
アップサイクルで地域再生へ 青森発、合成皮革「RINGO-TEX®」開発のappcycleがみずほ銀行から初のプロパー融資獲得
りんご王国・青森で生まれたスタートアップ企業が、廃棄資源のアップサイクルという新たな価値創造に挑戦している。appcycle株式会社は、りんご残渣を原料とした環境配慮型の合成皮革「RINGO-TEX®(リンゴテックス)」の開発・販売を手がける企業だ。
同社はみずほ銀行よりデットファイナンスによる資金調達を実施し、同行にとって“青森県のシード期スタートアップ企業への初のプロパー融資”となった。地方の未来を変える可能性を秘めた一手に、金融界も新たな一歩を踏み出した。
地域課題に向き合う「アップサイクル」の挑戦
日本一のりんご生産量を誇る青森県だが、現場では高齢化や後継者不足が深刻化している。さらに、加工後に発生する年間約2万トンの残渣、14万トンもの剪定枝の多くが廃棄されており、処分コストや環境負荷が地域産業の足かせとなっている。

こうした未利用資源に着目し、解決策を提示したのがappcycleだ。代表の藤巻圭氏は、青森出身という原点から地域の循環型産業の構築を目指し、りんごの果皮・果肉を原料とした「RINGO-TEX®」を開発。そのユニークな素材は、ANAの「Green Jet」ヘッドレストカバーや、青森県を拠点に活躍する日本の女性タレントの王林氏のブランド「What Is Heart」とのコラボ商品、SEIKOのビートルズ60周年記念ウォッチのバンドにも採用されている。

資金調達の背景と今後の展望
今回の資金調達により、appcycleは新たなステージへと踏み出す。使途は多岐にわたり、りんご剪定枝など新たな素材研究の強化、製造体制の高度化、マーケティングと販路拡大、さらには人材育成に至るまで、事業基盤全体を強化する構えだ。
研究開発面では、大学や専門企業との共同プロジェクトを通じて、さらなる素材改良と用途拡大を進める。生産面では、量産体制の整備と品質管理強化を図り、海外展開も視野に入れた事業スケールを狙う。販売チャネルとしては、アパレル・雑貨・自動車・航空業界など幅広い業界との協業を想定し、SDGsやESG投資への関心が高まる市場ニーズを取り込む方針だ。
地域から世界へ、循環する未来を創る
みずほ銀行青森支店の支店長・川上剛彦氏は、「社会課題に挑戦する企業理念とチャレンジ精神に共感した」と語る。スタートアップへのプロパー融資は地方銀行でも難しい中、今回の支援は金融とスタートアップの関係における象徴的な出来事といえるだろう。
代表の藤巻氏も、「今回の融資は大きな自信につながった」とコメント。地方発スタートアップのロールモデルとして、地元の農家、事業者、研究機関との連携を深めながら、りんご由来のエコ素材ブランドとしての「RINGO-TEX®」を世界に届けることを目指している。
廃棄されるはずの果実が、革小物やファッションへと生まれ変わる――。その背景には、地方を見つめ、資源の循環をデザインする強い意志と、支える金融・技術・人材の力がある。appcycleの挑戦は、地域に眠る“もったいない”の可能性を、持続可能な未来へと変換する試金石となりそうだ。
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(TOMORUBA編集部)