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【JOIF2023セッションレポート】Sun Asteriskの3名が実体験をもとに語る―オープンイノベーションの失敗から紐解くベストパートナーの築き方

【JOIF2023セッションレポート】Sun Asteriskの3名が実体験をもとに語る―オープンイノベーションの失敗から紐解くベストパートナーの築き方

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9月29日〜30日の2日間にわたり、オープンイノベーションカンファレンス「Japan Open Innovation Fes 2023」(JOIF2023)が東京・渋谷にて開催された。約4年ぶりにリアル会場で実施された同カンファレンスは、多数のオープンイノベーション担当者や新規事業担当者が集結。多くの交流が生まれた。

本記事ではJOIF2023より、事業創造からサービスの成長まで包括的な支援を手がける株式会社Sun Asteriskのトークセッション「スタートアップに嫌われる大企業、大企業に嫌われるスタートアップ」の模様をお届けする。

オープンイノベーションが広く知られるようになって一定の期間が過ぎている。政府の後押しもあって、注目度は高まるばかりだ。一方で、特に”スタートアップ×大企業”のオープンイノベーションは必ずしもスムーズに進行しているとは言えない。しばしばコンフリクトが起こることもある。スタートアップと大企業の間で、何が起こっているのだろうか。課題と問題はどこにあるのか。

本セッションでは、スタートアップと大企業、いずれかの立場、あるいはいずれの立場でもオープンイノベーションを経験した株式会社Sun Asterisk 井上 一鷹氏、船木 大郎氏、株式会社NEWh(Sun Asteriskグループ) 神谷 憲司氏が、自らの経験を踏まえ過去の事例を紐解きながらコンフリクトが起こる原因やその解決策を探った。

<登壇者(画像左→右)>

■株式会社Sun Asterisk Business Design Pros. Division Manager 井上 一鷹氏

■株式会社Sun Asterisk Engineering Pros. Division Manager 船木 大郎氏

■株式会社NEWh(Sun Asteriskグループ) 代表取締役社長 神谷 憲司氏

スピード感の違いは、大きな障壁になり得る

登壇者3名が所属するSun Asteriskグループは「誰もが価値創造に夢中になれる世界」をビジョンに掲げ、企業の新規事業開発をデジタル技術、ビジネス設計の両面で継続支援している。設立から10年でクライアント数は400以上、さらに約600ものデジタルプロダクトを創造し、2022年に東証プライムへ上場を果たしている。

同社では、事業開発にはB・T・C、すなわち「Business」「Tech」「Creative」の3つの機能が必要不可欠と捉えており、この日は奇しくもB・T・Cの3領域のスペシャリストが揃った。

▲「デジタル・クリエイティブスタジオ」を掲げるSun Asteriskの支援体制。B・T・Cのプロフェッショナルでチームを編成している。

3名の経歴は以下の通りだ。

▼井上 一鷹氏:Sun Asterisk Business Design Pros. Division Manager。戦略コンサルティングファームを経て、眼鏡の小売店に転職。同社でスタートアップと大企業、いずれとも協業しオープンイノベーションに携わった。B・T・Cの”B”のスペシャリストである。

▼船木 大郎氏:Sun Asterisk Engineering Pros. Division Manager。エンジニア、起業・事業売却などを経て同社に入社。B・T・Cの”T”のスペシャリストである。

▼神谷 憲司氏:Sun Asteriskグループ会社 NEWh 代表取締役社長。大手広告代理店でマーケティングに携わる。在職中に自社の出資を得て起業を果たし、事業開発を手がけたほか、CVCで出資をする側と受けた側の間に立つカタリストなどの役割を担った。B・T・Cの”C”のスペシャリストである。

セッションは3名の経験をもとに、オープンイノベーションでよくある失敗例などが語られた。井上氏は大企業とスタートアップの「スピード感」の違いからくる齟齬を取り上げた。

「大企業の場合は、NDAを結ぶだけ1カ月かかることはざらにある。協業の話がまとまったのに、それから先の2週間後に第1回目の打ち合わせがあることも少なくない。過去に輸送機関連の大手メーカーとオープンイノベーションを進めたが、スピード感が違い過ぎてプロジェクトメンバーはもちろん、経営陣もしびれを切らしてきた。せっかくオープンイノベーションで同じ方向を向いて進んでいるのに、時間のズレだけで仲違いが生じるのは残念なこと」と振り返った。

これに付随して、大企業の稟議プロセスの複雑さも指摘した。井上氏は「今考えれば1カ月ごとのマイルストーンを決めるなど、進捗のコミットメントを取っておくべきだった」と打開案の一つを示した。

ステークホルダー、体制、熱意にズレが生じることが多い

船木氏は、自身のスタートアップでの経験を振り返りながらステークホルダーの複雑さに言及した。「あるIT系の大企業は、私たちの事業にとても興味を持ち、意欲的にオープンイノベーションを進めようとした。『このコンテンツやこの事業部と協業すればさらに面白いのではないか』と提案いただくのはありがたかったが、その合意形成を取る役割をこちらに預けられてしまった。一口に合意を取るといってもステークホルダーが複雑で、その数は雪だるま式に膨れ上がる。しかも、人によって熱量はまちまち。結果、事業創出のスピード感に大きな影響を与えてしまった。今だったら予めここまでのことはすると妥結点を決めていたが、当時は経験もなく、求められるままに対応した」と話した。

神谷氏は「スタートアップ側に大企業の組織体制や動き方に理解があれば一定程度、話がスムーズに進むことが多い。大企業の勤務経験者の知見を得ることが有効」と伝えた。

また、CVCでの経験を振り返り、度々生じた問題の要因として、オープンイノベーションを進める上での「体制」に言及した。「出資が決まっても、大企業側の体制が整わず、すべてをスタートアップに任せきり、ということがあった。結果として、名目だけの共同開発、オープンイノベーションになることが多かった」と明かした。

他方、井上氏はスタートアップ側の体制が整っていないことも頻繁にあることを示した。「スタートアップのほうが資金や人員に余裕のないことが多い。このため、協業が本丸の事業でない場合は対応がおろそかになりがち」と伝えた。

さらに井上氏は体制に関連した問題点として、「”何をやるか”が決まる前に、”誰とやるか”が決まる例」を提示した。「大企業の経営陣や部長級がスタートアップの代表と意気投合し、一緒にやりましょうとなる。大企業側は、後は現場が対応すると言うが、現場は何も聞かされていないことが少なくない」と話した。船木氏は強く同意し「トップの合意が取れていると意気揚々と現場に向かったら、予想外に冷遇されることがあった」と苦笑いした。

スタートアップは、大企業のブランドやセキュリティに無頓着になりがち

ここまで大企業側の問題点が多く取り上げられたが、スタートアップの問題点として船木氏は「品質とセキュリティの無頓着さ」を取り上げた。「大企業はブランドを背負っている。スタートアップはとりあえずリリースしましょうと先を急ぐが、プロダクトによってはセキュリティも勘案しなければならない。スタートアップはスピード感が持ち味だが、大企業側の事情を鑑みず、自身の理論を一方的に押し付けるのは避けたほうがいい」と強調した。

井上氏は「あくまで今だから言えることだが」と前置きした上で「輸送機関連の大手メーカーとオープンイノベーションを行った時は、スピード感のなさに困惑したが、メーカー側は人命に関わるプロダクトを扱っている。慎重になり、稟議を重ねるのはある意味で当たり前。背景の理解が必要だった」と振り返った。

船木氏はスピード感あるいは熱量にズレが生じるのは「構造的に避けられない面がある」と解説。「スタートアップは一つの事業にすべてのリソースを投入しているケースが少ない。場合によっては、資金が1年後に底をつくことが見えていることもある。このため、どうしても早く進めようとなり、余裕のない対応になってしまうケースも少なくない。一方で、大企業は数ある事業のうちの一つということがほとんど。熱意やスピード感にズレが生じるのはある意味で当然で、スタートアップの熱意は、しばしば不必要に暑苦しいものになる」と話した。

神谷氏は「大企業は2~3年のジョブローテーションもあり得る。こうした点でも熱量に差が出てしまう」と付け加えた。

「第三者」の設置が、オープンイノベーションをスムーズに進める有効な解決策

これまでの話を受け、3人は解決策を考察した。井上氏は「スタートアップと大企業のズレは、本来であれば契約書を交わしておけば解決できることも多い。それができないのはなぜか」と疑問を投げかけた。船木氏は「新規事業の性質上、事前の取り決めには限界がある。市場環境が変わることも想定され、契約が意味をなさないことも多い」と答えた。

その上で、船木氏はズレが生じた際の解決策として「第三者」の設置を提案した。「大企業とスタートアップ、それぞれに背景がある。どちらが良い悪いということはないと思う。だからこそ、個別案件に対し『第三者』を設置することが有効なのではないか。ズレが生じた際に、第三者が間に入り客観的な妥結点を提示すれば、不必要な齟齬や遅延が避けられるはず」と説いた。

神谷氏も同意し「CVCに所属していた時に担っていたカタリストは、まさに第三者として妥結点を探る役割だった。客観的な第三者の意見は、大企業にもスタートアップに受け入れられやすく、とても喜ばれた」と自身の経験を伝えた。

井上氏は「考えてみたら、大きなお金が動く時は、基本的には第三者の立場の仲介役がいる。例えば、不動産売買やM&Aが挙げられる。一方で、オープンイノベーションは場合によっては数千万円の資金が動くのに、仲介役がいない。ちょっと不思議な感じがする」と疑問を呈した。

さらに「オープンイノベーションはもはや決して新しいものではない。20年も前に提唱され、日本国内でも活発に行われるようになってきた。しかし、依然として、ここで話したような、ある意味で初歩的な課題が多く残るのも事実。包括的な解決策は提示しづらいが、第三者の存在は有効な施策の一つだと考えられる。オープンイノベーションを進める過程で、先行きが怪しくなるなどしたら、ぜひ第三者の存在を思い出し、力を借りるなどしてほしい」と伝え、セッションを締めくくった。

取材後記

井上氏が指摘していたようにオープンイノベーションは決して新しい概念ではない。近年では”スタートアップ×大企業”のオープンイノベーションの取り組みも多く見られるようになった。一方で、これも指摘されていたことだが、スタートアップと大企業のズレという初歩的な課題が未解決のまま残っている。これについて、船木氏は構造上、ある意味で避けられないとし、解決策として「第三者」の必要性を説いた。第三者が有効なのは、神谷氏が実際に役割を担っていたカタリストで証明済みとも言えるだろう。

オープンイノベーションはもともと、取り組みにオープンさが求められるはずだ。課題解決に当たっても、変に殻に閉じこもることなく、オープンに第三者の力を借りるのが、趣旨に合っているのではないか。オープンイノベーションが、新規事業や新しい価値を生み出すのに有効な手段なのは間違いない。ぜひ第三者の力も活用してほしいと思う。

(編集:眞田幸剛、取材・文:中谷藤士、撮影:加藤武俊)

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