半導体部品の検品自動化、求人票診断AI、建設業DX、健康管理アプリ――山梨県内企業×スタートアップが共創する事業をさらに磨く。CINOVAで開催されたワークショップを詳細レポート!
ジュエリー、ワインといった伝統産業に加え、高度なものづくり産業や世界トップレベルの水素研究など、多方面で注目される山梨県。そんな同県では、県内企業の高付加価値化とスタートアップの事業定着・拡大を目指し、県内企業とパートナー企業による共創プログラム『STARTUP YAMANASHI OPEN INNOVATION PROGRAM』を開催している。
令和5年度(2023年度)から始まり、3年目を迎える今年度は、県内企業4社(ササキ/アシストエンジニアリング/湯澤工業/山梨県厚生農業協同組合連合会)がホスト企業となり、解決したい課題やビジョンを掲げて全国から共創パートナーを募集(※関連記事)。山梨県の協力も得ながら、パートナー企業とともに共創事業を創り上げるプログラムとなっている。
2025年12月には、共創事業の骨子を練り上げるワークショップが開催された。山梨県立スタートアップ支援センター(CINOVA YAMANASHI)で行われた同イベントには、ホスト企業と採択されたパートナー企業4社(SonicAI<ソニックエーアイ>/N2i<エヌツーアイ>/エムバース/ベスプラ)に加え、メンターと県庁職員などが集まり、山梨の未来像を描きながら熱い議論を繰り広げた。
――そこで本記事では、ワークショップ終盤でお披露目された、共創ビジネスプランの内容をレポートする。
【ホスト企業4社の募集テーマと採択企業】
■株式会社ササキ 『ワイヤーハーネス生産で培った技術と品質管理の知見で実現する、中小ものづくり産業の競争力強化への挑戦』(採択企業:株式会社SonicAI)
■株式会社アシストエンジニアリング 『人と企業をつなぎ、持続可能な人材確保と成長を共に創る未来』(採択企業:株式会社N2i)
■湯澤工業株式会社 『AI・IoTが拓く建設業の未来〜災害予兆と資材管理の実現〜』(採択企業:株式会社エムバース)
■山梨県厚生農業協同組合連合会 『ヘルステックで創造する、個人と地域を支える次世代健康・生活改善モデルの実現』(採択企業:株式会社ベスプラ)
【ササキ×SonicAI】 目視検査を自動化し、コスト削減・事業成長へ!
1995年に創業し、主にワイヤーハーネスの製造・加工を担うササキ。半導体製造装置産業を中心に発展してきた山梨県韮崎市に本社を構え、顧客は大手半導体製造装置メーカーが中心だ。高低の波が大きい半導体業界で、30年間にわたってワイヤーハーネス事業に注力し、信頼を積み重ねてきた。
同社では、第2の事業の柱を築くパートナーシップを作りたいと考え、本プログラムに参画。製造現場におけるAIデバイスに強みを持つSonicAIを採択し、事業共創に挑むこととなった。
●共創テーマ:ワイヤーハーネス生産で培った技術と品質管理の知見で実現する、中小ものづくり産業の競争力強化への挑戦
両社が掲げた具体的なソリューションは、「検査工程の自動化」だ。ササキでは、ワイヤーハーネス製品の品質検査において、「組付けの識別」「傷汚れの有無」「ラベルの位置・外観の色」「異物の有無」を検査員が目視で行っている。現状のプロセスでは人件費も時間もかさんでおり、自動化することでインパクトのある業務効率化につながるという。
▲ササキ・小林氏
まず、短期視点では「識別」工程の自動化に取り組む。現時点では、正しく組み付けがされているかを1製品につき約30秒かけて目視確認しているが、SonicAIのAIデバイスを活用すれば、1秒以下と圧倒的に短縮される。「コスト削減のほか、余剰時間で製造数を増やすことができるため、トップラインの伸長にもつながる」とSonicAIの田中氏はメリットを強調した。
中長期的には、「傷汚れの有無」「ラベルの位置・外観の色」「異物の有無」も包括的に自動化していくことを目指す。さらに、ササキの納入先や顧客、同業他社への横展開も見越している。その手前の作業として、AI製品を使いこなすためのデータベースの整理が求められるため、数万品種ある部品のデータの棚卸しにも急ぎ着手するという。
田中氏は、「短期的には狙っている精度の70%ほどを目指す。さらに2〜3年をかけて、残り30%の精度を突き詰めていくイメージだ」と、現状の見解を述べた。
▲SonicAI・田中氏
【アシストエンジニアリング×N2i】 求人票診断AIで企業の求人力アップ!
2002年に創業し、山梨県中央市に本社を構えるアシストエンジニアリング。人材派遣や人材紹介、採用代行といった採用課題を解決に導くサービスを提供する。従来の人材サービスにとどまらず、ものづくり事業部も立ち上げ、自社工場での人材育成や製造そのものを請け負うアウトソーシング事業にも取り組む。山梨県内では人材ビジネス領域でトップクラスの売上を誇る企業だ。
採用で悩む多くの企業を目の当たりにした同社では、本プログラムを通して採用課題を先端技術で解決したいと考えた。そこで、HR領域に特化したAIアプリを開発するN2iをパートナーとして採択。共創の可能性を探ることにした。
●共創テーマ:人と企業をつなぎ、持続可能な人材確保と成長を共に創る未来
近年の労働市場は、有効求人倍率が非常に高く、求職者側が優位な時代となっている。登壇したアシストエンジニアリングの紅谷氏は、「求人を出しても採用につながらないと悩む企業が非常に多い。それに対する当社営業のフィードバックが属人化している」と自社の課題に触れた。その解決手段として、AIが根拠のあるデータを反映したフィードバックを行う「求人票診断AI」を発案した。
▲アシストエンジニアリング・紅谷氏
想定しているのは、AIを介して求人票を診断するプラットフォームだ。自社と他社の求人票を比較し、応募がこない要因や相対的に劣っている点、優れている点などを可視化したうえで、AIが改善点をフィードバックする。「営業が直接伝えづらいことを、AIを介して伝えられる点も大きなメリットだ」と紅谷氏は期待をにじませる。そして、診断結果をもとに人材派遣や採用代行の提供にもつなげていきたい考えだ。
現在、2段階での進行を見越している。まず、求人票診断AIを無償提供して広くリードを獲得する。そもそも採用のためのホームページがない企業には、簡易採用のランディングページを自動生成。ここでは、「なぜ採用できないのか」を企業に実感してもらうことを目指す。
そして、次のフェーズでは自社事業とのシナジーを発揮する。診断結果を踏まえた人材紹介や派遣などを提供し、人材のマッチング精度の向上を支援していく。継続的な採用支援により各社の採用力を底上げし、地域経済の活性化にもつなげていく狙いだ。
▲N2i・篭橋氏
【湯澤工業×エムバース】 AI・IoTでアナログな建設業の現場を変革!
1958年創業と65年を超える歴史を持つ湯澤工業。山梨県南アルプス市を拠点に道路、橋梁、ダム、堤防などの公共インフラから建設現場の土木工事まで幅広く対応している。未来ある業界を目指し、デジタルを活用した事業改革やエンジニア育成まで事業領域を広げ、柔軟に変化しながら成長を続けている。
「建設業の現場革命」を掲げる同社は、現場の課題感をテクノロジーで解決する構想を描いた。採択したパートナーは、建設テックを武器に業界を支援するエムバースだ。互いの知見を融合し、建設業界を変革するソリューションの開発に挑戦する。
●共創テーマ:AI・IoTが拓く建設業の未来〜災害予兆と資材管理の実現〜
今に始まったことではないが、建設業界は高齢化と若手人材の減少が顕著だ。そこに加えて、属人化の課題も見過ごせない。経験を積んだ職人のスキル継承がされず、職人個人の経験に依存している状態だ。こうした課題の中、とにかくシームレスな情報共有が求められている。そこで、デジタルを活用して情報共有を円滑にしようと考えた。
▲湯澤工業・湯沢満氏
登壇したエムバースの森川氏は、現場の判断をサポートするアプリ「現場監督コンシェルジュ」を具体的なソリューションとして発表。アプリ上のマップで誰がどこに配置されているかが一目で分かる仕様を想定しており、各現場の状況をスムーズに把握することで、現場支援につなげたい狙いだ。
まずは、湯澤工業でベータ版をテスト導入。現場のフィードバックを得ながらブラッシュアップを重ねる。正式版をリリースした後は、全国の同業他社へも導入し、業界全体の効率化を図りたいとしている。また、平時だけでなく、災害時に行政とシームレスに繋がれるような機能も視野に入れている。「業界全体をボトムアップできるようなアプリを開発したい」と森川氏は展望を語った。
▲エムバース・森川氏
【山梨県厚生農業協同組合連合会×ベスプラ】 県民の健康をアプリで支援、健康寿命1位へ返り咲く!
人間ドックや健康診断・外来診療を行っている医療機関「山梨県厚生連健康管理センター」を運営する山梨県厚生農業協同組合連合会(以下、山梨県厚生連)。県内のJA組合員やその家族、そして県民が明るく健やかに生活できるよう、健康管理や健康増進のサポートをしている。
山梨県厚生連では、県民の健康増進と自組織の事業成長を目的に本プログラムに参画。健康分野のIT事業に強いベスプラと手を組むことにした。
●共創テーマ:ヘルステックで創造する、個人と地域を支える次世代健康・生活改善モデルの実現
発表の冒頭、登壇した山梨県厚生連の沓間氏は、「健康寿命で全国1位に返り咲く」という共創ビジョンを共有した。山梨県では、都道府県別の健康寿命ランキングにおいて2016年に男性1位、女性2位を獲得。一方、2022年の最新調査では男性3位、女性4位に順位を落としている。
このビジョンに対し、2社が掲げた共創アイデアは、「健康のトータルソリューションアプリ」の開発だ。県民が手軽に利用できる手段として、アプリを通じたサービス提供がベストだと判断したという。年に一度の健康診断にとどまらず、県民の健康課題に継続的に寄与することで、山梨県厚生連の新たな収益の柱を作るのが狙いだ。
▲山梨県厚生連・沓間氏(左)、ベスプラ・遠山氏(右)
山梨県厚生連では、山梨県に特化した年間約13万人の健康診断結果を保有しており、人間ドックは9割近くがリピーターだ。つまり、経年で健康データの定点観測が可能となる。また、医療機関と生活者だけでなく自治体との関わりも深く、タッチポイントが多岐にわたる。こうした「圧倒的なデータ量」と「実証フィールドの広さ」こそ、山梨県厚生連の強みなのだ。
対して、ベスプラは健康領域のアプリ開発や市町村との取り組みにおいて、豊富な実績を持つ。沓間氏は、「ベスプラさんとのディスカッションを経て、いかに我々の考えが甘かったかを痛感した。現実的な知見が豊富であり、パートナーとして非常に心強い」と率直な思いを吐露した。
沓間氏が言うように、ヘルスケアアプリの収益化は容易ではない。特に、未病領域で個人ユーザーから課金を得るのは難易度が高いと言われる。一方で、ベスプラの遠山氏は「山梨県厚生連の強みは非常に大きい」と言及。「豊富なデータ量と高い人間ドックのリピート率。この強みは抜きん出ている。人間ドックの費用に少額のプラスオンで使えるようなアプリを提供できれば、実現可能性は高まる」というのが、遠山氏の見解だ。
具体的には、データを活用したハイリスクへのアプローチ、脳トレの提供、食事・バイタルデータ・歩数などの複合的な健康管理を組み合わせたトータルソリューションを構想する。過去にベスプラが達成してきたように、インセンティブによる行動変容を目指していくという。
まずは、予算の確定やプロトタイプの計画を進め、山梨県厚生連での導入を進める予定だ。「将来的には、同様のサービスをOEMで全国展開することで新たな健康社会を作っていきたい」と遠山氏は未来図を示した。
オープンイノベーションで、地域産業の可能性を拓いてほしい
4組のプレゼンテーションは、いずれも、「人手不足」や「高齢化社会」などの社会問題によって生じる企業課題をテクノロジーの力で解決に導くアイデアだった。すでに狙った成果が見込めるところまで検証が進んでいる事例もあり、実用化への期待が高まっている。
メンターとして参加したeiiconの曽田氏は、「共創する上での両社のメリットを突き詰めよう」、「このサービスで喜ぶ人は誰なのかを連想しながら、ビジネスモデルをブラッシュアップしよう」、「早い段階から行政を巻き込んでいこう」といった具体的なアドバイスを各社に投げかけた。
続けて、「共創ならではの魅力として、1+1=2の結果で満足するのではなく、それを元手にしてレバレッジをかけていけば、4、5、6と成果が積み上がる。この共創をどこまで発展させていけるかを全員が意識して進めることで、得られるメリットが倍々になっていく。山梨発の新モデルが生まれることを楽しみにしている」と参加者を激励した。
▲eiicon・曽田氏
各社のプレゼンテーションからは、プログラムに懸ける各社の熱量が伝わり、充実した議論が展開された。これから4組はニーズ検証や実証実験を進め、2026年3月6日に開催されるDEMODAY(成果発表会)で、その結果を発表する予定だ。その行方にも、引き続き注目したい。
▲ワークショップ終了後は、CINOVA YAMANASHI内で交流会が行われた。
取材後記
本年度で3期目となった山梨県の共創プログラム。過去2年間の開催では、計8件の共創プロジェクトが生まれ、実証実験から社会実装へと徐々に成果が広がっている。今回も、それぞれに異なる強みを持つ2社の化学反応により、山梨の地域産業の発展を力強く後押しするアイデアが生まれた。曽田氏も促していたように、必要に応じて行政をうまく巻き込みながら、スピード感を持って実用化へつなげてほしい。
(構成:眞田幸剛、文:小林香織、撮影:齊木恵太)