突撃!インキュベーション施設(第6回) | 社会実装にフォーカスしたラボ「SOIL」に潜入!
こんにちは。お久しぶりです!eiicon松尾です!(↑写真左)
昨今、次々とオープンしているインキュベーション施設やコワーキングスペース。その中でも特に、オープンイノベーションを意識したスペースに突撃取材し、連載しているこのシリーズ。久々の連載となる第6回は、2019年7月1日に開設した、出来立てほやほやの『SOIL(ソイル)』(東京都渋谷区)に突撃してきました!
Shibuya Open Innovation Labの頭文字を取って名付けられたSOILは一般的なコワ―キング施設ではなく、テクノロジーの社会実装にフォーカスした招待会員制のオープンイノベーションラボ。大企業、VC、メディア、官公庁などのステークホルダーをネットワーキングし、最先端情報の収集と発信を通じて日本社会・経済のDX・イノベーションを促進することを目的としているそうです。
そこで、SOILの企画・運営者であり、「東急アクセラレートプログラム」(TAP)を牽引する東急電鉄・加藤由将さんにSOIL誕生の背景や運営についてお話を伺いました!
(勝手に作ったSOILポーズにもお付き合いいただき、感謝です!)
■SOILの企画・運営を担う、加藤さん登場!!
▲東京急行電鉄株式会社 フューチャー・デザイン・ラボ 課長補佐 / SOIL 企画・運営者 加藤 由将氏
2004年、東京急行電鉄株式会社に入社。2008年、社内新規事業として不動産・建築業界のマッチングビジネス「東急電鉄 住まいと暮らしのコンシェルジュ」のコンセプトデザインから現場運営まで携わる。2012年、青山ビジネススクールでアントレプレナーを専攻し、ベンチャーに関する研究を開始。2015年、渋谷を中心としたグローバルなイノベーション拠点を形成することを目標とし、再開発に併せたベンチャーエコシステムを構築するため、東急グループとベンチャーとの事業共創プログラム「東急アクセラレートプログラム(TAP)」を立ち上げ、運営統括を務める。
eiicon・松尾 : 渋谷のプリンスこと加藤王子!!今日はよろしくお願いします!早速ですが、SOIL立ち上げの背景を教えてください。
東急電鉄・加藤さん : いやいや、王子はやめてください (笑)。
実はSOILの構想自体は、2016年からあったんですよ。その当時のTAPは独自のハコ(施設)を持っていなかったんですね。必要に応じてミーティングベースでプログラムを運営していたのですが、とにかく効率が悪かった。これをどうにかして改善したいという狙いがありました。
あと、スタートアップを東急のビルに呼ぶのではなく、引き合わせ先のグループ会社も、スタートアップも、中立的な場所に来てもらうことで関係値をフェアにしたかったんですよね。
eiicon・松尾 : なるほど!今後協力してもらう関係者と、まとめて話ができたら、そのほうが効率いいですよね。
東急電鉄・加藤さん : そうです。あとは関係者同士のネットワークを強めれば強めるほど、情報がいっぱい入ってくる。そのネットワーキングのためには定常的な場所が必要という部分も大きいですね。――しかし、2016年当時はまだTAPの実績もなく、会社側に一蹴されてしまったんですが…(笑)、ようやく実績が出てきた2017年の中期経営計画策定の話が出た時に「盛り込もうか」という流れになったのがSOIL立ち上げの第1歩です。
■「0→1」ではなく「1→N」にフォーカス
eiicon・松尾 : SOILは社会実装を目的としたイノベーションラボということですが、なぜ社会実装という目的がコンセプトになったのでしょうか?
東急電鉄・加藤さん : 最初は渋谷のグローバルと繋がったイノベーションシステムを作る、オープンイノベーションの拠点を作る、人的ネットワークを強化する、という大枠の構想しかなくて、中身は全然詰まってない状態だったんですよ(笑)。
eiicon・松尾 : そうだったんですか!
東急電鉄・加藤さん : 例えばオープンイノベーションラボって、ゼロイチにフォーカスしているところが多いじゃないですか。すでに世の中にあるコンセプトの施設を後発で創る意味は無いなと。そこで、他ではやっていない「社会実装」にフォーカスをしたラボをやるべきじゃないかと考えたんですね。
元々、TAPを立ち上げた時も、シードアクセラレーターというポジションにはプレイヤーが数多く居たので、その次のステージの支援をしているんですよ。「0から1」ではなくて「1からN」みたいな。
eiicon・松尾 : なるほど。プロダクトを持っている会社が、”どういう形で社会に実装できるか”という可能性を、探る場所ということですね!
東急電鉄・加藤さん : インキュベーション施設って、オフィスがないまさに「0」のスタートアップが入居しているケースが多くて、そういった場はすでにたくさんありますよね。一方で、我々がTAPを通して支援しているのはほとんどがサービスやプロダクトを持っている企業。つまり、すでに「1」があり、彼らも自社のオフィスを持っています。であれば、より効率的に社会実装に向けて色んな方々と会えるネットワークがある空間のほうが需要がある、という考えなんです。なので、「東急と連携をしたいからここにくる」ではなくて、あえて東急という看板を外した、渋谷のオープンイノベーションラボの拠点という立て付けにしています。
eiicon・松尾 : それって…渋谷のリアル版eiiconみたい!!eiiconがweb上で共創パートナーとオープンに出会えるように、SOILに行けば渋谷で協業を検討しているいろんな会社と、オープンに接点が持てますね!
■SOILの様々な仕掛けとは?
eiicon・松尾 : SOILという施設の名前に「東急」という文言が入ってなかったのはそういう意図があったからなんですね。他にもオープンな場の設計など、工夫された点はあるんですか?
東急電鉄・加藤さん : まずはビルそのものですね。
eiicon・松尾 : えっ!ビルそのもの!?
東急電鉄・加藤さん : 東急の渋谷再開発プランにある新しいビルにSOILを作ろうという話もありましたが、お断りしました(笑)。スタートアップや大企業の新規事業担当者のみなさんとお付き合いをしてきて思うのが、ハイスペック・ハイライズのビルって、マインドが合わないんですよ。もっとカジュアルなコミュニケーションのほうが適しているんです。気軽に入っていける物理的な距離感がすごく重要で、あえて雑居ビルに入りました。(※SOILは渋谷・宮益坂の雑居ビル7階に入居している)
eiicon・松尾 : なるほど〜。確かに敷居が低い雑居ビルの方が、気軽に色々相談したりできますね!
東急電鉄・加藤さん : あとはデスクをあえて置かないようにしていますね。ソファに手をつきながら会話ができる。ガチガチのお見合い部屋みたいなところより、カフェでちょっと話したりとか、その方が話が進みやすいじゃないですか。肩肘貼らない会話の方が、本質の到達点にたどり着くのが早い。心理的なハードルを最初にどれだけ下げるかで、社会実装のスピードって大きく変わってくるんです。
eiicon・松尾 : たしかに……!そういえばデスクがない!ずっとスタートアップや外部のパートナー企業と協業をしてきたからこそ、そこまでの細かい配慮ができるんでしょうね。
SOILの区画には日本経済新聞社(日経)さんのスペースがありますが、これはどういった形で運営されているんですか?
東急電鉄・加藤さん : 我々はSOILというハコは持っていますが、コンテンツ自体は全部自分たちでまかなえるものではないので、パートナーが必要だったんです。日経は大企業への影響力が大きいメディアですよね。渋谷で起こっていることを他のメディアやブログで書いても、大企業の人には刺さりにくい。でも日経が出すと、大企業の常務や役員クラスも見るわけじゃないですか。オープンイノベーションで大企業側の理解を促していくという意味では、老舗の企業にチャネルを持っている日経というメディアを介すことで、壁を崩すことが出来ると考えたんです。
■社会実装に向けたイベントや、スタートアップファーストの仕組み
eiicon・松尾 : SOILは招待会員制となっていますが、そもそもどのように人を集めて、ミーティングやネットワーキングを行うのでしょうか?
東急電鉄・加藤さん : この会社さんと打ち合わせするんですけど一緒にきませんか?と、我々からお声がけします。例えばブロックチェーンに関するスタートアップから「パートナーを探したい」という申し出があったときに、オープンのイベントでやるより、もっとプレイヤーを絞って切り込んだ会話をした方が効果的だと判断した案件とかですね。
他の電鉄系もそうですし、他業界の企業も、一緒にディスカッションを進めるイメージです。
eiicon・松尾 : ほかの企業も呼ばれるんですか?
東急電鉄・加藤さん : そうです。東急側で今のタイミングで実装できなくても、Aという会社ではニーズがあるかもしれない。そうやって複数社と実装が進むことで、いずれ本当の意味で“社会”への実装に繋がると思うんです。
クリアしなければいけない課題は1社だけと話していても進まない。業界・社会全体に適用していくために、場合によって規制緩和も必要になってくるかもしれません。
eiicon・松尾 : それはスタートアップにとっても、ありがたすぎますね…!そこまでやってくれることってなかなかないと思います!
東急電鉄・加藤さん : 我々がスタートアップファーストのプログラムをやっているので、とにかくスタートアップの工数を削りたいんですよ。3社、4社と一気に話ができた方がいいじゃないですか。我々はTAPというプログラムとSOILという施設がジョイントしているので、そこまでのことができるんです。
eiicon・松尾 : こちらでイベントなども実施していかれるようですが、イベントの仕掛けにも社会実装に向けた狙いがあるんでしょうか?
東急電鉄・加藤さん : 情報、資金の流動性は高まりました、アクセラレーターの登場で事業リソースの流動化も改善されました。先端のサービス・プロダクトを社会実装する上で、必要となる情報共有をこの場から、また大企業側への理解促進は先ほどの日経さんも介しながら。では次に、先端のサービス・プロダクトを社会実装する上での「困りごと」は何か?というと、「エンジニアがいない」という問題なんですね。業界全体としてエンジニアのリソースが足りないと、社会実装が進みません。そこで、エンジニアのネットワーキング、マッチングというところに入っていけるようなイベントも開催したいと考えています。
eiicon・松尾 : 具体的にはどのようなイベントを考えていますか?
東急電鉄・加藤さん : スタートアップに興味があるエンジニアの言語の勉強会をして、リバースオークションじゃないけど、その言語を使っているスタートアップのCTOの人たちが引っ張っていく。そんな空間にできるようなイベントも仕掛けていきたいと考えています。
■ネットワーキングのエコシステムを実現する施設でありたい
eiicon・松尾 : 1年〜2年後、SOILをどうしていくかというビジョンはありますか?
東急電鉄・加藤さん : ビジョン自体はどんどん変わっていくもので、ひたすら泥臭く進んで初めて見えてくるものだと思っています。なので、逆に固めないというのが重要ですね。固めるとそれ以外はやらない、というようになってしまうと思うので。社会実装という軸は持ちつつも、枝葉の部分は自由に成長してほしいと思っています。実はSOILって、森のエコシステムを再現していて、床は土の色、柱は木の幹を、カーテンの色は葉っぱイメージしているんですよ。
eiicon・松尾 : 本当だ!カーテンが緑!!細部のこだわりが、本当にもうすごいです!
東急電鉄・加藤さん : トライアンドエラーでダメな種子は落とせばいいし、育つものはどんどん育てばいい。その感覚は施設のコンセプトで大切にしている部分ですね。人を呼んで水を吸って、情報を取得して発信していくというエコシステムを作りたいと思っています。渋谷は多様性、猥雑性、寛容性、流動性の4つに囲まれた都市なので、それを施設内にも取り入れています。椅子もバラバラにしているんですよ。運営においても多様性は重要。寛容性も流動性も大事だし、確実に社会実装の方向は向いているけど、コンプライアンスぎりぎりなこともやっていきたいですね。
■“仕掛け”のあるSOILの空間をご紹介!
デスクを置かない、エコシステムの再現など、様々な仕掛けがされているSOIL。実際にどのような空間になっているのか、加藤さんに案内していただきました!
▼エコシステムを再現したミーティングスペース
eiicon・松尾 : これが「森のエコシステム」を再現したという空間!松尾も木になってみました!どうでしょう、加藤さん!
東急電鉄・加藤さん : は、はい…木に見えます!(笑)
▼広々とした場所に多様性をイメージした数々のソファ
eiicon・松尾 : 本当にカフェ見たいな居心地ですね。加藤さんはどのソファがお気に入りですか?
東急電鉄・加藤さん : あの高級そうなやつです(即答)。
eiicon・松尾 : さすがです、王子。確かに座り心地良さそう!
▼イベント用のプロジェクターも完備
eiicon・松尾 : 加藤さーん!このステージ最高です!広い!!!(勝手に、司会をはじめる松尾)
東急電鉄・加藤さん : 近くにオペ卓もありますよ。(音楽をかけてくれる、優しい加藤さん。)
裏には控え室として使える場所もありますし、登壇者の控室も別にあります。ぜひeiiconさんもイベントなどで使ってください!
eiicon・松尾 : え、本当ですかめちゃくちゃ助かります!またすぐ相談させてもらいますっ!
■eiicon・松尾の取材後記!
久々の連載で訪れたSOIL。渋谷駅から徒歩すぐ、宮益坂の雑居ビルの中にあるスペースは、開放感があって何より居心地がいい場所でした。物理的、心理的ハードルを下げるための様々な仕掛けは、スタートアップや外部のパートナー企業との協業を何年もされてきた加藤さんの思いが詰まっているんだなぁ、と実感。オープンイノベーションの次のステージへボトムアップさせる新しい拠点の立ち上げに、今後の期待が止まらない松尾でした!
もしご興味持たれた方はコチラ(→ https://shibuya-soil.com/ )をチェックしてみてください!
(構成:眞田 幸剛、取材・文:阿部仁美、撮影:古林洋平)