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【ICTスタートアップリーグ特集 #20:BooQs】事業をピボットしながら辿り着いた"忘れない辞書&単語帳アプリ"「DiQt」。心理学を取り入れたサービスの革新性に迫る

【ICTスタートアップリーグ特集 #20:BooQs】事業をピボットしながら辿り着いた"忘れない辞書&単語帳アプリ"「DiQt」。心理学を取り入れたサービスの革新性に迫る

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2023年度から始動した、総務省によるスタートアップ支援事業を契機とした官民一体の取り組み『ICTスタートアップリーグ』。これは、総務省とスタートアップに知見のある有識者、企業、団体などの民間が一体となり、ICT分野におけるスタートアップの起業と成長に必要な「支援」と「共創の場」を提供するプログラムだ。

このプログラムでは総務省事業による研究開発費の支援や伴走支援に加え、メディアとも連携を行い、スタートアップを応援する人を増やすことで、事業の成長加速と地域活性にもつなげるエコシステムとしても展開していく。

そこでTOMORUBAでは、ICTスタートアップリーグの採択スタートアップにフォーカスした特集記事を掲載している。今回は、英語の語彙習得と忘却の課題を解決するために"忘れない辞書&単語帳アプリ"として「DiQt」(ディクト)を開発・運営する株式会社BooQs(ブックス)を取り上げる。

本の問題集サービスから事業をスタートし、どのような経緯で「DiQt」の開発に至ったのか。アプリの特徴や今後のビジョンに至るまで、BooQs 代表の相川氏に話を聞いた。

▲株式会社BooQs 代表取締役 相川真司 氏

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<スタートアップ解説員の「ココに注目!」>

■眞田幸剛(株式会社eiicon TOMORUBA編集長)

・株式会社BooQsでは、創業当初の本の問題集サービスから短期間でピボットして、英単語学習アプリの「DiQt」へと移行しました。「DiQt」は基本的に、長い時間をかけた分散的な繰り返しにより記憶定着を図るためのアプリで、その意味では王道のアプローチです。しかし、心理学の知見が応用され、効率的に、かつ、継続して学習が続けられるさまざまな仕掛けが実装されています。

・世界の少数言語にも関心があり、将来はその保護活動もしたいという相川氏。自らの知識とノウハウを、社会的に意義のある活動に役立てていきたいというZ世代の若手経営者です。

心理学の知見を応用して、効率的に学習できるサービスを目指す

――BooQs(ブックス)さんは、もともと本の問題集のサービスから事業スタートされて、それを会社名にされています。これは、どういった経緯で始められたのでしょうか。

相川氏 : 昔、ちょっとしたきっかけがあって、心理学の勉強にのめり込んだ時期がありました。

それで、学習の分野でも認知バイアスが効率的な学習を妨げていることを知って、それを解決するサービスを作りたいと思ったのが、最初の動機です。

――効率的な学習を妨げる認知バイアスとは、どんなものなのですか。

相川氏 : 「流暢性の錯覚」あるいは「認知容易性の錯覚」などといわれる、わかりやすいものを正しいと感じるバイアスや、簡単に思い出せるものは将来もすぐに思い出せると感じるバイアスです。

たとえば、当時からサービスの柱としている心理学の一つに、「テスト効果」というものがあります。これは、単純に教科書を読み返すのと、教科書の内容を問う問題(テスト)を解くのとでは、問題を解く方がはるかに記憶に定着するという現象です。ところが、ほとんどの人が、教科書を読み返すほうが覚えやすいと感じてしまいます。

これは、問題を解いて自力で学習内容を思い出そうとするよりも、教科書をただ読み返すほうが認知的な負荷が低く、言ってしまえば「楽で気持ちがいい」からです。そして人間には、こうした「楽さ」を「正しい」と思い込む厄介なバイアスがあります。これが「流暢性の錯覚」です。

またもう一つ、当時から柱としている心理学に「分散効果」というものもあります。これは、たとえば「一夜漬け」のように短い期間に集中的に学習するよりも、間隔をあけて何度も復習するほうが記憶の定着効果が高いというものです。特に、思い出すのが難しくなるくらい間隔をあけて復習するのが効果的だとされています。ところがこれも、楽に思い出せるうちに何度も学習するほうが気持ちが良いので、流暢性の錯覚によって、人間は「一夜漬け」のような学習方法のほうが効果が高いと錯覚してしまいます。

テスト効果と分散効果は、何度も効果が実証されている、極めて頑健な心理学です。しかし、現実ではこうした知見は、流暢性の錯覚 などのバイアスが邪魔をして、人々に知られず、活用もされてきませんでした。このギャップを、テスト効果と分散効果をアプリに取り組み仕組み化することで解決しようと試みたのが、私が当時開発したBooQs(現在のDiQt)でした。

――それにしても、どうして本の問題集だったのでしょうか。

相川氏 : それは単純に、私自身本が好きでたくさん読んでいることと、読んだ内容をかなり忘れてしまうということがあったためです。途中まで読んだところで「あれ、この本、前も読んだな」と気付くことは頻繁にあります。そうした自分の課題を解決したいということが大きな理由でした。

ただ、本の問題集は、まず著作権の問題があったことと、それから、ユーザー投稿で成り立つCGM型のモデルにしていたのですが、その投稿を増やすのが大変だったことなどがあって、うまくワークしていきませんでした。

――そこから、単語辞書サービスに移行したのはどのような背景があったのですか。

相川氏 : 当時、私はエンジニアで、英語の技術ドキュメントを読む必要もありましたが、ほとんど読めなかったのです。英語を読めるようになりたいと思い調べてみると、NGSL(新基本英単語リスト)と呼ばれる、これだけ覚えればほとんどの英文が読めるという頻出語彙リストがあって、それが日本語化されていないことがわかりました。

そこで、NGSLや、他にもTSLというTOEICの頻出語彙リストを翻訳して、それらをBooQsのシステムを使って問題集化しました。

最初は自分の勉強用だったのですが、しばらく自身で使っているうちに便利なことに気づき、自分のnoteでも紹介したところ、評判も良く4,000ほどの「スキ」がついたので、事業を語学領域にピボットしたという経緯があります。

開発者も想定外、最大のユーザーメリットは"続けられる"ことだった「DiQt」

――いま公開しているサービス「DiQt」(ディクト)の特徴を教えてください。

相川氏 : 「DiQt」は、「忘れない辞書&単語帳アプリ」をキャッチフレーズとした、語学者の抱える「調べた単語の忘却」という課題を解決するサービスです。

根底のコンセプトは、BooQsという名前だった創業当初と変わらない、「テスト効果」と「分散効果」を柱にした学習サービスです。

一方でDiQtでは、そのターゲットを語学者の、さらに辞書の利用者に絞っています。

わからない語彙に出会ったとき、私たちは辞書を引いてその語彙を調べます。しかし、しばらく時間が経つと、その調べた語彙も忘れてしまい、また同じ語彙を調べて覚え直すという手間がかかっていました。DiQtでは、辞書で調べた語彙に対して1タップ・1クリックで復習を設定でき、後日、自動で復習できるようになっています。これによって、辞書の利用者が抱える「忘却」と「覚え直し」という課題を解決し、より効率的に語彙を覚えられるというのがDiQtの特徴です。さらに、復習を継続しやすいように、ゲーミフィケーションを取り入れていることもDiQtの特徴です。

――ゲーム的な要素の応用ですね。具体的にはどんな仕掛けがあるのですか。

相川氏 : 「経験値」や「レベル」などといった要素、いわゆる「PBL(ポイント・バッジ・リーダーボード)」ですね。ポイントというのは、経験値です。それから、バッチは例えば何問を解いたらメダルを授与といったこと、リーダーボードというのは、ランキング公表ですね。そういった仕掛けを導入して、飽きずに継続しやすくしています。

――ユーザー数と、ユーザーの中心的な属性などもわかれば教えてください。

相川氏 : ユーザー数は13,000人くらいです。サブスクリプトでの課金モデルということもあって、学生よりも社会人ユーザーが中心です。ユーザーインタビューによると、私と同じように英文ドキュメントを読む必要があるエンジニアや医療関係者など、専門職の方が多い印象です。

――ユーザーからの反応や評価には、どういった内容が多いのでしょうか。

相川氏 : 一番多いのは、「続けられる」という声です。「今まで、いろんな学習アプリを使ってきたけど、続けられたのはこのアプリだけ」や「このアプリだけは挫折しませんでした」といったような反応です。しかし、これは実は私にとって、「DiQt」でもっとも訴求したい価値ではなかったので、意外でした。

――そうなのですか。では、相川さんが訴求されたい価値はなんだったのですか。

相川氏 : もちろん、長く続けられることは大切です。どんな効率的な学習方法も、継続できなくては意味がありませんから。

しかし、テスト効果と分散効果の導入によって「効率的に覚えられる」ということが、私はプロダクトの最大の価値だと思っていましたし、実際にその点を強調していました。

でも、よく考えてみると「覚えられた」という学習の実感は、長く続けないと感じられないですよね。長く続けた結果として、例えば、TOEICで高得点が取れたとか、英文ドキュメントが読めるようになるわけです。すると、長く使ってもらうことが先で、そこで初めて「効率的に覚えられたな」とわかるものなのでしょう。

しかし多くの語学者は、「効率的に覚えられた」という実感を得る手前の部分で挫折してしまっており、そこに大きな課題を感じていたんですね。だからこそ、続けやすいことに一番喜んでもらえた。私が驚き、見誤っていた部分でした。

――習慣化できる仕組みも、やはり心理学的な背景があって実現できているのですか。

相川氏 : その通りです。分散効果から、記憶に定着させるには長く続けなくてはならないということはわかっていましたから。

"一夜漬け"で学校の試験勉強をしたことは私もありますし、多くの人が経験しているでしょう。

でも、それって、少し時間が経てばすっかり忘れてしまうものですよね。記憶に長く定着させるためには、長い時間をかけて分散的に学習したほうが効率的なのです。それもあって、習慣化できる仕掛けを採り入れています。

CGMとAIの力で、少数言語の保護など社会的意義のある仕事も

――今後についてですが、今回、ICTスタートアップリーグとして目指すイノベーションとして「大規模言語モデルを利用した多言語辞書の生成及び改善」を掲げられていらっしゃいます。もう少し詳しく教えていただけますか。

相川氏 : まず、DiQtはCGM型の辞書で、生成AIとユーザーの編集によって辞書を作成しています。辞書の見出し語に対して、意味や例文やイメージなどをAIで作成しつつ、AIのハルシネーション(誤情報)などをWikipediaのようにユーザーが修正できるようにしているのです。

ICTスタートアップリーグでは、DiQtのこのシステムを活用して、より多くの多言語辞書を開発・提供することを目指しています。

たとえば、AIで辞書データを生成するにも、前処理として素材となるデータの質を向上させることが重要です。現在注力しているのは、英和辞書と和英辞書ですが、たとえば和英辞書なら語彙リストへの品詞設定や常用漢字のタグづけなどを行い、より品質の良い辞書データを生成するための試みを、ICTスタートアップリーグを通じて一緒に行なっています。

――中長期的なビジョンについては、いかがでしょうか。

相川氏 : 足元では、現在話者の多い主要言語の辞書に注力していますが、中長期的には、世界中のあらゆる言語の辞書をDiQtで提供できるようにしていきたいと考えています。

世界には数多くの言語がありますが、現代であっても、多くの言語の辞書が提供されていないという現実があります。日本語はまだ恵まれている方ですが、それでもズールー語を日本語で学べる辞書などは出版されていません。それは単純に、話者や学習者が少ないために、従来の商流の中では利益にならないためです。

こうした背景が積み重なって、世界では今、消滅の危機に瀕している少数言語が多数あり、問題になっています。日本でもアイヌ語などがそうですね。DiQtを通じて、そういった消滅危機言語を保護する仕事もできたらと思っています。ビジネスになるかどうかはわかりませんが、何かしら社会的意義みたいなものを信じられないと働けないところが、私にはあるのです。

インターネットサービスの良いところは、以前なら無駄として切り捨てられていたようなものでも許容できる点にあると思います。AIやCGMの活用によって辞書の作成コストを下げられた分、そうした社会事業的な活動もやっていきたいですね。

――ビジネスモデル的に、出版社などのコンテンツホルダーとの協業可能性もありそうですね。

相川氏 : それはぜひお願いしたいですね。出版社さんなどが持っているコンテンツやリソースは大変素晴らしいものだと思っています。一方で、私たちはAIやAPIの活用などのノウハウがあります。お互いの強みが活かせる協業ができればうれしいですね。

取材後記

「タイパ」という言葉の流行もあるように、語学学習も「短期間」で成果の出ることがアピールされる風潮が強い。それに対して「DiQt」は、習慣化をサポートしつつ、長い時間をかけた分散的な繰り返し学習で着実な記憶を図る王道的なアプローチだ。そこに、「社会的意義みたいなものを信じられないと働けない」と語る、相川氏のZ世代らしいエシカルな姿勢の反映もあるように感じられた。

※ICTスタートアップリーグの特集ページはコチラをご覧ください。

(編集:眞田 幸剛、文:椎原よしき)

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