カピバラの行動データを“来館者がつくる” AI生態観測の新たな実証実験型の展示を開始
株式会社神戸デジタル・ラボ(KDL)は、劇場型アクアリウム『átoa(アトア)』と共同で進めるAI生態観測の実証実験において、来館者が参加できる体験型展示を2026年4月1日より開始した。本取り組みは、アトア開業5周年を記念した特別企画として実施されるもので、来館者がAI開発のプロセスに直接関与できる点が特徴だ。
展示では、カピバラの行動データを来館者自身がアノテーション(データへのラベル付け)することで、AIの学習に貢献できる。単なる“見る展示”にとどまらず、「研究に参加する体験」へと進化した点において、水族館の新たな価値創出を示す試みといえる。
飼育現場の課題と人材育成ニーズを接続した実証プロジェクト
本プロジェクトの背景には、双方の課題があった。アトアでは、飼育動物の行動を継続的に観察・記録し、飼育環境や展示改善に活かしたいというニーズがあった一方で、飼育員の業務負荷の高さが課題となっていた。
一方のKDLは、インターンシップを通じた人材育成を推進しているが、より実践的かつ魅力的な開発機会の提供を模索していた。
こうした課題を接続する形で、2023年4月より両者は共同で実証実験を開始。水族館で取得した実データを活用し、インターン生が主体となってAIモデルの開発に取り組む体制を構築した。エンジニアの指導のもと、動物の行動を追跡・記録・可視化するソリューションの開発が進められている。
来館者が担う「アノテーション」という重要プロセス
今回の展示の核となるのが、AI開発に不可欠な「アノテーション」作業だ。カピバラの展示エリア上部に設置されたカメラで取得された映像をもとに、来館者はタッチパネルを使ってカピバラの位置や行動を入力する。
具体的には、リアルタイム映像からカピバラを見つけ、ドラッグ操作で囲い、その行動(歩く・泳ぐ・座るなど)を選択する。入力されたデータは即座に集計され、時間帯ごとの行動分布として可視化される仕組みだ。
このプロセスを通じて、来館者はゲーム感覚でAIの仕組みに触れると同時に、自身の入力が研究データとして蓄積されていく過程を体感できる。研究活動に一般来館者が参加し、データ生成に貢献する取り組みは、国内でも例が少ない。
AIによる生態観測の高度化へ──来館者参加型データの可能性
本実証では、収集されたアノテーションデータを活用し、AIモデルの精度向上を目指す。特に、行動認識の精度を高めるためには多様かつ大量のデータが不可欠であり、来館者参加型の仕組みはその収集手段として大きな可能性を持つ。
また、データ取得にあたっては、生物へのストレスや飼育環境への影響を最小限に抑える設計がなされており、倫理的配慮と技術活用の両立も図られている。
KDLは、本プロジェクトで得られる知見を、水族館にとどまらず他分野への応用にも展開していく方針だ。現場課題とテクノロジーを接続する“共創型開発”のモデルケースとして、今後の展開が注目される。
学生主体の開発プロジェクトとしての側面も
本取り組みは、KDLのインターンシップ生が中心となって推進している点も特徴的だ。実際の現場データを扱いながらAI開発に携わる経験は、学生にとって高度な実践機会となる。
同社は引き続き本プロジェクトに参加するインターン生を募集しており、産業界と教育の接続という観点でも意義のある取り組みとなっている。
来館者・企業・学生がそれぞれの立場で関与する本プロジェクトは、「研究」「教育」「エンターテインメント」を横断する新たな共創の形を提示している。水族館というリアルな場を起点に、AI開発の民主化ともいえる動きが広がりつつある。
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(TOMORUBA編集部)