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新価値を世界へ――成田空港が初のオープンイノベーションプログラムを開始!

新価値を世界へ――成田空港が初のオープンイノベーションプログラムを開始!

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日本の表玄関として、世界との架け橋を担う成田空港。コロナ禍により人々の往来が妨げられる未曾有の事態を経て、航空需要は順調な回復を続けている。今後、世の中の変化がさらに大きく速くなる中で、運営会社である成田国際空港株式会社は、長期的な視点から新しい成田空港に生まれ変わるための種まきを行っている。その一環として、初のオープンイノベーションプログラム『Narita Airport OPEN INNOVATION PROGRAM 2023』を実施することとなった。

募集テーマは、以下の4つとなる。

①従業員の生産性向上

②旅客への新たな価値提供

③空港外に保有するフィールドの利活用

④サステナブルな空港の実現

そこで今回TOMORUBAでは、取締役 経営企画部門長 宮本秀晴氏に、今回のプログラムの実施背景や各募集テーマの詳細、活用できるリソースについて話を伺った。また、プログラムの事務局である経営企画部門 経営計画部 経営企画グループの鹿沼氏、太田氏、嶋内氏にも、応募企業へのメッセージをいただいた。

空港機能強化など、大規模プロジェクトが進行中

――まずは、貴社の事業内容について教えてください。

宮本氏 : 私たち成田国際空港株式会社は社名の通り、成田国際空港の管理運営を担う企業です。滑走路や航空保安施設、旅客ターミナル、貨物施設、給油施設といった空港施設の整備と、旅客案内、警備、清掃、店舗運営といった空港に関わる様々なサービス提供を手掛け、成田空港を一体的に運営しています。

ご存知の通り、空港は私たち空港会社だけではなく、官公庁、航空会社、店舗運営事業者など様々な組織が役割を果たすことで成り立っています。日本の表玄関である成田空港を効率的に運営することで、日本の国際競争力の向上に寄与することが、私たちの使命です。

▲成田国際空港株式会社 取締役 経営企画部門長 宮本秀晴 氏

――事業において、どのようなビジョンを掲げていらっしゃいますか。

宮本氏 : 航空需要はコロナ禍から回復しつつあり、国際航空運送は2040年に向けてさらなる増加が見込まれます。また、アジア経済圏の人口や経済の変化、デジタル化の進展、サステナビリティ気運の高まり、自然災害の激甚化、国際情勢の不安定化など、環境変化により空港経営のあり方を大きく見直す必要が生じています。

そこで現在進行中の大規模プロジェクトが、『更なる機能強化』プロジェクトです。2028年度までにB滑走路を2,500mから3,500mにし、新たに3,500mのC滑走路を新設します。これにより、年間発着容量が現在の30万回から、50万回に拡大される予定です。そして将来のターミナル構想についても検討を進めています。

▲上図のようにB滑走路を延伸し、C滑走路を新設する計画だ。(画像出典:成田国際空港HP

新しい成田空港に向けて、様々な観点でのアイデアが必要

――今回のオープンイノベーションプログラムの取り組みについて、その背景や目的を教えてください。

宮本氏 : 当社は中期経営計画に基づき、『更なる機能強化』プロジェクトをはじめ、現在コロナ禍からの需要回復やコスト構造、業務の進め方などの社内改革を行いつつ、長期的な視点から新しい成田空港に生まれ変わるための取り組みを進めています。

また、空港は世界経済にとって重要な人とモノをつなぐ役割を担うことから、我が国を支える重要インフラとして、世界の航空ネットワークの中で成田空港のプレゼンスを上げていく必要があります。一方で、テロや犯罪の現場になる可能性、あるいは感染症蔓延を水際で防ぐための最後の砦にもなる場所です。だからこそ、様々な観点で新しいテクノロジーやアイデアが必要だと感じています。

しかしながら、自社リソースだけでそれを実現するのは困難です。日本には新しい技術、そして高い品質などポテンシャルを秘めた企業がたくさんあるため、ぜひ積極的に取り入れていきたいと考え、『Narita Airport OPEN INNOVATION PROGRAM 2023』を実施することになりました。

日本国内において、これだけ大規模な空港の拡張計画は、しばらくないはずです。今回、成田空港を舞台に新しい空の旅のスタイルを創り出せたらと考えています。

――イノベーションが特に求められる領域があれば教えてください。

宮本氏 : 空港は、意外なことにデジタル化があまり進んでいません。先ほどお話しした通り、空港には様々な機関や事業者が複合的に連携しているため、私たちだけが新たなことに取り組んでも、次のステップで必ずボトルネックが生じるのです。国際空港として、そこに危機感を抱いています。

航空産業はこれからさらに伸びていくことが想定されますが、その時に空港のようなインフラがボトルネックになってしまうと、取り残されてしまいます。そのため、先を読んだ新しいテクノロジーやアイデアをどんどん取り入れて、それを日本から世界に発信していけるような空港を目指したいですね。

生産性向上、旅客への価値提供、空港外遊休地、サステナブル―4つのテーマで募集

――今回のプログラムでは、「①従業員の生産性向上」「②旅客への新たな価値提供」「③空港外に保有するフィールドの利活用」「④サステナブルな空港の実現」という4つのテーマが設定されています。各テーマについて、その設定理由をお聞かせください。

宮本氏 : まず「従業員の生産性向上」からお話しします。空港には様々な機能がありますが、これまではそれぞれのエリアを担う機関が、自分たちの持ち場を担っていれば十分でした。

しかし今後、お客様は増えていきますし、さらにはお客様の多様化も進んでいきます。初めて海外旅行をする方、初めて飛行機に搭乗される方も増えてくるでしょう。そうなると、空港オペレーションもうまくコーディネートして、サービスレベルや空港での顧客体験を向上させていかねばなりません。ですが、ご存知の通り、これから日本はさらに深刻な労働力不足に陥ります。

その中で空港の現場業務は“職人芸”的、労働集約的な部分が色濃く残っており、人口減少の影響を特に強く受けてしまう業界です。AIやロボティクス技術を活用した省人・自動化も目指していますが、特殊な業務であるため、技術をどのように取り入れていくのか、柔軟な発想が必要です。また、お客様のニーズが多様化するということは、従業員の対応にも多様化が必要ということです。人材リソースはそういったところに向けて効率的に活用していきたいと考えています。

――次のテーマ、「旅客への新たな価値提供」はいかがでしょうか?

宮本氏 : 先ほどのテーマともリンクしますが、スムーズな手続きを重視する旅慣れた方から、様々な文化的背景を持つインバウンド観光客、そして特別なケアが必要な方など、旅客の特性やニーズは多様化しています。そこに対応していくには、新たなテクノロジーでサービスレベルをアップデートし続ける必要があります。

ある航空会社の調査によると、空港は旅程の中でもストレスを感じやすい場所だそうです。確かに、セキュリティチェックをして、場所や時間を気にして動かねばならないなど、プレッシャーを感じる場であることは否定できません。ただ、そのストレスをできるだけ軽減して、良い体験を提供できる場に転じていけると、旅行の体験価値を高められるはずです。「また訪れたい」と思ってもらえるよう、スムーズかつストレスフリーであることはもちろん、驚きやワクワクを感じてもらえる空間作りのアイデアを求めています。

続いて、「空港外に保有するフィールドの利活用」ですが、成田空港は共に栄えるパートナーとして、周辺地域を非常に重要なステークホルダーと認識しています。地域が栄えることは、私たちにとっても重要なことです。

例えば、地域が目的地化することによって成田空港の航空需要につながります。そして居住環境の充実につながれば、労働力の安定雇用にもつながるでしょう。コロナ禍以前には、地域の観光資源を活かしたトランジットツアーの提供などを行なっていました。

最近では、C滑走路の伐採木を活かしたオリジナルクラフトジンの開発、食の魅力を活かした地域産品ブランド「+NRT factory」の立ち上げといった取り組みも実施しています。ここでは、ブランディングに長けた発信力のある企業の応募を期待しています。

また、当社は航空機騒音対策の一環で行う移転補償により取得した土地を、空港周辺に数多く所有しています。しかしながら、元々は個人の宅地や田畑であったため、それほど広くない土地が点在している状況で、うまく活用できていません。そこで、柔軟なアイデアを持つ企業の応募を期待しています。

▲伐採木を活用したオリジナルクラフトジン「NARITA AIRPORT ETHICAL GIN Cloud9」(画像出典:成田国際空港ニュースリリース

――最後のテーマ、「サステナブルな空港の実現」についてお聞かせください。

宮本氏 : 世界のCO2排出量のうち、約2%は国際航空からの排出が占めています。そして空港におけるCO2排出のうち、航空機を除く地上からの排出は約3割を占めていることからも、私たちが主導して削減する責任があります。再生可能エネルギー活用という面では、2023年4月から東京ガスとの合弁会社「Green Energy Frontier」を立ち上げ、新たなエネルギープラントの建設や空港では世界最大規模となる太陽光発電設備の導入などに取り組んでいく予定です。

特に力を入れていきたいのが、空港内車両の脱炭素化です。ただ、特殊な車両が多いため、EVや水素など脱炭素化に対応した車両は非常に少ないことが課題です。また、当社が所有している車両ではないため、アプローチも容易ではありません。そこで、例えば既存車両をEV化する技術や、既存車両に追加で取り付けるソリューションに強い関心を持っています。

さらには、空港には大量のゴミが排出されます。成田空港では古くから「エコ・エアポート」に取り組んでいますが、SDGsへの関心の高まりから、新たなソリューション開発もより進んでいると考えられます。当社の最近の例では、貨物地区から排出される梱包フィルムをゴミ袋に再生したり、貨物を載せるパレットの木くずを貨物梱包資材に再生して空港内で再利用する取り組みを独自で行なっています。一方で例えば、機内食の食べ残しは感染症対策のため焼却処理するので、堆肥等への再利用ができていません。サーキュラーエコノミーにおいても、空港は非常に大きなフィールドですから、新たなアイデアをぜひご提案いただければと思います。

また、これは4つのテーマを横断する課題になりますが、日本は災害大国です。大規模災害の際、空港は孤立状態になる危険性があります。不測の事態にどう備えるか、もしアイデアがあればお寄せいただきたいですね。

日本の国際競争力向上につながる取り組みを

――今回のプログラムにおいて、どのようなアセットやリソースを活用できますか。

宮本氏 : コロナ禍前には1日10万人もの旅客がターミナルを行き交っていた、まさに交通の要衝である成田空港のフィールドを活用することが可能です。世界中から様々な目的でいらっしゃる様々な方に向けて、「日本の空港ではこんなに新しいものを取り入れているんだ」とアピールすることができるでしょう。

また、経済的なサポートについては、当社の現在の経営環境は決して楽な状況ではありませんが、長期的な投資として実証費用を負担する用意もしております。特に、「従業員の生産性向上」「サステナビリティ」における課題は、国も重要な課題と捉えており、補助金制度が設けられています。当社との共創により、そうした制度活用というオプションを提供できる場合もあると考えています。

――最後に、宮本様、そして今回のプログラム事務局の鹿沼様、嶋内様、太田様から、応募企業に向けてメッセージをお願いいたします。

鹿沼氏 : 空港は様々な機関や企業との協業によって成り立っています。そのため空港は本来協業が得意なはずですし、その歴史もあります。しかし、クリエイティブ領域や業務改善の分野になると、自前で行いがちです。今回のプログラムで掲げている4つのテーマは、一つひとつが重要なものですから、実証実験で終わらせず、事業化、そして価値創造につなげることを目指しています。

1日10万人、あらゆる国の人が行き交う場所は日本で他にありません。成田空港というフィールドを活用することで、事業をスケールする機会になるはずです。ぜひご応募ください。

▲成田国際空港株式会社  経営企画部門 経営計画部 経営企画グループ マネージャー 鹿沼健太郎 氏

太田氏 : 空港は地域独占という事業体ではあるものの、空港同士の国際競争は激しいものがあります。その中でも当社は、日本の表玄関として世界トップレベルであらねばならないと考えています。今、まさにその使命に長期的に向き合うべきフェーズにいます。

社員一人ひとり、強い使命をもって取り組んでいる当社と共に、ぜひ日本の良い未来を創っていきましょう。一緒に強い想いを持てる企業と、共創していきたいですね。

▲成田国際空港株式会社 経営企画部門 経営計画部 経営企画グループ アシスタントマネージャー 太田文二 氏

嶋内氏 : 空港はお客様との日本における最初のタッチポイントであり、最後のタッチポイントです。だからこそ、いい体験をしていただきたいと考え、私たちは日々仕事をしています。しかし、個社の力では限界があります。だからこそオープンイノベーションを通じて、新しいもの、お客様にプラスになるものを生み出したいです。

もうひとつ、地域に対する想いもあります。地域あっての成田空港ですから、これからはうまく連携して価値を生み出し、「空港があって良かった」と地域の方に思っていただける存在でありたいです。その観点でも、新しい事業を生み出していけたらと思います。ぜひご一緒しましょう。

▲成田国際空港株式会社 経営企画部門 経営計画部 経営企画グループ 主任 嶋内貴士 氏

宮本氏 : 空港の使命のひとつに、日本の国際的な地位の向上があります。海外からも、日本の品質の良さ、サービスの良さには大きな期待をされています。それを、単に「良い」というだけではなく、もう一段上の体験に引き上げたいのです。さらに、今回のプログラムが、パートナー企業の皆さんの価値を最大化できる機会になればいいと考えています。ぜひ、成田空港というフィールドを最大限に活用してください。

取材後記

取材で成田空港を訪れ、その活気に驚いた。コロナ禍が嘘だったかのように、ターミナルには多くの人が行き交い、様々な言語が飛び交う。今後、さらにインバウンド旅客の増加も見込まれ、大規模拡張プロジェクトも進む中、大きなチャンスがあると感じた。インタビューでも語られたように、成田空港は様々な機関や事業者が入り組んでおり、業務も特殊であるため課題の解決は一筋縄ではいかないかもしれない。しかし、これほどのフィールドが他にないことも確かだ。世界に向けた発信ができる成田空港で、共創を実現したい方は、ぜひ応募を検討して欲しい。

※『Narita Airport OPEN INNOVATION PROGRAM 2023』の詳細はこちらをご覧ください。

(編集:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:加藤武俊)

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