復興を契機に起業文化を作る、仙台市のオープンイノベーション事情
オープンイノベーションに注力する地方自治体を紹介する企画「CLOSEUP OI」。今回は、東北の巨大地方都市である宮城県仙台市の取り組みに迫ります。
活発な産業、自治体主導によるオープンイノベーション推進、そして東北大学をはじめとした教育機関、これら産官学の柱がしっかりとしているのが仙台の特徴です。
特に、eiiconでもプロモーションしているアクセラレータープログラム「SENDAI X-TECH Accelerator」は、仙台のイノベーションにかける姿勢が現れている取り組みだと言えます。
オープンイノベーションを用いた「仙台市経済成長戦略2023」の施策
2019年3月に仙台市が公開した「仙台市経済成長戦略2023」は、2019年から2023年までの5年間で市内の黒字企業率を50%にまで改善させることが数値目標となっているプロジェクトです。
施策にはイノベーションによる企業の成長が明記されており、後述する「SENDAI X-TECH Accelerator」も肝いりの案件となっていることがわかります。
関連ページ:仙台市経済成長戦略2023
仙台市×楽天イーグルス×藤崎による「SENDAI X-TECH Accelerator」
仙台の地元企業とテック企業がコラボレーションするために立ち上がったアクセラレータープログラムが「SENDAI X-TECH Accelerator」です。前述のように、仙台市の成長戦略「仙台市経済成長戦略2023」にも明記されている肝いり施策のうちのひとつとなっています。
運営は仙台市と、地元企業から楽天イーグルス、そして百貨店の藤崎が共同で取りまとめています。
領域はIoTやAI、VR/AR、5Gなどの先端技術に絞って、地元の企業との特徴を掛け合わせた新規事業を創出することを目指しています。
参加企業には、仙台市を実証実験のフィールドにできるメリットに加えて、楽天イーグルスの顧客データや、老舗百貨店藤崎の店舗を利用することも可能になります。
関連記事:オープンイノベーションで地域の都市体験はどうアップデートできるのか?――仙台市×藤崎×楽天イーグルス、プレイベントに潜入取材!
関連ページ:SENDAI X-TECH Accelerator
仙台市×MAKOTOによる東北グロースアクセラレータ
東日本大震災を契機に、東北のスタートアップを支援するために創設されたVCであるMAKOTO。同社が仙台市と共同で立ち上げたアクセラレータプログラムが「東北グロースアクセラレータ」です。
仙台市が拠点のプログラムですが、東北6県から起業家を集めていて、東北全体を元気づけようと支援をしています。
東北グロースアクセラレータは、仙台では復興をきっかけに起業の件数が増えているものの、東北の新たなロールモデルとなるエコシステムがまだ創出できていないことが課題だと捉えています。
参加できるコースは二つ。次のステージに向け資金調達を目指すスタートアップ向けの「TGA Growth コース」と事業開始を目指す若手起業家や家業を持つイントレプレナー向けの「TGA Studio コース」から選べます。
関連ページ:東北グロースアクセラレータ
オープンイノベーションのプラットフォームとなる東北大学
仙台を代表する教育機関といえば東北大学です。東北大学は学内に開かれた産学連携プラットフォームとして「東北大学オープンイノベーション戦略機構」を構えています。
オープンイノベーションによって大学機能の飛躍的な強化を狙うだけでなく、イノベーションによる社会変革を先導することが目的です。
東北大学を核とした複数企業エコシステム型連携モデルを発展させ、東北大学が強みを持っている「ライフサイエンス(未来型医療)」と「マテリアルサイエンス(材料科学)」の2分野で大型産学連携拠点を作り上げます。
もちろん、東北大学は無償の善意でこのプロジェクトを立ち上げたわけではありません。あくまでもこのプラットフォームを東北大学のプロフィットセンターとして学内の財政強化につなげることが目的です。地元企業が活発化し、さらに東北大学も潤うことで、好循環を創出するのが狙いです。
関連ページ:東北大学オープンイノベーション戦略機構
【編集後記】復興を契機に起業文化を作る
仙台市は他の自治体と同様に人材流出などといった課題も抱えていますが、それを補うだけの起業文化が醸成されつつあります。
日本全体の人口が減っていますから、自治体単位で移住者を増やす施策をしたところで、当然ながら別の自治体からは人が流出してしまいます。
仙台市の強みは、目先の人材確保ではなく復興を契機として新規事業を立ち上げたり、起業するタフな人材がいるところです。ピンチをチャンスに変える気骨を持って、仙台市が発展を大きな遂げることを期待したいですね。
地方のオープンイノベーションを追いかける「CLOSEUP OI」。次回は、地元企業も強く、観光資源も豊富な広島県の共創事情をご紹介します。
(eiicon編集部 久野太一)