創業時から根付く「共創の精神」。互いの技術やアイディアを融合させ、世界各地へ新たな価値を生み出し続ける「AJINOMOTO Co.オープン&リンクイノベーション」とは?
食とアミノ酸のリーディングカンパニーとして、130を超える国や地域でビジネスを展開している味の素グループ。その成り立ちが、「オープンイノベーション」であることをご存じだろうか。
1908年、東京帝国大学理学部の池田菊苗博士が、昆布だしの味成分がグルタミン酸というアミノ酸の一種であることを発見、この味を「うま味」と命名した。研究の背景には、「日本人の栄養状態を改善したい」という志があった。こうした池田博士の志に胸を打たれ、事業化を進めたのが、実業家・二代鈴木三郎助だ。そして、世界初のうま味調味料『味の素』が発売された。
産学連携というオープンイノベーションの一つの形から生まれた味の素グループは、現在に至るまで外部連携を積極的に推進。「オープン&リンクイノベーション」という取り組みに着手している。そしてここ最近は、「Ajinomoto Co. Innovation Alliance Program(AIAP)」という革新的な技術・研究への研究助成も手がけている。――これらの取り組みについて、具体的にどのような事例があるのか、そして味の素(株)と協業するメリットとは?オープンイノベーションに取り組むチームにインタビューを実施した。
■インタビュー対象者/上写真(左→右)
・研究開発企画部 事業開発グループ シニアマネージャー 坂井良成氏
・コーポレート戦略部 丸山明子氏
・研究開発企画部 事業開発グループ長 神崎道哉氏
・研究開発企画部 事業開発グループ シニアマネージャー 三原隆一氏
オープンイノベーションにより、地球規模で新たな価値を創造していきたい
――まずは、味の素グループがオープンイノベーションに取り組む目的や、実現したい世界についてお話いただけますでしょうか。
神崎氏 : 味の素グループでは、オープンイノベーションという言葉が生まれるずっと前から外部連携に取り組み、多岐にわたる分野で新たな製品を生み出してきました。昨今、グローバル競争は激化しており、我々も外部連携が今後の成長に不可欠だとさらに強い意識を持つようになりました。そこで数年前から、国内外の企業や研究機関などと連携し、これまでにない新しい価値を創造する「オープン&リンクイノベーション」に取り組んでいます。
また、我々は「健康なこころとからだ」「食資源」「地球持続性」を柱として、地球規模の課題に挑んでいます。外部企業との連携により、こうした社会課題の解決を行い、健康な世界を実現していけたらと考えています。
――具体的なオープンイノベーションの事例を教えてください。
三原氏 : NGOや国連機関などと参画した「ガーナ栄養改善プロジェクト」は、産官学連携によるソーシャルビジネスの成功例として高い評価をいただいています。これは開発途上国の大きな社会課題である「栄養不足」を、持続可能なビジネスを通じて解決しようという試みです。ガーナ大学との協働をはじめ、オランダのライフサイエンス企業 DSM 社、国際 NGO等と連携し、栄養強化食品の開発・製品化を行いました。
神崎氏 : 私も一昨年ガーナに行ったのですが、中心街の一歩外に出ると、栄養不足の課題が顕著であると思い知らされました。我々がオープンイノベーションにより開発した栄養強化食品は、現地の人々の間に口コミで広がり、こうした課題の解決に寄与しています。
▲研究開発企画部 戦略・事業開発グループ長 神崎道哉氏
本格的なビジネス実装を踏まえた、ベンチャーへの戦略投資
――ベンチャー企業への戦略投資も行っていると伺いました。
丸山氏 : 従来のオープンイノベーションは、技術起点で共同開発を行うことがほとんどでした。そこで昨年、より本格的にビジネス実装につなげるべく、オープンイノベーションを進化させていくための新たな取り組みとして、米国の食品技術スタートアップ「MycoTechnology」社に戦略投資を実施しました。同社はキノコ
を使った発酵技術により、環境に優しく栄養価の高い素材を創ることができます。発酵は、当社のコア技術のひとつ。そして今、世界的にナチュラルニーズが高まっていることから、協業することに大きな可能性を感じて出資を決めました。まだ始まったばかりではありますが、先方と様々なプロジェクトを進めているところです。
――ベンチャーへの出資は、どのような観点で決めていくのですか?
三原氏 : まずは技術にフォーカスします。相手が持つ技術が、我々の技術とつながることで新しいモノが生まれるかどうか。他にも特殊なチャネルと持っているとか、相手の製品を当社のチャネルにそのまま乗せられる、といったパターンもあります。いずれにせよ、純粋にキャピタルゲインのみを狙った投資は行いません。共通項があるか、互いのビジネスが発展する可能性があるかどうかを考えて決定します。
――様々なベンチャーと、積極的にコンタクトを取っていらっしゃいますか?
丸山氏 : 私は、積極的に国内のイベントに参加するようにしています。三原さんは世界中のスタートアップとコンタクト取っていますよね。
三原氏 : そうですね。来週はヨーロッパでのイベント、その後はアメリカでのイベントに参加する予定です。
▲研究開発企画部 戦略・事業開発グループ シニアマネージャー 三原隆一氏
今までの枠にとらわれない革新的な技術・アイデアに対する研究助成も実施
――オープンイノベーションの手法として、研究助成プログラム「Ajinomoto Co. Innovation Alliance Program(AIAP)」も実施していらっしゃいますね。これはどのようなプログラムなのでしょうか?
坂井氏 : 革新的な研究提案を、幅広い領域から公募する研究助成プログラムです。年間20~30件程度を採択し、200万円の研究費で1年間研究助成を行っていきます。その後、結果に応じて共同研究へと進めていきます。
――昨年までは件数を3件ほどに絞って2000万円の研究費助成を行っていたということですが、件数を増やして1件当たりの助成を少額にした理由を教えてください。
坂井氏 : 最初の段階であまりハードルを上げて絞り込みすぎるよりは、間口を広く持った方が可能性も広がります。まずはやってみることが大事なので。そこで、ファーストステップはシンプルな契約・比較的少額の助成から始めて、上手く行けばセカンドステップとしてさらに協業していくという形で再構築を行いました。契約までの期間も、以前は1年くらいかかってしまうケースもあったのですが、今回はかなりスピードを重視しています。
――なるほど。ハードルを下げて幅広いアイデアを募集しようという意図もあるのでしょうか。
坂井氏 : その通りです。実現可能性の高い提案から、「もしそんなことがあったら面白い」という様なチャレンジングな提案まで、幅広くイノベーティブなアイデアを募集していきたいと考えています。
(※プログラム詳細はこちら→https://www.ajinomoto.com/jp/rd/AIAP/)
――技術・アイデアを持つ企業が味の素グループと協業するメリットはどのようなところでしょうか?
三原氏 : 当社がこれまで培ったコア技術や生産設備、そして事業化やマーケティングノウハウ、グローバルな開発・ビジネス拠点など、提供できるリソースは豊富にあります。とはいえ、当社には欠けている技術ももちろんあります。そこで、我々のリソースと、最先端の技術や革新的なアイデアと掛け合わせることで、新しい何かを生み出せるのではないかと期待しています。
丸山氏 : 特に食品の美味しさについては、当社は長く研究してきた歴史があります。よりお客様に美味しく提供するための加工技術、調味の技術、食感を変える技術などを提供できますし、新しいことを一緒に考えていくことができるのではないでしょうか。
神崎氏 : 事業の幅が広いというところも、大きな魅力なのではないでしょうか。食品をコアとして、栄養・ヘルスケア関連事業、電子材料、香粧品など、それぞれの事業に必要なインフラを当社は持っています。だからこそ、様々な領域のスタートアップと共に、新しい価値を生み出せる可能性があると思います。
▲コーポレート戦略部 丸山明子氏
オープンイノベーションに立ちはだかる「壁」を壊していくのが、このチームの重要なミッション
――様々な大企業にお話を伺っていると、「自前主義の意識が強く、スタートアップと連携がなかなかうまくいかない」という悩みも聞こえてきます。味の素グループではどうでしょうか?
神崎氏 : もちろん、色々なタイプの人がいるので一概には言えませんが、創業の精神が根付いているため、積極的に外部と連携して新しいモノを生み出そうという意識を持っている人は多いのではないかと思います。当社の研究者たちは比較的フットワークが軽く、技術営業のようにどんどん外に出ていく傾向が強いですね。
とはいえ、異なるバックグラウンドを持つ者同士が手を携えて新しいことを実現していくには、当然のことながら壁にぶつかるでしょう。これまでも、決して平坦な道ではありませんでした。しかし、その壁を壊し、突破していくのが私たちのチームに課せられた重要なミッションだと思っています。
――とても頼もしいですね。最後に、共創パートナーとなる企業にメッセージをお願いします。
神崎氏 : 私個人もチームとしても、様々な企業との出会いで大きくモチベートされています。互いの技術やアイデアを掛け合わせることで、これまで世の中になかった新しい何かを生み出す、そういった意識を持って協業していけたらいいなと思います。
坂井氏 : 先ほどもAIAPについてお話しましたが、これまでよりも多くの技術・アイデアに研究助成を実施し、協業につなげていきたいと考えています。ですからぜひ、臆せず積極的に提案をしていただきたいですね。
丸山氏 : 協業するということは、一緒に働いていくということ。ですからぜひ一度お会いして、一緒に楽しく働いていけるか、お互いの夢を実現していけるか、見ていただきたいなと思います。
三原氏 : 私個人としては「まずは会ってみる」ことを大切にしています。当社は様々な事業を展開しておりますので、可能性を狭めず、色々な方とお会いしたいと思っています。興味を持っていただけたら、まずは気軽にコンタクトしてみてください。
※本取り組みの詳細やコンタクトはこちらから。 https://eiicon.net/companies/3357
(構成:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:古林洋平)