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「おせっかい」で日本の宿泊業界に革新をもたらすーーミシュランでも高評価を得るNazunaが描くビジョンとは?

「おせっかい」で日本の宿泊業界に革新をもたらすーーミシュランでも高評価を得るNazunaが描くビジョンとは?

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日本政府観光局(JNTO)は、2024年3月の訪日外客数が308万1,600人となり、前年同月比では69.5%増、2019年同月比では11.6%増となったことを発表した。単月として初めて300万人を超えたという。

このようなデータからも見てとれるように、コロナ禍で打撃を受けた日本の観光市場は回復し、活性化の兆しを見せている。そうした中で「おせっかいな接客」で注目を集めている宿泊施設がある。それが、Nazunaだ。京都などの伝統的な建物をユニークな宿泊施設にリノベーションし、事業を展開。また、従来のような画一的な接客ではなく、従業員一人ひとりが主役となり「おせっかい」な接客をすることで、これまでにない感動的な宿泊体験を作り出している。

事実、ミシュランガイドでは「3パビリオン旅館(特に快適な旅館)」として選ばれるなど、高い評価を得ている。業界を革新するような経営スタイルは、どのような考えのもとで確立されてきたのだろうか。

そこでTOMORUBAでは、同社の代表取締役・渡邊龍一氏にインタビューを実施。同社が企業理念として掲げる「おせっかい革命」とはどのようなものなのかに加え、事業の強みや今後のビジョン、オープンイノベーション戦略などについても語っていただいた。

※株式会社Nazuna PRページ : https://auba.eiicon.net/projects/39032

▲株式会社Nazuna 代表取締役 渡邊龍一 氏

大学在学中に飲食店の店長に就任、24歳でエリアマネージャーに昇格。その後コロンビア・ワークス株式会社に入社、不動産デベロッパー営業、人事総務部、運営事業部での経験を経てNazunaに参画、マーケティング部門でコロナ禍にさまざまな施策を実行。2024年4月に代表取締役に就任。

「おせっかい」な接客スタイルに感銘を受け、Nazunaにジョイン

ーーまずは渡邊さんがNazunaにジョインした経緯を聞かせてください。

渡邊氏 : Nazunaとの出会いは、前職の不動産デベロッパーで自社開発したホテルのGMをしている時でした。ちょうどコロナ禍だったため、宿泊事業者が4社ほど集まって一般社団法人を立ち上げ、その一社がNazunaだったのです。

Nazunaの創業者である大門(現・Nazuna 代表取締役会長 大門真悟 氏)の話を聞いていくうちに理念に共感し、かつ現場のスタッフたちが生き生きと働いているのを見て、Nazunaへの転職を考え始めました。

ー一般的な宿泊施設と比べて、何が違ったのでしょうか?

渡邊氏 : 一般的な宿泊施設では、安定したサービスを提供するため、決まったルールの中で接客するのが当たり前です。しかし、Nazunaは「おせっかい」をコンセプトに掲げており、スタッフ一人ひとりが自分で考え、お客さまが喜ぶサービスを提供します。

お客さまによって提供するサービスが異なるため、大手のホテルのような安定したサービスは提供できませんし、場合によってはお客さまの機嫌を損ねてしまうかもしれません。そのようなリスクを承知の上で、スタッフ一人ひとりに裁量を持たせて接客させている宿泊施設は他にないと思います。

Nazunaのコミュニケーションツールとして使用しているSlackを見せてもらったのですが、そこに「おせっかいチャンネル」というものがあったんですね。そこには、毎日どんなおせっかいをしたのかが書き込まれており、それを読んで衝撃を受けました。こんな接客を提供している宿泊施設があるのかと思い、Nazunaへのジョインを決めたのです。

▲Nazunaでは企業理念として、「おせっかい革命」を掲げている。

上から言われたサービスでは感動は生まれない。提供する側も受ける側も楽しい「おせっかい」

ーー印象に残っている「おせっかい」エピソードがあれば教えてください。

渡邊氏 : たとえば秋のシーズンに泊まりに来たお客さまに、秋の風情を感じてもらいたくて、焼き芋を提供したスタッフもいました。また、アルバイトスタッフのお母さんが泊まりに来るのを知ったスタッフが、サプライズでアルバイトの子の働きぶりをまとめたアルバムを作って渡したこともあります。

他にも仲良くしているレストランのメニューを英語表記で作ってあげたスタッフもいました。京都は外国人観光客が増えて、英語のメニューを置いている店も多いのですが、その店は作っていなかったんです。メニューを作ってもらった店主は非常に喜んでましたね。

ーーなぜ、そのような「おせっかい」をするのでしょうか?

渡邊氏 : 「おせっかい」は日本が誇る文化であり、それ自体が楽しいからです。たしかに一流の宿泊施設のサービスも素晴らしいですが、上から言われたサービスをしているだけでは面白くありませんし、感動はなかなか生まれません。

日本ならではの接客を突き詰めて考えた結果が「おせっかい」であり、それはサービスを提供する方も受ける方もお互いに楽しめるのです。

ーー各スタッフに裁量を持たせた接客でも、サービスが成り立つ理由について教えてください。

渡邊氏 : 一つは、会社の戦略と現場の意識が一貫しているからです。たしかにスタッフに好き勝手に接客をさせるだけでは、宿泊施設としてのサービスが成立しないかもしれません。だからこそ、会社としてどのようなビジョンを描き、どんな戦略を立てているのかを徹底して共有しています。

また、私たちのカルチャーにマッチするスタッフを採用することも重要です。面接を通過した方も、実際に入社を決めるまでに必ず現場を体験してもらっています。面接官だけがチェックするだけでなく、実際に働くことで現場のカルチャーに合うかお互いにチェックしているのです。

ーー「おせっかい」については、スタッフに教育などもしているのでしょうか?

渡邊氏 : 教育はしていませんが、評価制度には組み込んでいます。具体的には、お客さまの満足度をアップさせることに特化した「おせっかい志向キャリア」という評価制度を用意しており、「おせっかい追求」という弊社ならではの項目もあります。つまり、「おせっかい」をしなければ昇格・昇給できないため、スタッフ全員が考えて行動するようになるのです。

また、月に一回、行動指針に沿ったスタッフを表彰する制度もあり、その副賞は経営メンバーからの「おせっかい」です。カルチャーとして「おせっかい」が浸透しているので、働いていれば自然と身についてくるんですね。

▲築110年以上の町家が立ち並ぶ約1,400平米のL字型路地一体を1つの宿に改修した全23室の旅館「Nazuna 京都 椿通」。

徹底した「顧客体験の追求」が最高のプロモーションに

ーー渡邊さんがジョインしてから、どのような仕事をしてきたのか聞かせてください。

渡邊氏 : もともとはマーケティングの事業部長として、サービスを拡大することをミッションにジョインしました。しかし、私がジョインした時はまだまだNazunaはベンチャー企業で、組織の基盤を作らなければいけないフェーズ。組織としてのルールを作りながら、事業を拡大できるような基盤を作ってきました。

ーーマーケティングの責任者として大事にしたポイントは?

渡邊氏 : 徹底して顧客体験を考えることです。たとえばラグジュアリーホテルで、アメニティが箱に入って置かれているのを見たことがある方も多いと思います。箱自体に感動するお客さまはいませんし、逆に箱からアメニティを出す手間が生じてしまいます。箱にお金をかけるくらいなら、そのお金でドリンクを一杯サービスした方がお客さまは喜ぶでしょう。そのような小さなことにもこだわってサービスを提供すれば、自然と満足してもらってSNSなどでNazunaを広めてもらえると思っています。

ーー実際に泊まったお客さまからの反応も教えてください。

渡邊氏 : お客さまからスタッフ宛てに個人名で手紙をいただくことは多いです。一般的な宿泊施設では感謝の手紙をもらうのも稀だと思いますし、ましてやスタッフを名指しで手紙を書くことはないと思います。お客さまが自発的に手紙を書いていただけるのは非常に嬉しいですね。

▲大型の京町家2棟を改修した全7室のラグジュアリーな旅館「Nazuna 京都 御所」。

2026年までに、宿泊業界の革命児に

ーー今後の目標についても聞かせてください。

渡邊氏 : 目標は2026年までに宿泊業界の革命児になることです。日本の宿泊業界は旧態依然としており、たとえば、年間休日が100日を下回るような会社も見られます。

業界に革命を起こすには、スタッフの働き方を変えなければいけません。スタッフ一人ひとりが主役になって輝ける会社を作ることで、業界全体のスタンダードを革新していきたいと思っています。

ーー今後事業を成長させていくために、オープンイノベーション戦略についてはどうお考えですか?

渡邊氏 : これまでさまざまな企業と連携してきましたが、実はオープンイノベーションについて戦略などは持っていません。なぜなら、目の前の人と一緒に仕事をしたいかどうかが一番大事だからです。そのため「こんな企業と組みたい」と思って企業を探すのではなく、一緒に仕事をしたいような素晴らしい人と出会ったら、どんなコラボレーションができるか考えるんです。企業規模や事業内容ではなく、一緒にワクワクできる人とオープンイノベーションに取り組んでいきたいと思います。

ーーパートナー企業に対して、どのような価値を提供できるのか教えてください。

渡邊氏 : 最大の強みは「商品を使ってもらえる場」を持っていることです。ホテルなどに宿泊すれば、備品やアメニティなどさまざまな製品を手にする機会がありますよね。こだわりのものを持参する方もいると思いますが、ホテルが用意したものを一切使わないことはないでしょう。

それは最強のプロモーションツールであり、マーケティング調査ツールです。実際に手にとってもらうことで商品を試してもらえますし、反応を見ることもできます。ToCのリアルな商品を持っている企業にとっては、他にない価値を提供できると思います。

ーーこれまでどのような社外連携をしてきたのでしょうか。

渡邊氏 : たとえばアパレルブランドやアクセサリーブランドとは、これまでよくコラボレーションしてきました。私たちは自社のECも展開しているため、それらを活用してお互いのお客さまにアプローチなどをしています。他にも老舗の和菓子屋とフードコーディネーターと組んで、若者にも喜んでもらえるようなオリジナル和菓子も開発しており好評を得ています。

ーー最後に、今後のビジョンを聞かせてください。

渡邊氏 : 「日本の宿泊産業を強くすること」が私のビジョンです。投資家の中には外資系ホテルを日本に上陸させることを考える方も少なくないですが、それは「日本の宿泊産業が弱い」と思われているからです。たしかに日本の宿泊産業で成功した経営者を聞かれて、ぱっと名前が出るのは数名しかいません。

しかし、一方で日本の宿泊施設が外資系ホテルに負けない点もあります。それが「日本らしさ」です。たとえば、外資系のラグジュアリーホテルでお餅を出されても違和感がありますし、箱根のような日本屈指の観光地では老舗旅館の方が選ばれているのも事実です。いかに日本らしさを追求して、外資系ホテルに負けない強固な産業を作るかが、これからの挑戦だと思います。

(編集:眞田幸剛、取材・文:鈴木光平)

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