【Open Innovation Radio vol.1】異能と語るオープンイノベーション 第1回ゲスト:Final Aim CDO 横井康秀さん
※本ブログは博報堂WEBマガジン(センタードット)で公開された記事を転載しております。
博報堂ブランド・イノベーションデザインによる連載「HAKUHODO OPEN INNOVATION」の関連企画として、博報堂ブランド・イノベーションデザインのメンバーが、多方面で活躍する異能な方たちとオープンイノベーションをテーマに、気軽に楽しめるラジオ番組のように語り合う新シリーズ。
第1回となる今回は、大手光学機器メーカーのインハウスデザイナー出身で、MaaS領域におけるプロダクツ開発の知見を豊富にお持ちの、株式会社Final Aim CDO (Chief Design Officer) の横井康秀さんをゲストにお迎えし、ストラテジックプラナー/プロダクトデザイナーの德田周太と語り合います。
ゼロイチに挑戦する企業を支援
徳田
今日はよろしくお願いします!ゲストの横井さんです。簡単にご紹介すると、横井さんは美大を出られてから大手光学機器メーカーのインハウスデザイナーを経て、2014年頃にカブクというスタートアップの初期メンバーとして参画。2017年に東証一部上場大手メーカーにM&Aというエグジットを経験し、また昨年12月にFinal Aimを新たに共同創業されました。初めてお会いしたのは2、3年前、横井さんがカブクに所属されていた時、3Dソフトのカンファレンスでしたね。3Dプリンティングしたモビリティのパーツを展示されていて、すごいなと思って僕が話しかけたのが始まり。
横井
懐かしい。めちゃくちゃ覚えてますよ。
徳田
その後連絡を取り合うようになって、昨年はある自動車部品メーカーの案件をご一緒させていただいて。広告業界で言うカンヌレベルのデザイン賞をいくつも受賞されている敏腕プロダクトデザイナーさんです。過去のお仕事を見ると、モビリティ領域が多いですね?
横井
たまたま結果的にそうなったんですが、実はカーデザイナーになりたくてこの世界に入ったので、やりがいはありますね。自分の志向性として、美しいプロダクト、格好いいデザイン、使いやすさなどを追求するのはもちろんですが、何か新しいシーンや価値創造といったところで力を発揮するデザインに興味を持っています。
徳田
メジャーな自動車メーカーはもちろんですがベンチャーのお仕事も多くて、実証実験のプロダクトデザインも手掛けられているんですよね。
横井
はい。たとえば株式会社ティアフォーという、オープンソースの自動運転OSを開発している日本を代表するベンチャー企業とご一緒していて、自動運転技術の検証ができる車両のデザインを手掛けました。当時2016年くらいでしたが、創業した東京大学の加藤真平先生にどういった夢やビジョンがあるかを聞き、「将来さまざまな自動運転車両が出てくるはずなので、ティアフォーらしい存在感のあるアイデンティティをデザインにしたほうがいい」という話をしたんです。
徳田
丸みがあって、キャラクターぽい、かわいいデザイン。
横井
これは愛知の「モリコロパーク」で実証実験を進めています。あと、ある旅行会社がティアフォーの技術を使って三宅島で行ったMaaSの実証実験も以前お手伝いしました。
徳田
素晴らしいですね!Final Aimという会社についても教えていただけますか?
横井
最大の目的は、ゼロイチに挑戦する人やチームや企業をがっつり支援すること。立ち上げて1年未満ですが、すでにスタートアップや大企業の新規事業開発部門、大学発ベンチャー、またシンガポールやインドネシア、アメリカも含めてグローバルに支援しています。共同創業者の朝倉雅文は、シンガポールでの起業経験があるほか、ソフトウェア開発にも携わってきた人間。デザイン面と経営的な視点で、2人で幅広くカバーできているんじゃないかなと思います。
シンガポールの開発プロジェクトは驚きのスピード感
徳田
実証実験とかプロダクト開発のたびにパートナーと組む感じですか?
横井
はい。スタートアップや大企業と中長期の包括的パートナーシップを組みながら、その都度プロジェクトベースでチームを組みます。基本は僕がデザインとハードウェアの要件定義やスタッフィングするので、僕はハンズオンとしてのデザイナーであると同時にプロジェクトマネジャー的な役割も担っています。
ハンズオンのプロジェクト事例としては、まずシンガポールのOTSAW Digital社とビジネス、デザイン提携を結び、支援しています。ここはソフトウェア開発に強いスタートアップ企業で、我々は特にハードウェア開発や、PR目線でのデザイン戦略などの面でお手伝いしながら伴走しています。実は今年に入って契約したと思ったらコロナになって、5月から急遽、殺菌ロボットの開発プロジェクトがスタートしました。10月現在、すでに実証実験を終えてサービスインしていて、商業施設などで実際に走っています。
徳田
本当ですか!デザインとか設計のやり取りは基本オンラインですよね。半端ない納期の短さでびっくりです。
横井
OTSAWという会社、そしてシンガポールという国の特徴でもあるんですが、圧倒的にスピード感が違うんですよね。企画書もブリーフィングもほとんどない状態で、「コロナ殺菌ロボットつくるよ、よろしく」という電話から始まって(笑)、すぐにオンラインミーティングして構想を練りました。シンガポール科学技術研究庁(A*STAR)が開発した殺菌LED技術を使い、OTSAWが過去に開発したソフトをチューニングし、あと市場に出ている既存のベースモビリティを調達するなどしてアジャイル開発しました。コロナの波が来ていたタイミングだったので、運用しやすさとかデザインの理想に加えて、圧倒的なスピードがこのプロジェクトの最大の価値だったんですね。
徳田
日本だとこのプロジェクトに関わったのはFinal Aimだけですよね。すごいな。
横井
非常に勉強になりましたね。OTSAWもシンガポール政府も相当スピードを上げている中、3Dツールを駆使してコミュニケーションし、いい意味での妥協点を探しながらデザインも進めていきました。
徳田
続いてもOTSAWさんの事例ですね。
横井
これはちょうどいま開発を進めている自律配送ロボットです。早ければ今年にも一般市民が実際に使えるようにプロジェクトが進行中です。都市型の空間でラストワンマイルをどう担っていくか、シンガポールにも日本と同じような課題がある。サービスとしては、シンガポール市民がアプリでスーパーや小売店から商品を購入すれば、このロボットがアパートやマンションに乗り付けるというものを想定しています。
徳田
アプリの話が出ましたが、そのあたりのUI、UXも横井さんが考えるんですか?
横井
UI、UXについてはデザインアドバイザリーという形で関わっています。それから広い意味では僕の得意とするハードウェアもユーザビリティデザインということになるので、全体設計、レイアウトを僕の方で加味しながら、形のイメージをつくっていきました。
徳田
博報堂にも、MaaS領域や、物流のラストワンマイル、ファーストワンマイルのサービス開発をしている人間がいるので、興味津々だと思います。日本でも自律配送ロボットって可能なんでしょうか。
横井
日本では、ティアフォーはじめ複数社が取り組んでいて、すでに羽田空港や郵便事業の現場などで実験は始まっています。ただ、相対評価になってしまいますが、日本と比べてシンガポールは物事が非常に進めやすいです。民間側から要望を出せば、必要なルールや障壁になるようなルールについてすぐに政府が調整に動いてくれる。この自律配送ロボットも「この辺りを走行エリアとして開放してほしい」という要望を出しながら、すり合わせていきました。当然安全基準や法律もあるけど、「必要な実証実験なんだから、この件については新しくチャレンジしていきましょう」という姿勢。法律や条令に厳密に照らし合わせて安心安全を担保する慎重な日本の姿勢とはかなり違いますね。
徳田
それでスピード感が全然違うんですね。面白い。
横井
次は、インドネシアの大手プラスチック製造会社、Yasunli社の新規事業立ち上げをお手伝いした事例です。創業40年目、従業員も5000名以上のBtoBの大企業でしたが、toCの新しい収益事業と自社ブランドを持ちたいということで、想いのところから入らせてもらって、マーケティングのいろはから事業計画、ロードマップ、商品企画からデザインまで一気通貫でハンズオン策定していきました。最後にはちゃんとデザインをモノの形に落とし込む部分で我々の強さが発揮できているのかなと思います。
徳田
デザインワークショップとかのプロセスから入っているわけですもんね。商品にする前提でデザインするから、スピードも早そうですね。
横井
ほかにも、東大発のベンチャーでパワード義足をつくるBionicM社を包括的に支援したり、ICMG社という世界に拠点を持つコンサル企業の共創プラットフォームに参画しています。それから、国レベルでのゼロイチ支援という意味で、ルワンダ政府ICT商工会議所代表からお声掛けいただき、現地の投資会社と提携。スタートアップとは何かというところからインプットしながら、現地の課題などをピックアップし、ルワンダにおけるスタートアップエコシステムの構築を目指しています。
徳田
すごいですね。具体的にプロジェクトが進行したらまたお話を聞かせてください。
横井
ぜひぜひ。
知財のプラットフォームを整備しオープンイノベーションを加速させる
横井
ゼロイチを加速させるための、テクノロジーを使ったプラットフォーム開発も進めています。たとえば広い意味で知的財産権の支援。デザイン開発には、当然意匠権を始めとした知的財産権をどう委譲し、管理し、登録していくかという課題が出てきますが、一気通貫で管理できる手段がなかなかない。現状は人ベース、ナレッジベースで対応していますが、ブロックチェーンやスマートコントラクトなどのテクノロジーで効率化、最大化できないだろうかと考えていて、ビジネスモデル特許を出願しています。投資する側も、投資先のデザインがきちんと管理されていることがわかれば安心して投資できるでしょうから、ゼロイチの加速につながると思います。また、スタートアップの資金調達においても、いつ誰がどのように企業価値算定をし、それがどのように成長していったのかを客観的に記録、管理、評価できるようなプラットフォームを構想していて、ビジネスモデル特許という形で出願しました。さらには、新しく生まれたプロダクトデザインがティア1、ティア2と製造工場へアウトソースされていく中で、意匠権を始めとした知的財産権の侵害といった懸念や不安を抱くことなく、安心して製造できるプラットフォームもつくろうとしており、こちらも特許を出願しました。
徳田
すごいですね。知財のプラットフォームについては盲点だったなと思いました。僕もプロダクトデザイナーとして、知財をどうしようかと悩むことが結構あるので。
横井
そうなんですよ。スタートアップだけじゃなく大企業でもいろんなオープンイノベーションがあり、複数社をまじえたプロジェクトなどにいろいろと携わると、毎回スタックするのが「最終的にこの権利はどう扱えばいいのか」という部分。
徳田
オープンイノベーションを進めるうえでは本当にいろんなステークホルダーが関わってくるわけで、そうすると当然、知財をはじめとする権利をどう整理するかという問題が必ず発生するものですもんね。こういうプラットフォームでうまくまとまっていくと、オープンイノベーションは確かに加速するような気がします。
では、いくつか僕からも伺っていきますね。横井さんがアイデアづくりの時に必ずすること、オーダーを受けて最初に必ずやることはありますか?
横井
デザインという言葉やデザインがもたらす効果のイメージって、スタートアップ、大企業、あるいは企業内のプロジェクト…それぞれの目的によって大きく違うんですよね。デザインの扱い方、活かし方がまったく変わってくるので、まずは相手と丁寧にコミュニケーションをとりながら、最初にそこの認識をすり合わせることにしています。
徳田
次はデザインに関して。今日見せて頂いたものは、どれも丸みを帯びたデザインですが、横井さんの作風ですか?
横井
意識はしていませんが、結果的にそうなっていますね。車に限らずゼロイチをつくるということは、新しい概念を社会に導入するということ。日常の中に新しいテクノロジー、フォーマットを入れるのだから、違和感なく溶け込ませることが重要なわけで、当然、親しみやすさというものが大事になってくるのかなと思います。
徳田
ありがとうございます。Final Aimはハンズオンとプラットフォーム開発の2軸でやってきて、この先目指すことは何ですか。
横井
ゼロイチにチャレンジする人を支援するのはもちろんですが、10年20年経てばゼロイチが当たり前の世の中になっているだろうし、そうしていきたいと思っている。その時、学歴とか国籍、性別、ジェンダーも含めて、全く関係なく、正しい意味で実力やアイデアが評価されるような世の中になるといいなと思っています。テクノロジーの力でプラットフォーム開発し、それを実現できたらいいですね。
徳田
僕らがご一緒できることがあるとしたら、どんな可能性があるでしょうか。
横井
博報堂が日々接しているいろんな大手クライアント企業には、当然新規事業部門とかイノベーションをやりたいという部門があって、中には、ゼロイチがやりたいけど大企業の中でどう挑戦したらいいいかわからないという人も少なからずいるはず。最初の一歩は個人の意思と能力と創意工夫の力だと思うので、そこを支援できる取り組みができるといいなと思います。かつ、大企業の資本力、過去のアセット…社内で眠っているような過去の特許や知財、デザインなどを活かすような形でそれができたら。大企業の個人にとどまらず、政府や公的機関など、博報堂のネットワーク力を生かしながら、より個人や企業、アイデアが輝くような支援ができるといいなと思います。
徳田
いいですね。ゼロイチで、最後までちゃんと伴走していくようなプロジェクトができたら。
ぜひいつかご一緒していけると嬉しいです。今日はありがとうございました!
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