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ギリシャ・ティロス島が世界初の「廃棄物ゼロ島」に。それを支えたイスラエル発「Polygreen」の実力

ギリシャ・ティロス島が世界初の「廃棄物ゼロ島」に。それを支えたイスラエル発「Polygreen」の実力

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2023年7月、革新的な循環型経済ソリューションを提供するイスラエルのPolygreenは、同社がプロジェクトに携わったギリシャ・ティロス島が、ギリシャ初のゼロ・ウェイスト認定自治体、そして世界初のゼロ・ウェイスト島に認定されたと発表した。

世界のスタートアップが取り組むイノベーションの"タネ"を紹介する連載企画【Global Innovation Seeds】第56弾では、世界初のゼロ・ウェイスト認定島となったティロス島の取り組み、それを支えたPolygreenのソリューションに迫る。

サムネイル写真:Polygreenのプレスリリースより

埋立地は閉鎖され、リサイクル率が約90%に上昇

ギリシャ・ティロス島はエーゲ海に浮かぶ人口745人の小さな島で、夏季には1日平均3500人の観光客が訪れるという。

国立公園に指定されている同島では、風力と太陽光の再生可能エネルギーによるエネルギー源の自給自足を達成している。2021年12月には「廃棄物ゼロ」を掲げた新プロジェクト「Just Go Zero Tilos」を立ち上げた。その後、約1年間の運用を経てギリシャ初のゼロ・ウェイスト認定自治体、世界初のゼロ・ウェイスト島に認定されている。

このプロジェクトに資金とノウハウを提供し、成功に導いたパートナーが2018年にイスラエルで創業したPolygreenだ。同社は循環型経済ソリューションを提供する専門企業で、ヨーロッパ、中東、アフリカに拠点を置き、世界でも技術や時間の観点で厳しい環境プロジェクトに携わっている。

▲世界初のゼロ・ウェイスト島に認定されたティロス島には、大統領や環境エネルギー大臣なども訪問したという(Just Go Zero Tilosのプレスリリースより)

ティロス島のプロジェクトでは、廃棄物の戸別収集と廃棄物を3つのカテゴリーに分別する方法を導入。以前は約87%の廃棄物が埋め立てられていたが、プロジェクト実施後は都市固形廃棄物の100%を埋め立て地から転用することに成功、廃棄物のリサイクル率は90%近くに達している。

ティロス島では公共のゴミ箱が撤去され、埋立地は完全に閉鎖された。埋立地は廃棄物を分類、処理するための循環イノベーションセンターに生まれ変わった。大部分はリサイクル、またはバイオ廃棄物の肥料に変換され、残りは再利用されるか、廃棄物によるエネルギーの変換に使用されるという。

住民の協力を促進した「教育プログラム」の実施

廃棄物ゼロの実現は、リサイクルやエネルギー変換の技術だけでは達成できない。同プロジェクトでは、住民の理解と協力を得るため、Polygreenが先導してさまざまな施策が実行された。

▲住民は、廃棄物を3つのカテゴリーに分類する(Just Go Zero Tilosの公式ホームページより)

まずは、住民が廃棄物を3つのカテゴリーに正しく分類する方法を学べる「ゼロポイントインフォメーションセンター」を港に設置。3つのカテゴリーは、リサイクル可能な物質(紙、プラスチック、金属、アルミニウム、ガラス)、バイオ廃棄物(食品、果物や野菜の皮、石、骨)、リサイクル不可能な物質(汚れた紙、カミソリやマスクなどの私物)となる。

その後、各家庭には廃棄物を3つのカテゴリーに分類するための箱や袋などの備品が配られた。家庭や企業で出た廃棄物は、特別に設計された最新の車両群がティロス島のすべての家庭や企業を定期的に巡回し、ドアツードアで収集・計量される。廃棄物は最終的に循環イノベーションセンターに運ばれて25種類に分類され、必要な処理を施される。

古い家具や壊れた電気機器、不要になった衣類や布地も同様に循環イノベーションセンターに収集される。これらは修理して再利用する、またはアートや創作の原材料になるそうだ。

▲廃棄物量やリサイクル量を追跡できる「Just Go Zero アプリ」も導入(Just Go Zero Tilosの公式ホームページより)

同プロジェクトでは、住民の協力を促すためにPolygreenが提供する「Just Go Zero アプリ」も導入された。同アプリを使うと、自身が排出した廃棄物量やリサイクルの状況をリアルタイムで追跡できる。廃棄物量やリサイクルされた物資の量が数値で示されることで、各家庭での目標設定や実績向上につなげやすいという。同時に、分別が正しく行われているかを各家庭にフィードバックした。

リサイクル状況を追跡するにあたっては、同プロジェクトのトレードマークとなる青いバッグを製作。このバッグは廃棄物分別の専用バッグとして各家庭に設置されている。バッグにはQRコードが付いており、それを読み取ることで収集時に計量された廃棄物量などをアプリ内に記録できるという。

ジャーナリズムを追求するメディア「Positive News」の報道によれば、ティロス島に住む20代の若者は、同プロジェクトについてこのように話したという。

「最初は楽しかったけれど、(分別に)時間がかかり、エネルギーも消耗した。 でも、マスターできるまでみんなで助け合った。驚いたのは、古き良き時代のようにゴミを捨てないという考えを年配の人たちが受け入れていること。それは、私の(ゴミゼロに対する)行動にも希望と勇気を与えてくれた」

島の景観が美しくなり、地元ビジネスが活性化

プロジェクト開始から約1年間の運用を経て、ティロス島はゼロ・ウェイスト・ヨーロッパ(ZWE)とミッション・ゼロ・アカデミー(MiZA)が作成したヨーロッパ認定基準であるゼロ・ウェイスト・シティで、5つ星のうち4つ星を獲得。ギリシャ初のゼロ・ウェイスト認定自治体、世界初のゼロ・ウェイスト島に認定された。

▲公共のゴミ箱を撤去し、住民と観光客に廃棄物の分別とリサイクルを奨励する教育プログラムを実施し、廃棄物ゼロを達成(Just Go Zero Tilosのプレスリリースより)

こうした評価を得て、ティロス島はどうなったのか。マリア・カンマ=アリフェリ市長は、「このプロジェクトは環境と地域社会の両方に多大な影響を与えている。リサイクル率が劇的に向上し、プラスチックやその他の生分解性のない廃棄物が削減された。これにより、島の景観が美しくなり、繊細な生態系と海洋生物も保護された」と話す。

さらにエコツーリズムが促進され、持続可能な農業に関連した新たな雇用機会が生まれていることにも言及。環境意識の高い観光客が島に流入し、地元ビジネスが活性化する変化も見られているそうだ。

ティロス島の観光客も住民同様に廃棄物の分別が求められ、ゼロポイントインフォメーションセンターで買い物用の布製バッグを受け取ることができる。宿泊施設にも分別に必要な情報と備品が用意されている。

ティロス島では、2025年までに30%以上のプラスチック削減、20%以上の廃棄物の削減などの目標を掲げてプロジェクトを継続している。

Polygreenが取り組む世界のプロジェクト

最後にPolygreenが世界で取り組んできた、その他のプロジェクトについても紹介したい。

燃料流出事故の対応・汚染土壌の管理

▲日本の貨物船の座礁事故による燃料流出の清掃活動や汚染土壌管理を実行(Polygreenのプレスリリースより)

2020年7月にインド洋モーリシャス沖で起きた日本の貨物船「WAKASHIO(わかしお)」の座礁事故による燃料流出における対応と油廃棄物、および汚染土壌の管理をPolygreenが実行した。同社の公式ホームページでは、計5ヵ月に及ぶ清掃活動を完了させたと報告されている。

同事故では約1,000トンの油が海に流出し、モーリシャスで最悪の環境災害となった。事故が発生した際、Polygreen傘下のPolyeco Group International DMCCが真っ先に反応し、世界中のさまざまな拠点から迅速にリソースを動員した。

地元コミュニティとも協力し、同コミュニティから雇用した約250人は、海岸線、ラグーン(砂州やサンゴ礁により外海から隔てられた水深の浅い水域)、マングローブの修復に従事した。Polygreenの技術とノウハウを活かし、人工構造物、石積み、岩場、泥浜、砂浜、マングローブの海岸線などの清掃に成功したとしている。

タバコの吸い殻を収集・リサイクル

▲ギリシャのビーチで、タバコの吸い殻による環境汚染を防ぐプロジェクト「GOPING」を実施(Polygreenのプレスリリースより)

2020年にはギリシャのビーチで、タバコの吸い殻による環境汚染を防ぐ試験的なプロジェクトを実施した。「GOPING」と名付けられた同プロジェクトでは、ビーチにある飲食店の協力を仰ぎ、飲食店内に専用の灰皿を設置。同時に、飲食店内にはリサイクルボックスが置かれ、そこに吸い殻を収集した。

収集後は、灰、煙、紙は堆肥を製造するために管理され、フィルターは機械的リサイクルによって処理され別素材の生成に使われた。約5週間の実施によって51万4,000本以上の吸殻が回収され、400万リットル以上の海水が感染の可能性から守られたとPolygreenは報告している。

編集後記

人口745人と小さな島とはいえ、短期間で「廃棄物ゼロ」を実現したことは評価すべき実績だ。意義のある取り組みだが、ゴミを100%正しく分別するのは並大抵ではなかったはず。もしかすると優秀な住民や企業には何かしらのインセンティブがあったのかもしれないが、現在もプロジェクトが継続しているところを見ると、何かしらの工夫により住民の内発的動機づけを促しているのだろうと感じた。

(取材・文:小林香織) 

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  • 増山邦夫

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  • 眞田 幸剛

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