【JOIF2023セッションレポート】 この30年で私たちが失ったのは「勇気」だ――DMMグループ創業者・亀山氏が語る、今日本の企業に必要なものとは?
9月29日〜30日の2日間にわたり、オープンイノベーションカンファレンス「Japan Open Innovation Fes 2023」(以下、JOIF2023/主催:株式会社eiicon)が東京・渋谷にて開催された。約4年ぶりにリアル会場で実施された同カンファレンスは、多数のオープンイノベーション担当者や新規事業担当者が集結。多くの交流が生まれた。
本記事ではJOIF2023より、「亀山流、今日本の企業に必要なものとは? ~オープンイノベーションと事業創出~」と題したセッションの様子を紹介する。登壇者は、“亀っち”の愛称でも知られ、数々の新規事業を展開する合同会社DMM.com 会長 兼 最高経営責任者(CEO) 亀山敬司氏と株式会社eiicon の創業社長である中村亜由子氏。モデレーターは、同じくeiiconの執行役員 村田宗一郎氏が務めた。
<登壇者・モデレータープロフィール>
■合同会社DMM.com 会長 兼 最高経営責任者(CEO)亀山敬司 氏
19歳の時にアクセサリー販売の露天商をスタートし起業家の道へ。その後、レンタルビデオ店を開業し、順調に事業を成長させる。1999年に株式会社デジタルメディアマートを設立(現:DMM.com)。現在はDMMグループ会長として、動画配信、アニメ制作、オンラインゲーム、英会話、FX、株式取引、太陽光発電、EV充電サービス、3Dプリンタ、消防車・救急車の製造、ベルギーでのサッカーチーム運営など、多種多様な分野で60以上の事業を展開している。
■株式会社eiicon 代表取締役社長/Founder 中村亜由子 氏
2015年、パーソルキャリア在籍時に「eiicon」事業を単独で起案創業。パーソルグループ内新規事業として、2017年2月にリリースを果たす。2023年4月にMBOし、現在はeiiconの代表取締役社長として、27,000社を超える全国各地の法人が登録する日本最大級の企業検索・マッチングプラットフォーム「AUBA」、会員2万人を超える事業活性化メディア「TOMORUBA」等を運営。年間60本以上のイベントにおいて講演・コメンテーターなども務め、多くのアクセラレータープログラムのメンター・審査員としても幅広く活動している。
■株式会社eiicon 執行役員 Enterprise事業本部・公共セクター事業本部管掌 村田宗一郎 氏
2020年eiiconに参画。Enterprise事業本部・公共セクター事業本部を管掌し、主に法人企業・自治体へのオープンイノベーション支援に従事。eiiconのオープンイノベーションプログラム総責任者。各種プログラムでのセミナー・講師・メンターやイベントでの講演など実績多数。
戦後の日本は「ほとんどが起業家だった」――これまでの日本のイノベーション
本セッション最初の設問は「これまでの日本のイノベーション」についてだ。「失われた30年」を迎える前の日本では、高度経済成長期に代表されるような経済成長が急速に進展した時期もあった。戦後日本において、経済を伸長させることができた要因を問われた亀山氏は、日本の戦後と今の中国の類似点を挙げながら、次のように答える。
「日本は戦争で、中国は文化大革命だが、この時期の直後は基本的に何もなく、上もいないので、ほとんどが起業家だった。DMMグループが今、勢いがあるのは、どの業種も創業者がトップに立っているから。日本だと創業者がトップに立っているのは、IT業界ぐらいで、ほかは2代目、3代目の社長が多い。そうすると、どうしても民主主義的な経営になって決裁が遅くなる。スピードが出ない」と話す。亀山氏のところに商談にくる中国のビジネスパーソンからも、「1週間ですむ話が1年かかることもあり、一向に進まない」と、日本企業の遅さに対する不満の声が挙がっているという。
加えて、亀山氏は新規事業に資金が回りにくい構造上の問題も指摘する。「(自社株の保有数が少ない上場企業だと)株主の顔色を見ないといけないので、単年度の決算をよくしなければならない。結果的に、長期的な投資ができない」と話す。一方で新規事業を起こす場合、「数年は赤字覚悟でやらないと、おそらく何もできない。初期の頃はマイナス覚悟で進めるしかないので、その予算をどう確保できるか」が重要だと語った。
続いて、亀山氏の新規事業への向き合い方へと話題が移る。露天商からスタートし、IT業界のビッグネームと呼ばれるまで事業を発展させてきた亀山氏に、モデレーターの村田氏は「何を意識して、新規事業を起こしてきたのか」という問いを投げた。それに対して亀山氏は、「どうやったら食べていけるか」が基本的な思考だったと振り返る。亀山氏が初期に手がけた事業はレンタルビデオ店だが、インターネットの台頭でレンタルビデオ店は潰れるかもしれないという予測は、早い段階からあったという。
そこで、レンタルビデオ事業の収益性が保持されている間に、同事業を脅かす存在になるであろうインターネット事業へと投資を行った。IT業界に進出したことで、結果として雇用も守ることができたと振り返る。新規事業を大量に生み出し、事業の多角化を進めてきた同社だが、亀山氏曰く「儲けるというより、儲ける仕組みをつくり続けてきた」のだという。
また、レンタルビデオ事業から異業種であるIT事業への転じ方については、プログラミングに長けた人材を自社に招き入れて、レンタルビデオ店の従業員らにIT教育を施したそうだ。亀山氏自身はプログラミングが得意というわけではないが、だからといって諦めるのではなく、外部からスキルのある人材を獲得することで、異業種へと参入していった経緯を共有した。
亀山氏は「半年から1年ぐらい実践を積めば、異業種でも大抵のことはやれる。基本的なBS(貸借対照表)もPL(損益計算書)もほとんど同じ。売るものが変わるだけで、ビジネスの基本は大きくは変わらない」と話す。こうした考えをふまえ、新たに取り組む業種には「あまりこだわらなくてもいいのではないか」との見解を示した。
▲写真左から、DMM・亀山氏、eiicon・中村氏、eiicon・村田氏
20代・30代への権限移譲と適切なアドバイス――日本の未来のために今、必要なもの
2つ目のトピックスは「日本の未来に必要なものとは」である。この問いに対して、中村氏はオープンイノベーションを挙げ、その理由として「自社だけで考えるよりも、得意な企業同士コラボするほうが、事業推進のスピードが圧倒的にあがり、規模の大きな事業も出てくる」と強調。さらに、つけ加える形で次のように語った。
「最近、人材業界で言われているような、ダイバーシティ・インクルージョン(多様性の受容)が、ビジネスの場でも必要なのではと思っている。世界のサービスの作り方を見ても、少量多品種で様々なニーズに応えられるようにテクノロジーも発展している。一方で日本は、大量生産で同じものを作る形で発展してきた背景があり、少量多品種にスイッチしきれていないのではないかと感じるシーンが多くある。
ニーズは非常に速いスピードで変わっていくので、リーンに早くサービスを市場に出し、1個1個のロットが小さかったとしても、複数出すことで事業規模を大きくしていく。そんな考え方が必要だと思う。1000億円規模のホームラン級の事業を作ることを否定するつもりはないが、100億円規模の事業が10個だと駄目なのか。そちらのほうが早いのではないか」と、新規事業の創出方法に関する自身の考えを共有した。
中村氏の話に絡めながら亀山氏は、DMMグループを「スタートアップの寄せ集め」だと表現する。各事業の責任者が権限を持って動く体制を敷いているそうだ。一方で、法務や財務などはグループで共通化している。共通化する理由は、スタートアップはアイデアやスピードには長けているものの、安定的な運営を苦手とするケースが多いからだという。
さらに亀山氏は、軌道に乗った事業を毎年5%や10%高めていくような10→100の事業運営は、大企業のほうが長けており、今の日本において、9割以上の人たちは10→100に携わっているとも話す。これが今の日本の現状だが、一方で亀山氏は、新規企画の0→1や、軌道に載せるまでの1→10への投資が「今まで以上に待ったなし」だと言い切る。その理由を、グループで4000名以上の従業員を雇用する経営者としての目線から次のように語った。
「10→100は、今後AIで効率化されやすい場所。なので、この部分の人員が20~30%程、AIにとって代わられる可能性がある。そうなったときにどうなるかというと、20%人員を減らすか、20%売上を上げるかどちらかしかない。となると、今の雇用を守るためには、0→10の仕事を、もう2~3割増やさないといけない。そうしないと、全体の雇用が支えきれなくなる。したがって、これから今まで以上に、危機感を持って0→10への投資を行っていかないといけない。それができないと、会社は生き残るかもしれないけれど、社員は生き残れないかもしれない」。
DMMグループでは、亀山氏主導のもと15年程前から『亀チョク』という外部から新規事業案を募る仕組みを導入している。この背景を問われた亀山氏は、「会社の中で、新規事業が生まれにくかったからだ」と話す。「新卒の頃から決まったルールや慣習の中で育ってきた社内の若者たちは、イノベーションを起こして”どうビジネスで儲けるか”という方向に向きにくかった」という。しかしそんな状況も、社外の起業家が加わることで、社内のメンバーが刺激を受け、社内から続々と事業アイデアが出てくるようになったという。
直近では、動画配信プラットフォームのDMM TVや、EV充電サービス、オンラインクリニック、オンラインクレーンゲームなどの新規事業が生まれているが、いずれも社内の現場から事業案が提案され、亀山氏が承認をしたものだという。社内の起業家が育ってきた理由として、亀山氏はこうも話す。「『うちの中で新しいことをやれますよ』という点を前面に出すと、そういう人たちが集まってくる。実際に入った人が『本当にやれる』と実感したら、知り合いを呼んでくることもある」とし、そうしたブランディングによって、社内の雰囲気が変わってきたことにも言及した。
話題は、若手起業家への権限移譲にも広がる。亀山氏は若手に権限移譲する理由として、「昔は『俺についてこい』『次のトレンドはこれだ』と引っ張っていたが、50代になるとトレンドがわからなくなる。FacebookやTwitter(現・X)ぐらいまでは自分でやれたが、Instagramはもうやりたくなかった」という。「感覚的についていけない。ソシャゲもFXもやったことがない。わからないなかでやるのは無理なので、この人ならやれそうだ、このアイデアなら将来性がありそうだというものに対し、投資家的な考え方になるしかなかった」と振り返った。
20代・30代の若手が出す事業アイデアのほうが、これから成功する確率が高いと考えたことから、DMMグループでは若手を中心に据え、会社としては起業家らの弱い財務や法務面などをフォローする制度に切り替えていったそうだ。他社であっても挑戦する若手は、新しい事業で功績をあげれば、子会社などの社長になれる可能性がある。失敗したとしても、日本企業だと解雇も減給になることもおそらくない。出世コースからは外れるリスクはあるが、外れたら別の会社に転職することもできる。亀山氏は「リスクの割には、当たれば美味しいのではないか」と社内起業を促した。
中村氏も、「新規事業は1年で結果が出るものではない。上長や執行役員を説得して3年から5年の期間をもらい、成功するまでやることが必要。事業として生まれ、当初の赤字から黒字化して、Jカーブを描いてのぼっていくまでに7年から8年はかかることが多い。事業が生まれるまで3年、黒字転換するまで5年程の期間を確保できるような予算や、出島のような体制を獲得できたら成功させられる可能性も高い」とつけ加えた。
この30年で失われたのは勇気、それぞれが身勝手に前進すればいい――日本の未来をプラスに転換させるヒント
最後のトピックスは「日本の未来をプラスに転換させるトレンドや事例について」だ。中村氏は、変化の激しいVUCAの時代である現在において、「わからないところや、法改正など何かが変化をしてゲームチェンジが起きそうなところに、ビジネスの勝機がある」と話す。たとえば、生成AIなどは研究者の間でも「こうなっていくだろう」という予測はあるものの、「どう生活に根づいていくのか、どこまで変化させるのか」に関しては、不明確な点が多い。「わかりきっていないところに、大きなチャンスがある」と述べ、大学生などの未来を担う人たちが、「これらをどう捉えているのかを聞きつつ、キャッチアップしていくことも大切だ」とつけ加えた。
ビジネストレンドの掴み方について亀山氏は、テレビ番組やニュースメディアを追っておくだけで十分だと話す。昨今だと、ロボットやAIがよく取り上げられている。ただ、口にするだけで、実行する人は多くはない。過去にも「インターネットの時代が来ると言われたが、やる人とやらない人がいた」とし、実行力の重要性を強調した。亀山氏自身も以前、テレビ番組で某航空会社が経営不振に陥っていることを知り、投資したいと考えて、航空チケット予約受付の窓口から電話をかけてアプローチしたという。残念ながら断られたが、そうした「空気を読まない行動力や、恥を恥と思わないことも大事だ」と語った。
また、太陽光発電事業を例に挙げながら、気になるトレンドがあれば、まずはひとつ作ってみるとよいとアドバイス。実際にひとつ作って販売してみることで、工事費や販売可能価格などが把握できる。資金を投じて市場調査を行うこともできるが、コンサルに「市場規模は何兆円で、そのうちの何%を獲得できる」と言われても、全然あてにならない。でも実際やってみたら、売れるものは売れるし、売れないものは売れない。自分たちでやってみることで業界を理解できると話した。
亀山氏はこうも言う。「失われた30年と言われているけれど、失われたのは金や経済以上に勇気なのではないかと思う。そんななかで育ってきたから、未来がよくなるイメージを持てない若者が多い」とし、最後に次のように語った。
「日本経済の全体が悪かろうが、それを言い訳にしてはいけない。資本主義というものはそもそも自分さえよければいいという考えを原動力にして成長してきた。今の中国人が中国国家の経済力をあげようとしているかというと、そんなことはない。自分の会社がよくなればよいと考えている。そういった各社の成長が重なって、中国の高い経済成長率につながっている。国は単なる集団でしかない。国という括り方で見ているから、勇気が失われているのではないか」としたうえで、「みんなが身勝手に勇気をもって色々と前向きにやって、それが束になって日本全体が5%、10%と成長するのであれば、結果としてそれはよいのではないか」と呼びかけ、セッションを締めくくった。
取材後記
新規事業を矢継ぎ早に生み出し、右肩上がりの成長を続けるDMMグループ。その創業者であり会長でもある亀山氏の語る言葉だからこそ、ひとつひとつの発言に説得力があると感じた。なお、亀山氏は六本木のバー『awabar(アワバー)』で起業家の相談に乗っているそうだ。イントレプレナー・アントレプレナー問わず、何らかの事業を起こそうと考えている人は、話を聞きに行ってみてはどうだろう。
(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子、撮影:加藤武俊)