【ICTスタートアップリーグ特集 #28:DeaLive】誰でもがん治療専門家の知見にアクセスできる『All my Life』で実現したい世界とは
2023年度から始動した、総務省によるスタートアップ支援事業を契機とした官民一体の取り組み『ICTスタートアップリーグ』。これは、総務省とスタートアップに知見のある有識者、企業、団体などの民間が一体となり、ICT分野におけるスタートアップの起業と成長に必要な「支援」と「共創の場」を提供するプログラムだ。
このプログラムでは総務省事業による研究開発費の支援や伴走支援に加え、メディアとも連携を行い、スタートアップを応援する人を増やすことで、事業の成長加速と地域活性にもつなげるエコシステムとしても展開していく。
そこでTOMORUBAでは、ICTスタートアップリーグの採択スタートアップにフォーカスした特集記事を掲載している。今回は、がん患者向けの副作用予測・栄養サポートの事業を展開している株式会社DeaLiveを取り上げる。メーカーのエンジニアからヘルステックに参入したというユニークな背景や、創業の思いなど、代表取締役の牧原氏に話を聞いた。
▲株式会社DeaLive 代表取締役 牧原正樹 氏
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<スタートアップ解説員の「ココに注目!」>
■眞田幸剛(株式会社eiicon TOMORUBA編集長)
・DeaLiveは、がんとともに生きる人の挑戦を後押しする『All my Life』というサービスを開発しているヘルステックスタートアップです。
・代表の牧原氏は、エンジニアとして、デジタルツインを用いた開発および商品企画を経験。その後、IT系企業にて新規事業企画領域を担当。身内のがん闘病経験から、自宅におけるがん治療期の負担低減に関わるサービスの開発を志し、医師、薬剤師、がん化学療法看護認定看護師、がん病態栄養専門管理栄養士、エンジニアメンバーと共に事業を推進しています。
・「GLOBIS Venture Challenge 2022」大賞受賞、愛知県スタートアップビジネスプランコンテスト 優秀賞受賞、東京理科大学「Cross Tech Venture Pitch」ファイナリスト、経産省「Japan Helthcare Technolory Business Contest 2024」アイデア部門優秀賞受賞など、様々なビジネスコンテストでも高い注目を集めています。
親戚のがん闘病をきっかけにDeaLiveを創業
ーー牧原さんが現在開発されている『All my Life』はがん患者向けのサービスですが、どういった経緯で起業したのでしょうか。
牧原氏 : 私の祖父・祖母、そして叔父・叔母がそれぞれがんと戦っていて、祖母は喉頭がんで声が出なくなってしまいましたし、直近では叔父が肺がんになって抗がん剤治療をして痩せていってしまう姿を見ています。いろいろな方に相談をしていますが、例えばがんセンターに勤めている看護師の方などはとても知識が深く、ケースに応じてどう対処するのがいいか教えてもらうことができました。ただ、そういった知見にアクセスできる人はほんの一握りです。
患者は誰でも最先端の専門的な知見に触れられるとは限らないんですね。この状態をなんとかしたいと思ったのが創業のきっかけです。
▲がん治療における副作用予測と症状管理・栄養摂取サポートする『All My Life』
ーー牧原さんはメーカーでエンジニアとして勤めていましたが、現在の仕事とどう結びついていますか?
牧原氏 : 以前はデジタルツインを駆使したシミュレーションなどのデジタル領域を担当していました。この領域の専門家たちの思考は体系化されていて、リアルタイムのデータをもとに実務へ落とし込んでいくプロセスが得意です。こうした考え方をヘルスケア領域にも取り入れれば、かなり親和性があると思います。
ーーもともと牧原さんは起業の意向があったのでしょうか。
牧原氏 : そうですね。新しいことにチャレンジするのは好きですし、会社員時代からなにか新しく自分の土俵で戦えないかと考えてはいました。そういった経緯で昨年DeaLiveを起業するにいたったわけです。
専門家の知見とデータに基づいて副作用を予測し対策する『All my Life』
ーー現状のプロダクトの状況について教えてください。DeaLiveが開発・提供する『All my Life』というサービスにはどのような特徴がありますか。
牧原氏 : All my Lifeはがん治療をサポートするサービスです。特徴は三つありまして、「副作用予測」と「データに基づく栄養サポート」、そして「プラットフォームの役割」です。
「副作用予測」については、がんの専門家の知見に基づいて副作用とその対策をモデル化しようとしています。がんの種類や手術方法から予測される症状を特定し、さらにそこから推奨される対策と個別の対策をピックアップできるというものです。予測できることで、「その時々に必要な情報」や「先回りした栄養対策」の提供が可能になります。
二つ目の特徴である「データに基づく栄養サポート」ですが、アプリで日々の栄養摂取状況が足りているか、また体調・体重の管理などができます。入力されたデータをもとに、アプリが体調の予測をしてくれますが、予測と実際の体調とを比較し実態を把握します。また、専門家への身体的・心理的なカウンセリングを受けることができます。
三つ目の特徴は「プラットフォームの役割」です。がん専門のケア提供者はなかなか見つからないので、患者さんとケア提供者をつなぐ機能を持っています。DeaLiveは、保険会社との提携を通じて収益化を図る他、製薬会社や医療機関とのパートナーシップを積極的に模索しています。これらの提携により、患者への直接的な費用負担を軽減しつつ、サービスの品質とアクセシビリティを維持するビジネスモデルを確立することを目指しています。
ICTスタートアップリーグに採択されたことで使えるリソースが増えたので、症状予測や相談窓口、ケア提供者とのマッチングなどの実証実験を進めている最中です。
ーーユーザーとして想定しているのは特にどんなステージの患者さんでしょうか。
牧原氏 : 比較的ステージの低い患者さんをターゲットにしています。仕事を続けながら、普段の生活と治療を両立させているような方々です。例えば外科手術をして、その後念のために抗がん剤を投与するといった患者さんにもお使いいただけます。
ーーモニターとして参加されているユーザー等からはどのようなフィードバックがありますか。
牧原氏 : 「副作用予測」に関して言えば、副作用の症状に対して、どこまで個別の対策を提示できるかという部分を実証実験で精度を高めたいと考えています。モニターに参加してくれているがん治療の専門家からのヒアリングとして、具体的にどのような食べ物を患者さんへ勧めているのか、患者さんがどのような対策をしたらどのような効果があったのか、といった知見を深めているところです。
意外な意見としては、専門家にとってオンラインでのカウンセリングは手間がかかると認識されていることです。患者さんが専門家のところに訪問することをベースに業務をしていますからね。そこを突破できれば活路はあると思います。
アプリで日々の食事や体調を管理する機能については、患者さんはただでさえ病気でしんどいのに、データを入力しなくてはいけないというハードルがあることがわかっています。ですので、患者さんとその家族が分担しつつ入力してもらえるような実装を進めています。
がんセンターをはじめ病院での導入を目指し、幅広い疾病にも対応していく
ーー短期的な事業のロードマップを教えていただけますか。
牧原氏 : 現在の事業のフェーズとしては実証実験をしている段階です。今後の展開としては、今年の4月から各地で使用していただけるように準備中です。その後、2025年からは全国の関連病院に裾野を広げて導入先を拡大していく計画になっています。
それらを可能にするため、医師、薬剤師、がん化学療法看護認定看護師、がん病態栄養専門管理栄養士など、多岐にわたる分野の専門家と綿密に連携しています。これらの専門家は、「All my Life」サービスの開発において、患者のニーズに即した貴重なアドバイスを提供しています。例えば、看護師・栄養士の方からの実際の経験に即したフィードバックは、副作用予測精度向上に重要な役割を果たし、それに即したUX改善を進めることによってサービスの質が向上しました。このような連携により、より実用的で信頼性の高いヘルスケアソリューションを提供しています。
事業展開としては、まずは現在のB2Cモデルを軌道に乗せることが目標です。その後、全国の病院に「がんサポートシステム」として、電子カルテとの連動などの機能追加をしながら導入していただけるように事業を拡大していきたいです。
一方で、C向けの領域については、がんだけでなく消化器系疾患であったり、慢性疾患であったり、幅広い領域での栄養・セルフケアサポートに貢献できるように横展開していく計画です。
ーー先ほど保険会社との提携の話も出ていましたが、今後どのような企業と組んでいきたいか、イメージはありますか。
牧原氏 : 製薬会社との連携は進めたいと考えています。製薬会社は病院内での薬の服用データは豊富に持っていますが、家庭内でのデータが少ないことが課題になっています。
もうひとつは一般企業の人事部や経営層との連携です。企業では従業員が病気によって退職してしまうことは損失になりますから、復帰するまでのサポートとしてAll my Lifeをご利用いただきたいです。
最後に地方自治体です。地方の病院はアクセスが悪いことなど課題が多いです。最近では高知県などが医療のデジタル化を推進していますし、そういった自治体とAll my Lifeの相性は良いはずなので、コラボレーション・連携を模索しているところです。
取材後記
日本はがん治療分野において世界でも指折りの技術・知見を持っているが、それを多くの人に届けるのがAll my Lifeだ。代表の牧原氏はエンジニアとしてデジタルツインを用いたシミュレーションを担当していたが、こうした経験はヘルスケア領域ともシナジーが高そうである。長寿化が進んだ現代人にとってがんは身近な病気と言えるので、All my Lifeを通じて専門的な知識が幅広く流通することを期待したい。
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(編集:眞田幸剛、文:久野太一)