アイデア実装の舞台は愛知県の商店街や大型店!商業の未来を創る『あいまちPITCH CONTEST 2024』注目の提案を一挙紹介
愛知県商店街振興組合連合会(愛商連)は設立60周年を記念して、『あいまちPITCH CONTEST 2024』を開催している。このコンテストは、商店街や大型店の未来を創るビジネスプランを全国のスタートアップや学生、起業家から募集し、愛知県の商業発展と地域のにぎわい創出を目指すものだ。
主催は愛知県や愛商連等で構成する「あいち商店街まつり2024実行委員会(※)」。募集テーマは「商店街」と「大型店(百貨店等)」の2部門に分かれ、次の9つが提示された。
●「商店街」部門
・01 : 消費者行動の変化への対応
・02 : 空き店舗の活用
・03 : 人材不足・人材確保と創出
・04 : 煩雑業務の効率化・生産性向上
・05 : 地域連携による街の活性化
●「大型店(百貨店等)」部門
・01 : 消費者行動の変化への対応
・02 : 効果的な施設運用への対応
・03 : 大型店(百貨店等)の新たなビジネスモデルの創出
・04 : 地域連携による新たな商圏への進出
2024年8月に募集を開始したところ全国から約130件超の応募があり、一次・二次審査を経て選ばれた10社が12月16日の最終審査会へと進出した。審査会は10月に開業した日本最大級のスタートアップ支援拠点「STATION Ai」で行われ、愛知県知事も開会式に登壇するなど大きな注目を集めた。
――本記事では『あいまちPITCH CONTEST 2024』最終審査会で披露された地域に新たな活力をもたらすビジネスアイデアを中心に、イベント全体をダイジェストで紹介する。
※「あいち商店街まつり2024実行委員会」 愛知県、愛知県商店街振興組合連合会、名古屋市商店街振興組合連合会、中部百貨店協会、一般社団法人日本ショッピングセンター協会中部支部、愛知県商工会議所連合会にて構成。
【開会の挨拶】「イノベーションは商業やサービス業においても、将来の存続を左右する重要な要素」
イベントの冒頭、愛知県商店街振興組合連合会 理事長の坪井氏が開会の挨拶を行った。
坪井氏は、「本日発表される提案は商店街や大型店の抱える課題解決に資する優れた提案ばかりです。ご来場いただいた商店街や大型店の関係者の皆様には、ぜひ実装することも視野に入れ、提案者のプレゼンをご覧いただきたいです」と伝えた。
また、「イノベーションはモノづくり産業に限られるものではなく、我々が携わる商業やサービス業においても、将来の存続を左右する重要な要素です。自らイノベーションを起こせるかどうかが、今後の鍵となります」と述べ、このイベントが商店街や大型店のビジネスに有益なものになることを祈念して開会の挨拶とした。
▲坪井明治氏(愛知県商店街振興組合連合会 理事長)
次に、愛知県の大村知事が挨拶に立ち、愛知の商業の新しい可能性を探ることを目的とした本コンテストは地域発展を目指す取り組みであると発言。
また、最終審査会の会場である「STATION Ai」について、10月のグランドオープンからわずか2カ月で約100本のイベントが開催されていることや、スタートアップやパートナー企業約740社が入居して、日々ビジネスを磨き合っている現状を紹介した。最後に、大村知事は『あいまちPITCH CONTEST 2024』が、「STATION Ai」の門出を飾るに相応しい素晴らしいピッチイベントになることを祈念し、挨拶を締めくくった。
▲大村秀章氏(愛知県知事)
【ピッチ】アート、食、掲示板などの4つのアイデアが受賞!賞金を獲得し、商店街や大型店への実装を目指す!
コンテストの審査基準は、「ターゲット・課題」「ソリューション」「地域親和性・インパクト」「拡張性」「ビジネスモデル」「実現可能性」の6つである。審査員9名による採点と来場者の投票結果を合算し、計4社の受賞企業を選定する。受賞企業には賞金も授与されることが伝えられた。
■審査員(9名)
《商店街・大型店両部門 審査員》
粟生 万琴 氏(株式会社LEO 代表取締役 / STATION Ai アンバサダー)
鵜飼 宏成 氏(名古屋市立大学大学院 経済学研究科 教授)
髙木 利典 氏(愛知県経済産業局中小企業部商業流通課 担当課長)
《商店街部門 審査員》
坪井 清滋 氏(全国商店街振興組合連合会 青年部副部長 / 愛知県商店街振興組合連合会 青年部長)
成田 光宏 氏(NPO法人まちづくりかりや 理事長)
小粥 正健 氏(名古屋市商店街振興組合連合会 専務理事)
《大型店部門 審査員》
野向 健二 氏(中部百貨店協会 事務局長)
葛谷 隆利 氏((一社)日本ショッピングセンター協会中部支部 事務局長)
長瀬 栄治 氏(名古屋商工会議所商務交流部 ユニット長)
▲会場の1列目と2列目に座る9名の審査員が、6つの基準をもとに公平に審査を行い、受賞企業が決定した。
――ここからは、全10社のピッチ内容を受賞企業の発表から順に紹介する。
●【商店街部門 最優秀賞/賞金100万円】 一般社団法人ピースライブ
受賞事業アイデア:『商店街を子どもやアーティストの活動拠点へ。笑顔で溢れるエンタメ商店街』
商店街部門で最優秀賞を獲得したのは、ピースライブ社だ。同社は、商店街を子どもやアーティストの活動拠点とし、笑顔の溢れるエンタメ空間に変える提案を行った。名古屋はかつて路上ライブのメッカとして有名だったが、騒音や歩行妨害などの迷惑行為が増えたことで規制が強化されている。しかし、「夢を見る若者の力、それを応援するファンの力をゼロにするのはもったいない」とピースライブ社の代表の大友 健氏は話す。
そこで考案したのが、従来の路上ライブから迷惑行為を排除した「管理された路上ライブ」だ。具体的には、商店街から遊休スペースを借り、アーティストや子どもたちが演奏やパフォーマンスを行う。アーティストらは借りたお礼として、周辺店舗を紹介するといった地域貢献も行う。出演者は、歌手やアイドルに加えて、キッズダンサーなども予定している。ライブスペースの運営管理は同社が担い、迷惑行為を防ぐ。事前に出演者に対して研修も行うという。
この提案には、3つの期待される効果があると話す。まず、アーティストによる店舗紹介などを通じて、商品の売上向上が見込まれること、次にファン懇親会やアーティストの打ち上げが周辺飲食店の来客数を増加させること、そして子どもの出演が家族づれの集客やにぎわい創出につながることだ。
路上ライブを合法的に、また複数の地域で通年運営している企業は日本で同社だけで、全国各地で開催実績もあるため、歩行者などに迷惑のかからない運営ができるという。商店街の費用負担はなく、遊休スペースの提供のみで効果を得られる。最後に大友氏は「主体となるのは愛知のアーティスト、ファン、地元の子どもたち。みんなで商店街の活性化を目指したい」と語った。
●【大型店部門 最優秀賞/賞金100万円】株式会社CAN EAT
受賞事業アイデア:『アレルギーがあっても外食したい!CAN EAT MAPの構築』
大型店部門で最優秀賞を獲得したのは、食物アレルギーを持つ人々の外食支援サービスを提供するCAN EAT社だ。代表の田ケ原 絵里氏は、自身の家族が米アレルギーを発症した経験からこのサービスを着想。調査の結果、食物アレルギーを持つ人が左利きの倍以上おり、約半数が誤食事故を経験している実態が明らかになった。こうした問題に対し、社会の対応が不十分だと感じた田ケ原氏は、「アレルギー管理サービス」を開発したのだという。
「アレルギー管理サービス」は、加工品の原材料ラベルをスマートフォンで撮影するだけでアレルギー情報を正確に把握・検索・出力できる機能が特徴だ。このサービスを飲食店やホテルなどの外食産業向けに提供し、メニューのアレルギー表を簡単に作成できるようにした。現在、外食チェーンやホテルなど100社以上に導入され、サービスの有効性が確認されている。
今後、より多くの飲食店にサービス導入を進め、誤食事故が起こらない安全な外食環境を実現していきたいという。さらに、導入店舗の情報を集約したデジタルマップを作成し、アレルギーを持つ人々が自分の食べられるものがある店舗を、マップ上で簡単に検索できるようにする方針だ。また、また、豚肉やアルコールなど宗教上の食事制限がある人々にも、更なるの範囲の拡大を目指していきたいと語った。
●【商店街部門 優秀賞/賞金30万円】株式会社スタジオフィルス
受賞事業アイデア:『商店街と大型店から始まる街の新たな価値』
商店街の高齢化や後継者不足、集客力の低下や、大型店の「地域に寄り添った施設になりたい」というニーズに着目したスタジオフィルス社 代表の高橋 健太郎氏。同社はこれらの課題を「進化した掲示板」で解決しようと考えている。具体的には、商店街のアーケードや大型店内などにデジタル掲示板を設置し、地域の飲食店などに情報発信の場を提供するという。
販売促進を行いたい店舗などが、スマートフォンで簡単に広告を作成し、各所にあるデジタル掲示板に掲載できる仕組みを構築する。写真や動画を活用できるため、より効果的な宣伝が可能だ。これにより、商店街と大型店のコミュニケーションを活性化させ、「掲示板で街中をつなげる」ことで、地域全体を盛り上げていきたいとした。
●【大型店部門 優秀賞/賞金30万円】株式会社IDEABLE WORKS
受賞事業アイデア:『デジタル額縁であらゆる場所を、今すぐ簡単に美術館に変える「HACKK TAG(ハックタグ)」』
IDEABLE WORKS社代表の寺本 大修氏は、デジタル額縁を活用して大型店の壁面をギャラリーに変える企画を提案。約300万人いるとされるアマチュアやセミプロアーティストに展示機会を提供し、デジタル額縁を通じて作品を展示する仕組みだ。すでに1700名のアーティストが登録し、7500点のデジタル作品を管理している。1点ものの原画作品を高精度なアートスキャン技術を用いてデジタル化し、展示企画も同社で担う。
店舗側からすると設備投資が不要で運用負担もないため、円滑な導入が可能だ。すでに全国11カ所に設置済みで、約半年間で600点以上の作品が配信されているという。アーティストから得る収益をもとに運営する。愛知県では新たな取組として、基金付き展示チケットを導入し、地域活性にもつなげていきたいとした。
――受賞は逃したものの、他の6社も商店街や大型店の活性化に寄与する素晴らしいアイデアを提案した。以下に、登壇順でそのピッチ内容を紹介する。
●【商店街部門】forent株式会社
事業アイデア:『ムスリムフレンドリーな商店街へ!『Halal Questival』で愛知県をもっと魅力的に』
地域周遊アプリ「Questival」を開発するforent社代表の塚崎 浩平氏は、ムスリム向けの新たな施策を提案する。具体的には、愛知県の商店街や大型店にハラル対応店舗を増やし、ムスリムフレンドリーな環境を整備。そのうえで同社のアプリを活用し、「Halal Questival」というスタンプラリー形式の周遊イベントを企画する。2026年のアジア競技大会を見据え、愛知県全体でムスリム観光客にも優しい地域を作り上げていきたいとした。
●【商店街部門】合同会社ダイスコネクティング
事業アイデア:『あいまちフレンズオンライン』
約500本のミニゲームを保有するダイスコネクティング社代表の棈木 正博氏は、ゲームとスポーツを融合させた商店街活性化のWEBプラットフォームを提案。商店街ごとにプラットフォームを開設し、ミニゲームやポイント、クーポン機能を通じて来訪者の増加を図る。また、SVリーグ所属の男子バレーボールチーム「ウルフドッグス名古屋」とも連携して相互誘客を促進し、商店街の活性化につなげたいとした。
●【商店街部門】株式会社Bulls
事業アイデア:『遊休スペースの有効活用!レンタルサロンプラットフォーム“minoriba”』
Bulls社代表の影山 哲也氏は、レンタルサロンプラットフォーム「minoriba」を運営している。エステや整体、ネイルなどを仕事とするフリーランスは増加傾向にあり、こうした人たちが同社のサービスの対象だ。「minoriba」の利用者は全国で8,000名を超えているという。今回は、商店街の空きスペースを、ウェルネスや美容業界のフリーランスに貸し出す取り組みを提案。「フリーランスに求められる商店街」を一緒に作っていきたいと語った。
●【大型店部門】株式会社PRENO
事業アイデア:『生成AI免税自販機』
PRENO社代表の肥沼 芳明氏は、免税機能と生成AIによるアバター接客機能を搭載した次世代型自販機を開発・販売している。従来の免税手続きは、有人カウンターなどでパスポートを確認して手続きを行ってきたが、この自販機は50か国語に対応できるアバターが自動で対応する。すでに百貨店や空港などで導入され、売上拡大の効果も確認されている。愛知では、金の鯱をイメージした黄金の自販機などを設置し、地域経済への貢献を目指したいと語った。
●【大型店部門】株式会社Iqilu
事業アイデア:『現地の「似合わせ」の専門家が提案する次世代購入体験』
Iqilu社代表の會澤 茉那氏は、購買トレンドが“大衆的メディアが作る流行”から“個人最適”へと変化する中、個々に「似合う服」を提案するサービスを展開している。具体的には、骨格パーソナルカラー診断士の専門性とAI技術を組み合わせ、似合う服を探す人にアドバイスを行うイベントを開催。これまで累計300人に対応し、顧客満足度は91%を記録した。イベント参加者には、AIが作成した似合う服一覧のWEBパンフレットも提供し、EC購入にもつなげているという。
●【大型店部門】株式会社はこぶん
事業アイデア:『顧客のホンネの声分析を通じたサイレントファン発掘・リピート促進』
はこぶん社代表の森木田 剛氏は、顧客の声(VOC)を手軽に収集・分析できる「ホンネPOST」を展開している。形式的なアンケートでは得られない本音をデジタルで回収できる点が強みで、デザイン性を高めて気軽に回答できる仕組みを提供。リリースから1年で累計50万文字以上のVOCデータを回収しており、感情分析AIを活用して直感的に理解できる形に整理している。この取り組みは、サイレントファンの発掘にもつながると語った。
【講評と閉会の挨拶】「オールドパラダイムとニューパラダイムが融合する場所となった」
ピッチと表彰が終了した後、2名の審査員による講評と、主催者による閉会の挨拶が行われた。
審査員の粟生氏は「地域社会に価値を残せるような提案をいただくことができた。商店街や大型店舗の審査員の皆様にその想いが伝わったのではないか」と評価。さらに、音楽やアートなど五感を刺激するものが街の活気を生む重要な要素であるとし、地域のさらなる発展に意欲を示した。
▲粟生 万琴 氏(株式会社LEO 代表取締役 / STATION Ai アンバサダー)
続いて鵜飼氏は商店街や大型店舗が持つ歴史の長さと、世代交代や事業承継に触れながら、世の中の変化に向き合っていくには、絶えず創業の精神と挑戦の姿勢を持ち続けることが大事だと話す。今回のイベントを「オールドパラダイムとニューパラダイムが融合する場所」と評価したうえで、次世代に挑戦する姿を見せることが重要だと呼びかけた。
▲鵜飼 宏成 氏(名古屋市立大学大学院 経済学研究科 教授)
最後に、主催者である「あいち商店街まつり2024 実行委員会」より副会長の藤井氏が登壇。「今回の取り組みを通じ、スタートアップと商店街・大型店の連携が深まり、地域経済の活性化につながることを願っている。今後も県として挑戦を応援していきたい」と語り、ピッチコンテストを締めくくった。
▲藤井則彦 氏(あいち商店街まつり2024 実行委員会副会長 愛知県 経済産業局 中小企業部長)
取材後記
『あいまちPITCH CONTEST 2024』最終審査会では、ファイナリスト10社が商業発展や地域のにぎわい創出をテーマに多様なビジネスプランを提案した。いずれも商店街や大型店に新たな風を吹かせる内容で、登壇者の発表からは地域商業を革新する意欲が伝わってきた。また、交流会では、登壇者と愛知県の商店街・大型店関係者らが情報交換を行う様子も見られ、共創の芽が育まれる貴重なイベントとなった。
※関連記事:
・愛知県内の商店街・大型店(百貨店等)から新たな未来を創る「あいまち PITCH CONTEST 2024」初開催!――キーパーソンたちに聞く課題と期待感、応募メリットとは?【前編】
・愛知県内の商店街・大型店(百貨店等)から新たな未来を創る「あいまち PITCH CONTEST 2024」初開催!――キーパーソンたちに聞く課題と期待感、応募メリットとは?【後編】
(編集:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:加藤武俊)