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【J-NEXUS事業進捗】79機関が参画し”オール関西”の力が結集――関西イノベーションイニシアティブが実践する地域創生とは?

【J-NEXUS事業進捗】79機関が参画し”オール関西”の力が結集――関西イノベーションイニシアティブが実践する地域創生とは?

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北海道、北陸、関西など、広域地域ブロックにおいて、複数の大学と企業のネットワークの創設や産学連携推進を支援する「モデル拠点」を創出する、経済産業省のプログラム「産学融合拠点創出事業」(J-NEXUS)。――TOMORUBAでは、J-NEXUSでどのような施策が行われ、成果が生まれてきているのかをシリーズ企画として取り上げている。北海道、北陸に次いで、最後に登場していただくのは、「関西イノベーションイニシアティブ」(KSII)だ。

関西地域を舞台に2020年から活動をスタートさせたKSIIは、大学・国研、法人、自治体など79機関が参画(2023年2月時点)。産官学がプロジェクトに協力する体制が構築されており、”オール関⻄”の力が結集した組織になっている。

総括エリアコーディネーター・村尾和俊氏と副総括エリアコーディネーター・北川雅俊氏、エリアコーディネーターである草間徹氏、金山秀行氏、廣⾕⼤地氏、塚本朗 氏の6名に、KSIIの具体的な活動内容や成果、今後の展望などを伺った。

関西の力を結集させ、スタートアップ・エコシステムの形成を目指す

――まずは総括エリアコーディネーターである村尾さんに、KSIIの概要や活動目的についてお教えいただければと思います。

村尾氏 : KSIIは2020年9⽉に「経済産業省産学融合拠点創出事業産学融合先導モデル拠点創出プログラム(JーNEXUS)」に採択され、活動をスタートしました。関⻄の⼤学・経済団体・⾦融機関・⾃治体などの産官学⾦がプロジェクトに参画し、オール関⻄の力を結集しています。

関西は、京都大学・大阪大学をはじめ個性豊かな国公立大学や私立大学等が数多くあるアカデミックな地域です。一方、産業に目を向けると、医薬品・化学、家電をはじめとする分野で多くの有力メーカーを生み出しているだけでなく、技術力のある多くの中堅中小企業がひしめく、ものづくりに特に強みを持つ裾野の広い地域と言えます。

KSIIの取り組むスタートアップ・エコシステムの形成とは、まさに大学の研究開発力と関西のものづくりの力とをうまく融合させることであり、これにより関西におけるオープンイノベーションの機運を一層醸成していくことを目指していきたいと考えています。

その中でも特に社会・環境・経済の持続可能性、いわゆる「サステナビリティ」や「SDGs」という観点から、社会課題の解決により利益を生み出し、持続性を持ち成長する「ゼブラ企業」(※)の創出を目指し、取り組んでいます。

※ゼブラ企業とは、社会・企業の持続性や他社との共存を重視するスタートアップのこと


▲関西イノベーションイニシアティブ 総括エリアコーディネーター 村尾和俊 氏

――副総括エリアコーディネーターである北川さんは大手電機メーカー出身であり、大阪大学の特任教授のご経験もお持ちです。北川さんはKSIIにどのような思いをお持ちでしょうか。

北川氏 : 大学のシーズを社会に出して実用化する取り組みは、以前から行われていました。しかし、企業側と大学側、それぞれで思いが異なり、うまくいった例はごく限られています。結果としてイノベーションが起きないという経験を10年以上してきました。

私は、お互いに相反する状況を変化させるために、大学発のスタートアップを設立させ、企業側は資金を投入しながら事業活動は基本的にスタートアップ側に一任する。そうしたエコシステムを作るべきだと考えており、JーNEXUSは私の思いと合致しました。エコシステムを形成することで、大学は基礎研究に力を入れることができ、企業はイノベーションや新しいビジネスを創造することができる。双方にとって大きなメリットがあると期待しています。


▲関西イノベーションイニシアティブ 副総括エリアコーディネーター 北川雅俊 氏

――金山さんもメーカーでの勤務経験をお持ちです。J-NEXUSをどのように捉えているのでしょうか。

金山氏 :  企業での経験を振り返ると、企業側はどうしても短期での結果を求めがちです。このため、たとえばディープテック系スタートアップとのマッチングは難しいのが現状となっています。私は企業側の都合も理解できますので、ある意味で研究シーズの翻訳者としての役割を担い、研究シーズの社会実装を実現したいと考えています。


▲関西イノベーションイニシアティブ エリアコーディネーター 金山秀行 氏

活発な出会いの場の創出で、数多くのマッチングが実現している

――KSIIの具体的な活動内容や成果、あるいは課題について教えてください。

村尾氏 : KSII事業は、補助期間も後半に入りまして様々な基盤が整備されつつあり、いよいよ本格的に成果を創出していく段階に入ってきていると考えています。

例えば、加盟機関の拡大及び関係性の強化といったすそ野の拡大の面では、個別の大学訪問をはじめ、大学等に属する参画機関全てに声掛けをしたイベントや、京大・阪大に加え様々な大学のシーズやスタートアップに対してイベントやプログラムへの参加を促す等、関西の各大学を広く巻き込んだ取組みを進めてきております。KSIIの中心的な取り組みでもある企業間のマッチングに関しましては、従前までの経済団体を介した活動にとどまらず、今年度は業界団体や個別企業とのマッチングにも取り組んでいます。

また、本事業の持続性の観点においては、産官学金を一堂に交えて将来のイノベーション拠点の姿を検討する会議体を設ける等、補助事業終了後を見据えた方向性の件検討や体制づくりも進めています。

まだまだ道半ばではあるものの、KSIIの目指すスタートアップ・エコシステムの形成に向けて着実に歩みを進めており、関西において、KSIIの知名度、及びその取り組みに対する期待度は高まっていると実感しています。

――ぜひ今年度の取り組みの具体的な成果をご紹介ください。

廣谷氏 : 大学ネットワークを形成するという点では、東京都内で2日間の日程で行われた「第2回Challenge万博」が挙げられます。


▲2022年11月24〜25日に東京・丸の内で開催された「第2回 Challenge万博『いのち輝く未来社会』へ」。

⾸都圏をはじめとした全国の企業関係者たちへ関⻄の⼤学発スタートアップ・シーズの魅⼒を発信することを狙いに、関西26の全参画機関に参加を呼びかけ、22の⼤学が本イベントに参加しました。各大学はピッチやブースでの展示などを通じ、活発な情報発信を行いました。


▲関西イノベーションイニシアティブ エリアコーディネーター 廣⾕⼤地 氏

――例えば、どのような技術シーズなどが紹介されたのでしょうか。

廣谷氏 : 地域の情景を想起させる、和歌山大学のVRがあります。新聞などメディアにも取り上げられるなど、非常に注目されましたね。

北川氏 : 東京都内で展示会を開催したことで、さまざまなレイヤーの方との出会いがあったのが印象に残っています。関西の会場ではあまり見ないレイヤーの方々も参加しており、結果として、これまでにないマッチングも果たせました。阪大や京大はもともと全国区でしたが、地域密着型の大学が注目されたのも大きな成果の一つだと感じています。

草間氏 : 他にも、大阪府内で行われた一般社団法人⽇本電気計測器⼯業会が主催する「計測展」への協賛・出展が、今年度のKSIIの成果として挙げられます。エコシステムの形成に向け複数の取り組みを進めていますが、スタートアップが社会実装していくためには、大企業等との結びつきが不可欠と考えていますが、なかなか実のある結びつきができていないのが現状です。


▲2022年10月26日〜28日にグランキューブ大阪で開催された「計測展2022」。

その状況を打ち破るために、具体的な個別企業の顔が見える業界団体との結びつきが重要と考えて、今般計測展に参加しましたが、こちらでは幅広い分野の企業の方々との具体的な接点を持つことができ、個別的なマッチングでは得られないような効果が得られました。中には、販売提携が実現したり、通常はなかなか出会えない商社との出会いを果たしたりしています。今回、大きな手応えを得られたので、今後は様々な分野の業界団体とつながっていきたいと考えています。


▲関西イノベーションイニシアティブ エリアコーディネーター 草間徹 氏

財界、産業界、国の機関などとのネットワークが強み

――KSIIの取り組みに参画するメリットや強みをご紹介いただければと思います。

北川氏 : KSIIは財界や産業界、独立行政法人などを幅広く巻き込みながら活動を展開しています。何かに取り組もうとした場合、最適な組み合わせを提供できるのが大きな強みです。

KSIIには、どういう組み合わせがベストかを判断できる、産業界や学問分野で多彩なキャリアを持ったコーディネーターがおり、各大学には上級エリアコーディネーターと呼ばれる産学官連携のプロが在籍しています。このため、スタートアップの困りごとをさまざまな角度から解決できる体制を取ることができるのです。

――コーディネーターの方は、具体的にはどのような動きが取れるでしょうか。

北川氏 : コーディネーターは広く人脈を持っていますので、例えば、経営陣が「○○といった経験を持つ人材が必要だ」というニーズにも対応が可能です。新規事業の担当者やCFO、あるいはファンドを紹介してほしいという要求にもお応えできます。また、実証実験の場作りや、新プロダクトやサービスの宣伝・PRにも対応できます。

こうしたことは、財界や産業界、独立行政法などとのネットワークが構築されているからこそ、できることです。もちろん、改良の余地はありますので、スタートアップにとってますます利便性の高い体制を構築する考えです。

草間氏 : このほか、2025年に開催される日本国際博覧会(大阪・関西万博)でパビリオンに出展する大手企業などにスタートアップの紹介も積極的に行っています。

金山氏 : 現在、KSIIには大学・国研、法人、自治体など79機関が参画しています。さまざまな分野の方たちが参加していますので、2府4県の広い範囲に多岐にわたりネットワークが構築されています。関西全域でのオープンイノベーションが可能となっています。

廣谷氏 : 特に26大学が参画しているのは、大きな強みです。企業のニーズに合った大学、大学発のスタートアップとのマッチングを図ることができます。オンライン上のデータベースなどを活用すれば、ある程度の情報を得ることができると思いますが、コーディネーターは絶えず大学を訪問しており、最新の生きた情報を仕入れています。大学には隠れた情報も少なからずあります。そうした、表層的な情報ではわからないことまでキャッチするよう努めています。気軽に頼っていただければ幸いです。


▲関西を地盤とした数多くの機関がKSIIに参画している。

企業や大学のあり方を変えたい

――最後に、今後の方針や期待、メッセージをいただければと思います。

草間氏 : エコシステムの形成は簡単なことではなく、試行錯誤の連続です。しかし、私たちはエコシステムの形成は世の中に資する取り組みだと確信しています。この取り組みを関西に根付かせるのはもちろんのこと、良い面は他の地域の方々とも共有したいと思っています。

関西の大学はディープテックの研究を積極的に行っていることに加え、モノづくり系の企業が多いこともあり、KSIIでも機械、電気、アグリ系、バイオ系などのディープテックは注力分野の一つとしています。こうした地域の特性を活かしながら、取り組みや成果を全国に発信していければと考えています。

塚本氏 : 日本の産業はかつて、いわゆる大企業が主体となり、今日までの成長を遂げてきました。他方、世界に目を転じると、ある時からスタートアップなどから生み出されるアイデアやサービス、プロダクト、事業が無視できなくなり、産業の中でも大きな地位を占めるようになりました。

日本は現状、スタートアップの創出や育成という点では世界に遅れを取っていると言わざるを得ない現状があります。これから日本もスタートアップを育て、新たな産業の創出を図っていかねばなりません。KSIIはそうした動きの一端を担います。関西地域をはじめ日本全体に対して貢献をしていければと思います。


▲関西イノベーションイニシアティブ エリアコーディネーター 塚本朗 氏

金山氏 : 日本は2022年を「スタートアップ創出元年」と位置付けて、本格的な取り組みを進めています。その中で、関西は2025年に万博も開催されます。取り組みを盛り上げるように尽力していきます。

廣谷氏 : 大学発の技術やスタートアップが社会課題を解決するという世界観を広めていければと思っています。スタートアップが急成長を達成するには、大企業のリソースが必要不可欠です。一つでも多くのマッチングを実現させ、社会課題の解決を図ります。

北川氏 : 私は、究極的には企業や大学のあり方を変えたいと思っています。企業によっては、お金と人材があれば何でもできると考えていることもあるようです。スタートアップでできることは自分たちもできると思っているかもしれませんが、それは勘違いです。スタートアップとの連携をお付き合い程度に思っている企業もあるかもしれませんがそうした意識を根底から変えていきます。

自分たちの会社の研究所に資金を投入するのと同じ感覚で、スタートアップに投資する。それが本当の意味で産学融合です。そうした感覚が身につけば、日本の産業構造は大きく変わるはず。必ず実現させたいと思います。

村尾氏 : 関西では、大阪駅北側の再開発エリアである「うめきた」2期地区の先行まちびらきが、2024年に予定されています。関西経済連合会では、「うめきた」に大企業、ベンチャー企業、大学等が日常的に出会い、新たな価値を生み出していく場の実現を目ざしています。KSIIとしても、こうした動きとしっかりと連携を図り、関西からイノベーションが持続的に生まれるエコシステムを構築したいと考えています。

更には、その翌年2025年には、大阪・関西万博が開催されます。KSIIでは、これまでも万博パビリオン出展企業にアプローチして、スタートアップの技術の展示など、世界への発信に向けた道筋をつける活動も進めています。我々が支援するスタートアップ企業が、万博に数多く参加して「命輝く未来」を提案・実現してほしいと思っています。


取材後記

関西地域の産学融合にかける熱い思いが伝わってきた。関西には有力な大学・研究機関や全国区の企業が多くある。地理的にも密接にしている一方で、それぞれがバラバラに活動を広げているのが現状だ。良く言えば独自性が強いのだが、今は強固な連携が求められているし、今後の力強い発展のためには共創が欠かせないものとなっている。その意味では、関西地域はリソースを十分に活かしきれていないと言えるだろう。そうした状況を打破するのがKSIIの取り組みだ。これからの活動や成果に注目したい。

※「関西イノベーションイニシアティブ」(KSII)の詳細については以下をご覧ください。

https://ksii.jp/

(編集・取材:眞田幸剛、文:中谷藤士、撮影:齊木恵太)


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