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【KDDI中馬氏×FUJI河口氏】事業開発のプロたちが徹底討論、事業創出の壁をどう乗り越えたのか?―『Aichi Open Innovation Network2023』レポート

【KDDI中馬氏×FUJI河口氏】事業開発のプロたちが徹底討論、事業創出の壁をどう乗り越えたのか?―『Aichi Open Innovation Network2023』レポート

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「愛知県企業」と全国の「スタートアップ」を結びつけ、新たな価値の創出を目指すビジネスマッチングプログラム「AICHI MATCHING(あいちマッチング)」。同プログラムの一環として、新規事業に取り組む事業会社担当者に向けた『Aichi Open Innovation Network2023』と題したイベントが1月26日(木)、名古屋市内の「なごのキャンパス」で開催された。会場には、愛知県企業を中心に多くの新規事業担当者やオープンイノベーション担当者が集結。立ち見が出るほどの盛況だった。


本イベントは2部構成で、前半はオープンイノベーションを積極的に進めている企業担当者によるトークセッション。KDDI株式会社の中馬氏と株式会社FUJIの河口氏が登壇し、「マッチングで終わらせない 事業創出に向けた組織づくり」をテーマに対談した。後半は、「カーボンニュートラル」をテーマに、5社のスタートアップがピッチを披露。自社のビジネスの特長を、会場に集まった参加者らに向けてプレゼンした。

本記事では、イベント前半のトークセッションで語られた、新規事業を成功に導くための「組織論」を中心にレポートする。

<登壇者紹介>


▲中馬和彦氏(KDDI株式会社 事業創造本部 副本部長)

KDDI株式会社 事業創造本部 副本部長として、スタートアップ投資をはじめとしたオープンイノベーション活動、地方自治体や大企業とのアライアンス戦略、全社横断の新規事業を統括。2011年に立ち上げた、事業共創プラットフォーム「KDDI ∞ Labo」のト統括も務める。同組織の実績として、2021年度は300件超の協業支援を実現。東京大学にて起業家育成の寄付講座も開催。2012年にファンドを設立し、通信分野に限らず幅広い領域に投資を行い、現在は総額380億円を運用している。KDDIは早くから、会社の成長戦略にオープンイノベーションを取り入れており、日本におけるオープンイノベーションの先駆者でもある。


▲河口浩二氏(株式会社FUJI イノベーション推進部 部長代理)

愛知県知立市に本社を構える株式会社FUJIにて、イノベーションの推進を担う。FUJIは、ロボットソリューション・マシンツール・新事業の3軸で事業を展開している。河口氏の所属するイノベーション推進部は、独立した事業開発専門組織として約3年前に発足。同組織の取り組みには、ロボット技術を活用したリサイクルロボット、物流領域における移載ロボット、高齢者の見守りロボットなどがある。


▲中村亜由子(eiicon company 代表/founder) ※ファシリテーター

事業創出に至るまでの6ステップ、起点にあるのは「会社の戦略」

――トークセッションの冒頭、ファシリテーターを務めるeiicon company 代表 中村氏が、「事業創出に至るまでのステップ」について次のように説明した。

eiicon・中村: 最初に当社で使用している資料をもとに、事業創出に至るまでのステップについてお話します。本日会場には大企業の皆さまに多くお越しいただいていますが、大企業では社内で中期経営計画、会社の戦略をしっかりと構築されていると思います。


新規事業の一番のスタート地点にあるのは「会社の戦略」です。会社の戦略と整合性をとって、新規事業の方向性を定めていきます。そのうえで、誰が担当するのかといった「体制・プロセス」を整理します。さらにそのうえで、「どういうものに取り組む」「どういうものには取り組まない」といった「採択基準・判断基準」を明確化します。これらを明確化したうえで、実践へと入っていくことが重要です。

オープンイノベーションの場合は、「どういった方向でパートナーを探していくのか」を検討します。パートナーと出会った後は、ゼロイチで事業をつくる段階に入ります。社内だけで新規事業を立ち上げる場合も、ゼロイチで事業をつくりインキュベーションへと進めていきます。日の目を見るまで社内のなかで、しっかりとプランを検討し事業化します。事業化した後は、それが会社の次の柱になるように拡張していく。こうしたステップがあります。

【設問①】 「事業創出をする上でぶつかった壁」とは

――上記のように前置きしたうえで中村氏は、FUJIの河口氏に事業創出のプロセスにおいて、「どのような壁があったか」という質問を投げかけた。これに対し河口氏は、そもそも新規事業専門部隊の立ち上げから壁があったと明かし、それをどう乗り越えたのかについて、次のように共有した。

FUJI・河口氏: 私たちイノベーション推進部は、3年程前に発足したのですが、発足そのものから壁がありました。電子部品実装ロボットを中心に事業展開するFUJIは従来、お客さまから「こういう装置がほしい」という要望を受けて製造をしてきました。それを粛々と積み上げてきた会社です。こうした背景から「新しい事業を始める」ということが、簡単には進められなかった。

ではなぜ、このチームが発足したのかというと、最初は3人のメンバーの発案からでした。「世の中は変化し続けゲームチェンジも起こりうる。今のままで本当に耐えられるのか」という想いに基づいて、3人で立ち上げの準備を始めました。会社から「新規事業をやれ」と言われたことは一度もありません。私たちから会社を口説いていった形です。認められるまでに、1年半程かかりました。


eiicon・中村: 合意を得るために、どう交渉していかれたのですか。

FUJI・河口氏: プレゼンテーションだけでは会社を動かせなかったので、内々で事例やサンプルをつくりました。当社が製品とするロボットのなかには、売れるものから売れないものまで様々あります。私が何をしたかというと、売れていない製品開発チームや展示会に出向き、何が課題なのかを探索しました。

そして、「何を変えれば売れるのか」に関する提案書を作成したり、簡単なプロトタイプを作成したりして、「こうしたエッセンスを加えることで、劇的に変わる可能性があります」と伝えました。そういった活動をひたすら積み上げ、「この活動には意義がある」「活動そのものを応援してくれ」という流れに持っていったのです。

――中村氏は、同じ質問をKDDIの中馬氏にも投げかける。「どのような壁があったか」という問いに対し中馬氏は、KDDIは厳しい競争環境に置かれ続けているため、常に新規事業を模索している状況にあり、社内の壁はそれほどなかったという。一方で、自身がオープンイノベーションのアドバイザーをするなかで得た知見から、次のように話した。

KDDI・中馬氏: 色々なところでオープンイノベーションのアドバイザーをしているので、他社の事例をたくさん見ています。そこから統計的に、うまくいっている企業とうまくいっていない企業を考えてみると、一番大事なことは先ほどのステップのなかの最初の2つ、「全社の戦略との整合性」と「方向性の明確化」です。オープンイノベーションは、「何を外に求めるのか」――これについて経営のコミットメントがないと成功に結びつきづらいです。

これらが出来ておらず、「とりあえずオープンイノベーションをやってみて」と言われて始めた会社は、うまくいっていない傾向にあります。始め方はトップダウンでもミドルアップでもよいのですが、必ず経営に差し込む。会社の成長戦略のなかに、オープンイノベーションなり、パートナー戦略なり、M&A戦略を組み込んで、かつどの領域でどの程度やるのかを決めておく。これが本当に重要で、6~7割はこれで決まります。

さらにもう一つ重要なことが、「体制・プロセスの整理」です。内製ではなくパートナー提携やM&Aで進めようという領域ができて、これをいくらぐらいで誰に任せるか。ここの権限移譲の体制を勝ち取れていないと、次のステップに進んだときに、毎回経営会議にかける必要がでてきます。経営会議に持っていくと、あら探しのようなネガティブチェックが入り、ほぼすべての新規事業がつぶれてしまう。

「全社の戦略との整合性」と「方向性の明確化」という2つのステップで方向性を決めて、その後に体制を明確にし権限移譲を受ける。そこから後の工程については、経営に関与させない。これができている会社はうまくいっているし、そこが中途半端な会社は苦戦をしています。


――このように中馬氏は「事業創出に至るまでのステップ」のうち、序盤の3ステップの重要性を強調。とくに「体制・プロセスの整理」において、権限移譲を受けておく必要があると話す。中村氏も同調する形で、次のようにつけ加えた。

eiicon・中村: 3つ目の「体制・プロセス」のところで、予算は確保されていたりもしますが、その決裁において他の財務も含めた役員会議にかけないといけないプロセスにしてしまうと、それだけでスタックしてしまう。ですから、決裁も含めて独自ルートをつくらないといけない。また、体制・プロセスのなかには、法務・広報・経理といった部署も入ってきます。他のミドルバックの人たちが、通常の既存事業と同じフローをとろうとした瞬間に、これもスタックします。

KDDI・中馬氏: 先ほど権限委譲が大事だと言いましたが、なぜかというと結局、事業部の壁を突破することはかなりハードルが高い。「事業部と連携できないのですが、どうしたらよいですか」とよく相談されますが、僕らは最初に事業部と連携はせず、自分たちである程度の予算を持って体制を抱えて、一旦スモールスタートで任せてもらう範囲を決める。そのラインまでは経営にも報告はしません。

イノベーションは多産多死とよく言われますが、実際そうです。トライの数が多ければ多いほど、成功確率も上がってくる。なので、多産多死しなければいけないのですが、それをするためには一定程度まで我慢してもらわないといけない。権限移譲されていないと、都度ごとに確認をしなければならないので、多産多死に持ち込めないのです。

【設問②-1】 「PoCから次のステージへのつなぎ方」

――話題は、PoC(実証実験)から事業化するまでの壁にも及び、河口氏は次のように自社の事例を紹介した。

FUJI・河口氏: 実証実験に至るフェーズに関しては困ったことはなく、粛々と頑張り続けるだけですが、「ビジネスになる」「お客さまがつく」となったときに、直面する壁があります。FUJIは大きなロボットを製造している会社なので、(既存事業と比較して)新しい事業は利益・売上がそこまで高くない。そうすると「小さい事業に、どれだけのリソースを割くのか」「どの事業部で受け取るのか」という話になります。新規事業だけを刈り取る事業部があればよいのですが、当社にはありません。そういった部門をつくらないといけないと思いながらも、うまくいっていません。

ただ、新規事業を止めるわけにはいかないですし、止める気もありません。ですから現状は事業化すれば、私たちのチームの担当メンバーが新規事業を持って事業部に行き、売上につながるところまで、そのメンバーが担当します。そして、その事業が黒字化できた後に、その事業部で継続して頑張るのか、イノベーション部隊に戻ってくるのかを、本人の意向も踏まえて柔軟な対応をとるようにしています。「失敗しても戻るところはあるよ」と。チャレンジを恐れることなく進められる体制にしていますね。

――この「事業部への移管」に絡めて、中馬氏は次のように持論を展開する。

KDDI・中馬氏: 新規事業が黒字化したら事業部は喜んで引き取ってくれます。一方で、よい事業でも赤字である限りは、連結されてしまうので引き取ってくれません。これは当たり前のことで、この壁は越えようにも越えられません。なので、パラレルに行くしかない。「いつか事業部に引き取ってほしい」「早く事業部に渡したい」という考えを持っている限りは、うまくいきません。

また、(新規事業と既存事業の)販路がはまらないケースもあります。実際、大企業は色々なアセットがあるので、「新規事業を推進するために、事業部のパワーを使いましょう」というケースはあります。ですが、実際には使えなかったりするんです。会社に営業部門はひとつしかないから、新しくできた事業を営業部門に戻そうとしますが、例えばホールセール営業をしている人たちにリテールの商品を持ち込んでも、そのチャネルが使えない。なので、チャネルも含めて完全に2系統つくらざるを得ないケースは結構あります。この判断を誤ると、育った事業の芽が事業部に戻した瞬間につぶされてしまいます。

eiicon・中村: このケースは本当に多いですね。事業化したら事業部に渡してしまう。渡してしまったら、その事業部の判断基準や工数対効果で比較される。洗練された既存事業と同じ考え方で新規事業を当てはめられた瞬間に、「これってやる意味あるの」という判断になり、半年後にはつぶれているというケースは非常に多くあります。


【設問②-2】 「PoCへ至るまでの社内外の進め方」

――「PoCへ至るまでの社内外の進め方」で工夫している点を聞かれた河口氏は、PoCの段階から次のステップである事業化を見据え、クライアントと交渉にあたっていると話す。

FUJI・河口氏: 私たちの例でいうと、お客さまにご協力をいただきながらロボットの実証実験を行うという関係性になるので、実証実験がうまくいっている段階で、もうビジネスの話を始めています。「こういうスキームで、こういう費用感で一緒にやりたい」という話が、実証実験中には握れているので、あとはそれを、どう事業部にうまく受け取ってもらうか。なので、事業部と並走するようにしています。

eiicon・中村: 実証実験中に、売上のところまで見えている状態にすると。

FUJI・河口氏: 案件にもよりますが、ロボットは開発期間や部材費、リソースもかかるので、ある程度お客さまにもご協力をいただき、「落としどころが見つかりそうですね」というところまで握ってから進めます。そうしないと、よいものが仕上がっても「ビジネスは無理です」ということになりかねないので。

できるだけそうならないように、私たちがお客さまの課題を腑に落ちるレベルまで熟知し、誠意を持ってお客さまと対等にお話しができるようにする。ビジネス化に向けて動くべきなのか、それともやめるべきなのか、早めの段階から意識して取り組むようにしています。

――PoCに関連して中村氏は、「PoCばかりをやりすぎてしまうこと」に懸念を示す。この点について上手な方法はないかと聞かれた中馬氏は、次のような留意点を紹介した。

KDDI・中馬氏: PoCは手段なんです。でも、PoCで燃え尽きてしまう人もいる。かつ想いが強いから、どう見ても泥船なのに手放せないこともあります。なので僕らは、1人の人に複数任せることを推奨しています。

人間は賢くて、正しい方向に導かれるんです。1つだけだと、それに対する想いが強くなりすぎて、泥船でも最後まで突き進んでしまう。でも、A・B・Cと複数やっていたら、人は必ず筋のよいものに行くんです。ダメなものは必然的に放置されていく。競争原理をこういったところに持ち込むことが大事だと思います。少なくとも3つは任せたほうがよい。

eiicon・中村: たしかに3つは絶妙ですね。

KDDI・中馬氏: ちなみに、僕ら10年を振り返ってみて、PoCなどの支援を2000件やっていることが判明しました。そのなかから、マイノリティ出資は200件、M&Aは20件。なので、100件支援したら1件がM&Aまで、つまり事業に辿り着く。この確率なんです。ですから、相当な数のPoCをやらないと事業までいかないと思います。

――最後に登壇した2者が、会場に向けて一言ずつメッセージを伝え、トークセッションを締めくくった。

「カーボンニュートラル」をテーマに5社のスタートアップがピッチを披露

トークセッション終了後は、「カーボンニュートラル」に関連する技術・サービスを持つ5社のスタートアップの代表が登壇し、来場者に向けてピッチを行った。


▲株式会社アルガルバイオ 代表取締役社長 CEO 木村周氏

藻類を活用したビジネスを展開している東京大学発のバイオテックベンチャー。


▲Sustineri株式会社 代表取締役 針生洋介氏

「Sustineri」は製品・サービスから排出される温室効果ガスを手軽に算定・埋め合わせできるカーボンオフセットクラウドを提供。


▲株式会社CBA 代表取締役 宇佐見 良人氏

資源循環推進プラットフォームにて、廃棄物処理業界のDXと可視化を推進し、地域毎の資源循環の支援を行っている。


▲株式会社ウェイストボックス 代表取締役 鈴木 修一郎氏

CO2排出量を可視化し、温室効果ガスの算定支援を行っている。


▲株式会社 JOYCLE代表取締役社長 CEO 小柳 裕太郎氏(※2023年内に登記予定)

小型アップサイクルプラントの導入支援により企業のコストカットや環境貢献を目指している。

――ピッチ後は参加者たちによるネットワーキングが実施され、盛んに名刺交換や意見交換が行われた。


取材後記

新規事業を進めるうえでの注意点・組織づくりのポイントがわかる、示唆に富んだトークセッションだった。とくに印象的だったのが、「事業部への移管の仕方」だ。新規事業の立ち上げ専門部隊で育まれた芽が、既存事業部へと移管された瞬間に枯れてしまうという事例は、いわゆる既存事業部で長年働いた経験のある筆者からすると、想像に難くない。新規事業と既存事業は“まぜるな危険”という説を聞いたことがあるが、新規事業を移管する際には、十分な時間をかける必要がありそうだ。

(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子、撮影:加藤武俊)