まで伴走できる企業を求めている。同社は「中電不動産の現場で成果を実証し、同じ課題を抱える多くの事業者へ届けられるサービスを、ぜひ共に築き上げましょう」と参加者らに語りかけ、発表を締めくくった。
【2】豊島株式会社
ウェルネス領域における機能性素材・加工技術を核としたサービス・プロダクトの開発
創業180年以上の歴史を誇るライフスタイル提案商社、豊島株式会社。機能素材の開発やオーガニックコットンの普及、アップサイクル事業など、異業種と連携した多彩なプロジェクトを展開している。
2017年にはCVCを設立し、複数のスタートアップに出資を実施してきた同社だが、単独での事業化の難しさを振り返り、今後は他の事業会社や自治体とともにスタートアップを後押しし、新しいサービスを社会に届けていく仕組みを作っていきたいとういう。
そんな同社は今回、「疲労回復」や「美容」といったウェルネス領域を共創テーマとして掲げた。日々の暮らしで身につけるファッションとウェルネス領域の社会課題は親和性が高いとし、この領域を選定した。共創パートナーには、「ウェルネス」をキーワードに先進的な研究開発を行うベンチャー企業や、独自の技術・サービスを持つ事業会社などを求めている。
共創を進めるにあたって活用できる同社の強みは、世界中からの原料・素材の調達力、OEM・ODMによる商品企画・量産体制の構築、そして、販売ネットワークとブランド連携などがある。「自治体やファッションブランドと販路を最初に作り、社会実装に至る高速道路を整えていきたい」と語った。
同社は「今日は仲間集めのために参加した。ベンチャー企業の方々だけでなく、自治体や事業会社の方とも広くつながりを持ちたい」と述べ、共通の志を持つパートナーの参画に期待を寄せた。
【3】中日本航空株式会社
超高密度3次元点群データ「SAKURA⁺」を活用した「都市デジタルツイン」構想の実現
名鉄グループ傘下で、県営名古屋空港に本社を置く中日本航空株式会社。ヘリコプターや小型機を用いた航空運輸業と、航空機を活用した調査測量事業の2本柱で70年以上の歴史を刻んできた。現在は「ソラに夢を。くらしに安心を。」という新スローガンのもと、営業部・技術部・みらい事業創造部が三位一体となり、新プロジェクトの立ち上げに挑んでいる。
今回、立ち上げたい共創プロジェクトの軸となるのが、ヘリコプターからレーザーを照射して取得する3次元点群データ「SAKURA⁺(サクラプラス)」だ。3次元座標値と高解像度写真を取得でき、一般的な航空レーザーと比べて広域性・高密度・高解像度の面で圧倒的な強みを持つ。
▲「SAKURA⁺」のデータイメージ(画像出典:パンフレット)
同社はこの「SAKURA⁺」と外部スタートアップの技術・アイデアを掛け合わせ、新規事業開発を目指したいと話す。一例として、道路設備の自動抽出や災害ハザードシミュレーション、人流・交通データを重ねた将来の景観・環境評価などを挙げる。加えて、ゲームやエンタメ、不動産など異分野での応用も広く歓迎しているという。
提供可能なアセットとして、名古屋市から愛知県域に至る「SAKURA⁺」のデータセット(色付き点群、航空写真簡易オルソ、グリッドデータ、地形起伏図)の無償使用権を提示。自社開発のビューワー環境も用意される。
見据えるゴールは、PoCの成功だけにとどまらない。名古屋市をフィールドとしたPoCを経て、外部資金の獲得、そして持続可能な事業モデル化までを視野に入れる。同社は「データとフィールド、私たちのやる気は揃っている。ぜひ、スタートアップの皆さんのアイデアをお借りしたい」と力強く語り、発表を終えた。
【4】株式会社FUJI
AIによる電気回路線図の作成・検図支援と技術継承
愛知県知立市に本社を構え、電子部品実装ロボットや半導体の製造装置を手がける株式会社FUJI。主力である電子部品実装ロボットは世界トップクラスのシェアを誇り、グローバルで流通するスマートフォンの約2台に1台の製造に関わる。海外売上比率は約9割に達するグローバル企業だ。同社のイノベーション推進部は独自予算を持ち、新規事業創出とオープンイノベーションを通じた社内課題の解決をミッションとしている。
掲げる共創テーマは、「AIによる電気回路線図の作成・検図支援と技術継承」だ。同社では装置1台につき約150枚の電気回路線図と、約200枚のハーネス図面を作成している。その作成や検図は、 ベテラン技術者が培ってきた高度なノウハウに支えられている一方、その継承と効率化が課題となっている。そうした中、こうしたノウハウをAIで資産化・活用することで、作成・検図の効率化と設計品質の更なる向上を目指す。
提供可能なリソースには、長年蓄積してきた膨大な過去の図面データと、設計基準やチェックシートなどの設計ナレッジが揃う。さらに、現場の熟練設計者が直接フィードバックを行う体制も整っている。加えて、同社はオープンイノベーションに積極的に取り組んでおり、2024年度には31社の企業とPoCの実施や契約を結ぶなど、スタートアップとの協業実績も多い。
今回の共創プロジェクトでは、PoCでの小規模検証を経て精度改善や対象範囲拡大に取り組み、実務プロセスへ段階的に導入していくロードマップを描いている。最後に同社は「一度の設計で確かな品質が担保できれば、検図にかかる負担を大きく減らせる。誰もが高品質な電気回路線図を即座に設計できる世界を、共に実現しませんか」と会場に呼びかけ、プレゼンを締めくくった。
【5】Minth Group(A+未来価値創造研究所)
フィジカルAIロボットを自動車部品生産ラインへ投入する共同取り組み企画
Minth Group(ミンス・グループ)は、VWやBMW、日産、Honda、トヨタなど世界の主要自動車メーカーと取引を持つ台湾系自動車部品メーカーだ。主に外装部品を手がけ、EV向けアルミ製バッテリーケースでは世界トップシェアを握る。2005年には香港市場へ上場を果たし、現在は売上高6,000億円規模を誇る。
そんな同社が未来価値創造事業として取り組んでいるのが、フィジカルAIロボットの自動車部品生産ラインへの投入である。すでに、「Automotive+」と銘打ち、自動車部品産業の生産技術向上と生産品目拡大に貢献すべく、ロボットアームやハンドのモジュール販売、ヒューマノイドロボットの量産受託生産などを進めている。
今回は同社の豊川工場(愛知県)において、ルーフラックの出荷前最終検査工程にフィジカルAIロボットを導入し、外観検査・寸法検査・梱包・通い箱への収納という一連の作業の自動化を目指す。全工程の一括自動化が困難だとしても、まずは単一のシングルタスクを人並みの作業スピードで確実にこなす現場実装を成功させたい考えだ。
提供可能なリソースには、豊川工場の現場環境や自社エンジニアが持つノウハウなどがある。実装が順調に進めば、日本ブランドロボットプロジェクトへの参画なども可能で、新たにロボットベンチャーを立ち上げる計画もあるという。
共創パートナーに求めるのは、スピード感、そして「フィジカルAIが近い将来、社会インフラになる」と信じる熱い想いだ。同社は「未知の未来を、人の隣へ」というスローガンのもと、「フィジカルAIで社会課題を解決してまいりましょう」と力強く会場に呼びかけた。
【6】株式会社メニコン
有効成分の保持・徐放技術を活用した新たな製品開発
日本におけるコンタクトレンズ業界のパイオニアとして知られ、創業75周年を迎える株式会社メニコン。「挑戦・創造・独創」を企業理念に掲げる同社は、何もないところからの新たな価値創造に挑み続けている。今回の共創で提示するのが、コンタクトレンズの素材とは異なる独自開発素材、自己集合性ペプチドゲル「SPG-178」だ。
この「SPG-178」は、ナノファイバーからなる3次元網目構造を持つゲルで、親水性と疎水性のアミノ酸が規則的に並ぶ13残基の化学合成ペプチドだという。力を加えると一時的に切断されるが、放置すると自己集合して再結合する特性を持つ。
他にも、動物由来成分を含まない100%化学合成であること、無色・透明で中性域でも安定すること、オートクレーブ滅菌に対応していること、さらにはゲルのプラス電荷が周囲のマイナス電荷と結びつくアンカー機能を持つことなどが特徴として挙げられる。すでに、緑内障手術時の視認性確保材として実用化されているほか、脊椎手術時の吸収性骨再生用材料としても製品化が進むなど、医療機器としての実績と安全性を備えているという。
今回の共創で目指すのは、「SPG-178」の新用途の開拓だ。創薬・バイオ、ヘルスケア、美容・化粧品領域などを視野に、多様なパートナーとの意見交換を通じて新たなソリューション創出を模索する。自社だけでは気づけない課題やニーズを掘り起こし、「意見交換をしながら社会実装していきたい」と意欲を示して発表を結んだ。
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リバースピッチ終了後には、共創の具現化に向けた「ブース交流会」や「1on1マッチング面談」へと移行。会場に集まった参加者が登壇企業の担当者と積極的に名刺交換を行い、互いのリソースを活かした新たなソリューションの創出に向けて、随所で具体的な対話が交わされた。
取材後記
今回のピッチで何より際立っていたのは、登壇した6社それぞれが直面している課題の生々しさだ。不動産、ファッション、航空、製造、ヘルスケアと業種は異なるものの、自社のリソースだけでは解決が難しい課題を率直に開示し、外部との共創によって新たな突破口を探ろうとしていた。共創を形式的なものに終わらせず、互いの強みを掛け合わせて社会実装へ導けるか。各社が示した課題に対し、全国のスタートアップがどのような解をもたらすのか――今後の行方を注視したい。
(編集:眞田幸剛、文:林綾、撮影:緑川凌)