埼玉発・15の共創プロジェクトが集結!渋沢MIXオープンイノベーションプログラム『Canvas』デモデイレポート【#5】――Agnavi、ENgaWA、協同商事が取り組んだ共創事業とは
埼玉県が主催する「渋沢MIXオープンイノベーションプログラム 『Canvas』」の成果発表会が、2026年3月6日・7日の2日間にわたって開催された。同プログラムは、埼玉県内外の企業同士が業種の壁を越えて組み合わさり、企業・社会課題を解決する新たなビジネスを共創することを目的としており、今年度は15件の共創プロジェクトが誕生した。
TOMORUBAでは、今回のデモデイで発表された全15プロジェクトを、全5回の記事に分けて紹介する。本記事はシリーズのラストを飾る第5弾として、Agnavi×森永乳業、ENgaWA×国分首都圏、協同商事×ビオックの3プロジェクトをピックアップ。――各チームがどのような背景から共創に取り組み、どのような価値創出を目指しているのか。デモデイで披露されたピッチの内容とともに、その取り組みをレポートする。
【株式会社Agnavi(ホスト企業) × 森永乳業株式会社(パートナー企業)】
発表タイトル 『発酵科学から生まれる、日本酒×チーズの組み合わせによる新しい食体験の創出』
▲左から:森永乳業株式会社 田村氏 田口氏、株式会社Agnavi 玄氏
Agnaviと森永乳業は、日本酒とチーズという異なる食文化を掛け合わせ、新たな食の楽しみ方を提案する共創プロジェクトに取り組んだ。日本酒市場は国内需要の縮小や若年層との接点の減少といった課題を抱えており、新たな消費シーンの創出が求められている。一方、チーズは世界中で広く消費される食材でありながら、日本国内での消費量は欧米の約10分の1にとどまるとされている。両社はこの点に着目し、日本酒とチーズの組み合わせが新しい市場を生み出す可能性を検証した。
Agnaviは、日本酒を180mlの“一合缶”として販売するサービスを展開し、全国160以上の酒蔵と連携して日本酒の新しい楽しみ方を提案しているスタートアップだ。対する森永乳業は、チーズをはじめとする乳製品の研究開発や商品展開を長年行ってきた。両社は、日本酒とチーズの相性を「感覚」ではなくデータで検証するため、三つの視点から実証を進めた。
具体的には、東京農業大学協力のもと香気成分を分析するガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS)による香気成分分析とAI解析を組み合わせ、香り同士の相性を評価するフードペアリング手法、NPO法人チーズプロフェッショナル協会による官能評価、さらに消費者参加型のイベントによる市場検証という三層構造の検証フレームを設計。成分レベルの相関と専門家の評価、そして実際の消費者の反応を組み合わせることで、日本酒とチーズの相性を多角的に検証した。
市場検証としては、JR大宮駅での販売イベントなどを通じて約300人を対象としたアンケート調査を実施。さらに渋沢MIXのイベントでも本取り組みに協力した酒蔵を招きペアリング体験の機会を設け、消費者がどのような組み合わせを好むのか、また購入意欲につながるかといった点を確認した。その結果、日本酒とチーズの組み合わせに対する一定の関心や受容性が確認され、新しい食文化としての可能性が示された。
▲成果発表会の展示ブースでは、日本酒×チーズのペアリング体験ができ、注目を集めた。
今回の実証を通じて、両社は「日本酒とチーズは相性が良い」という仮説を、科学的分析と市場調査の両面から検証することができた。今後は、得られたデータをもとにペアリング提案を体系化するとともに、日本酒の新たな消費シーンを創出する取り組みへと発展させていくとともに、実際の市場への実装・流通までを見据えて展開していく考えだ。
【株式会社ENgaWA(ホスト企業) × 国分首都圏株式会社(パートナー企業)】
発表タイトル 『市場ニーズを起点とした、横瀬町の地域資源を活用した商品開発と地域共創人材育成』
▲左:株式会社ENgaWA 村上氏、右:国分首都圏株式会社 佐藤氏
本プロジェクトでは、埼玉県横瀬町を拠点とする地域商社ENgaWAと、食品卸大手の国分グループに属する国分首都圏が連携し、地域資源を活用した商品開発と人材育成を通じて地域の魅力発信を目指した。
横瀬町は人口約7,500人の中山間地域で、「日本一チャレンジする町」を掲げ、企業や個人の新たな挑戦を受け入れてきた。一方で、町の魅力は実際に訪れた人には伝わるものの、外部へ十分に発信できていないという課題があった。
両社はこの課題に対し、地域資源を活かした商品を“地域を発信する装置”として位置づける取り組みを実施。その象徴となる商品として開発されたのが、横瀬町を含む秩父地域で採取されるカエデ樹液から作られるメープルシロップを使用した土産菓子「よこぜ みやげ話」だ。単なる菓子ではなく、横瀬での体験やストーリーを語りたくなる“お土産メディア”として設計されたという。
▲「よこぜ みやげ話」には冊子が封入され、本商品にまつわる横瀬町のストーリーを知ることができる。
実証では、地域団体や町役場職員、観光客への試食会を実施。地域団体との試食会ではメープルの香りや味の改良に関する具体的な意見が寄せられ、商品改良に反映された。また観光客への調査では、商品に込められたストーリーや地域性が伝わることで購買意欲が高まる傾向も確認された。
さらに、カエデ樹液の採取やメープルシロップ加工を体験する研修プログラムも試験的に実施。参加者が地域資源や地域課題への理解を深める機会となった。今後は横瀬町内だけでなく秩父エリア全体での展開も視野に入れ、商品開発と体験を組み合わせた地域共創モデルの発展を目指していく。
【株式会社協同商事(ホスト企業) × 株式会社ビオック(パートナー企業)】
発表タイトル 『酵素を活用した糖化技術の確立による地産クラフトビール開発の実現』
▲左から: 株式会社協同商事 染谷氏、株式会社ビオック 村田氏 村井氏、株式会社協同商事 朝霧氏
クラフトビールブランド「COEDO BREWERY」を展開する協同商事と、種麹メーカーのビオックは、麹菌を活用した新しいビール醸造技術の開発に取り組んだ。背景には、日本のビール製造における原料の多くが海外に依存しているという課題がある。国内で使用されるビール・ウイスキー用麦芽のうち、国産原料は約3.9%にとどまり、国産原料を活用したビールづくりはまだ限定的だという。
こうした状況に対し、両社は従来の製麦工程に頼らず、大麦と麹菌を組み合わせることで糖化を行う新たな醸造プロセスを検証した。通常のビール製造では、麦芽を作る製麦工程で酵素を生成する必要があるが、本プロジェクトでは麹菌の酵素を利用することで、大麦から直接糖化を行う方法を試みた。
実証では、複数の麹菌を用いた糖化実験や試験醸造を段階的に実施し、菌株ごとの香味や発酵特性を比較。最適な菌株を選定したうえで試験醸造を重ねた結果、大麦麹を用いた糖化によってビールを醸造できることが確認された。完成した試験醸造ビールでは、フルーティーな香りやすっきりとした味わいなど、菌株による特徴の違いも確認されたという。
▲成果発表会の展示ブースでは、来場者向けに本プロジェクトで生まれたビールの試飲を行った。
この技術が実用化されれば、地域で生産された大麦を原料とするビールづくりが可能となり、地域農業や観光と連携した新しいクラフトビールの価値創出につながる可能性がある。両社は、地域の農業資源を活かした“テロワール”型のクラフトビールの実現を視野に、今後も研究開発を進めていく考えだ。
全15プロジェクトのピッチが終了!――コメンテーター3名による講評
デモデイの最後には、コメンテーター3名が今回の共創プロジェクトについて講評を行った。
三井住友海上火災保険ビジネスデザイン部部長であり三井住友海上キャピタルの投資開発パートナーも務める藤田健司氏は、今回のピッチについて「地域資源や食文化、発酵技術など、日本ならではの強みを活かした取り組みが多く見られた」と評価。実証で得られた知見を、今後どのように事業化へつなげていくかが重要だと述べた。
また、埼玉県 産業労働部 産業支援課 渋沢MIX担当 主幹の佐藤雅康氏は、「地域企業と外部企業が連携することで、新しい視点から地域の可能性を引き出す取り組みが生まれている」とコメント。今回の全15プロジェクトが今後の地域産業の発展につながることへの手応えを語った。
さらに、eiicon 執行役員/地域イノベーション推進本部 本部長の伊藤達彰氏は、「共創は実証で終わるのではなく、その先の事業化が重要」と指摘。『Canvas』プログラムから生まれた取り組みが、継続的な共創へと発展していくことを願い、講評を締めくくった。
取材後記
2日間にわたって開催された『Canvas』デモデイでは、埼玉をフィールドに展開された15の共創プロジェクトがその成果を披露した。企業の技術、スタートアップの発想、地域の資源や文化が交差することで、新しいビジネスの芽が次々と生まれていることが印象的だった。今回取り上げたプロジェクトでも、日本酒とチーズという異文化の組み合わせを科学的に検証する取り組み、横瀬町の物語を商品に込めて発信する地域共創、麹菌の酵素を活かした新たなクラフトビール醸造など、それぞれの専門領域が重なり合うことで新しい価値が生まれている。地域を舞台にしたオープンイノベーションは、単なる技術連携にとどまらず、産業や文化の可能性を広げる営みでもある。『Canvas』から芽吹いた挑戦が、今後どのような事業として社会に根付いていくのか。その成長のプロセスを引き続き追っていきたい。
(編集:眞田幸剛、文:久野太一、撮影:齊木恵太)