スタートアップ文化立ち上げの成功事例になるか?北海道がイチから挑むオープンイノベーション
地方自治体のオープンイノベーション事情を探る「CLOSEUP OI」、今回は豊富な資源を持つ北海道の戦略を紐解いていきます。北海道は言わずと知れた国内でも指折りの一次産業のメッカであり、バラエティ豊かな観光産業も唯一無二のものがあります。
すでにさまざまな特徴・強いブランドパワーを持っている北海道ですが、今あえてオープンイノベーションに取り組む意図はどのようなものなのでしょうか。そこには、道とは別に北海道経済産業局が新たに仕掛ける、道内のイノベーション文化の立ち上げがあるようです。
コロナ禍で見通しのきかない、転々と変わる経済状況
北海道の経済状況を見てみると、他の自治体の例に漏れずコロナ禍の影響を色濃く受けていることがわかります。
令和2年を振り返ると自宅消費が増え、需要面では以下の業種が好調でした。
●スーパー販売額が食料品を中心に好調となり前年比 2.2%の増加
●家電大型専門店販売額が前年比 1.6%の増加
●ドラッグストア販売額が前年比 3.1%の増加
●ホームセンター販売額が前年比 6.8%の増加
一方、需要が悪化したのは以下の通りです。
●コンビニエンスストア販売額が都市部や観光地の人出の減少などで前年比 2.9%の減少
●新車登録台数が前年比 11.9%の減少
●百貨店販売額がインバウンド需要の減退などから前年比 29.5%の大幅な減少
参考ページ: 令和3年度経済部施策の展開方針
このように、やはりコロナ禍で悪影響を受けた業種の減少幅は深刻なものがあります。
北海道経済産業局の公開している「最近の管内経済概況」を見ると、領域ごとの経済概況がまとめられていますが、刻一刻と状況が変化しており、コロナ禍の出口は見通しが立たないことがわかります。
その証拠に経済概況判断の推移を見ると、総括判断の項目では2020年12月〜2021年2月は「新型コロナウイルス感染症の影響により、厳しい状況にあるが、一部に持ち直しの動きがみられる」と評価されていたものの、感染者数が増え始めた3月以降は「新型コロナウイルス感染症の影響により厳しい状況にあり、持ち直しの動きに弱さがみられる」に変化しています。
今後どのように経済概況が推移するかは神のみぞ知るといった状態です。
出典:最近の管内経済概況
北海道経済産業局が主導して立ち上げるオープンイノベーション支援
北海道の公開している令和3年度経済部施策の展開方針によると、経済部における施策の展開方針として、以下の4点が挙げられています。
1.ウィズコロナの長期化を見据えた中小・小規模企業の維持・継続等
2.北海道ブランドの発信力のパワーアップ(食や観光産業の活性化)
3.ポストコロナを見据えた新たな社会経済の変化への対応力強化
4.ポストコロナを見据えた人材の育成・確保
詳細の説明は割愛しますが、至極真っ当な方針と言えます。コロナ禍での既存事業の存続や、アフターコロナに向けた DXなどの地盤強化、そして北海道ブランドのパワーアップを着実に推進するというものです。しかし、この資料には「共創」「イノベーション」といったキーワードは出てきません。
北海道における共創やイノベーションを主に担っているのは、北海道経済産業局です。この連載では多くの場合、自治体がオープンイノベーション推進の舵取りをしていましたが、北海道の場合はイノベーションの分野は経済産業局がプレゼンスを発揮しています。
北海道経済産業局が2020年6月に公開したスタートアップ支援に関する資料「ポストコロナ時代を切り拓くイノベーションの創出促進」を読むと、北海道にも新たに共創をベースにしたビジネスの文化を作ろうとしているのがわかります。
資料内では「⼭積する諸課題解決の担い⼿として、新たなビジネスモデルを創造するスタートアップ企業の活躍が期待されます。」と、スタートアップの台頭を切望する一方で「起業家が顕在化しておらず、また、資⾦調達⼿段や⼤企業との事業提携機会が限られていることなどから、スタートアップ企業がスケール(事業規模拡⼤)していく状況とはなっておらず」と記されており、東京、大阪、福岡などのようなスタートアップ支援の土壌が整っていないことを課題視しています。
北海道経済産業局はこの課題を解決するための施策を4つ挙げています。
1.スタートアップ創出促進のための調査とアクションプランの策定
2.各種ピッチイベント・マッチングイベントの開催
3.スタートアップ企業や起業家予備軍の成⻑・育成⽀援
4.スタートアップ創出⽀援に係る関係機関ネットワークの強化
ひとつめの施策に「調査」や「プランの策定」という文言が入っていることからもわかるように、スタートアップ文化をまさに立ち上げている最中ということです。
参考ページ:北海道経済産業局のスタートアップ⽀援
大手企業と61件の面談を実現したマッチングイベント
上記の4つの施策のふたつめにある「各種ピッチイベント・マッチングイベントの開催」は、「オープンイノベーションチャレンジピッチ」として実現しました。
このイベントにはKADOKAWA、京セラ、セブン銀行、東急、凸版などの13の大手企業が参加しています。スタートアップや中小企業のアイデアを書類選考やピッチによって審査し、面談を通じて共創が実現するというものです。
大企業のニーズに対して44社より108件の提案があり、書類審査の結果61件の面談が実施されました。2021年5月時点も共創のための協議は続いており、いくつのアイデアが実現するのか注目が集まります。
【編集後記】スタートアップ文化立ち上げの成功事例になるか?
この連載では自治体が主導でオープンイノベーションを推進するケースを紹介することが多かったですが、今回は北海道経済産業局がイチからスタートアップ文化を作り上げようとしている点が特徴的でした。
北海道のように強力なブランドやエッジの立った企業が多い地域ではオープンイノベーションは効果的です。
北海道がスタートアップ文化立ち上げの成功事例となれば、仮に自治体の経済や産業の戦略としてオープンイノベーションの優先度が高くなかったとしても、取り組むメリットは十分あることが証明されるはずです。