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自治体・商工会議所・金融機関・事業会社…多彩なプレイヤーが集結!愛知県のスタートアップ・エコシステム形成を促進する『共創ワークショップ』を詳細レポート

自治体・商工会議所・金融機関・事業会社…多彩なプレイヤーが集結!愛知県のスタートアップ・エコシステム形成を促進する『共創ワークショップ』を詳細レポート

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スタートアップとの共創で新たな産業や革新的サービス、社会的インパクトの創出を試みる愛知県は、県内全域にわたるスタートアップ・エコシステムの形成に取り組んでいる。同県が描くのは、各地域がエコシステムを形成して互いにパートナーシップを結び、さらに本年10月にオープン予定の日本最大のスタートアップ支援拠点「STATION Ai」(名古屋市舞鶴公園南)と相互に強み補完しながら共創することだ。

そこで同県では、行政、商工会議所・商工会、金融機関、教育・研究機関、事業会社などの枠組みを超えた相互補完や共創ができるエコシステム(あいちスタートアップ・エコシステム)の形成を推進するために、「CO CREATE GO BEYOND」というコンセプトを掲げ、さまざまな取り組みに着手してきた。

そのひとつが、エコシステムの関係団体が互いに理解を深め、強固な結びつきを作ることを目的に開催された『あいちスタートアップ・エコシステム共創ワークショップ』だ。2023年度を通して全8回行われており、座談会や勉強会などを通じて、連携や理解を深めてきた。

今回、TOMORUBAでは、2024年1月にPRE-STATION Ai(WeWork グローバルゲート名古屋)で開催された共創ワークショップの最終回を取材した。その前段として、主催者である愛知県の林田氏・沖氏に共創ワークショップを開催する背景や目的についてインタビューを実施。そして共創ワークショップ後には、参加者の声も聞いた。

【主催者インタビュー】 共創ワークショップを通じ地域の結びつきをより深める

共創ワークショップの取材に先立ち、愛知県 経済産業局 革新事業創造部 スタートアップ推進課の林田ゆり子氏と沖健人氏に改めて共創ワークショップを実施する趣旨などについてヒアリングした。

――愛知県では2018年度から、スタートアップ・エコシステムの形成に取り組んでいます。その一環として、今年度は共創ワークショップを実施してきました。エコシステムが形作られているところだと思いますが、現状の課題感などをお聞かせください。

林田氏 : おかげさまで、愛知県には多くのスタートアップが集まってきています。一方で、集まってきたスタートアップの力を活かしきれておらず、支援もしきれていないのではないかと感じています。もっとスタートアップと地域との連携も深めていきたい。県としては、スタートアップや地場の企業、自治体がよりスムーズに共創できる体制を構築したいと考えており、そのために県と地域との連携もますます必要だと捉えています。

▲愛知県 経済産業局 革新事業創造部 スタートアップ推進課 主事 林田ゆり子氏

沖氏 : 愛知県には本当にたくさんプレイヤーがいますが、プレイヤー同士の結びつきという点ではまだまだこれからです。県や各地域で似たようなコンセプトの支援も多く、整理されていない面もあると感じています。少しバラバラなところがあるからこそ、改めてエコシステムの必要性を認識しているところです。どんなプレイヤーが県内にいるか、どんな活動が実施されているのかの把握や整理を早急にしていかねばなりません。

▲愛知県 経済産業局 革新事業創造部 スタートアップ推進課(大府市より出向中) 研修生 沖健人氏

――そうした点を解消するのにも、共創ワークショップは大きな役割を果たしそうです。

沖氏 : はい。共創ワークショップの狙いとして、まずプレイヤーの可視化ということがあります。愛知県は、エコシステムの形成を目指していますが、どんな企業や団体などがプレイヤーになるのか見えていないところがあったので、共創ワークショップを通じて可視化を試みています。

その上で、プレイヤーの方たちのリソースを棚卸しして、協業に向けたベースを整えておくのが重要だと捉えています。共創ワークショップでは、ひざを突き合わせてディスカッションしますので、良い関係性が築けるはずです。そのことも狙いの一つです。

林田氏 : 地域や団体の枠を超えて一堂に会するのは、これまでなかなか実現できないことでもありました。

沖氏 : 共創ワークショップには、自治体、商工会議所・商工会、金融機関、事業会社などが参加しています。地域をまたぐとどうしてもライバル関係になりやすく現状、日常的に情報交換できるネットワークは充実していません。共創ワークショップを通じて、困り事や相談事も含め、互いに腹を割って話せるようなオープンな関係作りを県として支援しています。

――共創ワークショップは今回の8回目で最終回となります。これまでの手応えはいかがでしょうか。

林田氏 : 最初は自治体だけの参加しかなかった地域が、共創ワークショップを通じ関係団体との連携の必要性を認識して、次の回からは、例えば地域の金融機関と一緒に参加するということがありました。単に連携の重要性を理解するにとどまらず、行動に移していただいたところに大きな進化と言いますか、エコシステムが実際に作られていく様を見た気がします。

沖氏 : 各地域、団体にとって理想的なスタートアップとの関わり方とはどういうものなのかを、自分自身の言葉で説明している方が増えている印象です。スタートアップと共創することの目的や、何ができるのかを伝えられるようになっています。「自分事」化されたと言っても良いかもしれません。

――最後に、次年度以降の取り組みをご紹介ください。

林田氏 : 共創ワークショップは引き続き行っていく方針です。自治体は人事異動もありますし、新しいプレイヤーも地域に入ってきています。継続してエコシステムの重要性や必要性を伝えていきます。また、エコシステムのプレイヤーが自らやりたいことを思案し、企画・実行する。そうした場も作っていければと考えています。

【共創ワークショップレポート】 活発に議論を重ね、共通のアクションプランを練り上げる

続いて、共創ワークショップの様子をレポートする。最終回である今回のワークショップ狙いは「地域のプレイヤー同士で一緒に起こせる身近なアクションの棚卸し」だ。実施に先立ち、愛知県 経済産業局 革新事業創造部 スタートアップ推進課 課長補佐の藤井氏が挨拶。「地域のエコシステムを作るには、プレイヤー同士の関係性が大事で、会話をすることが欠かせない。ぜひこの場を有効に活用し、仕事はもちろん、仕事を離れた時でも気軽に話せるような関係を構築してほしい」と呼びかけた。

共創ワークショップに参加したのは、愛知県内の安城市・大府市・岡崎市・春日井市・蒲郡市・刈谷市・豊田市・豊川市・豊橋市・西尾市・日進市における各自治体や商工会議所・商工会、金融機関、教育・研究機関などの担当者たちだ。参加者が5つのチームに分かれ、テーブルごとにワークに着手した。

ワークショップの流れは、「1.自団体・自部署の振り返り」「2. 話し合い・テーマ決め」「3.具体的なアクションプランの作成」「4.発表」といった形で進められた。

まず、「1.自団体・自部署の振り返り」では、個人ワークで、参加者は自団体・自部署の特徴などをポストイットに書き込んだ。

次に、「2. 話し合い・テーマ決め」は、グループワークとなり、参加者同士のディスカッション形式で進められた。「1.自団体・自部署の振り返り」で作成したポストイットを活用して相互の理解を深めながら、「誰に」「何を」「なぜ」実行するのか、実行する上での課題などを明らかにした。

「3.具体的なアクションプランの作成」では、各団体・組織が共通して長期的に達成を目指す目標、叶えたい世界観を言語化して、2024年度のアクションプランを作成した。実際に実現が可能なのか、検討を重ねながらプランを練り上げた。

そして最後に「4.発表」が行われた。5つのグループが発表した内容を以下にダイジェストでお伝えする。

日進市や同市の商工会・金融機関のメンバーを中心としたグループは、「地元企業を集めたセミナーを開催する」と発表した。実現したい未来として掲げたのは「事業展開や創業、相談がしやすい地域」だ。地元企業に対して各団体の施策が十分に周知できていない現状を踏まえ、まずは各団体が施策をリストアップし、相互に持ち寄り精査した上で、各団体の施策を紹介するセミナーを共同開催したいと話した。セミナーでは、地元企業のニーズを吸い上げることも狙う。また、各団体の施策を取りまとめて効果的に情報発信するノウハウを持ったスタートアップと連携したいと述べた。

2番目に登場したグループは、「西三河新事業創出プログラム」と銘打ったプランを発表した。来年度末には地元企業に新産業を生み出す機運が醸成されていることを目指す。取り組むべきこととして挙げたのは、地元企業の課題を自治体が把握すること。そのために情報収集を行っていくと話した。次の段階として、新事業に取り組んでいる企業の事例、スタートアップとの共創に必要なことなどについて情報発信をすると伝えられた。

3番目に発表したグループは、「地域が抱える課題解決に興味のある事業会社・スタートアップが集まるイベントを、各地域で開催したい」と話した。狙いは、スタートアップとの交流の機会を増やし、新規事業の創出につなげることだ。三河地区はまだまだスタートアップとの共創で新規事業を創出する機運が醸成されておらず、その点を解消したいと強調した。自治体、金融機関、商工会議所・商工会などとの連携もさらに強めていきたいと述べた。

4番目に登場したグループは、「既にプロダクトを持つスタートアップと、地域の事業会社とのマッチングを図り、早期に新規事業すること目指したい」と話した。そのためには、課題の理解が必要不可欠で、課題を共有する場づくりを行っていきたいと伝えた。スタートアップと事業会社が出会い、お互いにさまざまな話ができるようサポートしていくと述べた。

最後の発表したグループは、「2024年度の上期で関係団体の相互理解を深め、下期はスタートアップの悩み相談に乗りたい」と話した。地域に閉じこもることなく、東三河の関係団体を巻き込みながら、付加価値を生み出していきたいと強調した。

【参加者インタビュー】 個人間で直接的なつながりを持つことができ、エコシステム形成のきっかけとなるワークショップだった

共創ワークショップの後、当日参加した、日進市・稲葉亮氏と日進市商工会・水野宇一氏にインタビューを行った。参加者が感じた共創ワークショップの手応えとは?――以下にその内容をお伝えする。

【写真左】 日進市 産業政策部 産業振興課 稲葉亮氏

【写真右】 日進市商工会 事務局 水野宇一氏

――まずはお二人が普段どんな仕事をされているか、簡単にご紹介ください。

日進市・稲葉氏 : 一言で言えば、地元企業の支援となります。具体的には、融資制度の認定、手続き、信用保証料の補助の申請受付などです。このほか、地域のイベントの事務局を務めています。

日進市商工会・水野氏 : 主に中小企業の支援です。課題や困り事に対するアイデア出し壁打ちの壁役や相談相手となったり、共に解決策を探ったりしています。事業計画書作りのサポートをすることも多いです。また、稲葉さんと同様、地域のイベントの事務局を務めることもあります。

――2023年度の共創ワークショップは今回で終了します。振り返ってみて率直な感想をお聞かせください。

日進市・稲葉氏 : 参加した当初は不安ばかりでした。正直、人付き合いが苦手と言いますか、自分から積極的にコミュニケーションを取るタイプでもないので、参加して良いのだろうかという思いすらありました。でも、参加してみると、想像以上に深いところまで踏み込んだ話ができ、さまざまな発見や学びがありました。

皆さんがどんなところに課題を感じているのかということに加えて、自身の所属する組織についても理解が深まったと感じています。また、懇親会では他の自治体や金融機関、スタートアップなどの方々と交流し、段々と話をすることが楽しくなっていきました。

日進市商工会・水野氏 : ここでお会いした方たちは同じ東尾張の方たちが中心ですが、会って話をする機会はなかなか持てません。それが今回、地域のさまざまなプレイヤーの方たちと直接コミュニケーションを取れたのは大きな成果だと感じています。

名前は知っていて活動内容も概ねわかっているけど細かいところまで知らないという方々が、実際に何をしているかを改めて知ることもできました。何より、別の組織の中にいる方たちと個人と個人で直接的なつながりができたのは、価値のあることだと思います。

――組織と組織でつながりがあることに加えて、個人同士でお互いにどんな仕事をしているか理解して、場合によっては相談などもできる。そうした関係を構築できたのは、大きな収穫だったということですね。

日進市商工会・水野氏 : はい。今後、地域にエコシステムを形成する上でも、大切なことだと思います。

――稲葉さんと水野さんのグループは、「地元企業を集めてセミナーを実施すること」をアクションプランとして掲げました。どのような話の流れから、この案が出たのでしょうか。

日進市・稲葉氏 : 市役所には企業や金融機関の方たちから、補助金についての問い合わせが多く寄せられます。これはつまり、日進市の補助金があまり周知されていないことを意味するでしょう。一方、市側も金融機関が取り扱う融資制度や商工会議所・商工会の補助金について十分には理解していません。補助金を出すほうがこうした状況なのですから、補助金や融資を受ける企業はもっと理解できていないのではないでしょうか。この状況を解決したいと考えたのです。セミナーを開催し制度が浸透する過程で、各団体と企業のつながりがより深められていくことが理想です。

――実現の可能性はいかがでしょうか。

日進市商工会・水野氏 : 一部ならすぐにでも取り組めると思います。

日進市・稲葉氏 : 市の補助金や融資手続きの金融機関への周知については、市のHP以外では、コロナ禍においては、年に一度書類を送付するのみでした。コロナ前は、説明会を開いて金融機関の担当者に直接説明していましたが、それでもあくまで一方向だったので、双方向に変えていく必要はあると感じています。そうした気づきが得られたのも、共創ワークショップの実りですね。

取材後記

STATION Aiのオープンを2024年10月に控え、共創の機運が高まっている愛知県では、県内全域におよぶエコシステムの形成を試みている。土台となるのが地域ごとのエコシステムで、エコシステム同士が交流し、最終的には愛知県全体で起業・新規事業・新産業が生まれやすい環境の創出を目指す。非常に壮大な構想だが、視点の解像度を上げれば、結局つながっているのは地域の人と人だと気付かされる。地域の人同士、友好な関係性を構築することはエコシステムの要とも言え、だからこそ、同県が取り組む共創ワークショップが有効となる。同県のエコシステムは一歩一歩、着実に形作られている。STATION Aiがオープンし、エコシステムが本格稼働を始めると、どのようなインパクトが生み出されていくだろうか。

(編集:眞田幸剛、文:中谷藤士、撮影:加藤武俊)

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