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アイシン・サーラエナジー・トヨタ車体・名古屋鉄道・日本特殊陶業が登壇――名古屋市OIプログラム『CIRCLE』のリバースピッチイベントを詳細レポート!各社が実現したい共創テーマとは?

アイシン・サーラエナジー・トヨタ車体・名古屋鉄道・日本特殊陶業が登壇――名古屋市OIプログラム『CIRCLE』のリバースピッチイベントを詳細レポート!各社が実現したい共創テーマとは?

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名古屋市が推進するオープンイノベーションプログラム『CIRCLE(サークル)』は、地域の大企業とスタートアップが常時つながり、共創を生み出すことを目的にした取り組みだ。去る10月16日、名古屋市のイノベーションハブであるナゴヤイノベーターズガレージにて、同プログラムの一環としてリバースピッチイベントが開催された。

イベントでは、事業会社との共創を目指すスタートアップ向けのセミナーに続き、アイシン、サーラエナジー、トヨタ車体、名古屋鉄道、日本特殊陶業の5社が登壇。自社の課題や共創テーマ、提供可能なアセットを発表し、スタートアップとの新たな事業創出を呼びかけた。当日は大企業のオープンイノベーション担当者が多数参加。スタートアップとの交流・マッチングの機会も設けられた。

――本記事では、当日の模様をリバースピッチの内容を中心にレポートする。

【オープニング】 昨年度は15件の実証・事業化を実現――『CIRCLE』が描く常時支援型オープンイノベーション

まず、名古屋市経済局イノベーション推進部長・齊藤俊宏氏が登壇し、開会の挨拶をした。名古屋市は中部経済連合会、名古屋大学、愛知県、浜松市などと連携し、令和2年度に「スタートアップ・エコシステム拠点都市」に選定された。さらに今年度からは、岐阜県・三重県・静岡県を加えた中部全域でエコシステム構築を推進していると齊藤氏は紹介。「オープンイノベーションは地域の技術・人材を融合させる力を持つ。スタートアップと事業会社を常時支援し、共に新たな価値を生み出したい」と呼びかけた。

▲齊藤俊宏氏(名古屋市経済局イノベーション推進部長)

続く事業説明では、名古屋市が推進するオープンイノベーションプログラム『CIRCLE』の概要について紹介された。本事業は、共創コーディネーターによる常時支援型の仕組みを特徴としており、スタートアップと事業規模の異なる企業(大企業・中小企業)の双方を対象に、個別のニーズや成長段階に応じた伴走支援を行うものだ。プログラムでは、課題整理から共創テーマの設定、パートナー探索、マッチング、実証・事業化に至るまでを一気通貫で支援する。

2024年度は264社へのヒアリングを実施し、61件のマッチング、15件の実証・事業化に発展する成果を上げている。こうした取り組みを通じて『CIRCLE』は、地域の枠を超えたオープンイノベーションの実践拠点として、名古屋・中部から全国に発信する共創エコシステムの形成を目指している。

【セミナー】 共創は信頼の上に成り立つ――スタートアップと大企業による共創の“要点”

続いてTheta Times Venturesの中垣徹二郎氏が登壇し、スタートアップと大企業の共創をテーマに、イノベーションの構造変化と共創の実践要点を語った。

▲中垣徹二郎氏(Theta Times Ventures, General Partner)

かつては大企業しか持ちえなかった資金や顧客基盤、ブランド、インフラが、クラウドやオープンソースの普及によってスタートアップにも開かれ、イノベーションの主役が小規模事業者へと移行していると説明。さらに、GAFAをはじめとする世界的企業がスタートアップを通じて新分野を取り込み成長している一方、日本では依然として共創やM&Aの成功事例が少ない現状を課題として挙げた。

その上で、スタートアップにとって重要なのは「どの企業と、何を補完し合うか」を明確にすることであり、相手企業の未来構想やケイパビリティを理解したうえで、自社の強みを提示できることが鍵だと述べた。

また、オープンイノベーションを推進する上での「期待値コントロール」の重要性にも言及。スタートアップが事業会社の現場を理解しないと、共創プロジェクトが空回りするリスクがあると警鐘を鳴らした。最後に、中垣氏は「共創は信頼の上に成り立つ。大企業側も本気で動き始めている今こそ、スタートアップ自身が戦略的に臨むべき時だ」と締めくくった。

【リバースピッチ】 オープンイノベーションを推進する大企業5社(アイシン/サーラエナジー/トヨタ車体/名古屋鉄道/日本特殊陶業)が登壇

その後、オープンイノベーションを積極的に推進する大企業5社が、自社の共創ニーズを発信するリバースピッチが行われた。それぞれが、共創テーマや課題、パートナーへの期待や提供できるアセットを明確に示した。各社のピッチ内容を紹介していく。

●株式会社アイシン

自動車技術を社会インフラへ――建設業界における予防保全DXに挑む

自動車部品メーカーとして世界をリードする株式会社アイシン。近年は「非自動車領域の成長」を掲げ、社会課題を起点とした新事業創出に注力している。その中核を担うのが「新事業創成ラボ」であり、次世代の事業の柱となるテーマを探索・育成する拠点として活動している。

これまで、地域交通を支えるオンデマンド乗合送迎サービス「ちょいソコ」、微細水粒子を応用した美容機器「Hydraid」、物流の最適化サービス「BRIDGES@ny(ブリッジスエニー)」、そして道路維持管理支援サービス「みちログ」など、複数の新規事業が生まれている。いずれも“人と社会の豊かさを支える技術の社会実装”を目指したものである。

同社が掲げる共創テーマは、「建設業界における予防保全DX」だ。建設業界は人手不足やDXの遅れ、インフラの老朽化など構造的課題を抱える中、特に橋梁をはじめとしたインフラ点検・補修の効率化が急務となっている。アイシンは「みちログ」で培ったセンシング・AI解析技術を応用し、点検の自動化、劣化予測による予防保全モデルの構築、低コストでの量産化による社会実装という3本柱で、維持管理のDX化に挑む考えを示した。

同社の強みは、自動車分野で培った「技術開発力」「ものづくり力」「グループ総合力」だ。センシングや制御、データ解析の技術を核に、高品質製品の大量生産を可能にする生産体制と、世界規模の販路を活かしてスケール展開を見据える。また、2018年以降に41社へ投資・PoCを実施してきた「アイシンファンド」による支援体制も備える。

共創パートナーとしては、橋梁点検・補修に限らず、AI解析、センシング、ソフトウェア開発など、インフラ維持管理全般で協業できる企業を求めているという。同社は「自動車で培った技術を社会インフラへ展開し、事故ゼロの持続可能な社会をともに実現したい」と語り、発表を締めくくった。

●サーラエナジー株式会社

「日常使い」で“もしも”に備える、新たな防災ソリューション

エネルギー事業を中核に、住宅・土木建築・カーライフサポートなど幅広い事業を展開するサーラグループ。その中核企業であるサーラエナジー株式会社は、都市ガス・LPガス・電気の供給に加え、リフォームや宅配水、家事代行など、暮らしに密着した総合生活サービスを提供している。

同社が新たな社会的使命として位置付けているのが、防災だ。自然災害の激甚化を背景に、既存のエネルギー供給だけでは地域を守り切れないという課題意識があるという。これまでにも、複数自治体と災害時相互協定を締結し、市民生活および企業活動の早期復旧・正常化に向けた体制構築に努めてきた。あわせて、地域のお客様には、電気自動車を非常用電源とするグリーンリフォームや、宅配水を活用したローリングストックの提案なども進めている。

同社が次に挑むのは、防災を「特別な備え」から「日常の習慣」に変えることだ。これを実現するため、①災害時でもエネルギーを自給自足できる仕組み、②防災商品の行動ハードルを下げる仕組み、③地域コミュニティとの連携強化――の三つのアプローチを掲げる。

共創テーマとして提示されたのは、「日常使いで『もしも』に備える防災ソリューション」「災害時対応力強化のためのアイデア」の二つである。例えば、平時は多目的に活用し非常時には電力をシェアする「まちのコンセント」、太陽光で稼働する「ライフライン・トイレ」、ペットと人がともに備える「ペット防災」、地域の助け合いを支援する「災害ご近所アプリ」など、日常と防災をつなぐ発想を求めている。

パートナーとして想定するのは、エネルギー、モビリティ、食料、物資などの分野で平時・非常時を問わず使える商品やサービスを持つ企業、防災・減災に関する技術を有する企業だ。同社のエネルギー・リフォーム分野の専門性や、自治体との包括連携、ショールームや宅配水サービスを通じた地域接点などを活かし、実証や体験機会の提供を通じた共創を進めていく構えである。

「防災を“もしもの備え”から“いつもの暮らし”へ。地域とともに持続的な安心を形にしていきたい」と、同社は共創にかける期待を語った。

●トヨタ車体株式会社

木質複合材「TABWD®」で、森林資源を“運ぶ”循環型ビジネスを共創

トヨタ車体株式会社は、森林資源を活かす木質複合材「TABWD®(タブウッド)」を軸に、循環型社会の実現を目指す共創パートナーを募集している。商用車やSUV、超小型BEVなどの製造を手掛ける同社は、サステナビリティ経営へと転換し、社会・地球・産業の持続可能な発展に貢献する事業創出を加速中だ。同社は、「自社技術と森林資源を結びつけ、新たな価値を社会に還元したい」と語った。

TABWD®は、間伐材を粉砕しプラスチックに混ぜた複合素材で、木の温もりを持ちながら高い耐熱性と強度を備える。自動車部品で培った成形・量産技術により、フォグランプブラケットやハーネスカバーなどで採用され、近年は家具・内装材など意匠性を重視した製品にも展開している。機能性だけでなく、「感性価値」を伝える素材として注目されているという。

同社が掲げる共創テーマは、「森林資源の循環利用を促進するプロダクト開発・ブランド創出」「環境価値を伝える仕組みづくり」、そして「それを支えるサプライチェーン構築」だ。間伐材の活用を通じて森林のCO₂吸収能力を高め、脱炭素社会に寄与するカーボンニュートラルの循環だけでなく、素材を再利用するサーキュラーエコノミーの循環も両立したい。同社は「二つの循環をTABWD®でつなぎ、“森をはこぶ”事業を生み出したい」と構想を語った。

共創プロジェクトとしては、TABWD®を用いた循環型プロダクト開発や、カーボンクレジットと製品を結びつけるビジネスモデルの実証を計画する。森林資源を軸に地域産業を再生する企業や、クレジット創出の知見を持つパートナーとの連携を期待している。提供アセットには、木質複合材の試作・加工ノウハウ、自動車品質の成形・量産技術の知見、研究開発力、そしてトヨタグループの幅広いネットワークを挙げた。

最後に同社は、「森と社会をつなぐ循環の仕組みを、共にデザインしていきたい」と会場に呼びかけた。

●名古屋鉄道株式会社

駅空間を活かした持続的な収益創出モデルの共創――空き区画・旅客動線を起点に新サービスを創出

中部圏最大の私鉄として、鉄道事業を中心に地域交通インフラを支える名古屋鉄道株式会社。同社は、「駅空間を活かした持続的な収益創出モデルの共創」をテーマに、地域の価値向上と新たな収益基盤の創出を目指す共創パートナーを募集している。

同社では近年、AI画像解析による踏切監視システムや、AIアバターによる案内サービスなど、他社との共創事例を重ねてきたという。さらにグループ横断でオープンイノベーションを推進する「名鉄オープンイノベーションLab」を設立し、スタートアップとの協業を強化している。

今回のピッチでは、鉄道利用率の低下や駅スペースの未活用など、持続的な収益確保に向けた課題を示した。中部圏では他都市圏に比べて鉄道利用が少なく、線区・時間帯によって乗降客数の偏りが生じている現状を指摘。その上で、駅構内の空き区画や旅客動線を活かし、新たなサービス・体験を創出する取り組みを推進していく考えだ。

具体的な方向性としては、単発イベントにとどまらない継続的な集客モデルの構築や、駅を起点とした移動・購買導線の再設計を掲げる。また、訪日旅客のスムーズな輸送も重要テーマとし、QRコードやタッチ決済などの実証を進めていることを紹介した。そして今後は、より快適でストレスのない移動体験の提供を共創によって実現したい考えを語った。

提供可能なアセットとしては、駅構内の空きスペースや商業エリアをはじめ、グループが保有する駐車場、レンタサイクル拠点など、多様なインフラを挙げた。これらを実証・検証のフィールドとして提供することで、地域に根差した新たな価値創造をともに進めていく構えだ。

駅を移動の通過点から、体験と交流の拠点へ変えていくことを目指す同社は、「『驚き』から『感動』、そして『憧れ』につながる当社グループならではの価値を提供するチャレンジングな取り組みを、共に進めていきたい」と決意を述べた。

●日本特殊陶業株式会社

自動車アフターマーケット領域における、車両購入後のユーザー体験を起点とした新たな価値創出

日本特殊陶業株式会社(Niterra)は、自動車アフターマーケット領域において「車両購入後のユーザー体験を起点とした新たな価値創出」をテーマに掲げ、共創を通じた新事業開発を目指す。

同社はセラミックスを基盤技術とし、モビリティ、半導体、メディカル、インダストリーなど多様な分野に製品を供給している。近年、電動化の進展により内燃機関関連部品の需要減少が見込まれる中、同社は2040年までに非内燃製品の売上比率を60%まで高める方針だ。モビリティ領域でも内燃機関に依存しない新事業の創出を進めており、センサー技術を活用した水素・アンモニア燃料向けソリューションなど、新たな応用分野への展開を図っている。

同社の強みは、世界各地に展開する独自のアフターマーケット販売網だ。補修部品をディーラー経由だけでなく、量販店・整備工場・ガソリンスタンドなど約1万4,000店舗に直接供給できる体制を持ち、グローバルで展開している。こうした販売ネットワークを活用し、車両購入後のユーザー接点を軸に新たな価値を創出する構想を示した。

共創テーマの1つ目は、「修理工場や自動車部品店向けの新事業開発」だ。高齢者向け運転支援装置や車内快適化デバイスなど、アフターマーケットを起点としたプロダクト・サービスの開発に挑むパートナーとの共創を想定する。そして2つ目のテーマは「自動車キャビン空気質改善ユニットの製品力向上」である。同社の酸素濃縮・センシング技術を生かし、車内の快適性・安全性を高める機能強化を目指す。

提供可能なアセットは、セラミックおよびセンシング技術を中心とした開発リソースに加え、グローバルな販売ネットワーク、そしてテクニカルセンターや「水素の森」に代表される実証フィールドだ。これらを活用し、技術・製品化連携から市場展開まで一貫して支援できる体制を整える。

これまで培ったものづくり技術と販売基盤を掛け合わせ、自動車を「移動手段」から「価値体験の場」へと進化させる共創を志向する同社。最後に、「自動車産業の変革期において、アフターマーケットから新たなモビリティ価値を共に生み出していきたい」と強調し、発表を終えた。

…………………………

リバースピッチ終了後は、登壇企業とスタートアップとのマッチングタイムが設けられた。共創テーマにフィットするスタートアップとの1on1形式でのマッチング面談のほか、登壇企業の担当者と直接会話ができるフリー交流タイムを通じて、各社が共創の可能性を探った。

取材後記

『CIRCLE』は、地域に根差す大企業とスタートアップが、単発ではなく“常時つながる”仕組みとして設計されている点に大きな特徴がある。共創コーディネーターによる伴走支援のもと、規模もフェーズも異なる企業同士が継続的に対話を重ね、新たなビジネスを創出する。その関係性を育む「場」として、今回のリバースピッチイベントは重要な役割を果たしたといえるだろう。

スタートアップと大企業が互いの強みを補完しながら成長していく。その循環を名古屋という地域で根づかせることが、『CIRCLE』の最大の挑戦であり、魅力である。本イベントは、その実現に向けた確かな一歩となった。イベント後も、共創促進の取り組みは続いていく。今回、芽生えた共創の可能性が、地域を越えた新たな連携や事業創出へと発展していくことを期待したい。

※『CIRCLE』の詳細はこちらをご覧ください。

(編集:眞田幸剛、文:佐藤瑞恵、撮影:加藤武俊)

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    眞田幸剛

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